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光とヒカルの碁3

「まぁ最初は、俺と同じファーストネームだってことで印象に残ったんですけど、WCに出た時のプレイを見て本当にファンになっちゃったんです。」
美子夫人お手製のフルーツソースを溶かした紅茶を美味しそうに飲みながら、ヒカルは松山のファンになるに至った経緯を語った。
「あ、俺もだよ。三杉が碁をやるんだよ、『試合の作戦の組み立ての参考になる』とか言ってさ」
「あぁ、三杉選手の頭脳プレイの得意さは有名ですもんね」
「そうそう、それでさ、三杉が読んでいた囲碁雑誌にキミが載っていてね…俺とファーストネームが同じだっていうのと、囲碁のプロっていったら気難しそうな顔をした爺さんが碁盤を睨んでるイメージだったのに、こんな少年がやってるんだな…って。それで、碁が解らないクセに半年前の北斗杯のネット中継を観たんだ。碁が解るヤツがなんか興奮してるのを見て、俺も碁を覚えたいなってね」
「わ〜!あの対局を松山選手が見てくれたなんて感激〜!」
「まぁ…次のWCはもう世代交代だし、俺も現役引退をそろそろ視野に入れないとだしね。現役引退したら、選手を育てる道を考えてるんだ。囲碁が作戦組み立ての役に立つって三杉も言っていたし…それもあるかな、碁を覚えたいと思った理由に。でも、今日思った以上に碁が楽しくなったよ」
「う…松山選手が現役引退しちゃうのは寂しいけど、松山監督ってのも見てみたいし、碁が好きになってくれたのは嬉しいなぁ〜♪ヘヘッみんなにも自慢しちゃお!」
ヒカルが照れ臭そうに笑う
「囲碁棋士もサッカー見たりするんだね」
ヒカルの様子に松山は目を細めた
「うん、俺も学校時代の体育の授業レベルだけどサッカーはけっこう得意だったよ。棋士仲間の和谷も松山選手のファンだぜ。伊角さんは森崎選手が好きだって。越智は三杉選手のファンだってさ。女流の奈瀬は岬選手が好きみたい。母さんは、日向選手が可愛いってさ…でも日向選手が可愛いってなんかピンとこないなぁ…あの人はどっちかっつうとワイルドと  か男前ってカンジだと思うけど…」
ヒカルが首を傾げた
「あぁ…日向は、なんて言うか昔から年上に可愛がられるトコあるから。小学校時代の全国少年サッカー大会でも、三杉はファンクラブの女の子達からの黄色い声援浴びてたけど、日向は…なんかおっさん達の応援団が来てたしあはは…」
自分の母親も日向を可愛いと言っていたことを思い出して松山は苦笑いをした。
「ひょえ〜!本当に三杉選手って小学生のうちからファンクラブできてたんだ〜!」

ヒカル同士喋っているうちに日が暮れてしまった。
松山は、ヒカルを車で自宅まで送った。

「また指導碁頼むよ」
「うん、また色んな選手達のお話を聞かせて!」
2人のヒカルは別れた

しかし、これからとても長い付き合いになりそうだった

end

光とヒカルの碁2

「え〜と、はじめまして…」
ついさっきまで「本物の松山光に会える〜!」と、興奮していたヒカルだったのだが、目の前でその松山光が落ち着きをなくしているのを見てしまい、勢いを殺がれて、そ〜っと声をかけた。
「あっと失礼。みっともないところを見せてしまいましたね。はじめまして進藤4段、今日は指導碁宜しくお願いします」
慌てて気を取り直した松山がヒカルに頭を下げた。
「あ〜そんな、俺に敬語とか要らないっすよ。あの…こちらこそ宜しくお願いします。俺、松山選手のファンなんで会えて嬉しいです」

松山は、最近囲碁を始めようとして入門書やインターネットのアプリなどで覚えようとしたのだが、それだけだと今ひとつ頭に定着せず、かと言って身近に囲碁のことを訊ける友人知人もいないので、かねてより注目をしていたヒカルに指導碁の予約を思いきって入れたのだそうだ
「え〜と、指導碁も何も、本当に囲碁の基本を教えてくださいなんて依頼で申し訳ない」
恥ずかしそうに松山は頭を下げた。
「いや、囲碁を始めようと思ってくれたなんて嬉しいっす。てか…余計に責任重大だ〜、ココで囲碁を楽しいと思って貰えなかったら棋士として失格になっちゃう」
おどけて言ったヒカルに、松山はニッコリとした。少し敬語が使い慣れないながらも、明るくて真っ直ぐな気性の伝わる少年のことを松山はとても気に入った。
「あ…!」
「気が付きました?」
「うわ…足掻こうとしなければ一石取られるだけで済んだのに…」
「そうなんです。アタリもですけど、シチョウにも早く気付くのが大事なんです。最初に俺がアテたとこに戻ってみましょう…。この一石なんて小さなことな筈の、松山さんが地を大きく広げるチャンスの一手がありますよ」
「!?」
松山の囲碁センスは、まあまあだと判断した。そう言えばサッカーも陣内での攻防を展開して点を取るゲームだ。確か松山はそのサッカーのゲームメーカーもできたんだよな…と、ヒカルは松山のプロフィールを思い出していた。
「あ〜、コレだ!」
松山が黒石をパチっと打った。
「そうです!9路盤での初心者同士の対局だったら大体はこんなカンジになって…相手はこの辺で投了ですね」
「でも進藤4段は、そうはさせないんでしょう?先生ならどう打つんですか?」
「まぁ俺だったら…」
「あ…黒が切断されちゃった。どっか連絡できるとこはないかな…」
上手い例を積極的に見ようとするところもいい。
「あ…これは投了だな。ココを打たれる前にこの辺をもう少し厚くしておけばもうちょっと粘れたかも」

指導碁の時間は、なかなか充実したものだった。
「今日はこの辺にしておきましょうか?」
「ありがとうございました」

ヒカルはその後の予定は特になく、松山の妻である美子夫人が午前中に地元北海道の知人の農家から送られたバターと小麦粉で作ったというクッキーを有り難く頂きながら松山との会話を楽しむことにした。
ヒカルにとっても松山光と喋れるというのは、心踊ることだった

光とヒカルの碁1

キャプテン翼と同じWJでヒットした「ヒカルの碁」とのクロスワールドです。










「え!?松山光!?…あ…同姓同名だよ…いや…ですよね(笑)」
進藤ヒカル4段(17)は、次の指導碁の予約確認で思わず叫びかけて、まさかと思い直して笑った。
「サッカー選手の松山光だよ。WCの日本代表になったその人からの指名だ」
事務所の坂巻氏がキッパリと言った。
「うわマジっすか〜!?サインとか貰えたりするかな〜♪♪」
はしゃぐヒカルに、坂巻氏は溜め息をついた。まぁ…事前に知らせるのをやめて当人に会った瞬間に興奮される方が事態は悪いから事前にちゃんと伝えたが…こんなミーハーな少年を、日本棋院の棋士として有名人のもとに送り出していいものだろうか…その有名人が進藤ヒカルに対して不愉快な感想を抱いたら、下手したら棋界の品位が危ない…松山光はそんなに口が軽い方ではないと聞いているが…
「進藤君、くれぐれも無礼のないように…頼むよ!」
坂巻氏は念を押した。



坂巻氏の心配をよそに、当日を迎えた。


ピンポーンと、インターホンを押したら、松山が去年結婚したと報じられた、30歳を過ぎているとはとても思えない可愛らしい女性…美子がにこやかに出迎えてくれた。
「うわぁ〜、写真で見るより可愛いっすね!」
というヒカルの言葉に
「うふふ、ありがとう。北海道産のバターと小麦粉で作ったお菓子を差し入れするわね!」
機嫌良く松山光の待つ部屋に案内をした。
「進藤さんがお見えよ」
と、美子がドアを開けると…
「うわぁ〜!来た!!マジ俺どうしよう〜〜」
これまた、30歳を過ぎた立派な男…それも日本代表の闘将としてテレビに貫禄ある姿を写していた人と同一人物とはとても思えないくらい落ち着きをなくしている1人の男がいた。
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