「うふふ、ありがとう。お家はこの近くなの?」
美少女は自然に泣き止んで、タケシに微笑みかけた。
一見すると、強気な態度か少し傲岸なくらいの言動が似合いそうな…言ってみればいわゆる派手顔なのだが、口調も仕種も、控え目で物柔らかだ。
見た目は大和撫子そのものっぽいが、キャラは肝っ玉母さんな直子と好対照である。
そのギャップで、かなりモテそうだな…(直子ちゃんもだけど…とあくまでタケシは直子一筋だが)と、ニッコリとして
「すぐそこですよ、僕のお家で少し休んでいってください」
とタケシは美少女の手を引いた。
事情を話すと、下町気質のタケシの母親は、ニッコリと美少女を迎えて濡れた服を乾かす間にと「ちょっと…いや、かなりガバガバだと思うけど着ておいてね」と、自らの服を体を拭く美少女に出した。
そして、甲斐甲斐しく美少女の制服にアイロンとドライヤーをあてがった。
「温かいお家ね。素敵だわ」
美少女…中沢美沙子と名乗った少女はニッコリとした。
「ありがとうございます。あ…僕は沢田タケシ、ちょっと越境して東京の東邦学園に行ってます。そこの三年生です」
!?
「あ…似てると思ったけど本当に沢田タケシ選手だったんですね!?あ…年上だったのにタメ口きいちゃってごめんなさい!!あの…沢田選手…時おりテレビで活躍を観ています」
美沙子が頭を下げた。
「あ〜、畏まらないでください。てゆーか、日向さんや若島津さんの方が注目されてますよ。あ…明和高校(美沙子が着ていた制服の高校だ)だったら、日向さんの弟さんが行ってますね、美沙子さんと同学年のハズですけどご存知ですか?」
タケシが謙遜しながら、慌てて話を逸らそうとしたら…
「日向くん…日向尊くんですよね…。お兄さんの小次郎さんのことは、とても活躍しているサッカー選手だということしか知らないですけれど…。私にとって日向くんというのは…日向尊くんのことなんです…」
美沙子の顔が切なげに…涙はもう出ていないのに、泣き顔のような表情になった
「あの…美沙子さん…もしかして…」
「うん、その日向尊くんにフラれちゃったんです」
切なさを隠しきれずに、無理に微笑む美沙子がとても儚げで…
愛しいとか抱き締めたいとかではなくて…(タケシにとって、その対象はあくまで直子である。それは揺るがない)
何か、柔らかくて軽くてふんわりと温かい大きな布地のものを…フワッとかけてあげたい気分になった。
尊くん…まぁ、恋愛は…どうしようもないこともあるよね…どんなに素敵なコでも対象に成り得ないことはあるよね、僕も…今どんなに素敵なコに告白してもらえるという幸運に巡り会えたとしても、直子ちゃん以外の女の子とは…だし…。あ〜…どうしよう…
直接、間接共に日向家の人々には振り回されるタケシだった…
しかし、尊くんは…他に好きな人がいるのかな?人それぞれ好みはあるし、美沙子さんでは違ったのかな?それなら仕方がないけれど…尊くんも美沙子さんも、素敵な人だしこれからいくらでも素敵な恋愛はできるとタケシは思うが…
尊に関して、二年ほど前から気になっていたことはあるのだ。
日向小次郎も心配していることではあるが…
その予感が当たっているとしたら、美沙子が尊を諦めるのはまだ早いように思えた。
尊のためにも、美沙子にもう少し頑張って欲しいように思えた。
「美沙子さん…尊くんのどんなところを好きになったのか…よかったら話してくれませんか?」
「うん、聞いてくれる?生徒会長だからじゃない、ましてや日向小次郎の弟だからじゃない。尊くんだってミス明和高校じゃない私を見てくれたと…思ったの、勘違いじゃなければ」
美沙子は、ポツリポツリと話を始めた
尊によってしかさせられないような、本当に、本当に…綺麗な顔をして…