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薬?3

ふーん、しっかり焦ってるわね。

ミオは、ニッコリと笑い、個室待機部屋に上がっていった。


ナツミが、自分を見下していたことは最初から感じていた。

華やかな顔立ち、自分にはできない女子力発揮の仕方…
自分のようなカリカリの蒼白ではない、ふっくらとした柔らかな粉雪が積もったような餅肌…。
ソープの仕事でも、自分より後に入って、あっという間に指名を増やして、出勤の度に満員御礼を出している。

どうしたら指名を増やせるのか解らない私だが、彼女にしたら、どうしてこの程度の指名を取れないのか不思議だろう…さぞかし私はバカに見えるに違いない。

だけどね、正体の判らない薬を確かめもせずに飲むほどバカだと思われたとはね。


粒を渡された日、ミオの送りを担当したのは、精神科医と親しい黒服だった。
「コレが何か調べられる?」
と、粒を渡した。

結果

市販の睡眠薬。…正確には、睡眠改善薬。
風邪薬や花粉症の薬の眠くなる副作用を、逆に主作用にした、ドラッグストアで売っている第二類医薬品の1つ。
粒の形状からして、商品名も割り出せて、実際、税込900円ちょいで買って箱を置けたら同じものが出てきた。

「なるほど、効能には個人差があるけど、私はよく眠れたね…お上手だこと」


途中、ビミョーに粒の形状が変わっていったことにだって気付いた。

睡眠改善薬、一気に何箱もなんて買えないよね。イタズラのためだけに、その薬置いてるドラッグストア、そんなに探せる?

途中から、似た形状のビタミンサプリになり、更に飲むタイプのブレスケアグミになったね。


一万円で、いつまでおつりがくるんだろうね。


解ってる。
私は彼女をイラつかせた。
そうじゃなきゃ、こんな悪ふざけ仕掛けようと思わないね。

でも、彼女も私をイラつかせている。
そして、ここまでバカにされたことに対し、屈辱に感じていることを、彼女は知るまい。


仕掛けた彼女が、ふっくらとした小さな手を震わせている。
さぁ、次はどんな顔をしてナツミに逢おう

薬?2

「フワフワして気持ちよかった。よく眠れたし、今度またお願いするかも」
白い小顔をニッコリと傾がせ、長く艶やかなストレートロングの黒髪を揺らめかせてミオが、渡した粒の感想を言った。

「うん、いつでも言ってね。そんなに高い薬じゃないから」
クッキリとした派手顔を優しくナツミは微笑ませた。


いい気味だ。


ロクに仕事出来ないくせに、フワフワしたお嬢様知識を披露するミオに、ナツミはうんざりしていた。

お金に不自由してなかったらどんな習い事をしたいか。

ナツミは、現実的英会話を真っ先に挙げた。
ミオは、琴とかピアノとか、今からでもなぁ…と言った。

やっぱり、いい歳して浮世離れしたズレた人だなと思った。


「また、あの薬欲しい」

万札を数枚渡された。

「そんなに要らないよ」

ナツミは、1枚だけ受けとると、「全然おつり来るから、値段分切れた時にまた請求するよ」と言って、ひと瓶渡した。

「ねぇ…後から足りないとか言わないよね?私、アレないともう眠れない!!」

元々痩せていた腕は、更に骨ばって、蒼白く血管が浮いている。

必死の形相ですがり付いてくる顔は、痩けて紙のように真っ白だ。


…どうしよう…そこまでしたかったわけじゃない。でも…もう、本当のことは言えない。



元々渡した薬は…途中から薬じゃなくなっていたのに

薬?

「これ、あげる」

ナツミは、ミオに、チャック付きナイロンポケットを差し出した。
透明なナイロンから、6粒の透き通った小指の爪程の大きさのオレンジ色のタブレットが見える。

薬のような、サプリのような、グミのような粒であった。

「これは何?」
差し出されたナイロンケースを受け取り、ミオは、不思議そうにナツミに目を向けた。

「最近ちょっとしんどそうだから。効能には個人差があるけど、私はコレでよく眠れた。1日1錠。寝る前がお勧めかな」
ニコッと意味ありげな笑みを浮かべてナツミは、ミオの手にナイロンケースを握らせた。

「薬…?何て言う薬?」
「まぁ…飲んでみれば?気に入ったらまた言ってくれれば…その時は原価と、ちょっとだけ手数料は貰うけど」
「ちょっと…」
更なる説明を、ミオが求めようとした時

「ナツミさん、ご予約のお客様が来店です」
黒服のコールが来た。
ナツミは、吸いかけの煙草を、急ぎめに三呼吸程吸って、まだ長い煙草を灰皿に押し付けつつ、フリスクを二粒ほど口に放り込み、
「了解しました」
と、立ち上がり、本日与えられた部屋へと上がっていった。

一人残されたミオは、疑問が解決しない物体を見つめながら溜め息をついた。


ミオの来客予定は、もうない。
店自体の受付終了時間まで、あと一時間ちょっとだ。
ぶっちゃけ、フリーが来るなら30分以内でお願いしたい。そこを過ぎたら、もう誰も来るな…が本音だ。

どちらにしても、ナツミに渡された粒が何なのかを問うチャンスは、今日はない。

このまま、ミオが客に着かなければナツミの接客が終わる前にミオは送迎の車で自宅まで送られる。
着いたら着いたで、ミオの接客が終わる前にナツミが別方向の送迎車に乗るか、ミオが着いたのがショートコースで、またナツミと逢えたところで、他のコンパニオンがいる前で持ちかけられる話題ではないのだ。


ここは、とある、ソープランドの集団待機室。大衆店の中では少し上…クラスの店である。

値段の割にはサービスがいい嬢が多いとの評判で、割りと繁盛している。それでいて、バカ安く怪しまれるわけでもない程度の絶妙の値段設定が、新規にも信用されやすい。
嬢の給料も、店側が求める自己投資を、干されたりしない限りはやれる程度にはあり、コンパニオンの歩留まりもまずまずだ。

「まぁ…確かに、行き詰まりは感じてるけどね」

ラクになれる薬…確かに欲しいとは思っていた。

でも、ナツミがどうして…。

ゲッソリと痩せた蒼白い腕を見つめて、ミオは溜め息をついた。
備え付けの鏡に映る顔も、窶れてくすんでいる。

子供を産んだことがない胸だけが、服の上からも脱いでからも、男に吸われようとしているかのように存在感を主張している。

「整形か?」
と、たまに問われる。
シリコンなり整理食塩水バッグなり入れるなら、中途半端なDカップになどしない。
これでも、20代の頃よりは衰えているのだ。

仰向けになっても、立位の姿勢の時と、全く形が変わらないと若き日の恋人から強く揉まれた胸…今は、仰向けになれば、多少は横に流れる…


「…ォさん、ミオさん…ミオさん!!」
ぼんやりと考え事をしていたミオの肩が叩かれた。

「はい!」

「今から45分お願いします」

時刻は、23時45分…

「了解です」

なるはやでスタートさせて、なるはやで終わらせるのが、自分のためでもあり、黒服の助けにもなる。
急いで、ミオは部屋に上がった。
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