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愛に生きる妖怪(後編)

ふうぇ…うわわわーん!

深雪は号泣した。

赤嶺真紀が、日向と若島津の間には入り込めないことを理解し、諦めた夜。

真紀は、爽やかに笑って敗けを認めて二人を応援するコメントを残して去った。

しかし、抑えきれない失恋の痛み。

真紀が泣けない分まで、深雪は激しく泣いた。

真紀ちゃん…泣いていいんだよ
失恋はこのくらい悔しいんだよ!

 
日向への恋が決定的になった日のように、
「泣け」
と言ってくれる者は、もう真紀にはいない。

いや、日向なら変わらずに言ってくれるし抱き締めてもくれるだろう。

しかし、妹のようにだ。

それを理解し、泣くのを我慢する真紀。

せめて、代わりに泣こう。
止まるまで、号泣を続けよう。

この子の幸せも見たい。 
でも
今は…
泣き虫妖怪が離れてくれない

深雪の涙が当分枯れそうもない秋の夜だった。

愛に生きる妖怪(前編)

んふふ、人間も妖怪も女心は一緒よね。
私が一生懸命に愛して愛された日々の幸せに共感してくれたコがいてくれて、なんか嬉しかったわ。

作者も、思いの外私を可愛がってくれて、人間の「モウソウSS」とやらにまた出してくれたの。

これ読んでくれてるコは、私を「雪女」じゃなくて深雪って呼んでね。
可愛い名前がある、チャーミングな女の子なのよ私は。


さて
私くらいの美貌とチャーミングさがあってもままならない男もいたわ。

結果的にはとびっきりのご馳走になったけど
あの精悍男前も神秘的美貌も私の美しさを称賛しながらも魅了はされなかったしね。


私の魅力に参らずに純粋な愛を私の栄養に注いだあの二人を見守ることにした私だけどね。

あれほど魅力的な魂と容姿の二人がモテないわけなくて。

色々とヤキモキしたものだわ。

勿論、二人が幸せになることが一番私の活力になるのだけど。

同じ女として、共感しちゃう女の子もいたのよね。


赤嶺真紀。

精悍男前に恋しちゃったのね。

この子の気持ちも、熱く(本当は熱いのは苦手なんだけど)強く心地よいエネルギーを感じさせるものだったわ。

うん、女心…

解る。

精悍男前は、あの神秘的美貌とは運命の相手。私の体は誤魔化せないのだけど。

単なる邪魔者として片付けるには、ちょっとな。


あのコの気持ちを可愛く思い過ぎちゃった。


そう…解るわ、私も人間の男に恋した時には、いっぱい頑張ったもの。
特に結婚時代男と幸せな日々を過ごした時には、本来ふた月ほど氷雪地帯で休養を取る筈の夏に、溶けそうになるのを我慢したり、貰った愛のエネルギーを本来致死温度になる30度越えの中働くのに使っちゃったもんね。

そふとぼーるという人間のスポーツで、さっかーを頑張る精悍男前とお互い頑張り高めいたいという思いの中で芽生えた気持ち。
それはそれで応援してあげたい気もしてきたのよね〜。 

でも、可哀想だけど…
でも、なるべくお互いが幸せになるように

「余計な介入」とやらをしてみたくなったわ。
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雪に生きる女後編

コンコン…

寄り添い、お互いの火に照らされてほんのりと紅潮した頬と火を映す瞳の輝きに見とれ
少しずつ顔が近付いて思わず唇が触れそうになってきたところで、山小屋の扉を叩く音が響く。

(もう少し眺めていたい気もしたけど、私の空腹も限界に近付いているのよね)

「俺、出ます」
若島津が立ち上がり、扉を開けた。

扉の外には、二人より2〜3上くらいだろう美しい女性が白いスキーウェアに包まれ、艶やかな黒髪を雪にまみれさせながら立っていた。

「早く入れ、寒かっただろう?」
日向がサッと立ち上がり、美女を火の前に座らせた。

「さぁ、これを」
若島津が毛布を被せる。
日向は残りのスープを温め直し、若島津はパンにチーズとベーコンを挟む。

「お腹も空いたでしょう?さぁ、どうぞ」


彼女の美しさを内心称賛しながらも、邪な下心などは微塵もなく(そういった人間の心の匂いはすぐに判るのだ)
自分達と同じように、スキーで迷ってきたであろう女性を純粋にいたわる魂に、心が温かく満たされていく感じがした。

あぁ…一度だけ人間の儀式に乗っ取って結婚したあの男を思い出す。

彼の愛の力を栄養に、年毎に美しくなる私を村人は最初は称賛しながらも、段々気味悪がった。
「なぜ老けないのだ?」
「妖怪ではないか?」

あの青年は、人間の歳相応に老いていきながらも私を庇った。
「妻が美しいことを妬まれてしまったよ。でも俺は幸せだぁ〜。こんなに可愛いお前と一緒にいられるなんてな」
嬉しそうに、いつも私を抱き締めてくれた。

その愛情で、また私の体は力を注がれていった。暑さに弱く、最初は毎年寝込む日も多かった筈の夏にも元気に働けるようになり、姿もまた美しく輝きを増していった。


「あ、俺は日向小次郎。こいつは若島津健。多分、同じくスキーでドジッてこの小屋に着いたんだ」
「若島津健です。無事、山を降りるまで宜しくお願いしますね」

精悍男前垂涎魂…もとい、日向小次郎と神秘的美貌食欲魂…いや、若島津健が礼儀正しく挨拶をしてきた。
肉体のみならず、心も美味しそうな魂ね。

「深雪です。宜しくお願いします」
かつて結婚した男がつけてくれた名前を名乗った。
(可愛い素敵な名前でしょ?)


彼らから差し出された、野菜スープやチーズとベーコンのサンドイッチが不思議と、深雪の体に活力を与え、空腹を満たした。そして、何より温かさが心地よく美味しかった。

(あれ?本当に物理的に。おかしいわね、人間のエサは、食べれなくはないけど栄養にはならない筈なのだけど
本当に疲れが癒されて力が注がれているわ)


二人と共に、火にあたり(火も苦手なはずなのだが)若島津が語る怪談に笑いながら深雪は時間も空腹も忘れ、久しぶりに楽しい気分を味わった。

(ふぅん、人間はあの妖怪をこう見てるのか)
中には知っている仲間の話もあり、突っ込みドコロも沢山あったが
知らない目線からの彼らへの解釈を聞くのはなかなか楽しかった。


日付も変わる頃、美味しそうな魂2体は、うとうとと寄り添い始めた。

「楽しませてもらったわ。とびきりいい夢を見せてあげるそれにしても、今夜のご馳走は格別ね」


さぁ…お腹の虫も、これ以上は待てないと…

「あれ?」
不思議と、もうお腹が空いていない。
それどころか…
今まで食べたどんなご馳走の後よりも満たされている?
これほどまでに体が心地よく、エネルギーに溢れているのは
「あの人に愛されていた日々以来だわ」

深雪は、獲物2体を不思議に思って見つめた。

「これは…」
寄り添い、穏やかな寝息をたてる二人から流れてくる温かく力強いエネルギー。


「あぁ…純粋な『愛の力』。二人はそうなのね」

深雪の体は誤魔化せない。
二人の魂を直接喰らうよりも、深雪の心と体に流れ満たしていくエネルギーに
深雪の月明かりに照らされた粉雪の深く白銀に輝きを増す肌に、ほんのりと薔薇色まで加わり、心まで弾んでくるようだ。
髪の毛まで、伸びてますます豊かな艶に溢れてくる。

「既に、稀なご馳走を頂いていたか」

人間が妖力と呼ぶ力も増大したようだ。

礼をするのもやぶさかではない。
今後のこの二人を、見ていくのも面白そうであるし。

「食べちゃったらそれっきりだしね」


深雪は、ふわりと、二人の持ち物に手をかざし、白銀の光を一瞬纏わせた後、夜空に飛び立って行った。


…………



「ん…若島津?」
「あぁもう朝ですか」

ピリリリリ!ピリリリリ!!

!?

「あっ!!」

圏外が続き、電池も切れていた筈のスマホが鳴っている

着信…
日向には「反町」若島津には「島野」

慌てて出る


…………


「もう、心配したんですからね!」
「いくらスキーが上手くても、禁止区域に踏み込んじゃダメです!」

いや…禁止区域の札は見なかったのだが

上級者にとって美味しい、妙に空いているゲレンデを見つけたと思っただけなのだが。

「そういえば深雪さんは?」
「そうだ、一緒に美人がいた筈だが」

深雪は、いつの間にか姿を消していた。

そして、反町達と合流してから、再びスマホの電池は空に
日向達がいた場所は、アンテナ圏外であることが解った。

「人を助ける人外生物もいるみたいですからね」

「雪か山の精が助け船を出してくれたのかもしれませんね」


まぁ、そんな存在でも不思議ではない美しさだったが。


何年か後、皆から(特に深雪から)じれったく思われながら両想いを確かめあった二人は。

時折深雪のことを「あれは夢じゃなかったよな?」と話し確認し合うのだった。
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雪に生きる女前編

私のことを、人間は「雪女」と呼び怪談で妖怪として語る。

でも、可愛い名前もちゃんとあるんだ♪
大概の人間の女よりも、美しい容姿もある。

粉雪をキメ細かく織ったような白銀に輝くひやりと柔らかな肌。
上質な黒い絹糸を長く真っ直ぐに伸ばした艶々と豊かに滑らかな髪の毛。
切れが長く上品な、それでいて瞳は円らに輝く目。
細長く通った完璧なバランスと形の鼻筋。
キュッと赤く、適度に引き締まり程よく甘やかさもある唇。


私の食事は、主に人間の男の魂。
若く美しく生命力に溢れた男ほど栄養価が高い。
その他に、人間の男に愛され可愛がられることによっても、人間の女にとっての上質なコラーゲンとやらや豊富なビタミンとやらのように、私の体と肌を生き生きと輝かせる。
純粋な愛情に触れることも私のエネルギーを増大させる。


そうね、「若い男の魂を喰らう妖怪」


怖いかしら?
でも、人間だって人間以外の動物の肉を「タンパクシツ」と言って大事な栄養にしているでしょう?
私は、苦しませずに血も流させず、むしろいい夢の中で気持ちよくなって貰いながら魂を取り込むのよ?
人間よりも、ずっとエレガントな食事だと思うけどなぁ。



…あ…来たわ。
食べ頃ピチピチで美味しそうな魂の気配が私の狩場に。
それも2体も。


うふふ、早速向かわないと!



………………



「ふぅ…助かったな」
「えぇ、今のところは」

スキーで横道に反れ、私の吹雪と山小屋の罠にかかった私の獲物。

凄い、凄い上玉だわ!

「本当に誰も住んでいないのか?すぐにでも機能できるぜ、この小屋…家?」
罠を見回す青年は
褐色の艶々とした肌に、逞しくも均整の取れた長身。
何より、琥珀色のキラキラと力強く輝く瞳が際立つ精悍男前な顔立ち!

思わず湧いてくる生唾をゴクリと飲み干す。

「置いてあるパンも、まだ柔らかそうですね。あ、冷蔵庫までありますよ。チーズにベーコン、野菜も新鮮なままありますね」

同じくらいの年頃の青年。
黒曜石のような深い輝きの瞳を囲む切れの長い上品な形の目。それを囲む長い睫毛。
完璧に整った、人間が「神秘的な」と表現する、人間にしておくのが惜しい美貌。
スラリとしているようで、脱いだら逞しいことが判る素晴らしく鍛えられたカラダ。

お腹の虫が、グゥ…と食欲を訴える。

「まぁ、事情を伝えたら不法侵入で警察に突き出すのは完璧してくれるだろう。火を焚くぞ」

垂涎の精悍男前が、暖炉の薪に火をくべる。

「ベッドやお風呂やトイレもありませんし、民家として作られたものではなさそうですが。使われる頻度は高そうですね。誰が食料や燃料を補給しているのでしょう?」

食欲そそる神秘的美貌が冷静に辺りを見回して分析する。


垂涎の精悍男前が、野菜を使い調理し、食欲そそる神秘的美貌がパンにチーズやベーコンを挟んで、空腹を満たしながら、二人暖炉の側に寄り添う。

ピチピチの美味しそうな魂が、暖炉の火に照らされて艶やかに輝く。

たまらない。


そろそろ近付いてやる。

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試合のあと

「…ドリル手つかずだ…」
「読書感想文…とりあえず、本何読めばいいの?」
「作文と日記は練習と試合のことで何とか埋めるとして…」
「自由課題って全然自由じゃねぇよ、俺から自由奪ってるじゃん」
「おい、雑巾なら縫ってやるから俺のドリル誰かやってくれ!」


全国少年サッカー大会で決勝まで大活躍しようが、準優勝しようが
惜しくも準優勝に終わった悔しさも、キャプテンが名門東邦にスカウトされ応援する気持ちも関係なく。

平等に期限が迫っているもの。


「夏休みの宿題」


夏休みも残り二週間を切り、吉良監督も練習は午前中のみ
午後は「宿題をやれ。見れるところは見る」

…吉良監督の鬼練習が宿題未完成の言い訳にならなくなった明和のメンバーである。


意外に博識で多趣味な吉良耕三、
素質をそれぞれ見極めて書道や絵画などを自由課題に指導していたりする。

向日の書道のデキがなかなかであったのは本人も驚きであった。

しかし
「自分の字で書かんとバレるぞ。同じところを同じ間違いをしてもな」
「雑巾も、同じ縫い目とかは先生は判る筈じゃぞ?」
そのへんのズルは許さないらしい。

吉良監督の厳しい指導のもと、夏休みの宿題に明和メンバーは格闘していた。


「なんか、今日はやけにみんな気合い入っていないか?」

向日小次郎が首を捻る。

時折だらけそうになる雰囲気を
本当は自分も宿題なんぞ投げ出してしまいたくなる気持ちを圧し殺してチームメイトにハッパをかける役割をつとめる(本当は準優勝に終わった悔しさを一番引きずっているのに)向日小次郎…
しかし、いつにない集中力を見せるメンバーを不思議に感じた。

「まぁいいではありませんか?」
入院中に宿題を殆んど終わらせ、課題のエプロンと雑巾の仕上げを小次郎に手伝って貰って、既に宿題完成…メンバーの監督に回っている若島津がニッコリとする。
「みんなが早く宿題終わらせて、またサッカー練習に集中できた方がいいですよね?」

「ま…まぁな」

つまり俺にもさっさと終わらせろという意味か!?

妙なプレッシャーを感じ、小次郎も集中力を増した。

…結果、その日、皆宿題を終わらせたのだ。

多いようで、読書感想文や自由課題以外は、小学生の宿題など、その気になれば(完成度を求めなければ)1日で終わらせようと思えば終わらせられる。

既に、皆の残された課題はドリルなどの筆記課題のみになっていたのだから。


「よくやったな小次郎、バイト行ってこい!」


はい!


明日からは残りの夏休みはサッカーとバイトに集中できる。
張り切って夕刊を配り
「宿題終わりました!」
と、おでん屋の大将にも報告した。


「そうか、よく頑張ったな」
大将もニコニコと小次郎の頭を撫でた。


その日

開店の18時から20時までの間…
「沢木?」
「な…タケシ…」
次々と、明和メンバーが親を伴って屋台を訪れた。

「宿題、夏休み一週間以上前に終わらせたご褒美♪」
メンバーが誇らしげに
「キミも試合でキャプテンしながら働いて、宿題ももう終わらせたなんて感心だね」
メンバーの親もニコニコと、小次郎にコーラを勧めた。

日向が、屋台が閉店になるならない関わりなく上がる時間になる23時少し前に吉良監督が来ておでんと冷酒を頼んだ。

「今年の誕生日はどうじゃったかな?」

「…!?」

そうか、そうなのか

大将もニヤニヤとしている。

夏休みの宿題をみんなで終わらせて、スッキリした気持ちでみんなでコーラを一緒に飲む。
これが明和の誕生日プレゼントだったのだった。

若島津の家は、さすがに夜の屋台に子供を連れてこれなかったようだが。
しかし、自分が来れないのにその計画に誰よりも貢献した若島津…

「監督、みんな…ありがとうございます!」

自分が12歳になったことに、やっと気付いた日向小次郎だった。

「誕生日過ぎる前に家族に顔を出しな!」

大将が笑う。

まさか…勝や直子も起きて待ってる?

小次郎は、走って家に帰った。


「お帰り兄ちゃん、おめでとう!」

案の定、小さな弟まで起きて待っていた。

「ただいま。遅くなったな。みんなありがとう」

母親、弟妹を1人1人抱き締めながら小次郎の胸はジンと熱くなった。


「兄ちゃん、早く〜!!ケーキあるんだよ!」


ケーキ…そうだな、毎年、それぞれの誕生日には母ちゃんが買うか作るかしてくれる。

みんなでささやかに切り分けて食べようと、食卓に向かったら

「!?」

今まで見たこともない大きい豪華なケーキがあった。
「アイスケーキだってさ。今日食べ残しても日持ちするよ」

夏にアイスケーキ…冷たくて美味しくて贅沢だが…
「母ちゃん…」

「若島津君がね、持って来たんだよ。家で色々稼いだとか言ってね」

そういや若島津の家は、決まったお小遣いでなく「金銭の対価は労働で支払われる」と、家のことへの貢献度評価によって金銭…小遣いを得ていると言っていた。

「若島津…」
何ヵ月も前から頑張っていたのか。


試合のあと

悔しさもあった。
夏の苦しみもあった。


しかし、その夏の12歳の誕生日は、生涯忘れられない思い出となった。
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