ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の3

前回のひとりごとから…

午後の茶会を終えた
ワタシ達は 釣りを再開した………




さっそく竿を振る


……!!

エサを付けた釣り針りが
水面下に消え……

水面上に同心円が広がり
やがて消えて行く……


そして ワタシは
草上に座り込んだ……


軽く目を閉じると
吹き抜けてゆく
風が 心地よい……


ゆっくりとながれる
時を楽しむ……


…!!


あたりがきた……

慎重に竿を手繰る…

……

……“失敗”………

えさを取られてしまった


気を取り直し
再び 竿を投げる


…!!


すぐに あたりがきた

竿をあげようとすると



「…いたっ 痛っ!!」



下の方から 声がする

(…はて?面妖な
ワタシ達以外 誰もいないはず……)

さては魔物?

魔物のなかにはヒトと
会話できるモノも珍しくない 高い知性を有する個体も存在する……

ワタシは 竿をあげるのを 止め 声のするほうへ
ゆっくりと近づいた



右手の竿はそのまま離さず
もちろん 武器を左手に
パートナーには
ワタシの後ろで いつでも魔法を唱えられるよう
待機してもらい………



釣り糸の先には…………


……ヒト?



「まった 待った!!」

「抵抗は しねぇ
とにかく 待ってくれねぇか?」


泣きそうな声をあげ
若い男が ソコにいた…




ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の2

前回のひとりごとから…

来た 時間帯が良かったのか この“巫女の住み処”
には ワタシ達以外 誰もいなかった……




釣り場は すぐ見付かった…

左手の滝から豊富な水が流れをつくり神殿庭の池からも水が流れこんでいる川……
見上げるほど大きな鳥居
その足下にソコはあった…

雲の上にある場所なのに
寒さを感じない
ふしぎな場所だった…


さっそく竿を投げる

…!!

水面に針が飲み込まれる
音が響く……

あとは
滝が水面を叩く音
しか 聞こえない……


……静かだ

ゆっくりと時が流れ……


突然!!
竿が引っ張られる

しなる竿が獲物が かかった事を 手元に知らせる…
…なんだ!?
この 手応えは?

それは 初めて感じる
引きの感触

ウイリスカープとも
スティングマサーモンとも違う


釣り糸を切られないように竿をあやつり
相手の抵抗が弱くなった
ところで 一気に竿を
上げる………

……?

なんだ コレは?

初めて見る 魚?



「それは“ギョ”だね
“ギョルミ”が頭に被ってる アレ だよ…」



すかさず パートナーが
教えてくれる……



さっそく 珍しいモノが
釣れた…
しばらく ここで
釣りを続けてみよう………


………………



“ギョ”が釣れたあとは
“ウィリスカープ”
“スティングマサーモン”
が 釣れた……

宝箱(トレジャーボックス)も釣れる……

中身は……
“平たい石””割れたメダル”“銀玉石”……

確かに ここでしか
釣れない珍しいモノだが……
ガラクタばかりが増えてゆく……


ワタシは 微妙な顔 にも
飽きてきた……

パートナーは ワタシが
何を釣り上げても
喜んでくれる……

彼女の笑顔は 屈託がなく

ワタシには まぶしいくらいだ……



釣り針に“ふつうのえさ”を付け…
これしかないのだが……

再度 竿を投げる……

…!!

水面に いつもの音が
吸い込まれていく……


左手の滝の音を聞きながらじっと待つ……

…この静寂
……実に 心落ち着く……

パートナーは後ろで
お茶の準備を始めたようだ

…錬金術による合成
レシピと素材があれば
どこでも誰でも出来る
普通にありふれた光景…


だがワタシにはその才能がないらしく
合成はパートナーまかせなのだ………



「…お茶にしようか?」



パートナーが聞いてくる

…と そのとき
あたりがきた……



…竿をあやつり 頃合いを
みて 竿をあげる


“ワイルドキンギョ”だ

これも なかなか釣れない
珍しい魚だ……




ワタシ達は いったん釣りを止め お茶にする事にした……


雪山と草原で取れる
レモンを使った
“レモンパイ”と
アロエベラから合成で出来る茶葉を使った
“紅茶”……

二人だけの茶会………


…周りに誰もいない
滝の水音だけが聞こえ

甘いレモンパイに
熱い紅茶から 良い香りが
漂う……

パートナーと二人っきり
で過ごす 穏やかな時間…

至福の時とは こういう事を いうのかも知れない…

…ワタシは紅茶を一口含み香りを楽しむ……


………………


パートナーとの他愛のない
おしゃべり……

レモンパイをつまみ
紅茶を飲む


それだけなのに
心が満たされていく……


パートナーは彼女で
良かったとワタシは
心のなかで神に感謝した
もっとも 祈る神など
ワタシには無いが……



人心地ついたところで
ワタシは 釣りを再開する事にした………



ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の1

前回のひとりごとから…

…恥ずか死にそうになったワタシは 気分を変えて
釣りをする事にした…




「ねぇ きみっ!
新しい釣り場が発見されたんだよ 行ってみようよ」

国境沿い南 滝つぼ側で
釣り糸を垂れていると
パートナーが話しかけて
きた………

ワタシの後ろには
釣り上げた宝箱(トレジャーボックス)が 無造作に転がって
いる
………中身は 石炭 黒鉛
丈夫な木の枝 材木片……

海側では 昆布が入っていた……

いずれも 錬金術合成に必要なモノだが……
いらないモノばかりだ……

…!!

あたりがきた

竿を動かし 釣糸を切らないよう 慎重に手元に
手繰り寄せると……

……また 宝箱だ

パートナーは無邪気に喜んでいるが
ワタシは 微妙な顔 になる………

「で 新しい釣り場なんだけど…」

パートナーが話を続ける…
「丸岩周辺 巫女の住み処
魔王城外郭 の3ヶ所!!
…どこに いこうか?」

風に揺れるパートナーの
ウサ耳(チュチュの耳)を
…可愛いなぁ
と思いながら
どこに行くか 考えてみた

……………



「…“巫女の住み処”
に行こう」



少し考えて…ワタシは
パートナーに答えた…



「どうして いちばん
遠いところに?」



パートナーは疑問を口に
する……



「…一番 遠いという事は
一番 人が少ない……
つまり………」



「えものを ひとりじめ
だね♪」



「…ま まぁ そうかも…」



ひとり静かに 楽しみたいのだが…
それは 口にしないでおこう……


今いる“国境沿い南”から
“国境沿い”“雪山と草原”“神へ続く道”“塔の外”“時渡りの塔”“神殿へ続く道”そして“巫女の住み処”……



「けっこう歩いたね…」



確かにパートナーの言うとおり 長い道のりだった…
…これは めったに来れない



是非とも珍しいモノでも
釣り上げなくては…

静かに釣りをするという
目的は どこへやら


ワタシは 釣り場へ急いだ

ある冒険者のひとりごと……9 コーディネート


ヒトには 不相応 というモノがある…

だが ちょぴり 背伸び
してみたい

そんなトキがあるものである……




不老不死の村で
“ふしぎな女”に出会った時 ワタシは ある冒険者を思い出していた……


…それは 錬成施設前で
“音のカケラ”を集めて
いた時 たまたま
見掛け 共に 戦った
女性である……


上衣に 鬼のサラシ
下衣は トゥインクルEブーツを履き
頭には フラムウィッチハット をかぶり

ロッドオブアンタレスの杖を振る

長身の彼女は 実に
かっこよく 見えた……



あの女性と同じ格好を
すれば…

…ワタシも……


やっては イケなかった
のかも しれない…

後悔 さきに立たず
とは 言うが
物事 やってみなくては
解らない

この時の ワタシは
後者だった………


帽子と下衣は すでに
持っていた
杖は…
エアリースチールロッドで代用……

あとは……
…鬼サラシ

市場を覗いてみたが
かなりの高値が付いている一番安くて10万Zell(ゼル)…

………ムリだな

こういう所では冷静になる
仕方がない 上衣は
下着で代用しよう……

必要なモノは そろった…

あとは…実行するのみ

…ワタシは 錬成施設前
入り口前にある酒場の裏でこっそり 着替えてみた…

ここは 人がめったに
来ないから……


……

………

…………

水面に映る ワタシの顔は
…なんとも
……微妙な表情をしていた

セクシーさとは 程遠い
変な格好をした
褐色の少女が
まるで宝箱を釣り上げたような顔をして
立っていた……




物事はやってみなくては
解らない

しかし 後悔は先にするのではなく 後で するもの
である……



ある冒険者のひとりごと……8 辻説法

ワタシは 群れることが
出来ない はぐれ鳥
なのかもしれない……




“広がる平原”
そこは 南にアブル連邦
北に国境沿い南
東に3国国境
に挟まれた広い平原である
ここから 大型農園 炭鉱
にも行けるため
人通りも多いい……



ワタシは“冒険者の記録”を求めて この地を訪れた…
掲示板の書き込みによるとこの辺りに隠されているらしい……

錬成施設前 国境沿い南
どちらの掲示板にも
書き込みがあった……

このため ひとり旅でも
迷わず 進めるのだ……


しかし 広がる平原は広い……

探すのは苦労しそうだ



「……」

「…ボンドとは………」


…女性の話し声が
聞こえた…


「…仲間同士で………」




…知り合った 駆け出し
冒険者に説明しているのか
ワタシは そう思った……

シュリンガー公国やアブル連邦の酒場前や酒場内で
よく聞こえていたからだ……
人が通りすぎてゆく
平原 牛車前で とは
珍しいな と足を止めた


「……ひとりでいるより」



だが どうも 変だ……

ボンドの説明をしている
女性は見えるが
説明を聞いてるはずの相手が見つからない……



「…入ってみませんか?」

「きっと 楽しいですよ…」


…ボンド勧誘を始めた

あぁ…このヒトは辻説法を
してるんだ
特定の個人ではなく
不特定多数に対して……

彼女の説法は続く……

ワタシは 立ってるのも
しんどくなって
彼女の斜め前に座り
続きを聞くことにした……


…………

「はぁ…」

「誰も 入ってくれない…」


ため息 と共に 彼女も
座り込んだ……


彼女の後ろ 少し離れた場所で 恋人どうしだろうか
二人で いちゃつき始めた……



「わたしが話しかけても
みんな …逃げていくのよねぇ……」


………

…愚痴り始めた…


「負けるな わたし
きっと わかってくれる
人がいる はず」

「がんばれ わたし」



……自分を 励まし始めた
………

「さぁ 行くわよ!!」


立ち上がると
駆け出して行った……


…………

「ポジティブなひとだったね…」

「………そうだな」

ワタシは うなずいた


「わたしたちも行こうか」


「……あぁ
行こうか…」


……ボンドと いうのも
大変だな

ひとりボンドの
ワタシはそう思った……


“冒険者の記録”を
求めてワタシ達も
立ち上がった

奥に居た カップルらしき
二人も いつの間にか
いなくなって いた……


ワタシ達 冒険者は
1ヵ所には 止まれない
渡り鳥のようなもの……

とは 誰の言葉だったか…

ワタシは この世界の知識
を求めて 今日も旅を続ける……



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