ある冒険者のひとりごと……7 *2月の掲示板*

“2月は 不思議なことが
多く起きる…”

と噂ばなしがある……



2月の日が他月より
少ないのは 悪魔が持っていったから……

……古くより伝わる
おとぎ話より…………






掲示板というモノが
この世界には あちこちにある……


錬金術で作られているのは
間違いない……
古い書きこみは上の方へ
移動してゆき…
やがて書きこみが消える
からだ…

仕組みは解らない
そんな事に疑問など
もたず 皆が利用している

……………



冒険に行き詰まったとき
手掛かりをくれる事もある
疑問を書きこめば
答えの書きこみが
ある! …時もある………

冒険者が書きこむモノ…
だから 落書きも多い……
神を冒涜するもの……
自己存在を誇示するもの
たわいない おしゃべり…
………………………


そんななか 気になる
書きこみを 見つけた…

場所はカカオ村入り口

ココに掲示板が立って
いることに
ワタシは 初めて気ずき
ぼんやり 眺めている
時のことだった……


“褐*の* 1*** ***1”

普段なら気にもとめない
のだが……


連日のチョコミ討伐に
疲れていたのかも
しれない……



何が 書かれていたのか
うまく 思い出せない…


なにかの 呪文 だった
気がする……

ワタシは 我知らず
ソレを
唱えてしまっていた………………



………何も おきない…
ただの いたずら書き…
だった……?

掲示板のまえに立たずんでいると

「… こっち こっち
みんな 待ってるよ……」


幼い声に
振りかえると

幼女が 笑いながら
立っていた……


浅黒い肌に白い髪
…白い羽を背負い
白い下着に素足という

頭に 輪っか でも浮いて
いたら
天使である……

もっとも天使を見たことはないが……


唖然としている
ワタシは
幼な子に手を引かれ

カカオ村の円形門を
くぐった………


「…フフッ こっちだよ…」


村の真ん中にある
五重くらいの噴水…
相変わらず
溶けたチョコが流れ出している………


すでにそこには 人が集まり
談笑していた……

ワタシが 招待客?の
最後らしい……



…ワタシは 何か
違和感を感じていた……

…人が少ない?

…!!

…そう ここには
肌の色が濃い
いわゆる 褐色肌と呼ばれる人々しかいないのだ!!


…あのとき
掲示板に書かれていた
言葉を呟いた……
そのあとだ
この世界にきたのは!




……幼女がい

…若い女性
妙齢の女性
…若い男性
小柄な老人男性!!
まで……

肌の色も日焼けから
黒い肌まで


こんなに いたのかと
驚きを感じていた……



「噴水に集まって〜
あたしより 上に登っちゃ
ダメ!!」

彼女の呼び掛けに
人々が集まってくる


……何かの儀式だろうか?
ワタシは この世界の
指導者とおぼしき
天使な格好をした幼女の
隣に立った………

何か あれば 彼女を盾に
逃げるつもりだ……

辺りを見渡し パートナーの姿を探した……

……!?

いない?

この世界に来たのは
…ワタシだけ?

かなり まずい状況に
あるらしい……


…どうしたら?
良いのか?………


「自由に していいよ
他に 何か したいこと
ある?」

「じゃあ チョコ風呂
行きたい!!」

…!!

考えこんでる ワタシの
両側で 声が した

幼女天使がふたり!?……

最初に会った 幼女と
瓜二つ……
……いや よく観ると
髪型が違う………

幼女同士が会話している


事に気付いた…



「じゃあ チョコ風呂に
いくよぉ!!」

「さんせい!!」

…彼女らの言葉に
20人ぐらいだろうか?
老若男女が ぞろぞろと
移動を始める……
そのなかにワタシも いた
………




チョコの甘い香りが
漂う ハート型の風呂?
というより 池と言った方が ふさわしい大きさだ

初めて見たとき ワタシは
池と思った……

しかし パートナーは
風呂と 言った……

そんなことを ぼんやり
思っていると……

奇声をあげ
次々と風呂?に飛び込んで行く人々……

服は着たままだ…

ワタシも おずおずと
入ってみた……



「ぬげ〜!!」

「おまえら ぬ〜げぇ!!」

まるで 双子のごとき
白い羽を背負った
チョコレート色をした肌
をした 幼女が 音頭を
とって はやし立てる

褐色肌の人々は
我先に 装備を脱ぎ捨て
大騒ぎになった……

……みな やりたい放題
無礼講である……

魔女の集会(サバト)とは
こういう モノ だろうか?
チョコの甘い香りと
人々の熱気に
あてられたのか
ワタシも楽しい気分に
ひたっていた……


「ねぇ キミも 仲間に
なりなよ…」

「きっと 楽しいよ…」

褐色の幼女たちが
甘く ささやきかける…

ぼんやりした頭で
ワタシは…

「…どうしようかな」

素の自分が答えた……

「こういうのは 勢いが
大事だよ!」

褐色肌の女性も話しかけてくる

……
………ワタシは

ふと視界のスミに
パートナーの顔が
見えた……

その顔は
怒っているようにも
悲しんで いるようにも
見えた……






……キミ
…………キミ
………………キミ!!

ふいに パートナーの声が
聞こえた

…!!

目前には 掲示板が見え
騒がしい 声! 音!! が
聞こえてきた………

「どうしたの?
ぼぅーと しちゃて…
まっ いつものこと
だけど…」

心配そうに ワタシを
見上げる
ワタシのパートナー…

「えっ? いま ワタシ…」

「どうしちゃたの?
きゅうに 女の子ぽっく
してぇ……」

含み笑いの パートナーに
「な 何でもない…」

あわてて ワタシは
取りつくろうが

パートナーは ニヤニヤ

しぱなしだ……

…そうだ あの 書き込み!
あわてて 掲示板を 見るが上へ流れたのか
見つけることが出来なかった……

あれは 白昼夢だったのか

………

背後で あの幼女たちの
笑い声が 聞こえた気がした……

振り返ったそこは
いつも 変わらない
多くの人が行き来する
カカオ村の入り口だった
……

ある冒険者のひとりごと…6 転職 占星術士

前回のひとりごとから…

…ワタシは 紺碧髪の
彼女から助言を受け
別れた………

最後に発した彼女の言葉

“…占星術士”

この職業に就けば 何か
解るかもしれない……




占星術士は星の運行を
観て 未来を知り
人々に助言を与える…
……占いで生計をたてる
職業である

……天体運行の観測を
応用し 魔物と戦う……
土属性魔法を操る
魔導士……
といったところか……


ワタシは 再び 杖を振る
職業に就いた……

修道士が回復なら…
占星術士は攻撃…

と言えば わかりやすい…


占星術士には“黒水晶”
が必須だった……

試験も コレ を手に入れる事だった…

黒水晶は魔力を蓄えているその源は……
……魔物の魂 らしい…

黒水晶に魔物を封じ込めて初めて その効力を発揮…
そのひとつが魔力を蓄えること……
つぎに ぼんやりとした
未来予知である……

前者が戦闘に必要で
後者が占いに必要な

特性である……


魔物の魂とは 何なのか
新たな疑問が持ち上がる…

錬成施設の所長は
動物に魂を魔法で吹き込んだ と言っていた……
石炭運搬の労働力として
使うために……

サタン・クローは
人間から魔物になった…

不老不死の村人は儀式に
より 半魔物化した……

カカオ村に出現する
オニも 遠いむかし
人間だったという……


この世界の魂とは……

こんなことに疑問を持つ
ワタシは 異常者なのか?

様々な疑問を抱きつつ
ワタシは 占星術士
という職業に就いた……

未来は変えられる
職業案内所の受付嬢は
言った……

では 過去は?

黒水晶は未来を映す…
過去は映るのだろうか?

ワタシの ぼんやりとした過去は……?



ぼんやりとした不安を抱えつつ ワタシはパートナーと共に 冒険を続ける…………




ある冒険者のひとりごと…5 二月のチョコ話 終章

前回のひとりごとから…

続々と冒険者が集まってきていた
…ワタシ達は
オニに向かった……





オニとの戦闘は一人の犠牲者もなく 終了した……
ワタシも体力の半分ほど
持っていかれたが
なんとか 生き残ることが 出来た…



戦闘が終わり 元の空間に 戻ると 紺碧髪の彼女は
見渡せど 見つからなかった……

「お礼 言えなかったね…」

パートナーがワタシを
見上げる……
彼女は 背の低い ワタシより さらに 低いのだ…

「…あぁ そうだな……
きっと べつの 人助けを
しているさ……」

「ワタシに してくれたように………」

パートナーの目を見ながらワタシは 話す…

「…ふ〜ん ずいぶん話し込んでたじゃない

彼女のコト 気にいった?」

言葉にすねた感じがする…

「…べつに…………
彼女から助言を
もらった だけさ……」

いつもの癖で パートナーから 視線をはずして
しまう……


「ふ〜ん… まっ そういう こと に しといてあげる…」

額にかかる前髪を かきあげ パートナーは
そう 答える……


…………


「なにか いいたいこと
あるでしょ…」

ワタシを 見上げる
パートナーの片眉が
ピクリと動いた……

にこやかな口調だが

隠し事は できない……

ワタシの表情から
真実を見抜くのだ……

「……実は
転職しようと……
…思っている…」

まっすぐに 言ってみる
……言葉は 切れ切れだったが…………

ある冒険者のひとりごと…5 二月のチョコ話 其の七

前回のひとりごとから…

紺碧髪の彼女と話していると

……なぜだろう

…ココロが軽くなってくる気がする………


彼女との対話はつづく…





「わたしもぉ 騎士やる前は修道士やってたからぁ♪
キミも そうなのかな?って」


……………



「…たしかに……最初の職業は修道士だった…………」



驚きを隠せない



「そっか〜 わたし達
おんなじだねぇ〜♪」



屈託なく彼女は笑った…



「…なぜ修道士を辞め
騎士に?」



ワタシは疑問を口にした



「んーとね 修道士の限界を感じたんだよねぇ…
修道士って 体力 低いよね これじゃあ 他人を助ける前に わたしが 死んじゃう だから体力のある職業
騎士を選んだわけ…
“スキル”も 他人(ひと) を助けられるモノがあるしねぇ…」



……ワタシはうなずく
そういう考え方も
あるのかと………



「騎士になっても修道士の 回復スキル(アルカナ) 使えるし……」



……!?



「…騎士なのに杖を?」



他人を唯一癒せるスキル “アルカナ”
回復アイテムの存在しないこの世界では 重宝されるスキル…

しかし 杖を装備しないと 使えない

杖の物理攻撃力は低い……だから杖を装備すると
いうことは
戦闘が長引き 死ぬ可能性が高くなる
戦闘は盾(まもり)より矛(こうげき)なのだ………



「…杖? を振る騎士!!」



思わず うめいてしまった
それまで 考えた事もなかったから……



「そっ♪ 他人を癒し仲間のために 盾になれる騎士
聖騎士(パラディン)ぽいでしょ」



彼女はイタズラっぽく
笑った…


…ワタシは うなずくしか
なかった

彼女は ちゃんと考えて
行動してる

ワタシのように
行き当たりばったり
ではなく……



「別に 転職は 恥ずかしい コトではないよぉ…
あらたなスキルも
覚えるしぃ
手札は 多いほうがいい…
ソコから 何を選ぶかは
きみ しだい だよ♪」



彼女は片目をつむって
微笑んだ……

いい笑顔だ……
今のワタシには
眩しかった…

いつか ワタシも……
いや
無理かな…
ワタシは自嘲気味に
唇の端を
歪めるに とどまった…



「おっ!!
冒険者が集まってきた
そろそろ 行こうかねぇ?」

彼女は砂ボコりをはらい
立ち上がると
前へ進んだ…



「あっ 迷い事が あるなら
占星術士に なってみたら?
何か つかめるかもぉ〜」



振り返り そういう言葉が
聞こえた……



今度は 転ばないよう
ゆっくり急ぎ

オニの方へ走った………



ある冒険者のひとりごと…5 二月のチョコ話 其の六

前回のひとりごとから…


隣に居心地悪く座った
ワタシに対して



「…少し はなしをしよぉ?」



先に 口を開いたのは
彼女のほうからだった





「キミの職業は 何かなぁ?」

「わたしはぁ 聖騎士(パラディン)だよぉ〜」



……?



「自称だけどねぇ〜♪」



……そう 聖騎士という
職業は まだ無い……
一次職までしか
冒険者は就くことが
出来ないのだ
二次職に聖騎士があるかもという噂は聞いたことが
あった………



「……なぜ聖騎士を?」



「わたしはぁ 人を助けるのがぁ好きなのぉ〜♪
だからぁ 今は騎士にぃ
就いてるのぉ」



「……今は?」



「そぉ 今わぁ〜騎士だけど聖騎士をやってるのぉ〜」

「いつか実装されるかも
しれないじゃない?」

「だからぁ パラディン
やってのぉ〜」



…“人助け” ワタシのなかにある消えない感情

…しかし 力不足に挫折
した思い………

彼女には そういう思いは無いのだろうか?




「きみもぉ 騎士なのかなぁ〜?」



…!!



「なぜ そう思う?」



「この前 見たときぃ
わたしと同じ上衣(ヴィトンハルニッシュ)を
着てたからぁ〜
そうじゃないかなって」



「今は違う上衣だねぇ〜」



「…この前って
“3国国境”の辺りで?」



…ワタシは内心焦っていた

確かに あの時 “いいね”を された…
“いいね”返しをちゃんとした だろうか…



「う〜ん 覚えてない
“いいね”はしたかも?」


ちょと首をかしげ
彼女は答えた……



「…貴女(あなた)が推察した通り
……あの時は 騎士を
やっていた………

…今は 戦士をなりわいに日々を 過ごしている…」



……なぜだろう
彼女の前では
口数が増えている気がする


「ふ〜ん? 今は戦士なんだ もしかして 騎士の前にもべつの職業だったりしてぇ?……」



…!!


なぜ 解るのか?
ワタシは驚愕していた