ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 終章

前回のひとりごとから…

Zell(ゼル)を盗られ
彼を追いかけようとする
パートナーをワタシは
制止した………




「えっ? 追わない……?」


パートナーの目はまんまるだ

二日酔いの痛みに耐えながら ワタシは答える

「…今から 追いかけても
間に合わない……彼が
どこに向かったか……」

それでもパートナーは
納得できず


「でも 市場に向かえば…」

「ご覧の通り ワタシは
しばらく動けない
それに彼は ワタシの友だ
信じようじゃないか…」


「でも Zell(ゼル)だよ 大事なものなんだよ!」


「…また 稼げばいい……
ワタシ達には ソレができる 彼には ソレが少し難しかった……」

「それに 彼がその気なら
全額 持っていくことも
出来た…なぜ そうしなかったと思う?」


「…そ…それは……」


「…彼からは ジュブルフカという珍しい酒をもらった
ワタシ達はその お代を払った……
それで いい………」

パートナーは いまいち
納得していないようだったが


「…きみが そう……
言うなら……」


しぶしぶ 承諾したようだ

「……それから 彼のメモ
このビンの下に はさんで
あったよ……」


パートナーの手に茶色の小瓶があった
それを受け取り 頭痛に悩まされながら観察する…

蓋はしっかり締まり
封は切られてない

次に瓶の表面に貼られた
紙片を見る

女性の上半身に青い羽毛の鳥の下半身
ハーピーと呼ばれる
魔物が描かれている

その絵の上に
“ワイルド・ハーピー”
と書かれている


この瓶の中身はなんだろうか?
液体らしきモノが入っているようだが……


パートナーにも解らない
らしく困惑している


困った彼の置き土産を
ワタシの鞄に仕舞い

ワタシ達は行くあてのない旅に出る事にした

もちろんワタシの二日酔いが収まってからだが………


ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の十一

前回のひとりごとから…


……………………

……………………………


………z・z・z・z





「………き…み………きみ………きみ!!」

…?

誰かが ワタシを呼んでいる……

……起こさないでくれ
…死ぬほど疲れている……

…………

ついには身体を揺さぶられ無理やり起こされてしまう

………!?

「……やぁ……おはよう…
…君は……誰だい?……」

ぼんやりした頭で
ワタシは答えた……


「もう! バカ!! なかなか
起きないから 魂 連れていかれたんじゃないかって
心配したんだから……」

パートナーが怒りながら
泣いている……

本当にワタシを心配しているのが伝わってくる……


……そういえば
…………魔王は気に入った冒険者の魂を抜き取りコレクションにする……

以前パートナーが話していた おとぎ話……


…ワタシは覚醒する意識のなかで 思いだしていた


「…彼は?」

ゆっくり周りを見渡し
たずねる……


「わたしが気づいたときは
いなかったわ……」

揺さぶっていたワタシの
両肩を握ったまま
パートナーは答える……


なんとなく そんな気がしていた………



「それに 見てよ コレ!!」


ワタシの目前に紙片が
突き付けられる……



他人を簡単に信じるな

先輩冒険者からのアドバイスだ


彼が書いたであろう
走り書き が見てとれた…


「それに わたし達の
路銀(Zell)も減ってるの!!
……もぅ ひどい!!」


頭から湯気が出そうなくらい 怒っている


「ねぇ!! 追っかけて取り返そう!!」


今にも駆け出さんばかりだ



「…いや いい それより
後片付けをして ここを出よう」


ポカンとした顔で
パートナーはワタシを見ていた…………

ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の十

前回のひとりごとから…



安らかに眠るパートナーを残し
ワタシは彼と 昇る朝日を観るため石畳を並んで歩いた……
端から見ると仲の良い兄妹がふざけあって歩いている様だろう……


ワタシと彼は酔って真っ直ぐには歩けなかったから…



ふらふらになりながらも
石畳の先にある石舞台に
たどり着いた……

背中合わせにへたりこむ
二人とも肩で息をしている


……

………



眼下の雲海をぼんやり見おろす……

二人とも無言だった


やがて空が白み始め……
雲が橙色に染まり…
朝日が顔を覗かせる……

肌寒かった空気が
一気に暖まるのが感じられる………

なんと 素晴らしい体験だろう……

ワタシは感動して彼の方へ顔を向ける

……

背中合わせの彼はすでに
眠りに落ちていた……

何とも幸せそうな寝顔を
しているのだろう……

そんな彼を見ているうちにワタシも眠くなってきていた 何しろ …徹夜で ……呑んで……

いたのだ …無理も

……ない

だろう………

……


………ワタシは

………………

…z・z・z・z…………


ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の九

前回のひとりごとから…


それから ワタシたちは
長らく語りあった……





夜も更け……
三本目のジュブルフカの瓶もだいぶ軽くなってきた頃

3人 ともに 酔いがまわってきていた


パートナーは既に酔いつぶれ 安らかな寝息をたてている………



「…きみとワタシは
既に親友(とも)だ………

……何かあれば ちからになりたい…」



彼の正面に向かい
彼の目を見つめて
ワタシは話しかけた…



「…いや 別に 困っている ことは……」



ワタシから視線を外し
左斜め下を見ながら
彼は 答える



「……そうか

でも ワタシ達はきみの
味方だ 忘れないでほしい…」



彼の心中を察し
ワタシは それだけを伝えた……

彼は少し面食らった表情を見せ 話題をそらすように
暗闇を指差した



「もうすぐ 夜が明ける」



「夜が明けると どうなる?」



ワタシも彼に続ける



「知らないのか?
ここから観る朝日は絶景
なんだぜ」



片目をつむって彼が答える
かっこよく きめたつもり
だが まだ幼さの残る彼の顔は カッコいいより
かわいい だった……



ワタシは吹き出さないよう顔を引き締め



「……そう…
楽しみだな
………」



カッコよくキメてる
つもりの彼に失礼だから
そう答えた……



ある冒険者のひとりごと……10 釣りと密漁者 其の8

前回のひとりごとから…



彼とパートナーがシュリンガー公国での子供のころの思い出話で盛り上がっている 傍で話にくわわれず

ワタシは とりとめなく
考え事をしながら
時折 焚き火に枝をくべて酒をチビチビと舐めていた…………




「……あぁ

そうだったぜ……


このブクブク石を

何の変てつも無い
汲み水に入れるとな………」



パートナーとひとしきり話した彼は ワタシの方を向き
パートナーの錬金術で作った中ジョッキに水を満たし“草原と雪山”で 採取できる“炭酸石”の欠片を放り込む………

………すると



ブクブクと泡立ってくるではないか


!!


ワタシは驚いた


炭酸石を入れた泡立つ水…
それに ジュブルフカを
注いだソレは

レモンと
炭酸石から連金合成する

ハイボールに似ていた……


「コイツを見るのが本当に初めてみたいだな……

シュリンガー公国の人間なら 誰でも 子供の頃にやる遊び なんだぜ……」

「記憶が無いってのは
本当なんだな…」



彼は一瞬
同情の表情を浮かべる


………



「まっ 思い出さない方が
イイってこともあるだろうよ……

ツラい思い出なら
なおさらだ……」



ワタシは無言でうなずく


幼い頃 目の前で 魔物に
両親を殺され みずから
記憶を封じた少女を
ワタシは知っているから…


「そんな 話より
いまを楽しむだろうよ……」



彼は明るく振る舞う



「それでだ……

さっきの泡立つ中ジョッキに

“ジュブルフカ″をお好みの量入れて……」



「さぁ 呑んでみな…」

目の前に差し出された
中ジョッキを受け取る

ひとくち 口に含むと……


彼から受け取った中ジョッキを ひとくち 口に含むと

…!!

あんなに強い“ジュブルフカ”が 何て呑みやすい酒に………



「そうか …この酒は
直接呑むのではなく
薄めて呑むモノだったのか……」


それに炭酸石から出る泡が酒の香りを強め
何とも不思議な味に……



ワタシは 驚嘆していた…

そんな ワタシの様子に
彼は満足そうに頷いている


パートナーの錬金術合成した“サーモンカルパッチョ″と“マーリンソテー″
が酒の肴に実に合う………



「……なぁ 公国は変わりないか?

先の連邦との戦争のあと
帰ってないんだ……」

彼はしんみりと語りだした

「コイツ(ジュブルフカ)を呑むと公国が恋しくなる

ろくな思い出も無い
貧しく寒い国だが
城の前庭の2本桜を思いだしちまう……

コイツ(ジュブルフカ)の香りのせいだな……」



彼は ひといきに
グラスを空ける


………


空いたグラスに
ワタシは
無言でジュブルフカを注ぐ………



「へっ…ありがとよ
オンナに酌をしてもらうのは いいもんだろうよ……
美人じゃ無いのが残念だが…」



…ワタシは無言で

ニヤリと笑った………

前の記事へ 次の記事へ