あるボンマスの物語……1 マスターの資質 中編

前回の物語より……

ボンドマスターでもある彼は魔物討伐を終えた後 新メンバー勧誘の為 シュリンガー公国を訪れていた………





「……朝のお茶も、いただきましたし
ボンドメンバーに挨拶して出かけますか……。」


「そうね、このボンドに、ふさわしい冒険者(ひと)が見つかると、いいけど……。」


ティーセットを片付けながら 彼のパートナーが答える……


彼は これから新メンバー勧誘に出かけることをメンバーに伝えようとボンドチャトに接続を試(こころ)みたのだ………



……?


「おかしいですね。
ボンドチャトに繋がりません……。」


「何かトラブルかしら?
……ボンド掲示板には?」



「やはり、繋がりません…。
………どうしたのでしょうか?」


彼のボンドコマンドが全て使えなくなっていた……
つまりボンドメンバーとの連絡の手段が全く無くなっていたのだ……



「困りました。……どうしたらよいのでしょうか……。」


「ここに居ても、仕方ないわ……とにかく出ましょう?」



パートナーの言う通り部屋を出なければならない… 一晩しか予約を入れていなかったのだ……

部屋を出て一階に降りるとこの酒場兼宿の主人が声を掛けてきた……


「よぉ〜 …どうした朝から暗い顔をして……」



「あっ、おはようございます。……実はボンドチャトに接続出来なくて……。」



「そいつは 大変だな……
今日はボンマスの証(あかし)着けてないんだな……どうした?」



……!!


「そういえば、昨夜服から外して……。」



「…その時ボンドメニューを開いてなかったか?」



「……そういえば、開いていたかもしれません……。」



「あちゃ〜 それだよ
寝ぼけて退会を選んじまったんだよ……
退会しちまったら ボンド機能は使えない……
ボンドに入り直すことも出来ない…
ボンドに入る為には マスターに承認してもらはなきゃならない…
退会した時点で あんたのマスター権限は消失……
だから マスターの証も消えちまったわけだ……」



「おっしゃる通りです…
なんとも、自分が不甲斐(ふがい)ないです……」


彼は 下を向き自分を恥じているようだ………



「で?これから どうするんだ…
あんたのボンドにも サブリーダーが いるんだろ?」


「えぇ、います。……彼女を探してボンドに復帰します。」



「この世界は広い その中から1人の冒険者を見付けるのは難しい……
だが可能性はゼロじゃない……
ボンドってのは絆(きずな)だ………
絆ってのは お互いを信じる心だ
あんたの作ったボンド
あんたの選んだメンバーを信じてみるこった……」



「はい!そうします。」


雲っていた彼の顔は 晴れやかになる……



「早く見付かる様 おれも偶然の神に祈ってるぜ!」



「ありがとうございます。」


あては無いが パートナー共々公国酒場を後(あと)に大通りへ歩を進めた………

あるボンマスの物語……1 マスターの資質 前編

「ふ〜、……今日も疲れました。」


そう言うと彼は軍服のまま宿屋のベッドに倒れ込んだ…被ったままの帽子から淡い空色の髪が覗く……



「今日も、お疲れ様。
今、お茶を煎れますね…。」


淡い桃色の長い髪を後ろで結んだ彼女は彼のパートナーである……



「……ありがとう……。」


彼は あるボンドのマスターをしている……
今日もソロで魔物討伐してシュリンガー公国の宿屋に帰って来たのである……



「ねぇ、大丈夫?
魔物討伐は、他のボンドメンバーも誘った方が良くないかしら?」



パートナーは錬金合成した緑茶を煎れ 部屋備え付けの小さな丸テーブルに着く彼もベッドに座り直し 湯飲み茶碗を受けとる……



「そうですね、……他のメンバーも、それぞれ忙しそうですし。……私達だけで充分ですよ。」


「それに……。」



「それに?」



「他のメンバーは、強いですから私も、いえ私達も強くならなければ……。」


「そうかもしれないけど、
此所のところ、こんをつめすぎじゃないかしら?」


「………………。」


お互いに湯飲みを手で包み暖をとる…

ここ シュリンガー公国城内都市は高い山の中腹にあり街には雪が積もり……
屋内に居ても冷気が忍び寄ってくるのだ……

人が住むには適さない土地だがアブル連邦と小競り合いを続ける公国にとって ここは天然の要塞であり最後の砦でもある………

ここは冒険者にとって始まりの地でもあるため新人から熟練者まで様々な人が訪れる……
ボンドマスターでもある彼はメンバー勧誘の目的もあって この地に宿を取っていた………



「……私はボンドマスターとして、やれているのでしょうか?」


ボンマスの証であるバッジを手で持て遊びながら彼はつぶやく……


「大丈夫、あなたはちゃんとやれてるわ…。」


「…そう……で…しょう……か?………」


連日の疲れからか 彼はそのまま眠りに落ちてしまった………



彼が目覚めたのは翌朝だった………

狭いベッドに彼とパートナーは居た……


「……朝…ですか……。」

壁には二人の服が掛けてある……

「あら、おはよう……。」


隣のパートナーも目を覚ます……


「突然、寝落ちするからベッドに運ぶの大変だったんだから………。」


笑いながらパートナーが話す……



「……いつも、すみません。」

「ふふ、…いつものことよ
それより…一本ちょうだい。」



「いいですよ、私の鞄の中にあります。」


「ありがとう、…紅茶でいい?」


「ええ、おまかせします…。」

パートナーは鞄から紙の小箱を取り出すとタバコを一本くわえ お茶の準備を始める……

昨夜使ったアルコールコンロにアルコールを入れ錬金術で火を着ける
コンロの上に小さなヤカンを載せ 沸騰を待つ……

コンロの火でタバコに火を着けると一口吸う……



「あなたも、吸うでしょ?」

片目を瞑(つむ)って 彼に問いかける……



「…そうですね。」


彼女は 紙の小箱からもう一本取り出すと
自分のくわえているタバコを彼の口にくわえさせ
新しいタバコを自(みずか)らくわえる……


彼が煙を吸うタイミングに合わせてタバコの火口をくっ付けて火を移す……


二人は揃って虚空に煙を吐き出す……



「今度は……タバコ越し、じゃないキス……しようか?」


「…なかなか素敵な提案ですが、お湯も沸いています
お茶にしましょう…。」


「ふふ、……また今度ね」



そう笑うと彼女は 紅茶を 煎れ始めた…………



ある少年の物語……1 旅立ち 後編

前回の物語より……


昼食時に落とした おにぎりを拾おうとした少年は
坂道を転がって 通りすがりのお姉さんにぶつかったのでした………




「あいたた(>_<) 何?今のは……」



公国服上下を着た 緑髪のお姉さん 座り直して辺りを見回すと近くに公国服上下を着た少年が倒れています……


「まぁ たいへん……

…きみ ねぇきみ……」



呼び掛けど返事が ありません


「もしかして…死んでる?…
落ち着いて 落ち着くのよ わたし……
まずは深呼吸……」



突然の事態に お姉さん あわてかけるも冷静に対処しようとします……
右手のひらを少年の顔に近づけると……



「……息は……してるわね……気を失ってるだけ?
しばらく待てば目を覚ますかしら……


…ふふ かわいい寝顔……」



お姉さんは 少年を見守る事にしました……





(……なんや えぇ気持ちや……あったこぅて……やわらこぅて………えぇ匂いや………)



お姉さんは少年の頭を膝(ひざ)にのせ その寝顔を眺(なが)めてます……

その白く細い指先で少年の頬をつつき始めました……


「ふふ…プニプに〜〜」



「……うっ ……うっ〜ん」


少年が目を覚まします



「……あっ?!」


「あら?
…気がついた?」




少年は目覚めると自分を見下ろす 若い女性の顔が見えました……



!!…………



少年は あわてて飛び起きると
土下座して謝ります……



「すんません すんません
なんや よーわからんけど
えろすんません…」



見事なジャンピング土下座です………


お姉さんはビックリしたのか 固まってます………



(はっ! あかん あかん 共通語や… 共通語 使わな あかん……)


「あの〜 何だかわかりませんが ごめんなさい…」


少年は地面に額を擦り付けて謝ります……



「あっ いいの いいの ……それより大丈夫?
どこか痛いとこない?」



お姉さんは少年を心配そうに見ています……



「あっ どこも痛くないです……もしかして助けてくれたんですか?」



「えぇ まぁ……転がってきた岩に わたしと一緒に巻き込まれたのね……
おたがい怪我がなくてよかったわ」



(…(-_-;)まずい わいが転がって このお姉さんにぶつかったんや……どないしょ…)


「あ あの お姉さん……」

「うん?」

「その …ぶつかった岩は
実は……僕なんです!!
ごめんなさい!!!」


ゴッ!!


再び地面に額をおもいっきりぶつけます………
顔が地面に埋まってます



「ちょ ちょっときみ!!」



お姉さんはあわてて少年に駆け寄ると後頭部を引っ張って地面から引き剥(は)がします………


「ぷはー ……死ぬかと思うた……」


泥だらけの少年の顔

「ふ ふふふ……あははは
おかしい」

笑いすぎて お姉さん目尻に涙が浮かんでます……


「ぷっ あはははは………」


つられて少年も笑い出します………



何がおかしいのか わかりませんが 二人しばらく笑いあいます…………



「ねぇきみ シュリンガーの公国教会に行くんでしょ?」



「な 何で わかんたんです?」


少年は驚きます どこに行くかは話してないからです……



「ふふ それはね きみの着ている服」


「服?…ですか?」



「それに成人の儀式を受けて冒険者になろうとしている」



「あ 当たりです……」


全て言い当てられて少年はビックリ!!……………



「かんたんな事よ 君が着ている服は わたしと同じ公国服……成人の儀式を受ける人が必ず着るものなの…そして 成人の儀式は公国教会でしか受けられない…どう? わかった?」



「…なるほど…なるほど」


少年はしきりに感心しています……



「わたし きみのこと
気に入っちゃた……
きみさえ良ければ きみのパートナーにしてくれないかな?」


「へっ?パートナーでっか…」


少年はビックリです………


「うん パートナー……
YOME(ヨメ)とも言うよ…」


「よ 嫁〜!?」


少年には 冒険者になって お嫁さんを探すという密(ひそ)かな目的もあるのです………
いきなり目的が叶(かな)いそうになって驚きで気を失ってしまいました………

ひとり残された お姉さん……


「……き きみ!! ねぇきみ!!」


気絶した少年の顔は幸せそうです……



「もぅ…しょうがないわね」

お姉さんは少年を背負うとシュリンガー公国城を目指して歩き始めました……



こうして 二人は出会い 冒険者となり今も歩き続けているのです……





ある少年の物語………

ひとまず 終わります




ある少年の物語……1 旅立ち 中編

前回の物語より……

ある寂(さび)れた村に住む
少年は冒険者に成るための儀式を受けるため シュリンガー公国城内にある教会を目指して 旅立ちます……




「それにしても 酷(ひど)い道や ほんまに道なんか これ……」


村を出た少年は 山刀を片手に藪(やぶ)を払いながら公国へ続く街道を目指します……
あまりに辺鄙(へんぴ)な村なので訪れる人も絶えて 久(ひさ)しかったのです…


「こら ほんまに今日中に たどり着けるんやろか?」


少年は愚痴りながらも前へ進みます……



「はぁ〜…やっと抜けたわ
ごっつう疲れたわ…」



朝 村を出たのに 日は高く 上りもうすぐお昼です……



「もう お昼やないかい!
飯にしよ めしに……」



少年は山刀を腰の鞘に戻すと岩を背に座り 風呂敷包みから お弁当を取り出します……



「大地の恵みに感謝して…

ほな いただきます……」



少年が 握り飯にかぶりつこうとすると

「…あっ!」


手を滑らせ握り飯が下に落ちてしまいました


「あちゃ〜わいとしたことが……
しゃ〜ない 拾って食うたろ…」


握り飯を拾おうと手を伸ばします……



「あっ?」


何と少年は 座った姿勢のまま転がり始めました

ここは坂道だったのです
かなり勾配のキツイ……



「誰か〜〜わいを止めてぇ〜な!!」


少年の叫びもむなしく転がり続けます……



「…目が……まわるぅ〜〜
……」






「シュリンガーのお城 こっちでいいのかしら…」


ひとりの女性が街道を歩いています……
背は高く緑髪が目をひきます……
彼女も冒険者になるべく公国の教会を目指しているようです……





「あ あかん …わいの人生コレで終(しま)いや……
坂道を転がって終わる人生…………笑えんわ!!」


「……意識が……遠のいてきた……」




「?……何かしら後ろの方から変な音が気こるわ…」

振り返った彼女が見たものは……

「?……岩?
!!とにかく逃げなきゃ!!」

転がる岩とおぼしき物体から逃げようと背を向けた
途端(とたん)
追い付かれ一緒に麓(ふもと)まで転がってしまいました………





転がり続ける少年のゴールそれは通りすがりのお姉さんだったのです…………


ある少年の物語……1 旅立ち 前編

……ここは シュリンガー公国 片隅にある小さな村…山肌にへばり着く様に存在し もともと少なかった村人の数も大いに減り
朽ちた空き家の目立つ そんな片田舎………

そこに住む ある少年
ある時 村長宅に呼ばれて宅(たく)に お邪魔しておりました……


「よく来たな まぁ座れや」

囲炉裏(いろり)を囲んで
村長が声をかけます


「へぇ おおきに…上がらして もらいますぅ 今日も 良い天気でんなぁ……」


少年は土間で履き物を脱ぎ囲炉裏の間に上がります


「いゃ 今日呼んだのは 他でも無い…」

キセルを燻(くゆ)らせて
村長が話始めます


「へぇ 今日は どういった御用でしゃろ?」


「お前も そろそろ いい年だ… 成人の儀式を受けに行きなさい…」


「成人の儀 ちゅうと アレですか?」


「そうだ 冒険者に成るための儀式……
お前は まだ幼いが儀式を受ける事が出来る 村を出て広い世界を観てきなさい…」


「その儀式 受けんとアカンとですか?」


「それが 昔から続く この国のしきたり……例外は無い…」


「そうですか〜…
ほな 行かんと あきませんなぁ〜」

「で? 何処へ行ったら ええのん?」


「儀式は…シュリンガー公国城内の街にある教会で行(おこな)われる……
明日の朝 出発しなさい
日が暮れる前には公国城内の街に入れるはずだ…」


「さいですか ほな 明日の朝 出ますわ…」


「それからな これを持って行きなさい…」


村長の手に古ぼけた小さな丸い物が乗っています…


「何です? その 小汚ない物は…」


村長はせきばらいをして話始めます…


「これはな 村に代々伝わる“魔除けの鈴”と言ってな…身に付けていると魔物が寄って来ない という有り難い品だ 肌身離さず 持っていなさい…」


「へぇ〜 こんな物がねぇ…」


鈴を受け取った 少年は興味深げに色んな角度から覗き込みます……


「それからな…
村の外で人と話す時は 共通語を使いなさい…」


「何で です?」


「田舎者と判るとな身ぐるみ剥(は)いで有りZell全て巻き上げる輩(やから)が おる…気を付けるのだぞ」

「はぁ…気を付けます」


「お前が この村 最後の子供だ…たまには顔を出してくれ……」


「心配しなくても 大丈夫でっせ……
かわいい嫁さん連れて凱旋したるやさかい……」



「……それは 頼もしい
だが無理に帰って来なくても良い 外の世界で暮らすのも自由……
冒険者は己(おのれ)で考え 行動するもの……
誰にも生き方を強制できんよ……」


「村長は いつも難しい話をしますなぁ…」


「今は 理解(わから)なくても 良い……いつか解る時もある………
今夜は早く寝なさい……」

「ほな また明日〜…」



村長の話が終わると 少年は自分の家に帰ります…


明日は公国に向けての長い旅が待っています……
どんな運命が待っているのでしょうか……


今夜はひとまず終了です…



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