ある冒険者のひとりごと……27・戦国魔物大戦より〜報酬〜

…………………



………アブル連邦領内 広がる平野………

そこに 突如(とつじょ) 現(あらわ)れた未知なる魔物 ムシャミ……

光の柱から 次々と出現(あらわ)れる魔物(ムシャミ)に連邦兵士では 一進一退の膠着(こうちゃく)状態に持ち込むのが精一杯だった

そこで 連邦兵士長は冒険者達に討伐依頼を出し
冒険者と共に 連邦領内から 魔物(ムシャミ)を一掃する事に成功
逆に 光の柱を通って敵の本拠地に兵を送り込むことになった


そこには 石を積み上げて築(きず)かれた高い塀(へい)に守られた高層の建物(城)がそびえ立ち
その中から魔物たちは出て来ているようだった………


その入り口を守る門番
ベンケイ………

倒した時に彼を回収する為 開く入り口

その瞬間を狙って 冒険者達は建物(城)内に 雪崩(なだ)れ込み 魔物たちを指揮する オヤカタサマ を倒すことに成功した………



しかし 強力な魔力を持つ
オヤカタサマ は 時間が立つと復活し 冒険者に挑んで来る……


そこで オヤカタサマの魔力が尽きるまで 戦ってほしいと
連邦兵士長からの 新たな依頼が出たのだ……



…………………



冒険者達の数を頼みにした度重(たびかさ)なる攻撃に 強大な魔力を持つ オヤカタサマも
消耗し あと2,3日で
この砦(とりで)と広がる平野との空間接続が切れようとしていることが連邦の学者からの観測報告が伝えらた


もうすぐ この一月(ひとつき)にわたる戦い(依頼)も終わると 連邦兵士や
冒険者達に歓声が 上がった…………



………………………



残りの数日を 冒険者達は
思い思いに過ごしていた…

交換品を手に入れる為
魔物(ムシャミやシノビーヌ)狩りをする者……


別の依頼を受ける為
この出現した砦(城)から
去る者………


この砦が消えるまで その景色を楽しむ者………


今回出現した城が 次に何時(いつ)出現(あらわ)れるか………
誰にもわからないのだ……


そんな残りの日々(ひび)
ワタシとワタシのパートナーは 異世界魔物対策本部のある 城の前庭を訪(おとず)れていた……



「もうすぐ この お城
消えちゃうんだね……」



ツートップに結わえた灰白色の髪を 時折(ときおり)吹く風に揺らしながら
パートナーが呟(つぶや)く………
そびえ立つ城を 紺碧色(ディープブルー)の瞳(ひとみ)が寂(さび)しげに見上げていた………



「………そうだな
この城も もうすぐ見納(みおさ)め になるな……」



ワタシもレッドアンダーリムのメガネ越(ご)しに暗緑色(ダークグリーン)の瞳で城を 見つめた……

我々の世界とは 異(こと)なる建築様式の城………
石材ではなく 木材を主体に組み上げられたソレは
ワタシの興味を大いにそそられた…………



「ねぇ キミ!

今回の件(けん)
どう思う?………」



城を 見つめたまま
パートナーが聞いてくる……



「そう……だな



ワタシは 少し考えてみる


「増えすぎた魔物の為……
新たな土地 が必要に なった……

もしくは 戦(いくさ)の為の食料や資材を欲(ほっ)して…………

かな?」



「……………

そっか〜

でも 理由はどうあれ
むやみに魔物と戦うのは
イヤだな……」



パートナーの その大きな瞳(ひとみ)が 静かに ふせられる……



「あぁ……

ワタシも 争いは

イヤだな……」



ワタシは
高くそびえる城を見上げて
つぶやいた

……………………



「……………………」



「…………………………」



無言(むごん)のまま ワタシ達は 時を過(す)ごす…………


お互いの 二つに結わえた灰白色と 1房(ひとふさ)に纏(まと)めた暗緑色の髪を
吹く風が揺らし なにかを伝えようと するかのようだった…………



………………………



「だれか〜〜

買いませんか?

武者の仮面〜〜〜


アブル連邦の市場で〜〜す!」



掲示板の方(ほう)から声が聞こえてくる



「100万Zellで出品中で〜す(笑)」



「………武者の仮面か」



ソレは 珍しい1品(いっぴん)らしく 交換品の中でも入手が困難な品(シロモノ)だ……



「それにしても 100万Zellとは ずいぶん ふっかけたな………」



「そうだね

………………!!

……………キミ……

変なこと 考えてない?」



パートナーの細く小さな眉が可愛(かわい)く上がる

…………ワタシが珍品(めずらしもの)好き なのを知っている故(ゆえ)

さきに クギをさしてきたのだ………



「あぁ………

………少し
見てみたいが

今回は 諦める(いい)かな………」



最近 導入されたパネルミッション……

九(ここの)つ のミッションそれぞれに報酬が出る
のだが
全(すべ)てのミッションを終えると特別報酬が貰(もら)える事(こと)になっていた

ワタシ達は 八(やっ)つ
まで終え

残りの1つが “武者の仮面を手に入れよう″
だったのだ…………



「しかし……今回の特別報酬………

何だったんだろうな……」


「さぁ?

でも……
いいモノなんじゃない?

苦労させられたんだし……」



「そうだな………

そうかも しれないな………」



ワタシ達が 話していると
再(ふたた)び 掲示板の方から声が 聞こえてきた………



「……………

市場に 100万Zellで
出品されてたよ〜〜」



「「ほんとに〜〜!?」」



「あんな値段で 売れるの〜〜?」



「どうして 100万Zellに?」


出品者の知り合いだろうか?

親(した)しげに話している…………



「……わたし

武者の仮面 が売れたら

そのZellで 浴衣 を買うんだ」



「へぇ〜そうなんだ」



「売れると いいね」



「うん!」



……………………

出品者達の話声は
直(なお)も続く…………



「………なるほど……

そういう事か……」



「ちょ………

キミ!」



ワタシが 合点(がてん)した のを見て パートナーが慌(あわ)てる…………


阿吽(あうん)の呼吸というか ツーカーの仲というか

付き合いの長いパートナーは ワタシの考えている事を すぐに察(さっ)したようだ……



「連邦(アブル)に……

向かおう…」



「やっぱり…………



“…………はぁ……ぁ…″



キミの 即決(そっけつ)ぶりは…………

……………………」



やれやれ ……とパートナーは肩を すくめ
目を閉じ
頭を 左右に軽く振る……


「反対は しないけど……

ひとつだけ………

使ったZellは ちゃんと戻してね……」



「………あぁ

ちゃんと返す……」



二人で貯め込んだZellは
すでに400万をこえていた……

武器 防具 スキル……
強化のためには なにかとZellが必要(い)る……
強力に なれば なるほどZellが多く必要とされる

パートナーの心配は ソコにあったのだ………


………………………


ワタシ達は 光の柱を くぐり抜け 3国国境の入り口 に近い 広がる平野 に出た………

城門に囲まれた 城塞都市アブル連邦まで
魔物の 水属性ゲルミ 火属性コノミ
が道の左右を歩き回るのを横目に
マウント飛行板(フライングボード)で移動する


降(お)ろされた巨大な跳(は)ね橋………

マウントから降りた ワタシ達は
そこを登り 城門を潜(くぐ)り抜け
石畳(いしだたみ)の敷(し)かれた
城塞都市のなかを
若い女店主が経営する市場へ たどり着く……



「♪私は〜 この辺りで

いちばんの美少女〜♪

私はショコラ〜〜♪」



連邦(アブル)の市場を取り仕切る 女店主の歌声が聞こえてくる……



「こんにちは

ショコラさん!」



「ご機嫌(きげん) 麗(うるわ)しゅう………」



ワタシ達は挨拶をする



「あら?

何か 入り用(いりよう)?

冒険者さん」



「ここに 武者の仮面 が
あると聞いたのだが………
見せて もらえないだろうか?」



「あぁ アレ?

ちょっと待ってね……」



品物を取りに 女店主は店の奥に消える………

やがて その手に 目的の物品(モノ)を持って現(あらわ)れた……



「これが 武者の仮面 よ!」


「ほぅ……

これが………」



「変わった形(かたち)を してるね…」



「ちょっと 気味が悪いのよね〜

預かり物 だから仕方ないけど

買うなら 早く持っててくれない?」



女店主が 気味悪がるのも仕方ない…

ソレは 顔の下半分に装着す(つけ)る防具なのだが……
開いた口を模(も)した彫刻が施(ほどこ)され
顔を守るというよりは
相手を 威嚇(いかく)するのが目的のように
ワタシには見えた………



「………ソレを もらおうか」



「毎度あり〜

また 来てね〜〜」



「ショコラさん

またね〜〜」



「機会があれば

いずれ 寄らせてもらおう………」



手にした ソレを
かえすがえす 眺(なが)めた後(のち)
ワタシは 購入した………

………………………


ワタシ達は 再度(ふたたび) 城のふもとにある 異世界魔物対策本部を訪れた

もちろん 最後の報酬を受け取る為である……



「兵士長……

確認を頼む」



ワタシは 購入した 武者の仮面 を兵士長アンドルに
見せた………



「うん

確かに 確認した

これが 今回の報酬だ

受け取ってくれ」



「これが……
最後の報酬か……」



兵士長から受け取った箱を開(ひら)く………



「それは Lv3コアだね

うーん ちょっと微妙(びみょう)……かな?」



ワタシの手元(てもと)を
覗(のぞ)きこんで
パートナーが感想を述(の)べる



「報酬が あまり よくなくて すまない……

わが国の財政状況が苦しい事も理解してほしい……」


「………この間(さき)の公国(シュリンガー)との
戦いでの 財政難は まだ回復 出来てないのか……」



「2年程度では 財政回復が追い付いてないんだ」



「機械兵……の量産に 随分(ずいぶん)かかったようだな……」



「前王は 強い力を求めた…
ヒト以上の力を……

その結果が 連邦兵士(ヒト)を救う事になるとは 皮肉なものだ……」



「そっか あの戦いで
連邦兵士は石化を まぬがれたんだ

機械兵のおかげで!」



「機械兵達だけでカタをつけようとした……

何が わざわいするか
わかないものだな……」


「まったくな

もし 良ければ 連邦(アブル)に来ないか?
強い力を持つ キミ達なら
わが連邦も 歓迎するが?」


「あいにく ワタシ達は
冒険者……
1カ所(ひとっところ)には
留(とど)まれない渡り鳥のような者(モノ)だ……」



「そうか 残念だ

だが 渡り鳥なら アブル連邦(ここ)にも 立ち寄るのだろ?」



「……そうだな

翼を休めに 来ることも
あるだろうな……」



「その時は また依頼を
受けてくれないか?」



「……気が向いたらな」



「頼りにしてるぞ」



「………あぁ」



ワタシは 兵士長に背を向け 右手をあげ応(こた)えた…………



「ねぇ キミ

これから どうする?」



ワタシの左隣(ひだりとなり)に立ち
パートナーが 聞いてくる


「そうだな……

城の裏側で……釣りでもするか……」



「それも いいかもね」



この世界に来た最初の頃

平行世界(こちら)ならではの

魚が釣れるかと思ったが

針に かかるのは スティグマサーモン………

我々の世界と同じ鮭のようだった……

そんな事を思い出しながら
多くの冒険者が たむろする対策本部受付 の前を歩く



「……………

武者の仮面 なかったよ〜」


「あの値段で 売れたのかな〜?」



「ちょっと 見てくる〜」



ざわめきの中 会話が聞こえてくる

それを聞きながら ワタシは 釣り場(ポイント)に向かう……

さすがに 釣りをする 物好きは ワタシ以外は 居ないのか 貸しきり状態だ……


「釣りは ワタシだけで
いい……」



竿の準備を しながら
いつも 一緒にいる
パートナーに 声をかける

パートナーは釣りを しないのだ………

ワタシが釣り上げると喜んでくれるが……………………



「えっ?

でも………」



「隣(となり)で 見ているだけでは 退屈(たいくつ)だろ?

一回(ひとまわ)りしてくると いい………」



「……………!

わかった! ちょっと行ってくる」


ワタシの思わくに気づいた
パートナーは 笑顔を見せ
人混みの中に消えて行(ゆ)く………

パートナーの背中を見送ると ワタシは 深い渓谷(けいこく)を
見下ろす 城の裏側の釣り場に 腰をおろす

切り立った崖(がけ)の底を流れる谷川は 深い緑色に染まり底が見えない………

ワタシは 針に 魔物の肉から錬金術合成される
ふつうの釣りエサ すら付けず そのまま糸を垂らす……

釣りとは名ばかりで

ワタシは

ひとり

考えごとを始める………



…………ムシャミ シノビーヌ ベンケイ オヤカタサマ

こちらの世界でも ヒトと
魔物は争っているのだろうか?


…………………


………魔物だけの

あるいは…………

ヒトだけの世界……

そこは お互いにとっての楽園なのだろうか?


…………………


そもそも 魔物とは 何だろうか?

ワタシは ヒトが造り出したのではないか?
と考えている

最初は労働力として……

人語を解し 賢者石を報酬に ヒトと契約できる事からの推測だが………


労働力として錬金術で
既存(きぞん)の生物を元に
新(あら)たに造り出された存在………

“魔物″

……やがて 戦争に駆り出され

より強い魔物が求められ

さらに造り出された……

公国(シュリンガー)に対して連邦(アブル)が機械兵を投入したように…………


公国(シュリンガー)も魔物を投入する計画があったらしい……
その事は 連邦との戦いの後 魔物飼育施設が発見され発覚したのだが………



……………………



ワタシは 古代錬金術文明の崩壊の 一因(いちいん)は 造り出した魔物の制御ができなくなったのでは?
と考えている もちろん確証はない……


このまま ヒトと魔物が争い続ければ

共倒れ……いや
ヒト側が滅びるのでは……

魔物側は時間が経過すれば復活するが
ヒトは 冒険者だけが
復活できる………

神の奇跡と 言われているが それ以上の説明はない
一定期間 冒険者をしたのち ヒトは町に戻る 不老不老たる 神の加護を捨てて………

冒険者は 町に定住できないようだ…………


町に定住した者の中に不老不老を求める者が出るのは
一度 冒険者を辞めたら
不老不老たる冒険者に2度と戻れないのでは ないだろうか……

不老不老の村の存在が
それを裏付けている……

それは 魔王によるヒトの魔物化による不老不老だったのだが………
その事は 当人には伏(ふ)せられ 村人も詳しくは知らない ただ魔物化を抑制(おさ)える術(すべ)を知っているだけのようだ……


………………………



とりとめも無く ワタシは
思考する…………


こうして釣り竿を握っていれば 他の冒険者に不審(ふしん)がられる事なく
考えに没頭(ぼっとう)できる………

たまには こうして ひとり過ごすのもイイ………

此処(ここ)は 普段来れない場所……

ワタシにとって
此処(ここ)で過ごせる事は
冒険者になって良かったと思える

新たな場所で
珍しい景色を 眺(なが)め
ひとり考えに更(ふ)ける………

魔物との戦闘よりも
ワタシにとって
実に意義(いぎ)有ることだ…………



「…………

…………!!

……………キミ!!」



パートナーのワタシを呼ぶ声がした


戻ってきた彼女に気づかないほど 考えに没頭(ぼっとう)していたらしい…



「………ん?

戻ったのか?」



「やっと 気づいた!

キミは あい変わらずだね♪」



「あぁ……

すまない 今 片付ける……」



ワタシは 釣り竿(さお)をしまいはじめる……



「成果は あった?」



「まぁまぁ かな?」



「ふふっ……

わたしのほうはね

おもしろい話を聞けたよ」


「ほぅ……

どんな話だ?」



竿を しまい
パートナーの方(ほう)へ ワタシは向(む)く

魚も宝箱(トレジャーボックス)も釣れてないのだから 片付けも すぐ終わるのだが……



「キミ!

お茶の用意を…」


パートナーが きびしい表情になる…


「かしこまりました

お嬢さま……」



ワタシは 共和国(マーロ)服“赤″から執事服に着替え
メガネも レッドアンダーリム から 左片眼鏡(モノクル)に変える
モノクル(ソレ)は上下をツブして左右を広げ
ワタシ流にカスタムしてある……


赤いクッションの付いた白い椅子に パートナーを座らせ ティーセットの準備を始める………

ティーポットの中
ピンクティーの茶葉がじゅうぶんに開き
香りが 漂い始める……

頃合いをみて ティーカップに ティーを注ぐ



「お待たせ しました……

お嬢さま……

こちらをどうぞ……」



ソーサーに載った ティーカップから香りが立ち上る


「ふふっ…

ありがと……」



パートナーは ソーサーごとカップを受け取る



「キミも ひといき つきなよ」



「そうだな……

そうさせて もらおう……」


「もう……

だめだよ お嬢さまと執事ごっこの とちゅうなんだから……」



パートナーがセリフとは
うらはらに 笑う



「ははっ……

それは すまない

つい 素が出てしまった……」



ワタシも つられて笑ってしまう……

ワタシ達は ひとしきり笑い お茶を いただいた



「そうそう…

さっきのはなし だけど…」


「……うん」



「 武者の仮面 を出品した ひと……

お礼(れい)を言ってたよ」


「………あの人混みの中でか?」



「そう!

買ったひとが だれか
わからないのにね…」



「ずいぶんと 律儀(りちぎ)だな……」



「そうだね

冒険者のなかには
変わったひとも いるよね」


「そうだな……

だが 気持ちがいいな……」


「うん!

でも 名乗り出なくて良かったの?」



「いや……いい

彼女のために したことではないからな……

あくまで ワタシの好奇心を充(み)たすためだ……」


「ふ〜〜ん?

そうなんだ?

まぁ キミなら そう言うなら…

……………………

ところで
好奇心をみたした学者さん

武者の仮面 は どうするの?」



「そうだな……

必要とするひとに 譲渡(ゆず)るとするか……」



「もう 手ばなしちゃうんだ…」


「ワタシには 必要ない物品(モノ)だからな……

本当に必要とするひとの手元(もと)に渡(わた)るのが筋(すじ)というものだろう……」



「ふ〜〜ん?

キミが そうしたいなら
それで いいけど…」



「あぁ…問題ない

………………

連邦(アブル)に向かおう」



「りょうかい!」



ワタシ達はティーセットを片付け 連邦服に着替えると

武者の仮面 を出品するため
城塞都市(アブル)内にある市場に向かった…………





ある冒険者のひとりごと……28・戦国魔物大戦より〜報酬〜 終わり 〜

魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜後編の4〜

………………………



満天の星空の下(もと)
時(とき)おり吹く風が
サクラの枝を揺(ゆ)らし
通りすぎていきます

星明かりを受けた花が
暗がりの中(なか)
そこだけ 淡(あわ)いピンクの灯(ともしび)が浮かびあがります


その花(ともしび)の下(した)
ベルにゃん と ももか は
青い火鉢(ヒバチ)を囲(かこ)んで 湯呑(ゆの)み に注(そそ)がれた お茶を 喫茶(いただい)ていました

互(たが)いに 黄色とピンクの浴衣(ユカタ)を着ています
ユカタの図柄(ずがら)は
ベルにゃん がキツネ面
ももか がアサガオでした………



「ベルにゃん

魔王国(クリシュナ)って
知ってる? (´-ω-`) 」



「……にゃ?

魔物の女王が治(おさ)める
魔物だけの小さな国にゃ……

それが どうかしたのかにゃ?」



「ももか ね 魔王国(そこ)に行かなきゃならないの

どんなとこかな〜って

( ̄0 ̄;) 」



「………………

三国国境を抜けると
大きな湖が あるにゃ…

さらに先(さき)に進むと
イタッチという魔物の門番が守る扉のさきに
草木の少ない山中に造成(つく)られた街と城があるのにゃ……

土地は貧しく 太陽(ひ)も あまり差さない……

……………………

……強い魔物が正しいとされる……

……つまらない国(とこ)にゃ…」



丈夫な木の枝に刺したチカアユが 火鉢(ヒバチ)の中(なか)で 炭からの熱を受け続(つづ)け
美味しそうな香(かお)りをあげ始めました



「ベルにゃん 詳(くわ)しいね

( ̄∇ ̄*) 」



「……………

……ワタシの故郷にゃ……

…………

………………

……それから 魔物の湖の近くには
風の谷という
深(ふか)い 深い 谷が あるのにゃ

そこは谷底から 常時(つね)に強い風が吹き上がっているにゃ………

谷底の奥には
風の精霊の住む聖域?が あるのにゃ……

そこから つよい風が吹いてくると言われているのにゃ……」



「ふむ ふむ 風の精霊か〜
ももか も会ってみたい
(^∇^)/

ベルにゃん 会ったことある? ( ̄ο ̄)丿? 」



「あくまで 言い伝えにゃ

ワタシは 会ったことは無いにゃ………

もし 存在す(い)るのにゃら 観察(み)てみたいにゃ………

……………

………………

……………………

ももか……

焼(や)けたにゃ……」



火鉢(ヒバチ)の中で炙(あぶ)られた チカアユを枝(えだ)ごと ベルにゃん は ももか に 差し出します



「ベルにゃん?

ももか これから戦うの?
( ; ゜Д゜))) 」



チカアユの塩焼きは
錬金術合成で作ることが出来ました
戦闘前に食べると 魔法防御が 1.05倍になるのです……



「にゃ?

…………………!

ち 違(ちが)うにゃ!

これは 調理した チカアユの塩焼きにゃ……

食べても 魔法防御の効果は得られにゃいにゃ……

酒の肴(さかな)に焼いたのにゃ」



「な〜んだ びっくりした

(@ ̄□ ̄@;)!!


ベルにゃん の おさかな〜
( ̄▽ ̄)/

うん

おいしい〜〜

あっ そうだ!

ベルにゃん もチーズ食べる? \( ̄▽ ̄;) 」



ももか は ひとくちチカアユを食べると
カバンの中から
チーズを取りだしました

魔物が たまに落とす錬金術合成用素材です
キノコとパンと組み合わせると クロックムッシュ に合成出来ます……



「にゃ?

…………………

たしか… 塔の外か 枯れはてし炭坑(枯れ炭)で たまに手に入るアイテム(モノ)にゃ……

いいのかにゃ?」



「ん〜 いいよ〜

ベルにゃん からは
もらって ばっかりだし

( ̄▽ ̄;)/ 」



「ありがとにゃ


チーズ(これ)も 肴(さかな)に 一杯(いっぱい)呑(の)むにゃ……」



カバンの中から 透明(とうめい)な瓶(ビン)と 小さく透明な盃(さかづき)を ベルにゃん は取りだしました

透明な瓶(ビン)には 薄いオリーブ色をした液体が満たされいるのが見えます



「ベルにゃん それは?
(・◇・?) 」



「これは 聖牛の草(ジュブルフカ)……と呼ばれる 魔物のお酒にゃ……」



「……ズブロッカ?
( ̄〜 ̄;)? 」



「ももか にも そう聞こえるのかにゃ?」



「ちがうの?
(・◇・?)

ももか には そう聞こえたよ ( ̄O ̄)/ 」



魔物の言葉は ひとに正しく伝わらないときが あるようです………



「…………まっ いいにゃ

にゃ♪ 」



ベルにゃん がビンを傾(かたむ)けると

小さく透明な盃(サカヅキ)が
薄いオリーブ色に染(そ)まっていきました………


「 Σ( ̄□ ̄;)!?」



ちいさな盃(サカヅキ)から 不思議な香りが 拡散し(ひろがっ)てゆきました……



「これは サクラの?
( ̄〜 ̄;)

それとも 柏(カシワ)の葉?

にてるけど ちょっとちがう (・_・?) 」



「にゃ……

この香りは 瓶(ビン)の中に
入っている 草の香りにゃ」


「ん〜〜?
( -_・)?

……………………

お〜! なかに何か入ってる! Σ( ̄□ ̄;)」



細い草の茎(くき)が1本
オリーブ色の海に沈んでいるのが 透明なガラス越(ご)しに見てとれました………



「これが 透明な蒸留酒(ウォトカ)に 色と香りを
与えているのにゃ……」



「ウォッカ? に 色? 香り? ( ̄〜 ̄;) ?

ももか よく わかんない
( ̄ロ ̄;) 」



「色と香りの付いた 強い酒にゃ……」



ベルにゃん は盃(サカヅキ)を空(あ)けると チカアユの塩焼きに かぶり付きました



「にゃ♪

サクラを見ながらの一杯は 格別にゃ♪」



「ベルにゃん ベルにゃん
ももか も それ のんでみたい
( ̄¬ ̄;) 」



「にゃ?

これは 強い酒にゃ……

ももか には…………

………………

……………………

割っ(うすめ)て みるかにゃ?………」



「 (;゜∇゜)

ベルにゃん どうするの?」


「………グラスの中に 絞(しぼ)った南国の果物汁(ジュース)を入れるにゃ


それから ジュブルフカを少(すこ)し注(そそ)ぐにゃ………」



足の付いた透明なガラスのコップ(ピルスナー)に
橙(オレンジ)色が満たされていきます…………



「ふむ ふむ ( ̄□ ̄;) 」



「……それから マドラーで 軽く混(ま)ぜると 出来上がりにゃ♪」



橙(オレンジ)色で満たされた足付きグラス(ピルスナー)から
あの不思議な香りが 拡散(し(ひろがっ)てきます………



「ももか……

お待たせにゃ……」



黄色地のユカタの
ベルにゃん の褐色の手から
オレンジ色の お酒が入った足付きグラスが
ピンク地のユカタの
ももか の白い手に
そっと渡(わた)されました………



「ありがと〜 (´ψψ`)

ふしぎな香り〜」



ももか は グラスからの香りを確かめると
ひとくち飲んでみました



「どう かにゃ?」



「うん おいしい〜
O(≧∇≦)O 」



「それは よかったにゃ……
ももか のくれたチーズも
おいしいにゃ♪」



「うん おいしいよね
( ̄∇ ̄) 」



ベルにゃん と ももか は
チーズを かじりながら
グラスを空けていきます……………



……………



「ベルにゃん は ろうして
そんなに つよいのぉ〜〜?

(〃ω〃)ノシ 」



「にゃ?

お酒のことかにゃ?」



酔いが まわってきたのか
ももか の白い肌が ほんのりサクラ色に染まり 呂律(ろれつ)も回(まわ)らなくなりつつありました………



「それも らけど

剣も まほうも つよ〜い よね〜〜
( 〃▽〃)/ 」



「…………

ワタシより 強い冒険者(ヒト)は たくさん いるにゃ

自分たちの身を守り
未知(道)を 先に進むため
少しばかり強くなっただけにゃ………」



「みち? (〃-◇-?)

………………

ももか 魔王国(クリシュナ)に 行かなきゃ なりゃない の (〃ω〃)

そこれぇ〜

石化を解く魔法を もらっれ帰るの〜〜

たのまれらんだよ〜

ナギしゃんに〜〜〜

O(≧∇≦)O 」



「……………

石化魔法も その解除方も 国家機密にゃ……

まして 人間に教えるなんて ありえにゃいにゃ……




「うん……

魔王国(クリシュナ)の門番も そう言ってら〜

(〃 ̄▽ ̄;)

らから 共和国(マーロ)に
来たんらよ〜〜

そしらら ベルにゃん に
会えら〜〜

(σ≧▽≦)σ 」



「ももかは 難(むずか)しい依頼(クエスト)を受けたんだにゃ………

普通の冒険者では 達成(クリア)はできないようにゃ……

…………………

…………断(こと)わったほうが良かったんにゃ?」



「そう らったかも (;>_<;)


れもね 魔王国(クリシュナ)に ナギさんが行こうとしてらの


国境沿い の シノビーヌ
も たおせないようれは
ダメら って
紳士オーク(ジェントルマン) に言われて〜

ももか らちが代わりに
たおして〜〜

ももか らちが 魔王国(クリシュナ)に 行くことに
なっらの〜〜 (〃ω〃) 」



「ナギも無茶な事をするにゃ……

公国(シュリンガー)メイド隊のリーダーとは いえ
今は 公国の国王代行にゃのに………」



ベルにゃん は盃(さかずき)をいっきに空け 手酌(てじゃく)で盃を満たします




「ベルにゃん……

ももか ね いま七曜術士なんら〜

魔法 つよいよね

こう

リングオブサターン!!」



ももか は ふらふらと立ち上がると 両手を広げ

魔法の発動ポーズを取ろうとしました



「あぶにゃい!!」



バランスを崩(くず)し 後ろに倒れそうになった
ももか を 脱兎(だっと)の如(ごと)く 飛び出した
ベルにゃん が 抱きとめますが ベルにゃん を下に
ふたりは しりもちをついてしまいます



「ももか!

大丈夫(だいじょうぶ)かにゃ?」



「あはは O(≧∇≦)O

ベルにゃん すご〜い」



「怪我(けが)が なくて良かったにゃ………」



ベルにゃん が立ち上がろうとすると ももか が
その袖(そで)を掴(つか)み
それを制(せい)しました………



「ベルにゃん

このままで いて………」



「…………

わかったにゃ………」



座ったまま ベルにゃん は
ももか を 抱きしめます………



“モギュ………″



「ベルにゃん………

………… (´ψψ`) 」



「………こうすると
落ち着くにゃ?」



「うん…

…………………

……ももか どうしたら
つよくなれるかな………」


「……………………

方法(やりかた)は 色々あるにゃ……

スキルLv(レベル)を対応するオーブを使って最大値にするにゃ……

それから 武器を限界突破させて
対応する強化剣を使って最高Lvにするにゃ……」


「ふむ ふむ……
( ̄〜 ̄;) 」


「あとは……
一次職 二次職 全職業を制覇(カンスト)する事にゃ……
それから 相手の属性に
対して……」


「……ももか 眠くなって……… (´д⊂)‥ 」



「ももか?」



「(-.-)Zzz・・・・」



ベルにゃん の話を聞きながら 安心したのか
ももか は眠りに落ちていました



「ももか……

かわいい眠り姫にゃ……

姫……寝台(ベッド)まで お連れしますにゃ……」



ももか を起こさないように 抱き抱えると ベルにゃん は二階の寝室(ベッドルーム)へ向かいました………

……………

…………………

………………………

高い梁(はり)から吊りさがったシャンデリア
そこに差し込まれた夜光石(やこうせき)

その明かりも 今は消え
寝室を照(て)らすのは窓からの星明かりだけでした………



「ももか……
到着(つ)いたにゃ……」



ベルにゃん は すもも の眠る隣(となり)のベッドに
静かに ももか を横たえました…………



「おやすみ ももか……

よい夢の訪(おとず)れんことを………」



目を閉じた ももか の白い額(ひたい)に軽く口づけをして ベルにゃんは パートナー(さな)の眠る自分たちのベッドに向かいました



「朝には ティ……
いや ナナ(ニャニャ) が朝食の支度(したく)に来るにゃ……

朝食が終われば
ももか とは
しばしの別れにゃ

依頼(クエスト)
早く 終わるといいにゃ………」つい ベルにゃん の口から独り言(ひとりごと)が
漏(も)れました



「…………んっ

ベルにゃん?

…………………」



パートナーの さな の
寝言(ねごと)が聞こえて
きました



「さな(さにゃ)……

ワタシは ここにゃ……」



さな と同じベッドに入ると ベルにゃん は
そっと パートナーを抱きしめます……



「んっ……ベルにゃん……

ずっと……いっしょ
………だよ」



「さな(さにゃ)とは

ずっと 一緒にゃ……」



「………ぅん♪」



そのまま ベルにゃん も
深い眠りに 落ちていきました…………



よく朝 4人は
メイドの ナナと
朝食を済ませ

ももか と すもも を
水路と石橋まで
見送りました…………



この後(のち) 4人が再(ふたた)び会うのは
2年の歳月(さいげつ)が必要に なるのです……………



魔物のベルにゃん そのいち… お正月 〜おわり〜
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