……………



ワタシ達は “山と海とビーチ”から
木の板を渡した
浅い海に架(か)かる
簡素な橋を渡り

“実り多き半島”に入った…


南国の熱い青空に
白く巨大な入道雲が
ゆっくり流れてゆく……

足もとに目を向けると
ここにだけ咲く“ヘリコニアの花”
それを摘(つ)み
崖(がけ)のしたで“石英”を拾(ひろ)い
ワタシ達は 道なりに進(すす)む……
窪地(くぼち)で“粘土”を採取(さいしゅ)
止まった巨大水車
緑に覆われた
其(そ)れの側(そば)で
“松脂(マツヤニ)”を拾う………


そして

アクアマリンを思わせる
波色をした
遠浅の海に出た……


ふたたび
木の板を並(なら)べて架(か)けられた
長い橋を渡り
“マーロ共和国”へ到着(つ)いた……


ここは最南端に位置する国なだけに
湿気と暑さが他の場所より格段(かくだん)に強い……

日向(ひなた)に立っているだけで

汗が吹き出し
身体の表面を流れ落ちてゆくのが感じられた………



ワタシ達は石造りの壁に取り付けられた 大きな木の扉をくぐり抜け共和国に入る……




「こんにちは…」



「……今日も暑いな…」



「あんた達か…

何か収穫はあったか?」



「……まぁまぁかな」



「いろいろ 採取(と)れたよ」



「そうか……

ここは魔物とひとが平等に暮らす
自由な国……

ゆっくりして行ってくれ……」



「……あぁ
そうさせて もらう…」



「門番さん ごくろうさま

またね……」



パートナーと共に
ワタシは
そこに立つ“マーロ共和国”の門を守っている
茶色い髪の兵士と
いつもの挨拶を交わす……

……………


目を通りに向けると
小さな店が左右に10店弱ほど
軒(のき)を並(なら)べていた……

頭上を見上げると
強い日射しを和(やわ)らげるため 様々な布を渡して通りに日陰(ひかげ)を作っており


通り左手には大きな池が目にとまる…
そこに
流れ落ちる水が

目に

耳に

涼(すず)しさを伝(つた)えてくる……



昼間は暑すぎる故(ゆえ)か
店が並ぶ通りに
人は いない……

開いている店は
稀(まれ)に訪(おとず)れる冒険者相手の倉庫と市場のみ……

他の店は
店番も置かず開店休業中であった……



「今日は少し涼しいな
昨日より汗の量がすくない…」



「こんにちは」



「……倉庫を使わせてもらっても いいか?…」



この国の倉庫番にワタシ達は話しかけた…
途中で採取したアイテムを預け入れる為に……



「ところで 珍しいアイテムを取りあつかってる
…リズって人
知らない?…」



パートナーが倉庫番の男に聞く……



「あぁ その人なら
この通りを進んだ先…

池の側(そば)の掲示板の
近く 2本ヤシの木の前で
店を開いている……」



作業を続けながら
男は質問に答えてくれた…


「ありがとう
掲示板のそばだね…」



「…………

……預け入れも無事(ぶじ)終わった

礼を言う……」



「あぁ……
また来てくれ……」



ワタシ達は倉庫番に
礼を述べると

通りを奥へと進んだ……



「さあ 買ってけ 泥棒!!
でも Zell(ゼル)は置いてってね…」



威勢(いせい)の良い
ウサみみカチューシャを頭に載(の)せた女店主の掛(か)け声を左手に聞きながら 市場を過ぎる……

通りに並ぶ小さな店の列が途切れ 右手に大きな池と掲示板を確認し
池に沿(そ)って
右側に緩(ゆる)やかに下る
道を少し進むと
正面に“酒場(さかば)”が見え
右手に大きなヤシの木が2本立っていた……

その根元(ねもと)に
黄色い女給(ウエイトレス)服を着た女性が
ツートップにしたボリュームある薄茶色の髪を
時おり吹く風に揺らし
佇(たたず)んでいた……



「入手困難な貴重品の交換所
はじめました〜☆」


ワタシ達に気づいた 彼女から声を掛けてきた……



「あなたが リズさん?」



「えぇ……そうです

あなた達は〜?」



「……魔物ちゃんの紹介で来た…

このアイテムについて知りたい…」



ワタシは 魔物ちゃんから受け取った笛をカバンから取り出した……



「それは

“マウント契約の笛”

最近見つかった 古代錬金術に由来するもので〜…

笛を吹くことで
対象となるモノの魂との間(あいだ)に繋(つな)がりを作って〜…

このことを“マウントの開放”と呼びます〜……
それ以降(いこう)は
その笛を吹くことで
開放したマウントを
自由に呼び出すことができるんです〜……」



「……魂(たましい)?

それって生き物(いきもの)に宿(やど)っているって
ゆうアレだよね?」



「……笛の名前からは
無機物(むきぶつ)だと思うのだが……」



パートナーとワタシは
疑問を口にした………



「その笛で 呼び出せるのは“アニマルカー”と“マカロン”……
どちらも生物(いきもの)
ではないんですけど………

長く大切に扱(あつか)われたモノには魂(たましい)が宿ると言われています〜…」



「……ふむ
“東海島伝聞禄”に書かれていた
“ツクモガミ”とか いうヤツか……」



「古代錬金術では
憑物神(つくもがみ)とも
ゴーレムやホムンクルスとも呼んでいたらしいです〜
……詳(くわ)しい事は
当時(とうじ)の人に聞くしかないんですけど〜
何しろ記録が残っていなくて〜
試行錯誤(トライ&エラー)の繰り返しで錬金術由来のアイテムを解明(かいめい)しています〜…………

……………


と・こ・ろ・で……

“マウントの開放”…

してみます〜?」



店主のリズが一通(ひととお)り話したあと ワタシ達に聞いてきた……



「やってみようよ
古代錬金術の一品(いっぴん)
見てみたい!」



パートナーも錬金術に通じる者……
興味深々(きょうみしんしん)のようだ…
もちろん ワタシも知識(し)りたい……




「……わかった

やってみよう…」



ワタシは まず“熊車の明笛”を吹いてみた……


暗闇のなか 白く丸い顔?
が見えた気がした………



………………



「…………

何もおきないね」



「……あぁ

失敗?……した……のか……」



「おかしいですね〜
手順は間違ってないはず
なんですが〜?」



「……ふむ

ワタシとの相性が悪かったのかも知れないな…

もうひとつの“銘菓の短笛”を試してみるか……」



ワタシは 銘菓の短笛を吹いてみた………

相変(あいか)わらず
笛吹けど音は聞こえず……だ………



………


……………


今度は桃色(ピンク)の
丸く分厚い物体が
暗闇の中(なか)
宙(ちゅう)に浮くのが見えた気がした……



………



……………



……………………



「やっぱり 何もおきないね………」



「………何か

…条件?……が足(た)りてない……のか…?」



ワタシもパートナーも考え込むが “笛(ふえ)”は未知(みち)のアイテムなだけに
見当(けんとう)もつかない…



…………………



「…………

わかりました〜!!

町の外に出ないと
呼び出せないみたいです〜」



足元に アルスト文字で書かれた羊皮紙を散乱させ

店主のリズが声をあげる


羊皮紙にはアイテムに関係する事が書かれているようだ…

その中からマウントに関する紙片を見つけ出しての
声だった………



「!!

それって 町の加護のせい!?」



パートナーが声をあげる



「えぇと……………

…………

ダンジョンの中でも
呼び出せない……

みたいです〜……」



パートナーの叫びを 余所(よそ)に
店主のリズは羊皮紙を 読み解くことに集中している……………



「……なるほど

何かしらの力が 干渉(かんしょう)しているのかも知れないな…」



ワタシは ワタシなりに
その事について考えを述(の)べる……



「…とにかく町のそとへ

いこうよ!!」



「……そうだな
もう一度試してみるか…」



ワタシ達は荷物を纏(まと)め 通りを町と外を隔(へだ)てている門のほうへ向かおうとした……



「待ってください〜

私も行きます〜……」



羊皮紙の束(たば)を片付けながら店主のリズが慌(あわ)てる………



「えっ?

どうして リズさんが?」



パートナーが振(ふ)り返(かえ)る
ワタシも足を止めた…



「マウントの笛は 発見されたばかりの未知のアイテムです〜
些細(ささい)なことでも
記録をつける必要があるんです〜」



「……つまり ワタシ達は
古代錬金術の実証実験(じっしょうじっけん)に 付き合わされる……というわけか…」



「えっ!?

それって あぶなくない?」


「大丈夫です〜
これまで不具合(ふぐあい)の話は聞いていませんし〜
とにかく〜

気付(きず)いたことが
あれば どんな些細(ささい)なことでも教えてください〜…」



「……それで ワタシ達に
何か見返(みかえ)りはあるのか?…」



「そんなの いいんじゃない?
別になくても……」



「……もしもの為(ため)だ
依頼(いらい)に対して報酬(ほうしゅう)は必要だろ?……」



「そっか…

そうだよね……

これは 依頼になるんだよね……」



「うーん……

そうですね〜

………わかりました

ダブっている“銘菓の短笛”と“飛行板のうなり笛”を交換で どうですか〜?
本当なら“賢者の虹晶片”に交換してからの
笛と交換になるんですが〜」



「……それは 面倒(めんどう)な手続きを省略(とば)しているだけでは ないのか?」



「……ダメですか?
やっぱり〜…」



「それって だましたってこと?」



「……商売人なら 口が上手(うま)くないと いけないからな……

まぁ それで手を打とう……
さっきの依頼と報酬の件も本気じゃないしな……」



「えー!?
どういうこと〜」



「つまり …試されたってことですか〜?」



「……相手の言うがままに
ってのが 気に入らなかっただけだ…
他意(たい)はない……」



「ふ〜ん
そうなんだ…」



「じゃあ…
受けて いただけるんです〜?」



「……あぁ

ただし
笛の交換は 正しい相場(レート)で してくれ
……笛は“飛行板”で いい………」



「承(うけたまわ)りました〜
では 町の外へ ご一緒します〜」



……………

…………………

ワタシ達三人は“マーロ共和国”の外“実り多き半島”へ向かった……





ある冒険者のひとりごと……24 魔物ちゃんの交換品ー中編ー終わり…