にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜2幕

…………………



ある日 さな とベルニャンは 魔王アスタナによって 実り多き半島と よく似た “ネコの国”に連れて来られたのでした………




「ネコの国?……

ここが?」



さな が訝(いぶか)しげに周囲(あたり)を見回します



「実り多き半島と変わらないよう…な?

あっ! あれは“アルストラ”?
ここには生息してないはずなのに…?」



実り多き半島には “犬の魔物アラビーヌ”と“木の魔物トレント”
そして“火属性のコノミ”
しか生息していないのです……



「あれは“ワルストラ”
ここネコの国の
王“ケットシー”配下の魔物(モノ)だ
あやつらが我らの邪魔をしておる
そこでオヌシらには
ワルストラ(ヤツら)を なんとかしてもらいたい

それが出来たら
褒美(ほうび)を やろうではないか……

どうだ?

引き受けてはくれまいか?」



「ベルにゃん…どうしようか?」



「アスタニャ……
ほんとうに さにゃ に異常はないんだにゃ?」



「ベルにゃん!
わたしは ほんとうに
だいじょうぶだよ♪」



「我が大丈夫と言っておる
魔王たる我を信じよ……
“ャドゥール”よ」



「一先(ひとま)ず さにゃ は無事そうにゃ…

?… アスタニャ……
にゃぜワタシの名(にゃ)を?

……べ・ルードビッヒ・グロゥアール・ニィ・ャドゥール・ン・コーネリア

ソレが ワタシの名(にゃ)にゃ………

まだ 名乗(にゃの)って無(にゃ)いはず………」



「なるほど……

ルードビッヒとコーネリアに……育てられたのだな……」



魔王(アスタナ)は懐(なつ)かしむように
しばし その眼差(まなざ)しを どことなく遠くへ向けました



「………………

ソナタが我を覚えてないのも無理はない…

まだ子ネコであったからな
我と 出会(でお)うた時は……」



「にゃ………!?」



「ベルにゃん………

魔王(アスタナ)と知り合いだったの?」



「ワタシは アスタナ(お前)の事 知ら無(にゃ)いにゃ………」



「少し むかしの話をしよう
ャドゥールよ………

………………

ソナタは むかしシュリンガー公国領 “時渡りの塔”その内部(なか)で我が見つけたのだ…」



「にゃ…………

初めて聞く話にゃ」



「なぜ そんな場所(ところ)に ベルにゃんが?」



「我にも わからぬ…

……が そのまま放ってもおけぬ かなり衰弱し(よわっ)ておったからの

幼きソナタを
我の故郷たる“ネコの国”に連れ帰り
“ャドゥール”の名を
我がおくったのだ……」



「じゃあ 魔王(アスタナ)はベルにゃんの恩人で
名付け親だね

魔王(アスタナ)
困ってるみたいだし

この依頼 受けようよ」



少し背の低い さな が
紺碧色(ディープブルー)の大きな瞳で
ベルニャンを見上げます



「……………………

さにゃ は
お人好しすぎるにゃ………」



(………ワタシの名(にゃ)は魔王(アスタナ)が付けたものだったにゃ…………)



暗緑色(ダークグリーン)の瞳を しばし 閉じ
ベルニャンは考え込みます………



「…………………

さにゃが そう言うのにゃら……

………その依頼……

少し考えさせてもらうにゃ……」



「う〜ん……

ベルにゃん 考えてみて」



さな が少し残念そうな顔をします



「あっ そういえば

連邦(アブル)服だと
ネコの国(ここ)では暑いから わたし共和国(マーロ)服に着替えてくる〜」



「さにゃ

気をつけてにゃ…
何かあれば 直(す)ぐ駆けつけるにゃ〜」



「うむ…

ワルストラ にさえ
気をつければ 大丈夫だぞ」


着替えるため小さな建物へ向かう さなの背中に ベルニャンと魔王(アスタナ)が声をかけます…

アクアマリン色の波が打ち寄せる白い砂浜…
その近くまで茂(しげ)った草地……そこに高く伸びたヤシの木が数本

その先に木を組み合わせて建て(つくら)れた
円錐形(まるい)小屋
そこに
さな は向かいました………

………………………



「して ャドゥール…

褒美(ほうび)の件(こと)だが…

ソナタらは何を望む?

巷(ほか)では 手に入らぬ 珍(めずら)しい品を用意しておる…

見聞し(み)ていくか?」



「にゃ?……

珍しいモノ!?」



ベルニャンは珍品(めずらしもの)が大好きなのです
魔王(アスタナ)が異空間から様々な品を取りだし
ベルニャンの目前(めのまえ)に並べていきます



「……会場装飾:バルーン…

………会場装飾:リボン…

…………聖餐卓……


(とくに 欲しいモノは

無(にゃ)いにゃ………)

……………

……!!

こ…この…建材(ブロック)は………

初見にゃ!!……」



ウェディング用家具が並ぶなか
四角いブロックが
ベルニャンの目に留(と)まります……



「ふむ ソレはな

今回の結婚を記念して
作られたのだ

石のブロックには 国王(ケットシー)の子
王子ロミーの

木のブロックには 我が姪ジュリアの

肉きゅうを模したスタンプが それぞれ彫ってある……」



「にゃ……!

これは にゃか にゃかにゃ……」



“きゃ……………!!”



褐色をしたベルニャンの肌の色より
淡い茶色をした頭髪から生(は)えたネコ耳が 遠く微(かす)かな さな の声を捕(と)らえました

ふんわりと肩に掛(か)かる髪が大きく広がり
しっぽの毛が大きく逆立っています
そして
“実り多き半島”の砂地をその四つ足が跳ねるようにさな のもとへ
放たれた矢の如(ごと)く
駆け出しました



「待て ヤドゥール

…………………………

………………

…………仕方ない

我も 行(ゆ)くか…」



すでに見えなくなった ベルニャンに
魔王(アスタナ)は ため息を吐(つ)くと
出した品々(しなじな)を
素早(すばや)く仕舞(しま)いこみ

軽く その右手を振りました
すると 目前(もくぜん)の空間が歪(ゆが)みます
ソコを通り抜けると
魔王(アスタナ)は
円錐形(まるい)小屋の前へ出現(あらわ)れました



「さにゃ!!

無事にゃ?」



一気(いっき)に駆け抜けた来た
ベルニャンが 小屋の前で座り込んでいる さな に
訊(たず)ねます



「………あっ!?

ベルにゃん!

ちょっと ビックリしただけ……

あ……ありがと…」



「何も危険は無いと 言っただろ
ヤドゥールは そそっかしいな…」



褐色の肌に黄連で染めた共和国(マーロ)服を着た
ベルニャンの背中に
魔王(アスタナ)が 呆(あき)れ気味(ぎみ)に 呟(つぶや)きます…



「何が あったにゃ?」



小屋の入り口に ネコ耳と
視線を向け ベルニャンが
庇(かば)うように さな の前へ出ます



「あっ……ぅん

その……小屋に入ろうとしたら………」



連邦(アブル)服のまま座り込んだ さな の言葉を魔王(アスタナ)が続けます……



「先に言っておくべきだったか……

ソコは ワルストラから
我が眷属(けんぞく)たるネコ達が避難しているのだ……

だから ソタナ達には危害は加えることは無い」



その声に ベルニャンが
小屋の中に目を凝(こ)らすと
無言の薄暗闇に 無数の眼が 浮かび上がり
こちらを凝視(ぎょうし)するのが 見てとれました……



「…………

この数 ココに入るには狭(せま)過ぎにゃ……」



「屋外で作業をしておると
国王(ケットシー)配下の
ワルストラが 邪魔(じゃま)をしてくる…
だから
ここで ワルストラを やり過ごしておる…」



「………

同じ ネコの国の魔物どうしだし…
おたがい 話してみては どうかな?」



水色に染めた共和国(マーロ)服に着替え パートナーの さな が
話しに加わります



「それは そうだが

今は ケットシーが国王……

配下の魔物(モノ)は 魔王(ケットシー)の命令(メイ)には 逆らえんのだ…」



「にゃ!!

にゃら 国王(ケットシー) を 魔王(アスタナ)が
説得すれば 解決にゃ!」



「うん!

それが いちばんの解決法だね♪」



白い砂浜に打ち寄せる波音と風が小屋の前に座り込んだ三人の間(あいだ)を通り抜けていきます


「バ 馬鹿を申すでない!国王(あやつ)と話すことなど
我には ない!!」



「まぁ…
ケットシー(あやつ) 自(みずか)ら来るのなら……

会ってやらんこともない…」



「う〜ん こちらから
魔王(アスタナ)と
いっしょに
国王(ケットシー)に会いにいく…
のは むずかしそうだね…」

さな は小首を傾(かし)げ 考え込みます
右耳に着(つ)けた
小さく青い ゲルミイヤリングが揺(ゆ)れます



「にゃら アチラ(ケットシー)に出向いてもらうにゃ」


「あやつ(ケットシー)は用心深い そう簡単には
会えぬ…」



ベルニャンの言葉に 魔王(アスタナ)が反論します



「国王には面子(メンツ)というモノがあるにゃ

部外者(ヨソモノ)である
ワタシに
部下(アルストラ)が倒され続ければ

……どうにゃ?」



「ふむ……

国王(ケットシー) 自(みずか)ら出向かなければ
“腰抜け”の謗(そし)りをうけるな……」



「そ・こ・でにゃ

魔王(アスタナ)と国王(ケットシー) ご対面……

話し合ってもらうにゃ」



「さすが ベルにゃん!

これで かいけつだね♪」



「待て まて 我は
その案に 了承(りょうしょう)しておらぬ
勝手(かって)に はなしを進めるでない」



ベルニャンと さな の言葉に 魔王(アスタナ)が焦(あせ)り 冷や汗を浮かべています



「にゃ?

さにゃ 魔王(アスタナ)は
お気に召さにゃいようにゃ……

依頼要請(はなし)は ここまでにゃ
ワタシ達は 帰るとするにゃ」



ベルニャンは立ち上がり
付いた砂をはらいおとします……



「え〜!?

ベルにゃん……

魔王(アスタナ)を助けてあげようよ」



「ま 待て ャドゥール…

我を 我が姪(ジュリア)を助けてくれ!」



ネコの潜む小屋に背を向け立ち去ろうとするベルニャンに 魔王(アスタナ)と さな の声が重(かさ)なります

しかし ベルニャンは歩みを止めません

少し間(ま)があき 魔王(アスタナ)が折(お)れました……



「わ 了承し(わかっ)た…
我が姪(ジュリア)の為にも
その条件……

……のもう…」



歩(ある)き続けていたベルニャンの足が止まり

くるりと ふたりの方(ほう)へ振り返りました



「にゃ!

さっきの件(けん)

ほんとうに いいのかにゃ?」



「ま まぁ しょうがない

しかし ャドゥールよ

あくまで 国王(ケットシー)が自(みずか)ら

我に 会いに…来たなら…

報酬の建材(ブロック)を
渡そう……

そして 我は国王(ケットシー)と話す

…………………

この依頼条件で よいか?」


「さにゃ は これで いいかにゃ?

ワタシは いいと思うにゃ…」



ベルニャンが
パートナーの さな に同意を求めます



「うん♪

魔王(アスタナ)と
姪(ジュリア)と
王子(ロミー)のためにも
わたしたちで 解決しよう♪」



「にゃ♪

国王(ケットシー)を 誘(さそ)い出すため

ワルストラ狩りにゃ♪」



「我が ネコの国(ここ)に存外す(い)る事実(こと)は
内密に 頼む」



「うん♪

国王(ケットシー)が警戒して出て こなくなるかもしれないからね」



「逆(ぎゃく)に 魔王(アスタナ)が
ネコの国(ここ) 居(い)る事を知らせれば
真っ先(まっさき)に 飛び出して来るかもしれないにゃ…♪」



「よ…止(よ)さぬか!
ャドゥール!!

あくまで ワルストラを倒し続けた 後(のち)に
国王(ケットシー)を釣り出す……
そういう 手筈(てはず)ではないか!」



「にゃ♪

冗談(じょうだん)にゃ♪」


「ふふっ……

魔王(アスタナ)と ベルにゃん

なかよしだね♪」



「う…うむ

ャドゥール それに さな よ……

この依頼 頼んだぞ

……」



「ワタシ達が ワルストラを引き付けている間に
魔王(アスタナ)達は式場の準備にゃ…」



「わたしたちも
ジュリア とロミー のためにもガンバロー!」



…………………

………こうして ベルニャンと さな は ネコの国で魔王(アスタナ)の依頼を受けることになりました………




にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜2幕……おわり

にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜1幕

………………



「う……う〜〜ん

………………………

ここは?」



草地に倒れていた
さな がボンヤリと起き上がりました



「やっと起きたか…

お前のほうからも コイツを説得してくれ…」



「貴女(あなた)は……

魔王アスタナ!!

どうして……

それに ここは“実り多き半島”……みたいだけど」


南国“マーロ共和国”領に位置する“実り多き半島”
青い空に白い入道雲が立ち登り 蒸し暑さを感じる場所です
さな は 青に染めた連邦服を着ていましたが ここでは暑すぎるようで
露出した肌が汗ばんでいました



「えっと…

ベルにゃん……は?」



彼女(さな)のパートナー
魔物のベルグニャンコ……
本当は もっと長い名前ですが 呼びやすさと親しみを込めて さな は“ベルにゃん”と呼んでいました………



「さにゃ……

無事かにゃ?」



褐色の肌に 黄色く染めたマーロ服上下を着た
……ベルグニャンコ(ベルニャン)が 魔王(アスタナ)と対峙したまま声を掛けます



「じゃから お主と 殺り合うつもりは無いと 言っておる

もし殺り合ったら……

お主 死ぬぞ……」



2本脚で立つ キツネの様な姿をした 魔王アスタナが ベルニャンに凄(すご)みの効いた笑顔を見せます
額に生えた4本の細い角と後ろに伸びたゴワゴワな長い髪が相手(ベルニャン)を威嚇(いかく)する様に声に合わせて揺れています



「……たとえ 死ぬと解っていても戦わなければならない時が あるにゃ」



薄茶色の髪を逆立て ベルニャンは答えます 普段は下に垂れている長い尻尾も ピンと立っていました……



「魔王(アスタナ)…

ベルにゃん……

どういう事か 説明……してくれる?」



さな には状況が わかりません

“国境沿い(連邦)”に ベルニャンと居たはずなのに 目が覚めると
“実り多き半島”で魔王アスタナとベルにゃんが対峙しているのです



「よかろう

我が説明しよう

そして そちの方から
コヤツを説得してくれ…」


ベルニャンから視線を外(はず)さないで魔王(アスタナ)は さな に語り始めました………



「実は 我の姪(めい)ジュリアが結婚する事になってな
魔王たる我に恋愛感情というものは わからぬが
我が一族に連なる者なら
式に参加せねばなるまい

しかし 我が姪の相手となるロミーの父が反対しておってな
式の準備を邪魔をしてくるのじゃ……
そこで そち達に協力(あやつらのじゃまを)してもらいたいのじゃ…」



「協力? むりやり 拉致(さら)っておいてかにゃ?
ヒトに無理のかかる空間渡り(里超え)を強(し)いてにゃ……

……………………

さにゃ に にゃにかあれば……

ワタシはお前をヌッコロス………」



「じゃから 急を要する案件と言ったであろう?
それに ソナタのパートナーも無事ではないか…
我からの頼み 聞いてはくれぬか?」



「あのう〜
どうして わたし達なんですか?
魔王(アスタナ)さんが直接 行かれたほうが…」




「いや それがな
じつは 我は この国を追放された身
ここでは おおぴらに活動できぬ…
そこで お主達に我の代わりにこの国の王ケットシーの評判を落とすため…
いや 我の姪ジュリアとロミー王子の結婚の手助けをしてほしい…

それに ソナタらとは何かと縁があるからな……」



「えっ? 国? 王? 王子?

ここはマーロ共和国じゃ?………」



「ん?
言ってなかったか?
ここは ネコの国
お主らの知る “実り多き半島”によく似た 別世界さ……」



…………………………



にゃんこ・ウェディング前編より〜魔物のベルにゃん・その3〜1幕………つづく
前の記事へ 次の記事へ