ある冒険者のひとりごと……24 魔物ちゃんの交換品ー前編ー

…………



ここは“山と海とビーチ”

南国の浜辺……

この季節にだけ営業する
うみのいえ……

ワタシ達は うみのいえ(ここ)で南国特有の暑い日差しを避け 涼(すず)んでいた……



目の前の浜辺では スポーツ大会が開催され
カラフルなビーチボールがネットの上を
向こうに コチラに
行ったり来たり 宙(ちゅう)を舞(ま)っている……


ワタシはパートナー共々
スポーツは苦手なので コートに入る事なく
他の冒険者達が
ボールに翻弄(ほんろう)される様子(さま)を ぼんやりと眺めていた……



屋根の下(した)にいると心地(ここち)よい海風が吹き
テーブルに置かれた
白いクリームの浮く青く澄(す)んだ飲み物が
目にも涼しさを感じさせてくれる……



「…うみゃ〜

今日も暑いんだよ……」


白い肌に 白い髪 大きな白い尻尾に 頭には白いケモ耳……
大きな赤い瞳が目を引く
“自称美少女” が ワタシ達のテーブルに近づいて来た……



「魔物ちゃん!

どうしたの?」



彼女の姿(すがた)に気づき
ワタシのパートナーが声をかける……

目の前に広がる海を
思わせる群青色に輝く大きな瞳に

曇り空の雲ように白灰色の髪を短いツーテールにし

そこに差した 空色の玉の小さな簪(かんざし)……
それに繋(つな)がる赤い金魚が小さく揺(ゆ)れた……




「あっ!?
ゲルミクリームソーダだ!
わたしに ちょうだい!!」



クリームの浮かんだ青い飲み物を
赤い瞳(ひとみ)に映(うつ)して
“自称美少女こと魔物ちゃん”が 白い袖(そで)から覗(のぞ)く
その細い腕を伸ばす……

透明なグラスに
白い雲が浮き 澄んだ青い海が見え
その表面には水滴(すいてき)が浮かび
一滴(ひとしずく)流れ落ちた……

熱い砂浜の歓声の向こう…

よせては かえす 波の音が聞こえている………



「えっ!?

べつに いいけど…」



ちょっと驚き
ワタシのパートナーは
自分のグラスを彼女(魔物ちゃん)に差し出した……



本能のままに行動する
魔物ちゃんにワタシ達は

まぁ いいか……と

彼女の望みを これまでも叶(かな)えてきた……

大抵(たいてい)は 食べ物の要求なのだか………



「うみゃ〜
冷たくて おいしい〜……」



青いソーダ水の上に浮かぶ 白く冷たいクリームを
ゲルミを模(も)した小さな青い匙(さじ)を使わず
赤く小さな舌(した)で舐(な)める姿は 愛玩動物のようで
見ていて微笑(ほほえ)ましい………



……………



彼女(魔物ちゃん)が 飲み物(ゲルミクリームソーダ)を 飲み終わるのを待ち
ワタシは 声をかける……


「……で?
今日は 何の用だ………?」


彼女(魔物ちゃん)は
何時(いつ)もワタシ達の前にフラりと現れる……



「じつはね…
……ふしぎな笛が入荷しているんだーー……

1つ 賢者石300で
引き取って欲しいんだよ…」



ほっぺたに付いたクリームを手の甲(こう)で拭(ぬぐ)う…
それを小さな舌(した)で舐(な)めながら 彼女(魔物ちゃん)が答える……


賢者石(けんじゃいし)……
コレは かなりの値うち物でベテランの冒険者でも 入手するのは難しい……

依頼の報酬に貰(もら)える事もあるが その量は 僅(わず)かだ……

……貴重な石なだけに
それと交換出来る品(アイテム)は市場に出回る事は無い……
ただ それに見合う強力な武器や防具が手に入る事もある………

魔物ちゃんと自分を呼ぶ
彼女は
賢者石とアイテムを交換する役割を担(にな)って
いた………



「笛(ふえ)?

それって どんな効果があるの?…」



パートナーが新たに注文した 飲み物を手に彼女(魔物ちゃん)に問いかける…

南国の果物を絞(しぼ)った橙(オレンジ)色の液体が
透明な足つきグラスに注がれ
飲みやすいよう
ストローが差してある……



「ん〜とね

たしか……
…吹けば……

乗り物を呼び……だせる……とか

移動が…楽(らく)に……なる………

って言ってたーー!!」



「……それは どういう仕組(しく)みなんだ?……」



ワタシは 俄然(がぜん)
興味(きょうみ)をもった……

この世界の移動手段は 自力で歩くか走る…
あるいは Zell(ゼル)を払って 乗り合い牛車を利用するしかない……
移動が楽(らく)になる……
これは…広い世界を移動する冒険者にとって とても魅力的に思えた………



「古代(こだい)?…錬金術…とか……

魂(たましい)の繋(つな)がり……が…なんとか……


うみゃーー!!

むずかしいことは
わかんないよーー!!


とにかく!
賢者石1500個で
五回が オススメ!!」



「どうする?……“きみ”?」



パートナーの問いかけに

額(ひたい)にかかる濃緑色の前髪をかきあげ
ワタシは しばらく考える……



「………………」


「……どんな乗り物がある?」



ワタシは赤い色の飲み物で喉(のど)を潤(うるお)す

透明な氷が涼しげな音を耳に運び…

それは 南国の果物の香りがした……

浜辺のコートでは 変わらずビーチボールが宙(ちゅう)を舞(ま)っている…………



「えっとねー

……白いクマ(アニマル)?

椅子(チェア)?…

…絨毯(カーペット)?

銘菓(マカロン)?…

…板(ボード)?………

だったと思う!!」


指折(ゆびお)り数(かぞ)える魔物ちゃんを見ながら…
ワタシは 迷(まよ)っていた……



「……どう

…するか………」



選択肢は三つ…

五回分 賢者石を使うか?

一回で止(や)めるか?

それとも……今回(こんかい)は諦(あきら)める……か?…………



賢者石を使っても 欲しい品(アイテム)が必(かなら)ず手に入るわけではない……

手に入る事もある……

コレは運まかせなのだ……


「魔物ちゃんが オススメって言ってるし 五回分 やってみようよ…」



珍しくパートナーが乗り気だ
…着ている共和国服(紫)
その下衣 長く伸びた右裾(みぎすそ)が
ツートップにした白灰色の髪と共に 海風に揺(ゆ)れている……


ワタシの共和国服(赤)
下衣 足もとまで伸びた右裾も
低い位置(ローポジ)で纏(まと)めたワタシの濃緑色の髪と共に

海から吹く
心地よい風に
靡(なび)いた……



…………………


ワタシの腹(はら)は決まった……



「…………わかった
五回分で…

頼(たの)む……」



「取り引き…成立だねー!

さっそく 始めるんだよ!!」


ワタシから受け取った
虹色に輝(かがや)く
賢者石を使い
魔物ちゃんは別空間を呼び出し ソコに入る……

その手にした賢者石の三分の1が キラキラと輝(かがや)きながら大気に還(かえ)ってゆく…


……賢者石(けんじゃいし)

それはこの世界に満ちる魔力が集まり結晶化したもの…
魔物が魔力を行使(こうし)する時
必要となるモノ……
ワタシ達が使う錬金術由来の魔法とは違い
魔物にしか使いこなせない……

いま 魔物ちゃんが賢者石を使って入った石造りの空間にワタシ達は入る事は出来ない……
時渡りの塔の一室に似てはいるが別の部屋なのだ……
いま ワタシ達は少しボンヤリと揺らぐ映像の向こう
魔物ちゃんが いつもの杖を掲(かか)げ
魔物(ゲルミ)を召喚する様(さま)を黙(だま)って見ていた…

いま
再度(ふたたび)
彼女(魔物ちゃん)の片手に載せた
賢者石が大気に還元(かえ)ってゆく……

…………


杖を一振り 魔物(ゲルミ)を倒すと

魔物(オーク)…

魔物(ドラゴン)

と強力な魔物が出現する……
強い魔物ほど珍品(レア・アイテム)が手に入るのだ……
魔物(ドラゴン)が出現するのは希有(まれ)で

それを倒したとしても

必ずしも魔物ちゃんが提示したアイテムが手に入るとは限らない……


……………………


………五回の戦闘のを終え宝箱(トレジャーボックス)から
アイテムを回収した
魔物ちゃんが 残りの賢者石を消費してコチラに帰ってきた………



「はい!

これ!!

“熊車の明笛”!

“銘菓の短笛”!

“銘菓の短笛”!

“花”!

“鉄鉱石”!


以上だよーー!!」



魔物ちゃんは 一つ 一つ
名前を呼び上げながら
アイテムをワタシに渡す……



「……五つ中 三つ笛が出たか……

まぁ 当たりだな……」



「でも 一つダブったね…」



ワタシの手元を見て パートナーが呟(つぶや)く……


「えーとね

町にいる黄色い服を着た

……リズ?って人間(ひと)が珍しい品(アイテム)に詳(くわ)しいって
聞いたよー!!


じゃ わたしはコレで…


バイバイーー!!」



用事が済むと
低い位置(ローポジ)でふたつに分け
赤い髪止めをした
肩にかかる白い髪と
大きな白い尻尾を揺(ゆ)らして
魔物ちゃんは 駆け出して行った……



「……相変(あいか)わらず
騒(さわ)がしいな……」



小さくなってゆく お腹と背中の大きく空いた黒と白の服を着た少女を
見送(みおく)ってワタシは呟(つぶや)く



「にぎやかで
わたしは好きだなー」



「……魔物ちゃんが言っていた……リズ?……
を訪(たず)ねてみるか……」



「でも どこに
いるんだろう?……」



「……この近くで大きな町に行くとしよう………
其所(そこ)に居(い)るかもしれない……」

「……居なくても噂(うわさ)くらいは聞けるだろう……」



「そうだね!

ここから 近い町は……

“実り多き半島”を抜(ぬ)けて……

“マーロ共和国”だね!!」


「……わかった

そこへ行こう……」



目的地は決まった…

魔物ちゃんはアイテムは渡してくれるが説明は上手く出来ない…
普段は市場や倉庫で聞くのだが
今回のアイテムは 特殊(とくしゅ)な為 そのての専門家に訊(たず)ねた方(ほう)が
いいと思われた……



ワタシ達は “マーロ共和国”へ向かうことにした……




ある冒険者のひとりごと……24 魔物ちゃんの交換品ー前編ー 終わり…

眠りに就く前の ひとときに…その2

…………



ここは“ベルグとさなの部屋”……
右側に木の本棚の並んだダブルベッド…
その足下(あしもと)に置かれた3つ並んだ木のブロック……

カンテラの明かりに照らされ そこに腰かける3人?の姿がありました…

褐色の肌をした少女 ベルグ…

茶色い毛並みのネコ ベルにゃん……

白い肌の幼女 さな………


ベッドを背に右から順番に並んで座っています……


ベルグの手には“空飛ぶ牛車”と記された1冊の本が見えました……

これから 眠りに就く前のひとときの時間です………

…………………



「今夜は このまえの続き…なんだよね……ベルグ…」


白い肌をした さな が質問します…



「……もちろんだ

さな…


………

滅びの村に行く途中にある大きな木のある広場…
そこに降りた牛車から
外に出てきた女性と出会う場面(シーン)…からだったな………」



褐色の肌に レッドアンダーリムのメガネを掛けた
ベルグが答えます…



「…そうにゃ
さっそく 始めるにゃ……」



茶色い毛並みに緑の瞳をしたネコ ベルにゃんが急(せ)かします…



「……では“空飛ぶ牛車”の続きを……

始めよう………」



ベルグの手にした本
その 栞(しおり)を挟(はさ)んだページが開かれます……



ベルグ:「……客車から杖を頼(たよ)りに広場に降り立った女性は“キミ”に気付き 声をかけた……」


ベルグ:「……あらっ?

そこに誰か いるの?」


ベルグ:「…“キミ”は………」



さな:「…あっ えっと……
ごめんなさい……」



ベルグ:「彼女は“キミ”の声に少し驚いたようだ……
そして“キミ”の方へ閉じたままの両目を向ける……」



ベルグ:「どうして……
謝るのかしら?」



さな:「その……のぞき見してたみたいで……

失礼かなって……」



ベルグ:「……“キミ”の答えに彼女は興味を持ったようだ………」



ベルグ:「そぅ………

こちらこそ
驚かせたみたいで………
ごめんなさいね…

………………………


そうそう 紹介が遅れたわね……

わたしは“美夜子(みやこ)”………
旅行者よ……

あなたは?」



さな:「わた…ボクは
“ベサルナ”……公国に住んでる……」



ベルグ:美夜子「……そう
ベサルナというのね……

一緒にお茶は…どうかしら?
あなたと お話したいわ…」



ベルグ:「……“彼女(美夜子)”は“キミ(ベサルナ)”を お茶に誘う……
参加するかな……?」



「もちろん 参加するよ!」


迷わず さな は即答します…



ベルグ:美夜子「…まぁ 嬉しい
…すぐに準備するわ……

ベルニャーン…
お茶の準備を………」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)が声をかけると牛車の陰から
スッと人が 現(あらわ)れる…執事服に片メガネを身に着け 実に執事全としている…
しかし 服からは茶色い毛並みが覗(のぞ)き 顔は
ネコ そのものだった……」


ベルにゃん:ベルニャーン「…お嬢様
準備に取り掛かりますにゃ……
しばらく お待ちをにゃ……」



「えっ?
ベルにゃん…それって ひと?なの……」



さな が驚きの声をあげます……



「…獣人ですにゃ……
獣(ケモノ)要素が多いほうで背丈は人(ひと)くらいありますにゃ……」



「…じゅう…じん?」



さな にとって聞きなれない言葉に ベルにゃんが答えますが 今一つ分からないみたいです…



「……シノビーヌ みたいなものだな……」



「あぁ!
3国国境付近にいる……!!」



ベルグの例(たと)えに さな は納得したみたいです…

シノビーヌ とは 二足歩行をし ニンジュツを使う
服を着たイヌの魔物です……



ベルにゃん:ベルニャーン「…準備が できましたにゃ…

お嬢様がた こちらへ
お座りくださいませにゃ……」



ベルグ:「……客車の側(そば) 草原の上に敷物(シート)が敷かれ 真ん中に 脚の低い丸テーブルが置かれている…

その上に三段になったアフタヌーンティーセットがあり
下から サンドイッチ ショートケーキ 色とりどりなマカロン…等(など)が
放つ甘い香りが“キミ(ベサルナ)”を誘う……」



ベルグ:美夜子「…さぁ
お茶をしながら 話しましょう……」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)は “キミ(ベサルナ)”と共に 丸テーブルに着く…
ベルニャーンが2人に
香りたつ紅茶を煎(い)れてくれる……」



ベルにゃん:ベルニャーン「…どうぞ お召し上がりくださいにゃ……」



ベルグ:美夜子「……ありがとう ベルニャーン……」



さな:ベサルナ「あっ……
いただきます……」



「わたしは サンドイッチを食べるよ……

ベルグ…美夜子は何を食べるの?」



「……そうだな……」



ベルグ:「……“キミ(ベサルナ)”がサンドイッチを食べる様子を“彼女(美夜子・みやこ)”は紅茶を時おり飲みながら 閉じた目で語りはじめた……」



ベルグ:美夜子「…ワタシは執事兼御者の獣人ベルニャーンと あの“空飛ぶ牛車 黒の9号”で旅をしているの……
この国にはトラブルで
急きょ降りることになったのよ………」



さな:ベサルナ「……やっぱり 空を飛んでいたんだ!
すごいや!!」



ベルグ:美夜子「……そぅ


やはり……あなたには 見えていたのね……」



さな:ベサルナ「頭に コレが当たって 見上げたら
アレが見えたんだ!……
それで あわてて追いかけたら ここに……」



「そう言って 頭に落ちてきた 小さなモノを見せるよ…」



ベルグ:美夜子「……ごめんなさい
わたしは この国に来たばかりで まだ物が見えないの……

もうしばらくしたら
見えるようになると思うわ……

ベルニャーン……
ちょっと見てくれる?」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)は そう言うと
執事兼御者のベルニャーンを呼んだ……」



ベルにゃん:ベルニャーン「……こ これは………
にゃ!?」



「…そう言って 驚くにゃ……」



ベルグ:「……執事兼御者のベルニャーンが驚くのも
無理はない……

ソレは“空飛ぶ牛車 黒の9号”の部品だったのだ…
この部品が外(はず)れた為に この場所に降りざる得ない状況になったからだ……」



ベルにゃん:ベルニャーン「…ぜひとも それを返して欲しいにゃ……」



さな:ベサルナ「……ボクが持ってても しかたないし…食事もいただいた
コレは返すよ……」



「そう言って 部品をベルニャーンに渡すよ」



ベルにゃん:ベルニャーン「…ありがとにゃ
さっそく 修理に取りかかるにゃ……」



「…そう言って牛車の方へ向かうにゃ……」



ベルグ:美夜子「……ベルニャーン お願いするわね…」


ベルグ:「……さて
ベルニャーンが“黒の9号”の修理に向かうと
再(ふたた)び 美夜子(みやこ)と“キミ(ベサルナ)”の2人きりになった……

どうする?………」



「美夜子の 話しが聞きたい…この国に来るまえの国の……」



「…そうにゃ どんなトラブルがあったにゃ?」



ベルグ:美夜子「……この国に来るまえの国……

そこは 夜の国……
明けることのない漆黒(くらい)夜の続く国……

この国には明かりが無かったわ……

人々は暗闇でも見える眼を持っていたから 明かりは必要無かったの……

でも わたし達がこの国で出会った ある錬金術師は違ったわ……

夜を終わらせる明るい太陽を欲していたの……

明るい世界……そう色彩(いろ)を見たかったの……」



さな:ベサルナ「……なぜ色を?」



ベルグ:美夜子「……暗闇でも物が見える……

そのため
この国の人々には
世界は白黒(モノクロ)に見えていたの……

彼は恋人と共に色彩溢(あふ)れる世界を見たかったようなの……


他の国との交流が禁じられていたから……

彼は自力で成し遂げようとしたわ……


その結果………」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)が 話していると

“キミ(ベサルナ)”は
彼女の背後に 迫(せま)る
魔物に気づいた……」



「彼女 美夜子は気づいてないの?」



さな が心配そうにベルグに聞きます……



ベルグ:「……話しに集中していて美夜子(みやこ)は背後(はいご)に近づく魔物に気づいていない……」



「…べ ベルにゃん……」



「…黒の9号の修理中にゃ……」



さな:ベサルナ「あぶない!!…」



「そう言って 美夜子を横に突き飛ばすよ…」



ベルグ:「……間一髪(かんいっぱつ)!
“キミ(ベサルナ)”達は
魔物の体当たりを避(さ)けることができた……

青くプヨプヨとした体に
後ろに長く伸びた耳つきフードを被(かぶ)った ソレは“キミ(ベサルナ)”達のほうへ…チョコマカと体の向きを変えた
それにあわせて垂れ下がった4本の腕もフワフワ揺れている………」



ベルグ:美夜子「…きゃ

な なにっ?……」



さな:ベサルナ「ゲルミ!!

魔物が襲(おそ)ってきたんだ!!

また来る!!」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)は 黙(だま)って考えているようだ……」



さな:ベサルナ「なにか 武器は?

魔物(ゲルミ)からは逃げられない!!」



ベルグ:美夜子「……これを使って!
今の わたしでは 使えない……」



ベルグ:「……そう言って
美夜子(みやこ)は 腰から不恰好(ぶかっこう)な剣を抜いて“キミ(ベサルナ)”に渡すよ……」



さな:ベサルナ「!?
……コレは?」



ベルグ:美夜子「……ソレは剣銃(ソードバレット)……斬ることも撃つことも
出来るわ……」



「よく わからないけど 剣銃(ソードバレット)を振り回して ゲルミと 戦うよ…」



ベルグ:「……“キミ(ベサルナ)”は剣銃(ソードバレット)を振り回すが 魔物(ゲルミ)には効いていないようだ…
プヨプヨした魔物(ゲルミ)の体を剣で斬れないない…
魔物(ゲルミ)はチョコチョコと下がり“キミ(ベサルナ)”との間合いをとる…
再び “キミ(ベサルナ)”に体当たりを仕掛けるつもりだ……」



「…さにゃ 斬ってダメなら突いてみるにゃ……」



ベルにゃんが助け船を出します……



「わかった ゲルミの体当たりに合わせて 剣銃(ソードバレット)を突きだすよ…」


ベルグ:「……キミ(ベサルナ)が 剣銃(ソードバレット)を突きだすのと魔物(ゲルミ)が体当たりする瞬間が重なった……
魔物(ゲルミ)の体に剣が深々と刺さってその場に縫い止められる……

魔物(ゲルミ)は手足をバタバタさせるが
剣は抜けない……」



ベルグ:美夜子「……!

魔物は!

どうなったの?」



ベルグ:「……美夜子(みやこ)には状況が見えない 音で判断するしかない……」


さな:ベサルナ「……魔物(ゲルミ)は……
剣を突き刺して 動きは…
…止めた……
でも………トドメは刺せていない……

どう すれば……」



ベルグ:美夜子「……

ベサルナ!

引き金を引いて!

人差し指にあたった引き金(トリガー)を強く手前に引くの

そうすれば弾丸(バレット)が射ち出されるわ…」



さな:ベサルナ「!?

…よく …わからないけど……

こう?」


さな「言われたとおり
やってみるよ……」



……………



さな:ベサルナ「……や

………やった……」



ベルグ:美夜子「……倒したの?」



ベルにゃん:ベルニャーン「美夜子(みやこ)お嬢様……

今のにゃ?」



ベルにゃん「…銃声に驚(おどろ)いて美夜子の側(そば)に駆(か)けつけるにゃ……」



ベルグ「………“キミ(ベサルナ)”が人差し指で引き金を引くと 剣の上の丸く細い筒先からナニかが飛び出し魔物の体に大きな穴が空いた……

……キミ(ベサルナ)は魔物(ゲルミ)を
剣銃(ソードバレット)で
見事(みごと) 刺し貫(つら)き射ち倒した……
青く柔らかかった魔物の体は黒く固く変質し 崩(くず)れ 細かな砂粒となって霧が散るように跡形も無く消えてゆく……」



ベルにゃん:ベルニャーン「…キミが お嬢様の剣銃(ソードバレット)で魔物をにゃ?」



さな:ベサルナ「…あ

うん……

美夜子の言(ゆ)うとおりに……」



ベルにゃん:ベルニャーン「扱(あつか)いの難(むずか)しい剣銃で……

おみごとですにゃ…」



ベルグ:美夜子「……この子には才能(さいのう)が あるのかも……銃(じゅう)を扱(あつか)える才能が……」



さな:ベサルナ「……えへへ
そうなのかな〜」


さな「と少し 照れながら
言うよ…」



ベルにゃん「…さにゃは
かわいいですにゃ……」



ベルグ「……………」



ベルグ:美夜子「………そうだわ!

あなた!

私達と一緒(いっしょ)に
来ない?」



ベルにゃん:ベルニャーン「お嬢様!
それは いけませんにゃ!!」


ベルにゃん「…と 美夜子(みやこ)を止(と)めるにゃ」


ベルグ「……美夜子がキミ(ベサルナ)を誘(さそ)い
ベルニャーンが それをやめさせようとしている……

………キミは どうする?」


さな「えぇ〜!!

どうしよぅ……」



ベルにゃん「…さにゃが好きな方(ほう)に決めるにゃ……」



さな「決められないよ〜

二人とも好きだよぉ〜」



ベルグ「……さな
これは お話だ……
お話の中の登場人物(キャラクター)として答えて欲しい……」



ベルにゃん「…さにゃとしてではなく“ベサルニャ”として答えるにゃ……」



さな「あっ!
そっか お話だった……

ベルにゃんの言いかたが悪いよぉ!!」



ベルにゃん「…これは ワタシが悪かったですにゃ……
それにしても
さにゃは優(やさ)しいですにゃ……
造(つく)られた ワタシを好きと言ってくれますにゃ……」



さな「ベルにゃんは わたしにとっても ベルグにとっても大切(たいせつ)だよ!」



ベルグ「……ワ…ワタシも ベ…べルにゃん…の事は……
き…気に入っている……」


ベルにゃん「…もう一人のワタシ(ベルグ)も ありがとにゃ……」



三人?は しばらく黙りこみました

本棚の影に置かれたランプ……
嵌(は)め込まれた夜光石が
昼に取り込んだ光を夜の闇に ゆっくりと放出(はな)ち
木材のブロックに座る三人をぼんやりと照(て)らしています

南国の夜風が優しく吹き抜けてゆきました……



…………………



さな「……それじゃあ 気を取りなおして お話の続きを…」



ベルグ「……あぁ
そうだな…

……座り込んでいる美夜子の前にベサルナが座り…
二人の間から少し離れて
ベルニャーンが立っている……
この配置でいいかな?」



ベルにゃん「…それで いいにゃ……

さにゃ も いいかにゃ?……」



さな「うん!
わかった!
じゃあ 始めるよ!!」



さな:ベサルナ「…ぼ 僕も つれて行ってくれ……

いっしょに冒険がしたい!」



ベルにゃん:ベルニャーン「…楽しい事だけではないですにゃ……
場合によっては 命を危険に さらす事も……ありますにゃ」



ベルグ:美夜子「……そうね 危険な旅になるかもしれないわ……

あなたの家族の方(かた)も心配するでしょうし……」


さな:ベサルナ「……家族は
……いない


僕は 公国(シュリンガー)から早く出たいんだ!」



ベルにゃん:ベルニャーン「……二度と公国には戻れないかもしれないにゃ

それでも 行くのかにゃ?」


さな:ベサルナ「……あんな寒くて ひもじくて……雪しかない………

公国(あそこ)には 嫌(いや)な思い出しかない!!」



ベルグ:美夜子「……そう
悲しい思い出しかないのね…」



ベルグ「……美夜子(みやこ)は 閉じたままの瞳(ひとみ)を伏(ふ)せ しばらく考え込んだ………」



さな「ベサルナは 美夜子(みやこ)の顔を じっと見て
だまって 待つよ…」


ベルにゃん「…ベルニャーンは 美夜子の側(そば)に 静かに佇(たたず)み
答えを待ちますにゃ……」


ベルグ:美夜子「……ご覧(らん)の通り 私は目が見えないわ
その事で ベサルナ(あなた)に迷惑を かけるかもしれない……

それでも 私たちの旅に同伴(どうはん)してくれるかしら?」



ベルグ「……美夜子は キミ(ベサルナ)の方(ほう)を向いて語りかけた…」



さな「美夜子(みやこ)は 目が見えないのに どうして
ベサルナのことが わかるの?」



ベルにゃん「…声のする方(ほう)に顔を向けて いるにゃ……」



さな「へぇ〜……
そうなんだ」



ベルグ「……視力を失って
まもない美夜子は まだ 聴力だけの生活に慣れていない………

それでも キミ(ベサルナ)は 彼女と共に危険を伴(ともな)う冒険に出るかね?……」



ベルにゃん「…どうするにゃ?

さにゃ……
ベサルニャは断(こと)わっても
いいのにゃ……」



さな「…え え〜と……」



さな:ベサルナ「……
行くよ!
いっしょに連れていってくれ!

美夜子(みやこ)とは 会ったばかりだけど………
ほっとけないよ!

それに もう いやなんだ! 公国(シュリンガー)で暮(く)らすのは!」



ベルグ:美夜子「ベサルナ!
私たちと
来てくれるのね!

嬉(うれ)しい!!」



ベルグ「……美夜子は キミ(ベサルナ)を抱きしめようとするが キミが見えていない……
その両手は 届かず むなしく空(くう)をきってしまう……」



ベルグ:美夜子「……あれ?

ベサルナ?……

どこ?」



さな「えっ?

どうして?

美夜子(みやこ)は ベサルナのことが わからないの?」



ベルにゃん「…美夜子は 声する方向は わかっても そこまでの距離が わからにゃいのですにゃ……」



さな「!!


駆(か)けよって 美夜子を
抱きしめるよ!」



ベルグ:美夜子「……あぁ

ベサルナ……

そこに 居(い)たのね……
ありがとう……」



ベルグ「……美夜子も キミ(ベサルナ)を しっかりと
抱きしめた……」



ベルグ:美夜子「……ベルニャーン
この子(ベサルナ)を連れて行っても いいかしら?」



ベルグ「……美夜子はベルニャーンに同意を求めている キミ(ベルニャーン)は
どうする?………」



ベルにゃん:ベルニャーン「……

美夜子お嬢様が そこまで
おっしゃれるのにゃら……

このベルニャーン

微力(びりょく)ながら
お手伝いさせていただきますにゃ……」



さな「やった〜〜!!」



ベルグ「………こうして
空飛ぶ牛車“黒の9号”に新(あらた)たな仲間(なかま)が加(くわ)わる事になった……
三人の旅は ここから始まる…………
よき旅であらんことを……」



「……さて 今夜は ここまでにしよう……」



「ここまでかぁ〜

今夜も すごく おもしろかったよ」



「……それは 良かった…」


「…なかなか 面白かったにゃ…

次の 話しも楽しみにゃ…」


「……二人とも 休もう…

よい夢を……」



「…よい眠りをにゃ……」



「うん ふたりとも

おやすみ〜〜」



ベルグは 栞(しおり)をページに挟(はさ)み“空飛ぶ牛車”を閉じました



今夜の 寝る前の ひとときは ここまでです……


それでは 皆さま よい夜を……




………眠りに就く前の ひとときに…その2ーおわりー

眠りに就く前の ひとときに……

………


ここは ベルグとさな の部屋…
ダブルベッドの足元側に
置かれた
3つの 木のブロック……

そこに さな ベルグ ベルにゃん がそれぞれ座っています……



「ねぇ…ベルグぅ……
今日(きょう)は どんな
お話しをしてくれるの?」


普段は2つに分けたツートップの灰白色の髪を下(お)ろした幼女が
群青色の瞳を褐色肌の少女に向けてきます……



「……そうだな

これからの物語……

というのは どうかな?」



普段は首の後ろで一纏(ひとまと)めにしている暗緑色の髪をほどいた少女が答えます……



「…これからの物語?」



「…それは どういう事にゃ?……」



さな と 茶色い体毛と緑の瞳をしたネコが聞き返します……



「……これから書かれる
いや 作りあげていく
お話し?……かな」


髪と同じ暗緑色の瞳でベルグは語ります……



「ベルグ!
説明に なってない…」



「…そうにゃ
詳しく聞きたいにゃ……」


さな とベルにゃんは 寝る前に
木の本棚にある本をベルグに読んでもらっているのです……

そして今夜 ベルグが選んだ本は……

空飛ぶ牛車 と題名が見えます…


ベルグは本を 手に星明かりの下(もと) カンテラの灯(あか)りをその身に受け 座ったまま
語り始めました……



「……これは
…始まりを待つ 物語……

いまは舞台と大道具だけが存在するのみ……

君たちは この舞台に立ち
与えられた役を演じて この物語を完成させて欲しい……

……………

……さぁ 共に物語を作ってみないか?」



「…えっと?

どういう…こと?」



「…なる程(ほど)にゃ……

登場人物に 成りきって
お芝居を演じる…

ワタシ達も物語の中に登場できる……
という事かにゃ?」



ネコの女神座りで ベルにゃんは呟(つぶや)きます……



「……さすがは ベルにゃん……
理解が早い……

打てば響く…だな……」



「…ワタシと ベルグ……
つーかーの仲ですにゃ……」



…ベルにゃんはベルグの記憶を複写(コピー)して作られた魔物なので お互いの考えている事がよくわかるのです……


「……へぇ〜

よく わからないけど…

おもしろそう……

ベルグ………
始めてみて…」



さな は興味を持ったみたいです……



「……じゃあ
さな が主人公で 始めるよ」



「あっ…
うん!

なんだか緊張するなぁ……」



「…大丈夫にゃ
さな が物語の登場人物として
思った事を言えば いいにゃ……」



さな の隣(となり)で ネコの ベルにゃんが助言します…


その様子を見届け
ベルグは本を開き 語り出します



ベルグ:「……場所は 旅立ちの地 シュリンガー公国…市場(いちば)前……
様々な人々が行き交っている……
この国は険しい山中に築かれており気候は寒く 家々の周囲には雪が降り積もっている…

人々は厚手の服装をして寒さに耐えているようだ……

……時刻は お昼時だろうか……

モノを売る商人の声…

魔物討伐に行く為 仲間を集う冒険者…

貸し倉庫の前でアイテムを出し入れしている者…

屋台に群がり食事をとる者……


市場前(いちばまえ)の広場は いちだんと混雑している…




そして…その混雑のなかにキミは いる……

…………」


ここまで 話すとベルグは
横にいる さな に顔を向けます…



「…えっ?

な …なに?
ベルグ?」



さな はどうしていいか
わからず 焦(あせ)ります


「…“キミ”というのは
ベルグが話し始めた物語の中の さにゃ の事にゃ…
今までの話しを聞いて
さにゃ が 登場人物“キミ”として 喋(しゃべ)る
なり行動を起こすなりするにゃ……」



ベルにゃんが助け舟をだします……



「あっ!
…うん やってみる!」



さな は目を閉じ
少し考え…

さな:「…それにしても
お腹が空(す)いたなぁ……
どこか 食事のできる場所(ところ)は……」



ベルグ:「…残念ながら
屋台は どこも混雑して
入(はい)れそうにない……
今“キミ”は 持ちZell(ゼル)は6Zellしか無い事を
思い出した……」



「えぇ〜〜何も買えないよ〜〜」


思わず さな は声をあげます……



「…さにゃ
物語の中の“キミ”として行動するにゃ……」



「そうだった……

…えっと Zellが落ちてないか 足下(あしもと)を見回すよ……」



「…さにゃ
その調子にゃ……」



ベルにゃんの手助け(サポート)で さな は物語の中に入れていけそうです…



ベルグ:「……“キミ”が多くの人々によって踏み固められ
黒くなった地面を キョロキョロと見回していると…
頭に何か当たるのを感じた……


そして 目の前の地面に小さな物が落ちているのに
気付く……

さっき“キミ”の頭に当たって落ちた物だ!


“キミ”は どうする?」



さな:「…いたっ!?

何? コレ…!?」


「そう言って 拾うよ……」


ベルグ:「……半円球に細い棒の付いた とても小さな物を拾い上げると

“キミ”は 思わず頭上を見上げた……」



「頭に当たったってことは

空から落ちてきたって…
事だよね…」



「…そうにゃ
さにゃ は理解が早いにゃ……」



さな と ベルにゃんのやり取りにベルグは満足気(まんぞくげ)です…

ベルにゃんが さな に助言してくれるので お話しを集中して考える事が出来るのです…



ベルグ:「……空を見上げた“キミ”の目に 小さな黒い物体がシュリンガー公国の巨大な出入り門の方へ上空を横切って行くのが映る……

“キミ”は………?」



「それを おいかける…」



ベルグ:「……その黒い物体は門を越え 雪山と草原 の方へ ゆっくりと 降りて行く様だ……


上空の様子に気付いたのは“キミ”だけ…

王宮前の二本サクラを通り過ぎ……

大通りを走り……

門をくぐり抜け
雪の積もる長い石段を
駆け降りる…

右手に客待ちの牛車を視界の隅(すみ)に捉(とら)え

分かれ道で立ち止まる…

まっすぐ行けば 国境沿い…左へ行けば 不老不死の村や 神へ至る道 滅びの村……

“キミ”は 空を見上げ
物体の方向を確認する…


黒い何かに牽(ひ)かれた 牛車?の底面が見えた…

……


“キミ”は左に立つ掲示板は崖の下にある事を 知っている……


その崖の上に目的の物体が確証は無いが そこに降りると 感じた……


間違っているかもしれない…


“キミ”は………」



「とにかく 崖の上に行ってみる!

……何が あるんだろう

ちょっと ドキドキしてきた……」



「…にゃ……

さにゃは すっかり気に入ったみたいだにゃ……」


「うん ……さきが気になるよ…」



ベルグ:「……“キミ”は
滅びの村に続く坂を登り
途中で左に向かう…
そこは広場になっており

大きな木が1本広場の端に立っている…

その根本(ねもと)に目的の物体が 静かに佇(たたず)んでいる……

“キミ”は………」



「ゆっくり近づいて 様子をみるよ……」



「…さにゃ 用心して
後ろから近づくにゃ…」



「うん
そうする!」



ベルグ:「……“キミ”は
その物体の 後ろ側から近づき様子を伺(うかが)う……
さっき石段の側(そば)で見た 牛車に 似ている…

よく観察すると客車が
いつも見ている牛車の物より長い……
それを牽引(ひ)く 角牛も 紫色の毛並みではなく
黒い色に見える……」



ベルグ:「…もう大丈夫かしら……」


ベルグ:「“キミ”の目の前で
客車の扉が静かに開き
杖を付きながら ひとりの女性が降りて来た……

黒い修道士服(パティシエ)から覗(のぞ)く 手足は細い…
肌の色は白く
黄色の長い髪を2つに分け
その毛先は螺旋状(らせんじょう)に巻いている…」



ベルグ:「…あらっ?

そこに誰かいるの?……」


ベルグ:「…杖を頼りに草地に降り立った彼女は “キミ”の方へ顔を向ける…その両目は閉じらていた……」


………………………



「……今夜は ここまでにしよう……」



ページに栞(しおり)を 挟(はさ)み ベルグは本を閉じました…



「えぇ〜!?

もう 終わり?

ぜんぜん 物足りないよ〜!!」



「…ベルグ

話し(ストーリー)が始まって いないにゃ……」



さな とベルにゃんが不満の声をあげます…



「……わかっている

思ったより 長くなってしまった……

それに……
夜も更(ふ)けてきている……

そろそろ寝なくては
明日にひびく……」



「それは…
そうなんだけど……」



「……さな 次回のために “キミ”が
どんな外見をしているか
考えておいてくれ……」



「…それって?」



「…さにゃ が この物語りの中で演じる人物(キャラクター)の設定にゃ……

髪の色や 肌の色 服装
性別……等(など)にゃ

あとは……名前も必要かにゃ?」



「ん〜

名前か〜……」



「……さな が
“キミ”のままでいいなら
それで すすめるが……」



「うーん……
…考えてみる!

それと…ベルグぅ〜……」



「……ん?
なんだ?……」



「もちろん
ベルにゃんも登場(で)るんだよね?…」



「…にゃ!?」



「……あ…

…あぁ……そうだな……」


ベルにゃんとベルグは
思わず顔を見合わせます……



「そうだよね

ベルにゃんも まだ登場(で)てないだけで 物語りの中でも わたし達と一緒に冒険するんだよね…」



さな の群青色の瞳が
ベルグとベルにゃんを
まっすぐ見つめます…



「……あぁ

もちろんだとも……」



「…そうにゃ

ワタシ達は いつも一緒にゃ……」



「よかった〜

わたし達は これからも いつも一緒だよね……」



ベルグとベルにゃんは
頷(うなず)きます……



「…ふぁ〜〜…

ねむくなってきたみたい…
もう 寝るね……

ふたりとも おやすみ……」



「……あぁ

おやすみ さな……

よい夢を……」



「…さにゃ

おやすみにゃ……

よい眠りを……」



さな はダブルベッドの左側に
もぐり込みました…


やがて……
かわいい寝息が聞こえてきます…



「…さにゃ は寝入ったようにゃ……」



「……そうだな……」



木のブロックにベルグは腰掛け ベルにゃんは 香箱座り で会話を続けます…



「…色白肌に長身とは……
まだ自身の身体が嫌いなのかにゃ?」



「……ベルにゃんはワタシなのだから わかっているはず……」



「…もちろん解(し)ってるにゃ…

どんなに自身が嫌いでも
さにゃ がベルグの身体 性格 共々(ともども)気に入ってくれているからにゃ……」



「……ワタシには 過ぎたパートナーだよ…」



「…そうにゃ
大事で大切なパートナーにゃ……


創られる物語りの中で
さにゃ は どんな人物(キャラ)を演じるのかにゃ?…」



「……ベルにゃん こそ…
どんな人物(キャラ)を演じる?…」



「…そうにゃ………

ワタシは………」



……………

…………………

…………………………



これからの物語りについてベルグとベルにゃんは

考えを述べあいます……



……こうして 寝る前の
ひとときを眠くなるまで
過ごすのです…


今夜も もう遅いです…

皆さまにも よい夢を……


………眠りに就く前の ひとときに ーおわりー
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