ある冒険者のひとりごと……15 ボンドについて 終章

前回のひとりごとより……

ワタシはボンドマスターと二人だけで話を続けていた……




お互いに“マ・ルボロ”の紙巻きタバコを吸いつつ
話は続く……



「これまで、メンバーの自由意思を尊重して来ました…しかし、……上手くいかないものですね。」



ため息と共に煙を吐き出す……



「……そうだな このままでは以前 所属していた そなたのボンドと同じだな……
…自由と放任は違う……」


ワタシも ゆっくりと煙を吐き出す……



「……そうですよね。
やはり、ルールは決めた方がいいですよね……。

以前、貴女(あなた)が言われました

これでは ソロと変わらない……ボンドに入った意味がない≠ニ…

私も、そう思ってました。」


「…あぁ そうだな……
おそらく他のメンバーにも そう考えている者がいると思う……」



お互いの指に挟(はさ)んだタバコがゆっくりと燃え
短くなりつつあった……



「………決めました!
長らく、顔を出さないメンバーは退会させます。
そして、会話をしてくれそうなメンバーを入会させます。それにLv上げやイベントも一緒にやりましょう。
会話の無いボンドから会話の多いボンドに……。

貴女(あなた)にも手伝って欲しいんです。

お願いします!」



彼は一息にしゃべると
深々と頭を下げた…



「…頭を 上げてくれ……

ワタシも このボンドを抜けるつもりで そなたに会いに来たのだ……

…だが そなたと話し 考えが変わった……」



彼は顔を上げ

「では、私の申し出を受けてくれるのですね。」



「…あぁ
ワタシとそなたは すでに親友(とも)だ 親友の頼み……

断(ことわ)れない……」



「ありがとうございます。
しかし、なぜ私を親友に?」


「…そなたとワタシ 互いの持ち物を交換しあった…
これぞ 親友(とも)の証(あかし)……

迷惑だったか?……」



「とんでもない!

ぶしつけですが……

…これを受け取ってください。」



「…それは?」



彼の手に小さなバッジが乗っていた……



「これは、サブリーダーの証……
私と共にボンドを盛り上げていってください。」



「…これにはマスター権限が付与されている様だが?」



これを持つ者はメンバーの入退会の権限等を持つ……


「はい、私に何かあった時はお願いします。」



「そなたをリーダーから外す事も………
……出来るのだぞ…」



「構いません!貴女になら、全権を委(ゆだ)ねても…」


「…ふっ……ははは……
そこまで言われては 受けざる負(お)えないな……

…解った 副官として そなたを いや マスターを補佐しよう……

……ワタシに責任者(マスター)は似合わない……」



「ありがとうございます。」


「これからも よろしくだ マスター……」




ワタシは右手を出し彼と握手をする……



「そろそろ、戻りましょうか?」


「…そうだな 戻るとしようパートナー達の待つ世界へ……」




ワタシは このボンドに残る事にした……



ある冒険者のひとりごと……15 ボンドについて その8

前回のひとりごとより……

ワタシ達は ボンドマスター達と四人で茶会を始めた……




「甘味(かんみ)がレモンタルトしかないというのは少し寂しいな……」


ワタシが愚痴(ぐち)ると


「レシピに、載っているのしか合成出来(つくれ)ないなんて…
どこかにスィーツのレシピないのかしら?」


ボンドマスターのパートナーが会話に乗ってきた……


「料理のレシピは多いのにね」


ワタシのパートナーも会話に続く……



「あ、ちょっと席を外していいかな?」


「あっ、行ってらしゃい。」


ボンドマスターのパートナーは彼の用事が何か解ったらしくワタシのパートナーと会話を続けながら その手をヒラヒラと振る…



「それから、火を貸してくれませんか?
あいにく、切らしてしまいまして…。」


なるほど食後の一服がしたいのか……
ワタシも察(さっ)した



「…あぁ いいとも
ワタシも 一服しよう…」


「えっ?…あなたが?」



意外に思われたらしく
顔右側に着けた仮面が
ズレている……

ワタシは 返事代わりに懐から朱羅宇煙管(キセル)を取り出すと右手の上で 回して見せた そしてキセルを耳に掛けると まだ燃えているアルコールコンロから火縄に火を移しボンドマスターの後に続く……


「…ちょっと行ってくる」


パートナーに一声かける


「うん 行ってらっしゃい」

「…でねぇ、彼ったら、ひどいのよ〜……」


「あぁ〜 わかる……」



パートナー同士 会話が盛り上がっている……



ワタシはボンドマスターと共に平行世界へ移動する
二人だけの空間 誰もいない 見られることも無い…だから ここなら煙を出せる“煙を出してはならない”この教えに何ら反しない 何しろ誰も見ていないのだから……


「あなたが吸われるとは、意外でした。」


「…そうか? 酒も呑めるが?」


「いえ、私は呑めないので…。」


「…そうか 残念だな」

そう呟(つぶやく)とボンドマスターに火縄を一本渡す

それからワタシは煙管(キセル)の火皿に 刻み煙草(たばこ)を詰め火縄から火を移す…
軽く吹かして煙草に火が着くと逆に吸い込み香りと軽い酩酊感(めいていかん)を楽しむ……


そして一気に煙を吐く……

「ふぅ〜………
やはり旨(うま)いな
食後の一服は………」


ボンドマスターの方は
小箱から紙巻きタバコを一本取り出し 火縄から火を貰(もら)い 煙草を吹かしていた…
小箱には“マ・ルボロ”の文字が見てとれた……



「やはり、落ち着きますね 一服するのは。」


「…あぁ そうだな……
で 話しと言うのはなんだ?」


「気づいてましたか…。」


「煙草の火をネタにワタシだけを呼び出したのだろう?
煙草呑みが火を切らす訳がない……」


「えぇ、そうです。パートナーには聞かれたくない話を…
もっとも、貴女(あなた)が喫煙者とは……、意外でした。」


「…悪い少女(おんな)でね ……」


「…いえ、ちょっと驚いただけです」


「…神職に着く者だから? …あいにく信心深く無い方でね……」


「そんな方も、いらしゃるのですね…。」



「話というか、悩みと言った方が、いいのかもしれません……。
幸(さいわ)い、貴女は司祭様…胸の内(うち)を聞いてもらえますか?」


彼は2本目の煙草に火を着ける……


「よろしければ、吸います?」


タバコが一本覗(のぞ)いた小箱が差し出される……
ちょうどワタシも吸い終えたところだった……

………


「…頂(いただ)こう……
司祭とはいえ 見習いの身
神の加護はあまり期待しないでくれ……」


彼のタバコの火口にワタシのタバコの先を押し付け
数度小刻みに吸うとワタシの方に火が移った…

お互い一服したのち…



「貴女は悪いおんなと言いましたが、良い司祭様に成れますよ。」


「ありがとう お世辞でも嬉しいよ……」



ワタシは彼の悩み事を聞きそれに答える事にした………

ある冒険者のひとりごと……15 ボンドについて その7

前回のひとりごとより……

ワタシ達は お茶をするため 水車のそばに移動する事にした……




「さぁ きみも手伝って…」

パートナーがワタシを急(せ)かす……

茶会の準備が始まった…

先ずは下草を狩り
刈った草を緩衝(クッション)にしてその上に防水布を敷く…
風で飛ばないよう四隅を
小さな杭を打ち固定する……
脚の短い小机(テーブル)を真ん中に置き……
水色のテーブルクロスを上に掛け 下ごしらえは終わった



合成空間からパートナー達が錬金術合成した紅茶と
レモンタルトを取り出す…
それをテーブルに並べれば茶会の準備完了だ……



「お茶でも飲みながら
ゆっくり話そうではないか……」

先にテーブルに着いた
ワタシは水車を背に ボンドマスター達を招く…


「…しかし、悪いですよ
こんな…。」


「ごちそうになろう?
せっかく席を設けてくれたんだから…
相手に失礼だよ。
それに合成は私もしたんだから…。」



彼のパートナーは参加に同意らしい……



「おっと ワタシとしたことが招待状を忘れてた…
二通 必要だったかな…」



「ふふ…おかしな人ですね。
わかりました
ご一緒しましょう。」


「はきものは脱いで 上がってね…」

ワタシのパートナーが靴を脱ぎながら注意を促(うなが)す………


ワタシ達は互(たが)いに向かい合わせに座る

アルコールコンロで沸かしていたヤカンが湯気を上げ始める…
…頃合いか
ワタシはティーポットとカップを お湯で温め 合成した紅茶をティーポットで煮出す…
人数分カップに紅茶を注ぐと
香りが立ち昇る
いい香りだ……

ワタシは それぞれの手元にカップを配る……

ワタシのパートナーが
レモンタルトを四等分に
切り分け各自に配り終わる


「…では いただこう」


皆 おのれの手と手を合わせて……


「「「「いただきます!」」」」



茶会が始まった………


ある冒険者のひとりごと……15 ボンドについて その6

前回のひとりごとより……

ボンドマスターに会う為
ワタシはボンドチャットに書きこみを始めた……




:今から一緒に狩りなど どうだろうか?
もし都合がつくならば“実り多い半島”に来てほしい 半島掲示板前にて待つ…

…と書きこんで待っていると………


:いいですよ
今から行きます


早速 返事が来た…



「あんがい 気さくなひとなのかな?」


「…二 三回ボンドチャットで話(書きこみ)した事があるが 悪い人では無いと思う……」


「…そうだね
きみが そう感じたのなら

そうかも……」


パートナーと立ち話をしていると
ワタシを呼ぶ 書きこみが ボンドチャットに現れた…


:いま、半島に向かってます

ワタシもそれに応え
書きこむ

:今 掲示板前に・・・



「あっ あの人じゃない?」
パートナーが指差す方向に人影が見えた……

“実り多き半島”この先に人と魔物が共存する国“マーロ共和国”がある…
魔物に嫌悪感を持つ者も冒険者には多い……
そのためか この地を訪れる者は少ない……

現(げん)にワタシ達以外 周(まわ)りに誰もいなかった……


はたして ワタシ達の目前に現れたのは
軍服に身を包み 帽子から覗(のぞ)く空色の髪が印象的な 軍人将校然(ぜん)とした若者が立っていた……
側に立つ彼のパートナーは反対に淡い桃色の髪が目を引く ネズミをモチーフにした炎術士の服に身を包んだ美人だった……


「お初に お目にかかる……問おう そなたが 我がボンドのマスターか?……」



「そうですよ
おや?会うのは初めて、でしたか?」


「あぁ そなたと会うのは 初めてだ……」


「それで、どうします
狩りを始めますか?」


「…いや …その前に いくつか質問して いいか?」


ワタシは この機会に知りたい事を聞く事にした…


「えぇ、いいですよ…」



「…では お言葉にあまえて
……なぜ このボンドを?」


「そうですね、…私もかつてあるボンドに所属していました……。
しかし、そこはボンドとは名ばかりのメンバー同士、会話も交流も無い寂しい場所でした……。」


「それで 自分のボンドを?」


「えぇ、そうです。
メンバー同士、会話溢(あふ)れる、賑(にぎ)やかな場所。

そんな素晴らしい場所を メンバーと共有したい…
そう思って、このボンドを立ち上げたのです…。」


「しかし 今の…現状は……あまり良く無い…のでは?」

ワタシは自分が感じている事を述べた……



「そう、ですね……
せっかく勧誘したのですが……」


「…少し 人数が多すぎたのでは?
本当に 全員把握(はあく)出来ているのか?」


「…会話に絡んで来るのは
数人というのが現状です…
人数が多ければ、賑やかになると、思ったのですが…」



「すくない人数で始めて
うまくいったら人数を増やしていけば よかったんだよ」


ワタシのパートナーが会話に割り込む……


「…えぇ、おしゃる通りです
急ぎすぎました……。」


…そうなのだボンドレベルを上げれば参加人数を増やす事が出来る…
…だが それには大量のZellが必要になる………
このボンドは今Lv6…
どれだけZellをつぎ込んだのか見当がつかない……



「立ち話も なんだし
座って お茶にしよう?
ちょうど錬金合成も終わったし…
彼女にも手伝ってもらったんだよ(^_^)」


見るとボンドマスターのパートナーが軽く会釈(えしゃく)をする……


「向こうの水車のそばに 行こう きっと気持ちいいと思うんだ…」


パートナーの指差す先に
巨大な水車が ゆっくりと回っている……
地下から水を汲み上げているのか 周りに水が溢(あふ)れてちょっとした池になっている………
なるほどあの近くは涼しげだ……


「場所を移動しよう…」

パートナーの言(げん)を受け ワタシは提案する…


「わかりました。
移動しましょう。」


提案は受け入れられた様だ…

ある冒険者のひとりごと……15 ボンドについて その5

前回のひとりごとから……

ボンド掲示板にワタシなりの意見を書きこみ
相手(ボンドマスター)の出方を待つことにした……




掲示板に書きこんでから 何日か 過ぎた……

ワタシは チャットをボンドモードに切り替える
こうしておくと同じボンド内の冒険者が冒険を始めると名前が表示される事に 気がついたのだ……



あいかわらずボンド内のメンバー同士の会話は書きこまれない……

互いに不可侵がこのボンドの決まりごとなのだろうか?


お互いに黙々と己(おの)が冒険を続けているのか?……


……静かだ


互いに助けは いらない上級者の単独行動(ソロプレイ)のボンドに入ってしまったのか?




日にちが過ぎる毎にボンドの収容人数は増え30人に達していた…
ワタシが入った時は22人ぐらいだった…と思う



「……何も おきないね」


「………あぁ
これは 考えた方が いい…のか」


パートナーの声に
ワタシは答える……



「……別のボンド……
……探す?」


「……ワタシも 実はそう思い始めてる……」


「じゃあ“ボンド脱退”の手続きを……」


「…いや 突然の脱退は相手(ボンドマスター)に対して礼を失する……

せっかくボンドに入れてくれたのだ……

一度 会って話がしたい……

……それからでも遅くないだろう……」


ワタシは礼儀は大事にしたいと思う……
恩を受けたら返したい
と思っている……


「……きみは あいかわらず律儀(りちぎ)だね…

まぁ そういうところ
わたしは好きだな……」



……!!


ボンドチャットに反応があった


「…マスターが冒険を開始したらしい……」


「こうどうを開始だね…」


「…あぁ 行動開始だ…」



ワタシはボンドマスターに会う為 ボンドチャットに 書きこみを始めた………