「ふ〜、……今日も疲れました。」


そう言うと彼は軍服のまま宿屋のベッドに倒れ込んだ…被ったままの帽子から淡い空色の髪が覗く……



「今日も、お疲れ様。
今、お茶を煎れますね…。」


淡い桃色の長い髪を後ろで結んだ彼女は彼のパートナーである……



「……ありがとう……。」


彼は あるボンドのマスターをしている……
今日もソロで魔物討伐してシュリンガー公国の宿屋に帰って来たのである……



「ねぇ、大丈夫?
魔物討伐は、他のボンドメンバーも誘った方が良くないかしら?」



パートナーは錬金合成した緑茶を煎れ 部屋備え付けの小さな丸テーブルに着く彼もベッドに座り直し 湯飲み茶碗を受けとる……



「そうですね、……他のメンバーも、それぞれ忙しそうですし。……私達だけで充分ですよ。」


「それに……。」



「それに?」



「他のメンバーは、強いですから私も、いえ私達も強くならなければ……。」


「そうかもしれないけど、
此所のところ、こんをつめすぎじゃないかしら?」


「………………。」


お互いに湯飲みを手で包み暖をとる…

ここ シュリンガー公国城内都市は高い山の中腹にあり街には雪が積もり……
屋内に居ても冷気が忍び寄ってくるのだ……

人が住むには適さない土地だがアブル連邦と小競り合いを続ける公国にとって ここは天然の要塞であり最後の砦でもある………

ここは冒険者にとって始まりの地でもあるため新人から熟練者まで様々な人が訪れる……
ボンドマスターでもある彼はメンバー勧誘の目的もあって この地に宿を取っていた………



「……私はボンドマスターとして、やれているのでしょうか?」


ボンマスの証であるバッジを手で持て遊びながら彼はつぶやく……


「大丈夫、あなたはちゃんとやれてるわ…。」


「…そう……で…しょう……か?………」


連日の疲れからか 彼はそのまま眠りに落ちてしまった………



彼が目覚めたのは翌朝だった………

狭いベッドに彼とパートナーは居た……


「……朝…ですか……。」

壁には二人の服が掛けてある……

「あら、おはよう……。」


隣のパートナーも目を覚ます……


「突然、寝落ちするからベッドに運ぶの大変だったんだから………。」


笑いながらパートナーが話す……



「……いつも、すみません。」

「ふふ、…いつものことよ
それより…一本ちょうだい。」



「いいですよ、私の鞄の中にあります。」


「ありがとう、…紅茶でいい?」


「ええ、おまかせします…。」

パートナーは鞄から紙の小箱を取り出すとタバコを一本くわえ お茶の準備を始める……

昨夜使ったアルコールコンロにアルコールを入れ錬金術で火を着ける
コンロの上に小さなヤカンを載せ 沸騰を待つ……

コンロの火でタバコに火を着けると一口吸う……



「あなたも、吸うでしょ?」

片目を瞑(つむ)って 彼に問いかける……



「…そうですね。」


彼女は 紙の小箱からもう一本取り出すと
自分のくわえているタバコを彼の口にくわえさせ
新しいタバコを自(みずか)らくわえる……


彼が煙を吸うタイミングに合わせてタバコの火口をくっ付けて火を移す……


二人は揃って虚空に煙を吐き出す……



「今度は……タバコ越し、じゃないキス……しようか?」


「…なかなか素敵な提案ですが、お湯も沸いています
お茶にしましょう…。」


「ふふ、……また今度ね」



そう笑うと彼女は 紅茶を 煎れ始めた…………