アトム

平気です!
ぼくは高性能ロボットですから!

クレシエル

マイノリティというのはどうしたって集まるしかない。セクシャルマイノリティなら尚更だろう。正当化できなくたっていい、一人じゃないのだと分かるなら。

ずっとそうやってきた。

シュナイツが俺に興味を持っていたのはすぐに分かった。だから寮長と仲のいいジャックにお願いして外出届の許可を簡単にもらえたのをいいことに、俺はシュナイツと毎週のように会っては互いの理解を深めた。

シュナイツは文句なしでいい男だった。

俺は兄に自分の性癖を明かすのと同時に兄の職場の人たちにも正直に話した。なんて言われても気にしないようにして、ただ人間として好感を持ってもらえるように努めた。もし同じ性癖の人がいたらという淡い期待も込めて。

しかし多くの人は俺を避けた。普通に接してくれる人はいたけれど、同じ性癖の人はなかなかいなかった。

その頃から俺と興味本位で関係しようとする人はいて、そういう人はだいたい俺より女性の方が好きだった。悔しくて卑屈になったことは何度もあったけれど、仕方ないと割り切っている自分もいた。これから先もそういう関係でしかやっていけないだろうと思っていた。

好きになった人が自分を好きだと言ってくれるのは、だからそれこそ信じられないくらい嬉しい。

シュナイツが初めて好きだと言ってくれた時、俺は図書館の隅で美術の本を見ていた。知らないものがたくさんあるのだと漠然とした気持ちで眺めていた。

「この彫刻好きだなあ」
「そう」
「…クレシエルも、」
「……」
「俺、クレシエルが、好き」
「……」
「ごめん、こんなところで」
「俺も、」
「……」
「俺も好き、です」

嬉しすぎて緊張するなんて初めてだった。どうして今まで平気で話していられたのだろう。目が合うと、身体が触れると、声が聞こえると、心臓が壊れるくらいに高鳴る。

本を仕舞おうとした時に腕が震えていることに気付いた。

ハグするにも力が入らない。近付くにも上手く歩けない。話すにもいい返事が見付からない。世界がどうかしてしまったみたいだった。

どうかしてしまったのは、俺。
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