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夢のない赤也くん夢

名前変換なし!赤也くんがほとんど活躍しません。












アドレス帳の『き』の行から、『切原赤也』を消した。でもこれは意味がない。なぜならアドレスも電話番号も覚えてしまったからだ。


赤也くんは待ち歌を設定している。あの、電話のコーリング音を変えられるやつ。

初めて一緒にライブを見に行ったインディーズバンドの、唯一ヒットした曲がそれだ。アルバムが妙に高くて、2人で半分こずつお金を出して買った。

赤也くんは5番目の曲が一番好きだって言ったけど、その曲はいつまで経っても着うたにならない。代わりにこの曲だけは、着うたにも待ち歌にも設定できる。



「…どうした?」

「ううん、用はないけど」



もうすぐサビに入るというところで、音楽が途切れる。聞き慣れた声が流れてくると、胸の中のもやもやがあっという間に薄れていった。でもこれは、電話を切った途端に数倍の勢力を持ってまた復活する。それが分かっていても、いちいち11ケタの数字とコールボタンを押してしまうのだから救えない。



「なんだよ、なんもないのかよ?」

「うん、何してた?」

「風呂入ろーかなって思ってたとこ」

「あ、ごめんね。入って来ていいよ」

「いや、別にいいぜ」



受話器から聞こえる雑音で、赤也くんが自室に移るのが分かる。

あのごちゃごちゃした、統一感のない乱れた部屋。あの部屋にもう一度行くことはあるんだろうか。優しくしてくれたお母さんに、別れたことが知れると思うと胸が痛んだ。



「数学の小谷、また赤点引き上げたんだよ」

「うっわ、まじかよ。うちも言われっかな」

「多分。赤也くんやばいね…あっ、それは元々か」

「るっせーな」



赤也くんが笑ってくれる。それが嬉しくて、私はまた取り留めのない話を続ける。

赤也くんは可愛くて面白いけど、怒るとすごく怖い。だけどそれは、いつもがとっても優しいからだ。こうやって赤也くんと別れた寂しさを、赤也くんで埋めている私を許してくれる。テニスコートを囲んで騒いでる、あの子たちはきっと知らない。


お別れは私が切り出した。赤也くんはひどく怒って、泣いて、でもその日から連絡を寄越さなくなった。それが答えなのだと思う。

私たちはお互いにお互いのことが好きで、それは間違ってない。だけど噛み合わなかった。

私は赤也くんの全部が知りたくて、全部が欲しくて、でも気付いた。この気持ちは普通じゃない。だけど我慢したまま付き合うのは、もっと辛いことのように思えた。

女の子とのメール、電話、交友関係。好きなアイドルの画像、ちょっとエッチなサイトのブックマーク。

私が疑うような事実はなにもなかった。女の子と遊んだりすることはあるみたいだけど、それだけ。赤也くんには私のいない赤也くんの世界があって、ただそれだけ。

誰も悪くない。赤也くんも、女の子たちも。私は何を知りたかったんだろう。



「赤也くん、あのね」

「ん?」

「携帯、買い換えて欲しいの。お金出すから」



携帯を見たと言った時も、赤也くんは怒らなかった。ちょっとびっくりしたような顔をして、『つまんなかったろ?』って笑う。

小さく頷くと、赤也くんはいつもより強い力で抱きしめてくれた。『不安にさせてごめんな』って、謝ってくれた。謝るのは私の方なのに。

あったかい腕の中で、肩に染みをつけながら泣いた。それはごめんなさいの涙じゃなくて、お別れの涙だった。



「私、このままじゃずっと赤也くんに頼っちゃうから。番号もアドレスも、変えて欲しいの」

「…そんなの、お前にとやかく言われることじゃねぇよ」

「お願い」



『私のこと、まだ好きだったら。』そう言えば、赤也くんが断れないのは知っている。

着信拒否や受信拒否は出来ても、発信拒否や送信拒否は出来ない。携帯電話は、そこまで人の心に寄り添うようには出来ていない。

私は赤也くんのことが大好きで、だからこそもう一緒にいたくない。

2番目に好きな人と結婚すると上手くいくっていうけれど、その理由がやっと分かった気がした。必死になり過ぎてしまうと、恋愛は上手くいかない。自分で自分の首をどんどん締めてしまう。



「ごめんね」

「うるせぇよ」



ブチッ。唐突に通話が切られる。真っ黒になった画面には、通話時間と通話料金が当たり前のように表示されていた。やっぱりなにも分かっちゃいない、この電子機器は。


今度こそ、赤也くんは私を嫌いになっただろうか。それならやっと、ハッピーエンドを迎えられる。









なんじゃこりゃ\(^O^)/

いつか赤也くん視点も書きたいです。ていうか赤也くん視点を書かないと、この話は訳が分からん…でも絶対書かない(笑)
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