暗くなった電車の窓に、映る自分に問いかける。

あなたはどうしてそんなに鼻が低いの?目が小さいの?どうして、どうして、どうして…

雑誌やテレビを見るのは好き。アイドルや女優さん、きれいな人を見るのは楽しい。どうしてそんなに鼻が高いの?目が大きいの?顔が小さいの?どうして、どうして、どうして…


「ユキちゃん、なに見とるんじゃ」


背中が、ふいにあったかくなる。肩の上に乗ったその顔をまじまじと見ると、雅治くんは少し首を傾げて見せた。その表情だけで、雑誌の巻頭グラビアが飾れそうだなんて思うのは贔屓目だろうか。


「どうして雅治くんはそんなにかっこいいの?」

「……その質問、もう聞き飽きたのう」


アイプチもメザイクもしてない、くっきりした二重の線を指でなぞってみる。それからすーっと通った鼻筋、少しだけ整えられた眉。

最後に頬をつねってみると、さすがの雅治くんもちょっぴり間抜けな顔になる。

体をよじって、わざとらしいくらいにぎゅっとくっつくと、結び切れない髪の散るうなじからほんのりと香水の匂いがした。ねぇ、これどこで買ったの。私の知らない、新しい匂い。


「私、生まれかわったら雅治くんになりたいなぁ」

「なんじゃそりゃ」

「それでね、そこら中の女の子と付き合うんだー」


私がそう言うと、雅治くんはためらいがちに笑う。本当にやってたらどうしよ。もしかして私もその一人だったり?

それともくだらないって呆れたのだろうか。でも、ほんとに思ったんだもの。


「そういう時は、『お互いが入れ替わって生まれてもまた結ばれようね』、って言うんじゃなか」

「ええー、ドラマの見すぎー」

「かわいくないのう」


視界を反転させて、雅治くんだけにする。ちゅ、と1つだけキスをして、どさりと隣に倒れこんだ。


「雅治くんにはわからないよー、容姿に恵まれない者の苦しみは」

「そうじゃな」

「うわ、そういう時は『俺なんか大したことないです』って言うんですー」

「おまえさんがさっきかっこいいって言ったんじゃろ」

「それは…そうだけど」

本当にわかっているのか、わかっていないのか。

私がわざと拗ねた顔を作ってみせると、今度はきゅーっと目を細めて笑ってくれる。

深い二重の線がまぶたにのみこまれて、目尻には細かい皺。

右に2つ、左に3つ。いつもの冷たそうな印象は、あっという間になくなってしまう。


「…俺は好きじゃよ、ユキちゃん」

「なにが?」

「このちぃこい目も、低い鼻も…ぷくっとした頬も。気に入っとる」


さっきの真似をするように、雅治くんの指先になぞられる。

無理やり二重にしたまぶた、わざとらしく主張するつけまつげ。鼻筋をすすーっと辿ると、仕返しとばかりに頬をつねられた。いひゃいよ、と抗議すると雅治くんがいたずらっぽく笑う。


「それから…この唇も。一番好きじゃ」


下唇を食むように吸われていたのが、今度はちゃんと合わされる。逃げようとすると頭を抑えられて、ますます奥まで入られる。

優しいのに、絶対逃してはくれなくて。くらくらしてきたところで、やっと解放された。


「かわいらしい顔になったの」

「……ばか」

「いい加減素直になりんしゃい」


ねぇ雅治くん。雅治くんって、どうしてそんなにかっこいいの。









たまにはこういうのもよかろ?ってことで勘弁して下さい…

オリンピックが東京に来る頃には30になっているという衝撃