久々!(笑)

ヒロインを好きになる男の子:肥沼くん






「付き合ってほしいんだ」


かぁーっと頬が熱くなって、胸がどくどくと脈打つ。

きっと耳まで真っ赤になってるんだろう、恥ずかしい。当の本人は、なかなかに涼しい顔をしてるっていうのに。


「今じゃなくっていいから、考えといて!」


そう言い残して走り出す背中を見送りながら、違う人の背中を思い浮かべる。



その背中は、昨日と同じようにぐいんと曲がっている。大会が近いからか、机に突っ伏したその姿をもう何度見ただろう。
先生も半ばあきらめているのか、何も言わずに隣を素通りする。

午後一番の授業、そろそろ眠くなってきたけれど、手の甲をぎゅっとつねってシャーペンを走らせる。

私は授業では寝ないことにしている。とくに、英語の授業では。



一年の時におんなじクラスだった肥沼くんとは、そんなに仲がいいって訳でもない。

だからといって意地悪されたこともないし、割りと仲良くやっている方だと思う。去年からずっと片想いしてくれてたのかと思うと、自分の鈍感さに笑えるような、気付かなくて良かったような。


『…あのさ、ノート貸してくんね?』

たまたま黒板を写しきれなくて、休み時間に急いでノートを書いていた時。初めて切原くんから話しかけられた。

3回めの席替えでやっと近くになれて、それだけで良かったのに、そんな風に言われたものだから今もどこかで期待してる。

色分けされた要点とか、まっすぐに引かれた下線とか、かしこまった文字が馬鹿みたい。あれから使い始めたペンは、とうとうかすれて書けなくなってきてしまった。


もし肥沼くんと付き合ったら、どうなるだろう。クラスのみんなにも、いつかはばれるのかな。冷やかされて、ほんの少しの間だけ噂になって、そしたら切原くんはどう思うかな。きっと、なにも思わないだろうな。

近くのロフトで新しいペンを探しながら、ぼんやりそう考える。

真面目な性格の肥沼くんに、ノートを貸すことはきっとないだろう。

こんな気持ちで付き合うのはいけないのかもしれないけれど、一緒にいれば好きになれるのかな。だったら、


「やめとけよ」


振り返ると、切原くんがいた。

こんな近くで、話したことなんてない。胸にぐっとなにかを押し込められたみたいに、急に息苦しくなる。


「そのペン、すぐ出なくなっから。俺も前に買って…あ!先輩、そんなとこにいたんスか〜」


じゃーな、って帰って行く背中を、今度は見送れない。

あぁ、やっぱり切原くんにはかなわない。きっと明日も、ちゃんとノートを取ってしまうに決まってる。











切原くんがほぼしゃべりません(^O^)