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小話

千種夢。なんやかんや捏造しています\(^O^)/



千種と犬は小さい頃からの仲間。ずっと助け合って暮らしてきた。食べ物は分け合い、水は少しずつ回して飲んだ。量は少なくなるけれど、一人よりずっと幸せ。みんなで食べた食べ物からは、いつだって自由の味がする。
二人とも同じくらい大切な仲間だけれど、いつからか特別になっていたのだ。その大きな背中とか、眼鏡を直す仕草とか、犬に泣かされた時にそっとなぐさめてくれる優しさとか。
だから私は、何でも一番は千種にあげることにした。初めて食べたまあるいあめ玉も、底に残ったちょっぴりの缶ジュースも、見つけたら一番は千種に。それから犬に、それから自分に。そう決めた。それはちっぽけな私のこだわり。一番を千種がもらってくれると、とっても嬉しかったものだ。

時が経ち、私は大人になった。今はもう何だって買える、あめ玉も、チューインガムも、チョコレートボンボンだって食べられる。だけど同じように大人になった千種は、私の一番を別の人にあげてしまうのだ。


「はい、クラスの子がくれたから」


駅前で買った袋入りのクッキーを、ちょっとした嘘でくるんで渡す。千種はこういうゼリーのついたクッキーが好きだって、なぜだか私は知っている。


「ありがとう。…骸様、いかがですか」

「結構ですよ。お前達で食べなさい」


一つ食べれば?と差し出されたそれから、急に興味が失せていくのが分かる。いい、いらない。犬にあげて。そう言って部屋に閉じこもった。

骸様に出会って千種は変わった。相変わらず無口で無愛想だけれど、明らかに何かが変わったのだ。いや違う、犬も私も変わってしまった。きっと今の私達は、骸様に命じられればお互いを殺すことだって厭わないだろう。それが少し怖い。

骸様、いかがですか。さっきの言葉を、無意識に反芻する。骸様いかがですか。むくろさまいかがですか……頭をぐるぐる回る度、黒いもやもやが心を汚していくようだ。誰も悪くなんかないって分かってる。だけどこのもやもやが消えない。消えてくれない。じわっと染み出た涙は、こぼれることなくすぐに引っ込んでしまった。私も、もう慣れっこだ。

やっぱりあれ、一つくらいは食べようかな。犬が全部食べてなきゃいいけど。そう思って部屋を出ると、千種がビリッと包装を破いたところだった。真ん中に赤いゼリーのついたクッキーが、口内へと消えていく。


「…犬にあげなかったの?」

「寝てたから」

「……骸様は?」


近くに座って、クッキーを嚥下する姿を見つめる。不自然なほど、なんの感情も生まれなかった。昔はあんなに、この横顔が好きだったのに。


「骸様はさっき外に…」

「私、千種みたいな人がいいな」

「…え、」

「だからさ、付き合うなら千種みたいな人がいいってこと」


心なしか、千種の頬がほんのり赤くなったような気がする。馬鹿な千種。本当は、千種みたいな人がいいんじゃなくて、千種が良かったんだよ。もう二度と言わない言葉を、クッキーと一緒に流し込む。

甘酸っぱくて、美味しくて、少し懐かしいような味だった。骸様と犬にもとっておこうねと、二人で話した。











赤いゼリーついてなくてもいいから、クッキー食べたいです(笑)
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