小雨が降って間もない時間、電車に乗った。
どの座席も人がいっぱいで座れなかった。
しかたなく、降りる駅の階段に一番近い車両へ移動したときだった。

窓の外に大きな、とても大きな七色の弧が見えた。
心の中で「あっ」と声を上げた。
車内を振り返ると、乗客は誰も空に映る奇跡に気づいていないようだった。
みんな買い物や仕事帰りで疲れていたのだろう。 

あの瞬間、自分には見えたけれど他の人たちには見えなかったものを私は見たのだろう。
そういうのは幽霊だけだと思っていた。
けれども身近なところでそういう現象は起きるのだと思った。

ただの光の反射だとか不吉なものだと言う人もいるが、私は虹を綺麗だと思う。 
普段の生活の中では滅多に見られないから。
作ろうと思えば作れるけど、 あれが空に浮かぶから凄いのだと思う。
意図的ではない、自然が空に生み出す奇跡だ。
あれには届かない。
掴んでおきたくても時間が経てばやがて消えてしまう。
一瞬の奇跡。
その奇跡を自分だけが目にすることができた。
なんだか優越感に溢れていた。

けれど、あの光景をどれだけの人が目にし、どれだけの人が気づかないまま過ごすのだろうか。

果たして日常に、どれだけの奇跡を目にしている人がいるのだろうか。

もしかすると今、この時、この場で奇跡が起こっているかもしれない。
私はただそれに気がついていないだけで、気がつけば世界はもっと彩られるかもしれない。