………


ここは ベルグとさな の部屋…
ダブルベッドの足元側に
置かれた
3つの 木のブロック……

そこに さな ベルグ ベルにゃん がそれぞれ座っています……



「ねぇ…ベルグぅ……
今日(きょう)は どんな
お話しをしてくれるの?」


普段は2つに分けたツートップの灰白色の髪を下(お)ろした幼女が
群青色の瞳を褐色肌の少女に向けてきます……



「……そうだな

これからの物語……

というのは どうかな?」



普段は首の後ろで一纏(ひとまと)めにしている暗緑色の髪をほどいた少女が答えます……



「…これからの物語?」



「…それは どういう事にゃ?……」



さな と 茶色い体毛と緑の瞳をしたネコが聞き返します……



「……これから書かれる
いや 作りあげていく
お話し?……かな」


髪と同じ暗緑色の瞳でベルグは語ります……



「ベルグ!
説明に なってない…」



「…そうにゃ
詳しく聞きたいにゃ……」


さな とベルにゃんは 寝る前に
木の本棚にある本をベルグに読んでもらっているのです……

そして今夜 ベルグが選んだ本は……

空飛ぶ牛車 と題名が見えます…


ベルグは本を 手に星明かりの下(もと) カンテラの灯(あか)りをその身に受け 座ったまま
語り始めました……



「……これは
…始まりを待つ 物語……

いまは舞台と大道具だけが存在するのみ……

君たちは この舞台に立ち
与えられた役を演じて この物語を完成させて欲しい……

……………

……さぁ 共に物語を作ってみないか?」



「…えっと?

どういう…こと?」



「…なる程(ほど)にゃ……

登場人物に 成りきって
お芝居を演じる…

ワタシ達も物語の中に登場できる……
という事かにゃ?」



ネコの女神座りで ベルにゃんは呟(つぶや)きます……



「……さすがは ベルにゃん……
理解が早い……

打てば響く…だな……」



「…ワタシと ベルグ……
つーかーの仲ですにゃ……」



…ベルにゃんはベルグの記憶を複写(コピー)して作られた魔物なので お互いの考えている事がよくわかるのです……


「……へぇ〜

よく わからないけど…

おもしろそう……

ベルグ………
始めてみて…」



さな は興味を持ったみたいです……



「……じゃあ
さな が主人公で 始めるよ」



「あっ…
うん!

なんだか緊張するなぁ……」



「…大丈夫にゃ
さな が物語の登場人物として
思った事を言えば いいにゃ……」



さな の隣(となり)で ネコの ベルにゃんが助言します…


その様子を見届け
ベルグは本を開き 語り出します



ベルグ:「……場所は 旅立ちの地 シュリンガー公国…市場(いちば)前……
様々な人々が行き交っている……
この国は険しい山中に築かれており気候は寒く 家々の周囲には雪が降り積もっている…

人々は厚手の服装をして寒さに耐えているようだ……

……時刻は お昼時だろうか……

モノを売る商人の声…

魔物討伐に行く為 仲間を集う冒険者…

貸し倉庫の前でアイテムを出し入れしている者…

屋台に群がり食事をとる者……


市場前(いちばまえ)の広場は いちだんと混雑している…




そして…その混雑のなかにキミは いる……

…………」


ここまで 話すとベルグは
横にいる さな に顔を向けます…



「…えっ?

な …なに?
ベルグ?」



さな はどうしていいか
わからず 焦(あせ)ります


「…“キミ”というのは
ベルグが話し始めた物語の中の さにゃ の事にゃ…
今までの話しを聞いて
さにゃ が 登場人物“キミ”として 喋(しゃべ)る
なり行動を起こすなりするにゃ……」



ベルにゃんが助け舟をだします……



「あっ!
…うん やってみる!」



さな は目を閉じ
少し考え…

さな:「…それにしても
お腹が空(す)いたなぁ……
どこか 食事のできる場所(ところ)は……」



ベルグ:「…残念ながら
屋台は どこも混雑して
入(はい)れそうにない……
今“キミ”は 持ちZell(ゼル)は6Zellしか無い事を
思い出した……」



「えぇ〜〜何も買えないよ〜〜」


思わず さな は声をあげます……



「…さにゃ
物語の中の“キミ”として行動するにゃ……」



「そうだった……

…えっと Zellが落ちてないか 足下(あしもと)を見回すよ……」



「…さにゃ
その調子にゃ……」



ベルにゃんの手助け(サポート)で さな は物語の中に入れていけそうです…



ベルグ:「……“キミ”が多くの人々によって踏み固められ
黒くなった地面を キョロキョロと見回していると…
頭に何か当たるのを感じた……


そして 目の前の地面に小さな物が落ちているのに
気付く……

さっき“キミ”の頭に当たって落ちた物だ!


“キミ”は どうする?」



さな:「…いたっ!?

何? コレ…!?」


「そう言って 拾うよ……」


ベルグ:「……半円球に細い棒の付いた とても小さな物を拾い上げると

“キミ”は 思わず頭上を見上げた……」



「頭に当たったってことは

空から落ちてきたって…
事だよね…」



「…そうにゃ
さにゃ は理解が早いにゃ……」



さな と ベルにゃんのやり取りにベルグは満足気(まんぞくげ)です…

ベルにゃんが さな に助言してくれるので お話しを集中して考える事が出来るのです…



ベルグ:「……空を見上げた“キミ”の目に 小さな黒い物体がシュリンガー公国の巨大な出入り門の方へ上空を横切って行くのが映る……

“キミ”は………?」



「それを おいかける…」



ベルグ:「……その黒い物体は門を越え 雪山と草原 の方へ ゆっくりと 降りて行く様だ……


上空の様子に気付いたのは“キミ”だけ…

王宮前の二本サクラを通り過ぎ……

大通りを走り……

門をくぐり抜け
雪の積もる長い石段を
駆け降りる…

右手に客待ちの牛車を視界の隅(すみ)に捉(とら)え

分かれ道で立ち止まる…

まっすぐ行けば 国境沿い…左へ行けば 不老不死の村や 神へ至る道 滅びの村……

“キミ”は 空を見上げ
物体の方向を確認する…


黒い何かに牽(ひ)かれた 牛車?の底面が見えた…

……


“キミ”は左に立つ掲示板は崖の下にある事を 知っている……


その崖の上に目的の物体が確証は無いが そこに降りると 感じた……


間違っているかもしれない…


“キミ”は………」



「とにかく 崖の上に行ってみる!

……何が あるんだろう

ちょっと ドキドキしてきた……」



「…にゃ……

さにゃは すっかり気に入ったみたいだにゃ……」


「うん ……さきが気になるよ…」



ベルグ:「……“キミ”は
滅びの村に続く坂を登り
途中で左に向かう…
そこは広場になっており

大きな木が1本広場の端に立っている…

その根本(ねもと)に目的の物体が 静かに佇(たたず)んでいる……

“キミ”は………」



「ゆっくり近づいて 様子をみるよ……」



「…さにゃ 用心して
後ろから近づくにゃ…」



「うん
そうする!」



ベルグ:「……“キミ”は
その物体の 後ろ側から近づき様子を伺(うかが)う……
さっき石段の側(そば)で見た 牛車に 似ている…

よく観察すると客車が
いつも見ている牛車の物より長い……
それを牽引(ひ)く 角牛も 紫色の毛並みではなく
黒い色に見える……」



ベルグ:「…もう大丈夫かしら……」


ベルグ:「“キミ”の目の前で
客車の扉が静かに開き
杖を付きながら ひとりの女性が降りて来た……

黒い修道士服(パティシエ)から覗(のぞ)く 手足は細い…
肌の色は白く
黄色の長い髪を2つに分け
その毛先は螺旋状(らせんじょう)に巻いている…」



ベルグ:「…あらっ?

そこに誰かいるの?……」


ベルグ:「…杖を頼りに草地に降り立った彼女は “キミ”の方へ顔を向ける…その両目は閉じらていた……」


………………………



「……今夜は ここまでにしよう……」



ページに栞(しおり)を 挟(はさ)み ベルグは本を閉じました…



「えぇ〜!?

もう 終わり?

ぜんぜん 物足りないよ〜!!」



「…ベルグ

話し(ストーリー)が始まって いないにゃ……」



さな とベルにゃんが不満の声をあげます…



「……わかっている

思ったより 長くなってしまった……

それに……
夜も更(ふ)けてきている……

そろそろ寝なくては
明日にひびく……」



「それは…
そうなんだけど……」



「……さな 次回のために “キミ”が
どんな外見をしているか
考えておいてくれ……」



「…それって?」



「…さにゃ が この物語りの中で演じる人物(キャラクター)の設定にゃ……

髪の色や 肌の色 服装
性別……等(など)にゃ

あとは……名前も必要かにゃ?」



「ん〜

名前か〜……」



「……さな が
“キミ”のままでいいなら
それで すすめるが……」



「うーん……
…考えてみる!

それと…ベルグぅ〜……」



「……ん?
なんだ?……」



「もちろん
ベルにゃんも登場(で)るんだよね?…」



「…にゃ!?」



「……あ…

…あぁ……そうだな……」


ベルにゃんとベルグは
思わず顔を見合わせます……



「そうだよね

ベルにゃんも まだ登場(で)てないだけで 物語りの中でも わたし達と一緒に冒険するんだよね…」



さな の群青色の瞳が
ベルグとベルにゃんを
まっすぐ見つめます…



「……あぁ

もちろんだとも……」



「…そうにゃ

ワタシ達は いつも一緒にゃ……」



「よかった〜

わたし達は これからも いつも一緒だよね……」



ベルグとベルにゃんは
頷(うなず)きます……



「…ふぁ〜〜…

ねむくなってきたみたい…
もう 寝るね……

ふたりとも おやすみ……」



「……あぁ

おやすみ さな……

よい夢を……」



「…さにゃ

おやすみにゃ……

よい眠りを……」



さな はダブルベッドの左側に
もぐり込みました…


やがて……
かわいい寝息が聞こえてきます…



「…さにゃ は寝入ったようにゃ……」



「……そうだな……」



木のブロックにベルグは腰掛け ベルにゃんは 香箱座り で会話を続けます…



「…色白肌に長身とは……
まだ自身の身体が嫌いなのかにゃ?」



「……ベルにゃんはワタシなのだから わかっているはず……」



「…もちろん解(し)ってるにゃ…

どんなに自身が嫌いでも
さにゃ がベルグの身体 性格 共々(ともども)気に入ってくれているからにゃ……」



「……ワタシには 過ぎたパートナーだよ…」



「…そうにゃ
大事で大切なパートナーにゃ……


創られる物語りの中で
さにゃ は どんな人物(キャラ)を演じるのかにゃ?…」



「……ベルにゃん こそ…
どんな人物(キャラ)を演じる?…」



「…そうにゃ………

ワタシは………」



……………

…………………

…………………………



これからの物語りについてベルグとベルにゃんは

考えを述べあいます……



……こうして 寝る前の
ひとときを眠くなるまで
過ごすのです…


今夜も もう遅いです…

皆さまにも よい夢を……


………眠りに就く前の ひとときに ーおわりー