前回のひとりごとより……

ワタシ達の目前に
エリアボス コノミグランマが出現(あらわ)れた……


………………


今なら まだ引き返せる
後ろの 帰還ポイントに触れるだけで 元の世界へ帰れるのだ………


ワタシ達は しばらく グランマとにらみ合いを続ける……
魔物の間合いに入らぬ限り戦闘は始まらない……


「……どうする?」

パートナーがワタシを見上げる……
頭頂部で左右に分けた灰白色の髪が不安そうに風に揺れている……


「……修道士(モンク)として戦って以来 ワタシは色々な職業を習得してきた……
今回は聖騎士(パラディン)として再挑戦……どちらも神に仕える職業……皮肉なものだな……」


「…………」


「……コノミグランマ
倒さなければ ワタシは前に進めない気がする………
ワタシのワガママに付き合わせてすまない………」


「…………………」


「ワタシが倒れたら すぐさま脱出してくれ………
最後に祈りをささげたのは連邦 城塞都市 入り口にいる修道士だったはず そこで再会しよう………」



突然!パートナーがワタシを正面から抱きしめ


「……だいじょうぶ
きみは 負けない……
わたしが いるから……」

「負けることは 恥ずかしいことじゃないよ………
戦わないことが恥ずかしいことなんだよ……
……だから わたしに謝(あやま)らないで………いっしょに戦おう?」

ワタシの胸に顔を埋(うず)めたままパートナーが語りかける………


「……わかった 共に生還(せいかん)しよう…」


パートナーの言葉に勇気づけられ …ワタシは……ワタシ達は一歩 踏み出した……コノミグランマの間合いへ………





………戦闘が始まった
ワタシは聖騎士のスキルを駆使(くし)して戦う
パートナーも攻撃力上昇
攻撃 回復 相手の攻撃防御下降と スキルを駆使する

しかし 伊達にエリアボスに君臨しているだけあって簡単には終わらない…

戦闘は長引く………


特にワタシは聖騎士(パラディン)の特性で相手の攻撃が集中する……
一次職を全て習得し攻撃力 防御力 共に上がっているはずだが………
ワタシの攻撃は相手に届いているのか……
それに相手の攻撃を受けると キツイ……
自己回復スキル“プネウマ”でなんとかしのいでいるのが現状だ………


まだ ワタシ達には早すぎた挑戦だったか?

あきらめの心がわき上がる……

「しっかりして!!

心をつよくもって!

あきらめないかぎり先に
進めるよ!!」


ワタシの折れそうになる心を知って パートナーが発破(はっぱ)をかける…


……そうだった 強い思いは人を魔物に変えるし時間だって越えられる……
これまで 見て 聞いて来た……
あきらめないかぎり

なんとかなる……

なんとかする……

これまでそうして来た
そしてこれからも……


ワタシは勝利を信じて片手剣“リズビット”の柄(つか)を強く握りしめた……

……!?


その時 一本の矢が グランマの頭頂から身体(からだ)に吸い込まれて行くのが見えた……


「ねぇ 生きてる?」


…!!


そして次の瞬間ワタシの目に映ったのは
灼熱に熱せられた岩石が
グランマの身体にめり込んでいく光景………


「パーティーには間に合ったな…」



周りを見渡すと既(すで)に2本目の矢を弓につがえた女性冒険者
巨大な斧を軽々と肩に担(かつ)いだ男性冒険者がいた………



「な……なぜ?」

思わず口にする


「たまたま酒場に寄ったら救援依頼があったからな」

「助け合うのも冒険者の仕事よ…」


「……ありがとう」


「礼は いい まずはコイツを ぶっ倒してからだ」


「そうよ 目の前の戦いに集中して…」



会話しながらも攻撃の手は緩(ゆる)めない………


パートナーの言う通り
あきらめない心が助っ人を呼んだのだ……



その後も1人 2人と 助っ人は増え あれほど苦労したエリアボス戦は あっけなく終わった……




「……本当にありがとう」

ワタシは帰還ポイントに向かう冒険者達に頭を下げる…


「また どこかで会いましょ…」


「また呼んでくれよ」


短く言葉を交わすと

冒険者達は元の世界へ帰って行った………

後(あと)はワタシ達だけ……
この静かな世界に残った…


「わたしたち やれたね…」
パートナーが明るく笑う


「……あぁ 君(きみ)の言う通りやりとげる事が出来た」


「ふふっ もうだいじょうぶだよね…」


「…誰も倒れなかった あの時とは違うのだな……」


「うん きみだけでなく 救援に来てくれた冒険者たちも強かったね…」


「…そうだな 参加人数が多かったとはいえ誰もが余裕で戦っていた…」

「皆 強くなったのだな……」


「わたしたちも もっと強くなれる…」


「……そうだな 努力しよう」



「うん わたしたちも帰ろうか?」


「…元の世界に」

「もとの世界に…」



そして………
ワタシ達は帰還ポイントから元の世界に帰った………