…………



“ベルグとさなの部屋”


ネコのベルグ“ベルにゃん”は ひとまず ここで暮らしてみる事にしました…




ネコの ベルにゃんは
ベルグ達のダブルベッドの下で寝ているみたいです……


朝陽がベッドの隙間に差してくると ネコのベルにゃんは起き出してきます…

あくびをひとつすると
身体全体で大きく伸びをして
毛繕(けづくろ)いを始めます……

舌と前足を使って たっぷり時間をかけ 茶色い全身の毛を くまなくブラッシングをしていきます……


それが終わると ベルグとさなの部屋 の敷地内を
ゆっくりと歩きます……



(…あそこの家具は入れ替えたほうが いいにゃ

……ここの草むらは邪魔にゃ

やはり 撤去すべきかにゃ……


にゃ?

…このヤシの木は この庭には合わない気がするにゃ……

ベルグにも 一言(ひとこと)いうべきかにゃ……)



歩き回りながら ハウジングの事を 考えているみたいです…




ひととおり 敷地内を歩くと
台所(キッチン)の区画内
真ん中にある食器等置き場(テーブル)に 軽々と飛び乗り…
アルストラ座り をしました
そして瞼(まぶた)を閉じます…

しかし耳だけは動いています…

ネコのベルにゃんは 浅い眠りに入ったみたいです……


………………




しばらくすると草地を踏む若い女性の足音が聞こえてきます…


扉も壁もないキッチンの入り口で 足音は止まります…



“…コッ…コッ……”



石造りのブロックを組んだ柱をたたく(ノック)する
小さな音が辺(あた)りに響きます……



「…ベルにゃん様……

メイドのスノゥです……

よろしいでしょうか?…」


その声の方向に ネコの ベルにゃん 首を廻(めぐ)らし 瞼(まぶた)を開きました…


シュリンガー公国メイド隊のくすんだピンク色のメイド服を その身に纏(まと)った女性が
いつもの笑顔でバスケットを右手に佇(たたず)んでいる姿が その緑色の小さな瞳に写ります……



「…スノゥ?

……にゃ

入室(はいって) いいですにゃ……」



ネコの ベルにゃんは
メイドのスノゥに答えました…



「では…

ベルにゃん様 入室(おじゃま)します……」



メイドのスノゥは 扉もない入り口に一礼(お辞儀)すると ゆっくりと軽やかに
ネコの ベルにゃんの座る テーブルに近づきます……



「お食事を お持ちしました…


どうぞ お召し上がりくださいませ……」


ベルにゃんの座る
テーブルに白い平皿を
静かに置きます…
そして右手に提(さ)げたバスケットから クロックムッシュを 取りだし
その器に盛り付けました……

その隣(となり)に 水の入った皿も 並べます……



それが終わると メイドのスノゥは ネコの ベルにゃんから 一歩下がって静かに佇(たたず)みます……


一連の動作は よどむことなく自然で 清き流水の如(ごと)しです……


……………



「…スノゥ

そこに立たれると 落ち着かないにゃ……

せめて 座って
くれないかにゃ……?」



クロックムッシュの載った皿を目の前に ネコの ベルにゃんは メイドのスノゥに頼みごとをします…


……………



「ベルにゃん様…

メイドとして いかなる事態にも対処しなくては なりません…

わたしのことは 気になさらず
お食事を はじめてくださいませ……」



細い眉を少し困ったように ひそめ メイドのスノゥは
言葉を返します…



よく動く小さな耳で それを聞き ベルにゃんは
考え込みます……



「…にゃ?

…………………

それならば…
ワタシと一緒に食事をしないかにゃ?」


ネコの ベルにゃんは その小さな顔を メイドのスノゥの方に向け提案をします…



「…!!

まぁ!

にゃんこさんは
ご主人様と同じことを おしゃるのですね!」



両手を胸の前でパチン! と合わせて
スノゥは 感心しています…



「…どうかにゃ?」



「…食事は先に済ませてきているのですが……

…………」


「…ダメかにゃ?」


軽く握った右手を顎(あご)にあて メイドのスノゥは
いつもの考える仕草(ポーズ)を取ります……



………



「…では

ベルにゃん様…

お付き合いさせて いただきます……」


「キッチン(ここ)は 少し狭いので…

緑石絨毯(みどりとじゅうたん)の間に移動しましょう…」



緑色のカラーブロックを隙間(すきま)だらけの壁の角(かど)に敷き詰め
そのカラーブロックの上にチェックの絨毯(カーペット)を置いた区画が
キッチンの隣にあります…
2人はそこに移動しました…


絨毯(カーペット)の上に お盆で運んだ食器を並べ
ふたり向かい合わせに座り……



「「いただきます…にゃ…」」


2人は食事を始めました……


パンにハムとチーズを挟(はさ)んで両面を焼いた クロックムッシュ…
それを ネコのベルにゃんが食べやすいよう小さく切り分けられ
白い平皿に盛り付けられています……

ささやかなスノゥの心遣いに ベルにゃんは 嬉しくなりました……


その スノゥはティーポットで紅茶を煎(い)れ
3段になったケーキスタンド“アフタヌーンティーセット”からスィーツを摘まんで 午前のお茶を楽しんでいます……


(……ふふっ 食事している にゃんこさん かわいい……)


受け皿(ソーサー)にカップを戻すと ニコニコと ネコのベルにゃんの食事を眺めています……



「……!!」


「……あら?

倉庫に 家具が送らてきました…

……………

これは……

……桜の…木?……

……ご主人様から?」


メイドのスノゥは驚きました…

はじめてみる家具だったのです……



「…にゃ!

…無事 アルスト学園に 入学できた みたいだにゃ……」


食事を終えた ネコの ベルにゃんが 答えました…



「…マーロ共和国とクリシュナ魔王国が共同設立した
あの……学園に…?」


メイドのスノゥが思わず
聞き返します……

「…そうにゃ

まだテスト開校で3週間のお試し体験入学にゃ…」


口の周りの汚れを舌と前足で
きれいになめとりつつ

ネコの ベルにゃん話し続けます…



「この家具(桜の木)は
いま ご主人様達が集めているのですね…」



「…ちかいうちに家具の入れ替えがあるかもしれないにゃ……」



「それは楽しみですね

………………

……にゃんこさん

そろそろ わたしは お仕事に戻ります…」



「…そうかにゃ

今日は ありがとにゃ…」



「こちらに お水とお茶

置いときますね…」


浅く白い深皿に それぞれ 水と紅茶を満たし
メイドのスノゥは立ち上がります…

ネコの ベルにゃんは白いストッキングに包まれた
スノゥの足元に近づき その小さな身体を擦(こす)り付けます……


「……ふふっ

にゃんこさん…

くすぐったい……」



「…スノゥ お仕事
気をつけてにゃ…」


そう言うと ネコの ベルにゃんは隙間(すきま)だらけの 石造りのブログとステンドグラスブロックで出来た壁をやすやすと登り
ちょうど日陰になるブロックの隙間に入り込み 香箱座りをしました…



「では ベルにゃん様

洗い物を済ませてから

行きますね……」


ベルにゃんを 見上げ スノゥは 一礼すると
食器を洗うため
キッチンに向かいました…

キッチンの中
竈(かまど)の左側に
湧き水を利用した水汲み場あります

………………

ティーポットやカップ
皿を洗う音が
ブロックの上で瞼(まぶた)を閉じて座る ベルにゃんの耳に入ってきます…


やがて その音も聞こえなくなりました……


メイドのスノゥは
他の部屋の点検と手入れに 向かったのでしょう……



……………



ネコの ベルにゃんは 緑色の瞳を閉じたまま 時折(ときおり) その茶色い毛並みに包まれた小さな身体を吹き抜けてゆく 涼し気(すずしげ)な風の音を聞いていました……………




……………ベルにゃのおはなし その4 ーベルにゃんの1日(いちにち) 前編 ー