ある冒険者のひとりごと……12 連邦市場にて 其の仁

前回のひとりごとより……

ワタシはパートナーの提案により共和国服を市場に出品する事になった……



「共和国服上衣と出品チケットを1枚 コレを市場の娘に渡して……価格は切りのいいところで5000Zell
と……」

共和国服下衣も同じように5000Zellで出品した……


「あとは城塞都市入り口の掲示板に“共和国服(赤)5000Zellで出品”と書きこむだけだね」

嬉しそうに笑うパートナー
ワタシには彼女の笑顔が眩しい……

ワタシとは何もかもが正反対……だからこそ彼女に惹(ひ)かれるのかもしれない………






しばらくして市場を覗(のぞ)くとワタシが出品した共和国服は上下とも売れてしまっていた……


「また 出品しようよ」

パートナーがはしゃぐ


「…えっ?」

ワタシは一回きりのつもりで出品したのだ……
なぜ?とパートナーの顔を見下ろす…
パートナーはワタシより背が低いため そうなってしまう……

反対にパートナーはワタシを見上げるかたちになる………


「掲示板に書いてあること
うそにするの?」


「…まさか その事を見越して……」


「なんのことかな?」

パートナーはにっこりと笑う……


ワタシは背中を冷たいものが流れるのを感じた……



……掲示板は新しい書き込みがあれば以前の書き込みは上へおしやられる…
逆に書き込みがなければ 以前の書き込みがいつまでも衆人の目に晒(さら)され続けられる事になる……

つまり掲示板に書き込みがあるかぎり共和国服を出品し続けなければならない……



フゥ〜……

ワタシは一息つく
煙草(たばこ)が吸えれば
一服(いっぷく)したいところだ………




「……先(ま)ずはトラ狩りだな……」


「アルストラは“山と海とビーチ”にいるね…」


共和国服の素材の一つ “動物の皮”はアルストラから採れる コレが 倒せば必ず入手出来るわけでは無い……
だからこそ真っ先に入手する必要があった……


ある冒険者のひとりごと……12 連邦市場にて 其の壱

前回のひとりごとより……

“星祭り”会場を後にしたワタシ達はアブル連邦市場にいた……



ワタシは ここら辺りでいちばんの美少女(自称)をうたう市場の娘に品目を見せてもらう……


「……特に欲しい物はないか……」


「わたしにも見せて」

パートナーが後ろから覗きこむ……

「ふ〜ん……あれ? ちょっとコレを見て」


パートナーが指差す先を
今度はワタシが覗きこむ…

「……共和国服上下それぞれ8000〜200000Zell ?…」

「ちょっと高くない?」

パートナーが眉をひそめる

「確かワタシ達が購入した時は上下合わせて32000Zellだったかな? あの時よりは最低価格が下がってるな…」


「そうだけど…きっと欲しくても買えない冒険者(ひと)もいると思うんだ」


「…まっ 居るだろうな……しかし頑張って職業レベルやスキルレベルを上げれば いいだけの事…
ワタシ達も そうやって魔物門番や魔物神父を倒してレシピを手に入れた……

ワタシは間違っているか?」




ワタシは他人と共闘するを良しとしない……野良パーティーで参加することもあったが 近頃は入ることを 躊躇(ためら)うようになった……レイドボスにも挑戦する事なく日々を過ごしている
エリアボスも倒せないワタシなど参加しても足手まといだと思う………






「でも わたし達にはレシピも合成素材もある
活用しても いいんじゃないかな?」


「…しかし……素材を集めるのも…簡単……では………」


…ワタシは見苦しく言い訳をする………
…ち 違う そういう事が…言いたいんじゃ……



パートナーは真っ直ぐワタシの目を 見つつめ……


「わたし達には それができる


「それとも ……ちがうの?」



「……


それは 以前ワタシがパートナーに言った言葉!!


ぐぅの音(ね)も出ないとはこのことか!!


「……わかった ワタシの完敗だ……キミに従おう……」


ワタシは白旗を上げた……


「フフッ …だから きみのこと だ〜い すき!!」

パートナーは人通りの多い市場前 人目も憚(はばか)らずワタシに抱きついてきた……


ワタシは 顔を赤らめ(//-//) 焦るばかりだ………

ある冒険者のひとりごと……11 星祭りのこと

「ねぇ いま“星祭り”をやってるみたいだよ
わたし達も行ってみようよ…」




パートナーの提案にワタシは南国の果実を絞った橙色の飲み物の入った大きめのグラスから口を離す……



ここはマーロ共和国の酒場
茹(う)だる様な昼の強い日射しを避け ワタシ達は果汁で割った酒で喉を潤していた………



「……星祭り(スターフェスティバル)?」

ワタシは聞き返す……
聞き慣れない言葉だった



「そ “星祭り”…日が暮れてから 夜にやってる お祭り……
願いごとを短冊に書いて竹の枝につるして星に お願いするの……
そうすれば 願いごとがかなうんだって……」


「行ってみようよ!」



ここマーロ共和国に留まり何日かが過ぎる 国王に会う手がかりはまったくつかめなかった……


酒場に居るのは情報を得るためだが 今日も なしのつぶてになりそうだった……
そんなおりのパートナーからの提案……


「……行ってみるか
気分転換にもなる……」


「やった〜♪」

パートナーは嬉しそうに
飛び上がる…


彼女の笑顔はかわいい
この笑顔 守りたい……




星祭りの開催地は“神へ至る道”の頂上“巫女の住み処”らしい……


「……ここマーロ共和国からは かなり距離があるな」

アオバカツオのタタキに箸をつけながらワタシは呟く………



「うん? 大丈夫だよ すぐに行けるよ?」

体表が銀色に黒の線が左右に入ったキビナッの刺し身を口に運ぶパートナーが事も無げに答える……
海の幸(さち)に恵まれたこの国は魚料理が豊富だ……

さらにサトウキビから造るラム酒が実に旨い “マイヤーさんの黒ラム酒”を南国の果物の絞り汁で割ったお酒がワタシのお気に入りをだ……
ついついグラスを空けてしまう……


「…すぐに……行ける?」


キビナッのテンプラを口に入れつつパートナーの言葉を反芻(はんすう)する


「うん そうだよ……
錬金術はね 空間も操れるんだ……合成のために異空間をつかったり
場所移動に別空間をとおり抜けることで瞬間移動をじつげんできるんだよ
だから いつでも行けるよ」


「ふぅん? そうなのか……」


芋と人参を細ぎりにして菜種油で揚げたガネッのテンプラが湯気を上げたまま運ばれてくる その姿は脚を広げたガネッに似ているそうだ……

〆(しめ)の昆布とカツオでダシをとった お吸い物 をたいらげ


「そろそろ 行くか……」

ワタシは席を立つ

「うん 行こう♪」

パートナーも席を立ち
お会計を済ませる……



酒場を出ると南国の強い日射しがワタシ達の肌を刺す……

共和国の服は布地が少ないとはいえやはり暑い
赤い共和国服をレシピによりワタシは(黄)パートナーは(紫)に染めていた
昼を過ぎた太陽がまぶしい
その強い光に目を細めつつ


「じゃ 行くよ…」

パートナーの声に ワタシは呟(うなず)く……


パートナーが目を軽く閉じ小声でなにやら唱え左手を身体の前につきだすと
目の前が真っ白になり ワタシは思わず目を閉じる……



「着いたよ…」


パートナーの声にワタシは目を開く……


………!!


暗闇だ!
さっきまで眩しい日射しの中にいたのに辺りはとっぷり暮れ 闇のなかだ

……いや 明るい?
そう夜のはずなのに?
ワタシは空を見上げた


……!?


満天の星空がソコにあった………


あまりの美しさにワタシは……言葉を失なう


ただポカンと口を開けたままソコに立ちつくしていた…………





どのくらい そうしていただろう……


「…………すごいね」


「……ああ 」


パートナーも見とれていたらしく それ以外の言葉が出なかったらしい……
ワタシもありきたりの言葉しか思いつかない……

ふたりして しばらく見上げていた…………




首が痛くなってきた……
周りを見渡すと赤や青 黄色など細長い物が枝に糸で吊るされた植物が目に留まった……


「…あれは? 以前あの場所にはなかったはず……」


「あれが 願いごとを吊るす竹だよ!
わたし達も 願いごとを書こうよ…」


ワタシの手を引きパートナーは竹のもとへ走り出す

近くで見ると結構大きな竹だった 枝には願い事が書かれた短冊がびっしりとぶら下がっている


……強いぶきが欲しい

……上下そろいの服をください

……皆の願い事が叶いますように

……あの人に会えますように


………………


など様々な願い事が書かれている………



パートナーは何か書きしたため 枝に吊るしたようだ

……ワタシは

(何を願えばいい……)

色々 考えたが何も思い付かなかった………



「ねぇ 願いごとは何て書いたの?」


ワタシを見上げるパートナーは少しモジモジしていた

「…ワタシは何も……」

何を願えばいいのか判らなかった……


「そっか〜 まぁキミらしいかな…」


少し残念そうだ……


「君は 何て書いたんだい?」


逆に問うてみた…


「えへへ ひみつ……」


少し照れたように答える…


「……そうか」


ワタシは それ以上は聞かなかった…



「また 来年も来ようね」


パートナーがワタシに笑いかける…


「……あぁ そうだな……」

ワタシは答える……
…来年か そんな先の事は わからない………
だが このパートナーとなら 何処(どこ)までも行ける!
そんな気がしていた……



一通(ひととお)りこの場所を廻(まわ)ったのち
ワタシ達は“星祭り”の会場を後にした…………




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