書いたよというか……書いて1ヶ月ぐらい寝かせておいたやつ。
寝かせた理由は、20回目の小夜子さんの命日の話だから。
窓を開けたら、あたたかい陽射しと爽やかな風が入り込んできた。
外を見ると、桜の花が咲いていた。
君を亡くして、そろそろ20年が経つ。
写真の中の君は、何も知らずに笑っていて。
隣に写る俺も、まさか君を喪うことになるだなんて思いもしていない。
俺は……君を失ってから、他の誰かと付き合うとか結婚するとかは、全く考えられなかった。
決めていた、というより自然にそうなるだろうと思っていた。
……君以外考えられないんだ。
君を亡くして、これだけの時間が経った今でも。
もしかしたら、君はそんなことを望んでいないのかもしれないと思っていても。
俺が、君を忘れて君以外の誰かと幸せになるように願ってくれているのだとしたら、俺には到底叶えられそうにない。
あの日に戻れたら……なんて、考えてはすぐに打ち消す。
戻ったところで、愚かな俺は君を救うことは出来なかったと痛感しているから。
君が必死に俺を闇の中から救おうとしてくれていたのに、俺は聞く耳を持たずに力に溺れた。
俺は……君を失うまで、気付かなかったんだ。
君が、どれだけ掛け替えの無い存在だったのかを。
春の優しい陽射しを感じると、桜の花びらを見ると、君を思い出してあたたかい気持ちになると同時に、君がいなくなった日を思い出して、今でも苦い気持ちになる。
俺の愚かさの代償となって死んでしまった君に、せめて報いたくて。
俺は、君がいない時間を生きていく。
君が取り戻してくれたこの時間を、放棄なんてしない。
最初は、俺なんていなくなってもいいと思った。
伊坂と刺し違えようと思った。
俺が生きて、君がいないことが耐えがたくて……君を追いたかった。
追いかけて、込み上げてくる愛しさのまま、君を抱き締めたかった。
……例え、そこが現世ではない……あの世と呼ばれる場所だったとしても、君と一緒だったら、それで良かった。
でも、君が守ってくれた命を無駄になんてしたくなかったし、出来なかったから。
そんな事をしても、君と同じ場所にはきっと行けないだろうから。
俺は、生きることを選んだ。
大切な仲間達と過ごす時間の中で、少しずつ前を向けるようになって。
俺に出来ることは何でもしようと思うようになった。
それが、君に対する贖罪であると思っている。
それでも、独りになると堪らなく虚しくて……寂しさを覚える時がある。
心に確かに存在する虚しさが、君がいた証なんだと思う。
埋まらなくても、別にいいと思った。
君を忘れるぐらいなら、このまま心に虚しさを抱えていた方がずっといい。
今年も、桜が咲いて、優しい陽射しを感じる時期になった。
それらを、君のようだと思いながら。
それらに、君との想い出を重ねながら。
今年も、君がいなくなった日を思い出す。