光の中、ケインと魔王の戦いは続いていた。

巨大な魔王に纏わり付く様にケインが抗う。

まさに魔族と人類同盟の闘いを象徴するかの如き闘いだった。


「ケイン…今はまだ早い……まだ魔王と戦うには早過ぎる…」

一人呟くガイウス。


「何?今なんと言った!?ガイウス隊長……あれが…あれが奴らの王なのか……??」
驚き尋ねるジャガー。

観念したかの様に応えるガイウス。


「ああ……そうだ、あれが魔王ウインドウ!」


「なんで、あんたが知ってるんだ?」
更に問うのはミゲル。


「……知りたいか?」


ガイウスは龍を象った兜を脱ぎ捨て、馬から降りる…。

「俺もまた魔族だからよ……」


「えっ!?」


驚くジャガー、ミゲル、そしてヴィンセント達。

だが、ガイウスの側近達は何もかも承知の様だ。


不意に、ガイウスの顔付きが変わってゆくのを見たミゲル。

「あ…あ……」


金髪が逆立ち、伸びてゆく…額にはまさにドラゴンの如き角が生え…肌は更に紅く変色する。

瞳の下に鱗の様な模様が浮き出る……。

そして、身体全体が少しずつ巨大化していった…


最後に、ガーゴイルズに負けず劣らずの紅い翼が背に出現……


そこに居るのは、すでにミゲル達が知っているガイウスではなかった。

紅い人型のドラゴン…


その姿で振り向くガイウス。

「ジャガー、ミゲル……お前達はここで待っていろ…!!」


「ど…何処へ……?」


「ケインを助ける。きっと地獄の蓋にいるはずだ…」

その周りに群れるガーゴイルズ…

ガイウスは、一瞥すると指先から一条の光を発した。

数十と言うガーゴイルズが一瞬にして弾け飛んだ…


「うおおっ」

思わず感嘆するジャガー…


「じゃあな…」

そう言うと、そのまま飛び去る龍ガイウス。


「ガイウス隊長が……魔族だった……!?」







一方、ケインと魔王の死闘は続いていた。


「貴様…そんなぶざまな戦い方でいつまでやり合おうと言うのだ…?」


「てめえが死ぬまで!この命尽きるまでだ!」


「………ふん」

魔王は口を開くと熱線を発した。


その焔の塊にもろにぶつかり吹き飛ばされるケイン。

洞窟の壁に激突し、頭と身体ををしたたか打ち付ける。

「ぐふっ」


頭と口から流血するケイン。
……しかし、ヨロヨロと太陽剣を杖に立ち上がる。


「ふっふっふ……貴様にその剣は似合わぬ」


立ち上がるケインに頭上から蹴りを入れる魔王。

「うぐぁっ……」
再び地にまみれる。


そこへ、寄ってたかるガーゴイルズ。
ケインの身体中を噛み付きはじめる…


「貴様如きはレギオンの餌に相応しい…さあ喰らえい!」


「よ…寄るな!てめーら…」


力を振り絞りガーゴイルズを八つ裂きにするケイン。


「まだ、そんな元気があるのか……」

騎馬のまま近付く魔王。


「…ならばいっそ、この魔王の剣の錆になれ!!」

剣を振り下ろす……


その刹那…

紅い閃光が走った…



魔王の前に立ちはだかる紅いドラゴンがいた。


「…!?き、貴様は?」


魔王の剣を、受けるガイウスの剣。


「久しぶりだな…ウインドウ!!」


「…ガイウス!?」

フラフラになりながら気付くケイン。
(ガイウス……??)



上空に居るのはどう見てもドラゴンの様な魔族の仲間にしか見えない。

あれが、ガイウスだと言うのか………?


「おおかた……ギリアムやアックス達の血を吸い、久々に甦ったってとこか…」


「ふふふ…汝が人間に味方していると言う噂はイシュタルから聞いておったが……真実だった様だな…ガイウス…いや、魔将ガイエリアス!!」


「その名は捨てた!!」

魔王に切り掛かり、受け止められる。


「貴様は弟とともに人間界に下ったのではないのか?……このわしの誘いを断ってな!!」


今度は魔王がガイウスに切り掛かる。


「ならば、おとなしく我らの軍門に降るが筋だろう…ガイエリアス!」


「ああ…確かに俺達兄弟は人間に憧れて魔界を捨てた…。“人間ガイウス”としてな……だが…」


「だが…なんだ!?」


「こいつと出会った!」

ケインを指差すガイウス。
ケインは剣を杖に立ち上がるのがやっと、二人の会話を朦朧とした意識の中で聞いていた。


ケインが、魔族の侵攻に立ち向かう軍隊を作ろうと思い立ち、まずは数十人のゲリラ隊を組織した時、まず最初に出会ったのがガイウス、ブルートゥースのラインハルト兄弟だった。

兄ガイウスは強力な組織力を持ち人望もあり、何より軍事の知識に長けていた。
弟ブルートゥースは物静かな男だったが兵器を作る天才だった。

そこへ、ケインのカリスマと不思議な太陽剣の威力が合致、軍勢は急激に力を伸ばし各地の魔族を駆逐していった。


やがて、アックスやギリアム等プロの軍人も加わり、同じ様に奮戦していたモニカ、ジャック、アイリーン達が集い現在の「人類同盟」の形が出来上がったのだ。


魔族侵攻に対するレジスタンス組織…人類同盟。


その基礎を作った人間もまた魔族だったとは!!


そして、ケインもまた魔王の持つ剣と同じ物を得ている。

これは、何を意味するのか……?



「ガイウス…、このケインとやらはとんだ食わせ者よ……我が紋章を刻む剣を持ちながらこの程度の力しか持ち合わせぬ……貴様が来なければすでにあの世に旅立っておったわ…」


ケインはただ両者の不可解な会話を聞くのみ。

「ウインドウ、お前にはわかるまい……魔族に身を置く限り、このケインの強さを…」


「強さだと?馬鹿な!そこを退けいガイウス!今こそ始末してくれる!たった今、人類の時代は終わるのだ!!」


「させぬ!」

ガイウスは魔王の剣を弾き返すと、そのまま深く胸を貫いた…


「ぐぉうっ!!」

さしもの魔王も、この一撃は利いた…


「き…貴様!!」

魔王は再び焔を吐き出すとガイウスの左眼を焼いた。


「ぬぐぁあっ!」

顔から煙を上げ、よろめくガイウス…

だが、それは魔王も同じだった。胸を押さえ馬から落ちる魔王…


「まだだ……まだまだ血が足りぬ…人間の血が……」


「今だ!ケイン、つかまれ!!」


肩にケインを乗せるとその場から飛び立つガイウス。



「の…逃すか…ガイウス…」

魔王は焔をガイウスの背に浴びせ掛ける。


「ぐっ」


「…ガイウス!!」

だが、ケインの記憶もここまでだった………









数時間後…

リーパーズ・アイランドの海岸に打ち寄せるのはガーゴイルズと人類同盟軍の夥しい死体……


そこに、数百人…生き残った兵達が茫然自失していた……


空は既に朝焼けだ。


ジャガー、ミゲル、ヴィンセント、サドラーらケイン親衛隊のメンバー、そしてガイウスの精鋭達……およそ五百名のみがそこに生きて立っていた…


五万の軍勢がわずか一晩で百分の一に減っていたのだ。

想像を絶する激戦であった…



「俺達…勝ったんだよな……?」

精魂果てたジャガーが、へたり込む。

ミゲルはただ海と波と、死体を黙って見つめている。



「おーい!こっちだ〜!」

波打ち際から兵の一人が叫ぶ。


人だかりが出来る。

そこには傷だらけのケインと、半身に火傷を負ったガイウスが打ち上げられていた。






《次回・第1部完結編へ続く》