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小説『戦士の詩〜Warrior's Rhapsody〜』第21話「C'ERA UNA VOLTA IL DESERTO」《第1部完結》

が舞い散る…


地球上の地理や気候が急激に変化し、人類も半数が死に絶えたと言うのに、四季が残る場所には花も咲けば、雪も降る。


此処、ニュー・ヴィレッジ・タウンの中心にはまだ緑が残っていた。


商店街を抜けた場所に病院がある。


昔ほどの医療器具は残っていないが、一応病院として機能していた。


その病院の屋上、車椅子の女と黒いコートに身を包む男が居た。

ジャックとディアナだ。


病院の前には巨大な桜の木があった。
その舞い散る桜を、ただ黙って見つめるジャック。
車椅子のディアナは顔中包帯で巻かれ、口と僅かに鼻だけが出ている状態だ。

「いい匂いね……」


「ああ…わかるか…?」


「目は見えなくても花の香りぐらいはわかる…」


「桜だ…綺麗だ…」


急にクスクスと笑うディアナ。

「…なんだ?何かおかしいか?」


「泣く子も黙る黒い狼の言葉とは思えない。意外と風流なのですね、狼さん?」


照れて咳込むジャック。


「お、俺だって…桜の綺麗さぐらい…わかる…」


「うふふ…」

ジャックは内心ホッとしていた。

ディアナに笑顔が戻った。やはり、自然に触れると人の心は癒されるものなのだろうか…

ジャックはそのままディアナに口づけした。
その周りを更に桜が風に舞う…。


気がつくと屋上の階段の傍にモニカが立ってジャックとディアナを見つめていた。
二人を祝福するかの様な笑顔で…。

驚いて振り向くジャック。

「モニカ…」


「ジャック…ちょっといいかい?」


「ああ…悪いなディアナ」


「うん、私なら大丈夫」


モニカに促され、ジャックは階段を降り下の階の廊下へ出た。


「なんだ?何かあったのか?」


「ちょっとね。ケインとガイウスから連絡が途切れてから、もう3日経つんだよ…」


「うむ、俺も心配していた…俺が行ってみるか?」


「いや…あんたは動かないでおくれよ。あたしが行こうかと思ってるんだけど…」


「お前が?しかし、怪我は…」


「もう大丈夫さ…それで診察に来たんだからね。医者も回復の早さに驚いてるよ。そこでさ、留守中はあんたに大将を任せるよ」


「ああ、任せてくれ」


「あんたなら心配ないだろうけど。……ところで…」


「なんだ?」


「あのディアナって娘……」

ギクッとするジャック。

1番聞かれたくない話題だった。

「ディアナがどうした?」


「ホントに回復する見込みはないのかい?」


「…………ああ、医者もサジを投げてるよ、なにしろ普通の病気じゃないからな…」


「原因が魔族だからね……どうだい?」


「なんだ……?」


「“教授”を捜してみるかい?」


「教授?」


「聞いたことないかい?魔導の書を書いたと言う伝説の男さ……そいつなら何か手掛かりを知ってるかも…」


「何者なんだ?」


「あたしもよくは知らない…ただ、この魔族達の襲撃を前以て予言してたらしくて、世間では狂人扱いされてたみたいね」


「そいつは今何処に?」


「さあ……?死んだとも、魔族に捕まってるとも……」


「雲をつかむ様な話だな…」


「そうだね…でも何か手掛かりにでもなればと思ってさ…」


「貴重な情報ありがとよ…そろそろ戻らなくちゃ、ディアナが待ってる」


「ああ、行ってやんな」



そこへ……


「モ…モニカさん!ジャック兄ィ〜!!」

息を切らせたティムが廊下を走って来た。

何か不吉な予感に悪寒が走るモニカとジャック。


「なんだ?何かあったのか!?」


「ハァハァ……リ、リーダーとガイウス隊長が………」


「帰って来たのかい?」


「…いや、それが……」





そこへ、全身傷だらけで気を失ったまま担架で運ばれてくるケインとガイウス……



「うっ…」


その無惨な姿に言葉を失うジャックとモニカ。


「ケイン……」

涙を浮かべながら駆け寄るモニカ。


「ケイン!!……い…生きてるの?」


「おい、ティム……こりゃあ一体……」


「相当な激戦だったらしいです…連合軍は4万人が戦死……負傷者も5千人以上……二人が生きてるのも不思議なぐらいで……」


「なっ!?」


「やっぱり開いちゃいけなかったんだ…地獄の蓋は……」


そこへ、サドラー、ヴィンセント、ミゲルら親衛隊の面々とジャガーも現れた。
誰も彼も傷だらけだ。


「おお…おまえらは無事だったのか!!」


「……まぁ、なんとか生きてますよ…」
ヴィンセントが答える。


モニカはひたすらケインの顔を撫でながら膝を落としている。
横には全身大火傷のガイウスが横たわっている。そこへ…


「ケインが帰ってきたって!?」

素っ頓狂な声と共にギャル軍団のアイリーン、マキ、ヴィッキーまでやってきた。

瀕死のケインの姿を見つけると叫ぶ。

「ぎゃああ〜ケイン!!どーしたのさ!死んじゃったの??ケイン!」


「ガイウス隊長!!」

マキも、ガイウスの前で愕然としている。


「うるさいね!小娘!まだ死んじゃいないよ!」

モニカはアイリーンに罵声を浴びせるが涙で顔を腫らしていた。

「……そうさ、死ぬもんか……」


泣き崩れ、力無くそこにへたり込むモニカ。それを支えるのはミゲルだった。


「おい!医者はまだか!死んだらどうする気だ」


ヴィンセントの怒声に白衣を来た痩せぎすの初老の男が看護婦と共に走ってくる。


「さ、下がって、下がって……」

慌ててケインとガイウスの二人を治療室に運び込んだ。


「ケインを殺したらあたいが承知しないからね!!」

アイリーンが叫ぶ。


「ん…お前は見ない顔だな……」

ジャックは、巨人ジャガーを見据える。


「俺はジャガー・アルゴン・マーキュリーだ」


「マーキュリー?すると…」


「ああ…アックスは俺の兄貴だ」


「兄弟か…似てるな」


「ああ、今度の戦に兄貴の仇討ちに参加させてもらった…」


そこへ、ふらりと暗い男が現れた。
金髪で長身。どこかガイウスに似ているが、眼鏡をかけ、あまり覇気のない雰囲気は全く似ていない。


「ブルートゥース…」


「我が兄は無事なのか…?」
それは、ガイウスの弟ブルートゥースだった。


「酷い火傷だよ…」
ヴィンセントが答える。


「……そうか…わざわざ西を留守にしてやってきたが……不吉な予感は当たったな…」









桜の花びらが舞い散る……



…数週間が経過した。


病院の窓から、舞う桜の花びらを見詰めているケイン。


(……綺麗だ………)

周りを見渡すと白い壁が見えた。


(………ここは、何処なんだ……??)


ケインは病院のベッドに横たわっていた。


「……そうか……俺は、魔王との闘いで怪我を……」


無理に身体を動かそうとして、頭と身体全体に痛みが走る。


「うぐっ……つぅ〜…」



「気がついたか」

その声に振り向くと、やはりベッドに横たわるガイウスがいた。

全身包帯で巻かれ左眼までもが隠された姿が痛々しい。


「ガイウス……」


ケインは、魔王との闘いの際に見たガイウスの“真の姿”を思い出していた。


「フッフッ……こんな怪我など、すぐ回復するさ…見ろ」
と、右腕の包帯を取ってみせるガイウス。

そこは今までの火傷が嘘の様にきれいさっぱりとしていた。


「驚いたかね……なにしろ俺は……」


「人間じゃなかったんだな……」


「そうだ……俺やブルースは、お前の母親を殺した悪魔の仲間だ……憎むかね?俺達も……」


「……お前達は別だよ…」


「フッフッ…ありがとうよ…」


そこへ、コップに水を持ったモニカが入ってきた…起き上がったケインの姿を見て驚き、思わず水を落とす。

「ケ……ケイン!!」


「よお……モニカ…」


感極まり、抱き着くモニカ。眼には涙が溢れる。


「よ…良かった…ケイン……ホントに良かった」


「痛いよ…モニカ…」

だが、モニカの柔らかい胸の感触が心地良かった。
ケインは、モニカの顔を起こしてじっと見詰める。涙でくしゃくしゃだ。


「……心配かけたみたいだな…」


「ホントだよ、バカ!」

また抱き着くモニカ。

そんな二人の姿を呆れながら見るガイウス。


「あ〜あ、見せ付けてくれちゃって…ごちそうさま!!」


「ガイウス……あんたもすっかり回復したみたいだね。マキが心配してたよ…」


「そうかい…後で元気な顔を見せなくちゃな……ところで、みんなは?」


「ジャックを中心にして“狼の村”に集まってるよ」


「そうか…」







そして、ケインら人類同盟は再起をはかるべく再結集する。

彼らの闘いにまだまだ終わりは見えない……。













《第1部・完結》

小説『戦士の詩〜Warrior's Rhapsody〜』第20話「Rebellion」

光の中、ケインと魔王の戦いは続いていた。

巨大な魔王に纏わり付く様にケインが抗う。

まさに魔族と人類同盟の闘いを象徴するかの如き闘いだった。


「ケイン…今はまだ早い……まだ魔王と戦うには早過ぎる…」

一人呟くガイウス。


「何?今なんと言った!?ガイウス隊長……あれが…あれが奴らの王なのか……??」
驚き尋ねるジャガー。

観念したかの様に応えるガイウス。


「ああ……そうだ、あれが魔王ウインドウ!」


「なんで、あんたが知ってるんだ?」
更に問うのはミゲル。


「……知りたいか?」


ガイウスは龍を象った兜を脱ぎ捨て、馬から降りる…。

「俺もまた魔族だからよ……」


「えっ!?」


驚くジャガー、ミゲル、そしてヴィンセント達。

だが、ガイウスの側近達は何もかも承知の様だ。


不意に、ガイウスの顔付きが変わってゆくのを見たミゲル。

「あ…あ……」


金髪が逆立ち、伸びてゆく…額にはまさにドラゴンの如き角が生え…肌は更に紅く変色する。

瞳の下に鱗の様な模様が浮き出る……。

そして、身体全体が少しずつ巨大化していった…


最後に、ガーゴイルズに負けず劣らずの紅い翼が背に出現……


そこに居るのは、すでにミゲル達が知っているガイウスではなかった。

紅い人型のドラゴン…


その姿で振り向くガイウス。

「ジャガー、ミゲル……お前達はここで待っていろ…!!」


「ど…何処へ……?」


「ケインを助ける。きっと地獄の蓋にいるはずだ…」

その周りに群れるガーゴイルズ…

ガイウスは、一瞥すると指先から一条の光を発した。

数十と言うガーゴイルズが一瞬にして弾け飛んだ…


「うおおっ」

思わず感嘆するジャガー…


「じゃあな…」

そう言うと、そのまま飛び去る龍ガイウス。


「ガイウス隊長が……魔族だった……!?」







一方、ケインと魔王の死闘は続いていた。


「貴様…そんなぶざまな戦い方でいつまでやり合おうと言うのだ…?」


「てめえが死ぬまで!この命尽きるまでだ!」


「………ふん」

魔王は口を開くと熱線を発した。


その焔の塊にもろにぶつかり吹き飛ばされるケイン。

洞窟の壁に激突し、頭と身体ををしたたか打ち付ける。

「ぐふっ」


頭と口から流血するケイン。
……しかし、ヨロヨロと太陽剣を杖に立ち上がる。


「ふっふっふ……貴様にその剣は似合わぬ」


立ち上がるケインに頭上から蹴りを入れる魔王。

「うぐぁっ……」
再び地にまみれる。


そこへ、寄ってたかるガーゴイルズ。
ケインの身体中を噛み付きはじめる…


「貴様如きはレギオンの餌に相応しい…さあ喰らえい!」


「よ…寄るな!てめーら…」


力を振り絞りガーゴイルズを八つ裂きにするケイン。


「まだ、そんな元気があるのか……」

騎馬のまま近付く魔王。


「…ならばいっそ、この魔王の剣の錆になれ!!」

剣を振り下ろす……


その刹那…

紅い閃光が走った…



魔王の前に立ちはだかる紅いドラゴンがいた。


「…!?き、貴様は?」


魔王の剣を、受けるガイウスの剣。


「久しぶりだな…ウインドウ!!」


「…ガイウス!?」

フラフラになりながら気付くケイン。
(ガイウス……??)



上空に居るのはどう見てもドラゴンの様な魔族の仲間にしか見えない。

あれが、ガイウスだと言うのか………?


「おおかた……ギリアムやアックス達の血を吸い、久々に甦ったってとこか…」


「ふふふ…汝が人間に味方していると言う噂はイシュタルから聞いておったが……真実だった様だな…ガイウス…いや、魔将ガイエリアス!!」


「その名は捨てた!!」

魔王に切り掛かり、受け止められる。


「貴様は弟とともに人間界に下ったのではないのか?……このわしの誘いを断ってな!!」


今度は魔王がガイウスに切り掛かる。


「ならば、おとなしく我らの軍門に降るが筋だろう…ガイエリアス!」


「ああ…確かに俺達兄弟は人間に憧れて魔界を捨てた…。“人間ガイウス”としてな……だが…」


「だが…なんだ!?」


「こいつと出会った!」

ケインを指差すガイウス。
ケインは剣を杖に立ち上がるのがやっと、二人の会話を朦朧とした意識の中で聞いていた。


ケインが、魔族の侵攻に立ち向かう軍隊を作ろうと思い立ち、まずは数十人のゲリラ隊を組織した時、まず最初に出会ったのがガイウス、ブルートゥースのラインハルト兄弟だった。

兄ガイウスは強力な組織力を持ち人望もあり、何より軍事の知識に長けていた。
弟ブルートゥースは物静かな男だったが兵器を作る天才だった。

そこへ、ケインのカリスマと不思議な太陽剣の威力が合致、軍勢は急激に力を伸ばし各地の魔族を駆逐していった。


やがて、アックスやギリアム等プロの軍人も加わり、同じ様に奮戦していたモニカ、ジャック、アイリーン達が集い現在の「人類同盟」の形が出来上がったのだ。


魔族侵攻に対するレジスタンス組織…人類同盟。


その基礎を作った人間もまた魔族だったとは!!


そして、ケインもまた魔王の持つ剣と同じ物を得ている。

これは、何を意味するのか……?



「ガイウス…、このケインとやらはとんだ食わせ者よ……我が紋章を刻む剣を持ちながらこの程度の力しか持ち合わせぬ……貴様が来なければすでにあの世に旅立っておったわ…」


ケインはただ両者の不可解な会話を聞くのみ。

「ウインドウ、お前にはわかるまい……魔族に身を置く限り、このケインの強さを…」


「強さだと?馬鹿な!そこを退けいガイウス!今こそ始末してくれる!たった今、人類の時代は終わるのだ!!」


「させぬ!」

ガイウスは魔王の剣を弾き返すと、そのまま深く胸を貫いた…


「ぐぉうっ!!」

さしもの魔王も、この一撃は利いた…


「き…貴様!!」

魔王は再び焔を吐き出すとガイウスの左眼を焼いた。


「ぬぐぁあっ!」

顔から煙を上げ、よろめくガイウス…

だが、それは魔王も同じだった。胸を押さえ馬から落ちる魔王…


「まだだ……まだまだ血が足りぬ…人間の血が……」


「今だ!ケイン、つかまれ!!」


肩にケインを乗せるとその場から飛び立つガイウス。



「の…逃すか…ガイウス…」

魔王は焔をガイウスの背に浴びせ掛ける。


「ぐっ」


「…ガイウス!!」

だが、ケインの記憶もここまでだった………









数時間後…

リーパーズ・アイランドの海岸に打ち寄せるのはガーゴイルズと人類同盟軍の夥しい死体……


そこに、数百人…生き残った兵達が茫然自失していた……


空は既に朝焼けだ。


ジャガー、ミゲル、ヴィンセント、サドラーらケイン親衛隊のメンバー、そしてガイウスの精鋭達……およそ五百名のみがそこに生きて立っていた…


五万の軍勢がわずか一晩で百分の一に減っていたのだ。

想像を絶する激戦であった…



「俺達…勝ったんだよな……?」

精魂果てたジャガーが、へたり込む。

ミゲルはただ海と波と、死体を黙って見つめている。



「おーい!こっちだ〜!」

波打ち際から兵の一人が叫ぶ。


人だかりが出来る。

そこには傷だらけのケインと、半身に火傷を負ったガイウスが打ち上げられていた。






《次回・第1部完結編へ続く》

小説『戦士の詩〜Warrior's Rhapsody〜』第19話「Call of the Darkness」


暗闇の向こう側には更なる暗黒が続く……ただひたすら闇の中、深海魚の様な光だけが浮かぶ世界…。


ケインは訳もわからず、この闇に放り込まれた。

まだ、手には武器があるだけでもマシだった。


(ここは……一体、何処なんだ……ガイウス達は何処へ行った?無事なのか?そして、俺は…)


またクスクスと卑下するかの様な笑い声が闇の中から響く。



誰かいる。

こんな闇の中で笑う奴らは………


そして……

記憶が少しずつ戻ってきたケインは、自分があのガーゴイル達に捕まった事を思い出しつつあった。

一瞬の隙…真っ黒い壁に包まれた瞬間、次に気付いた時にはここに居た……。


もし、俺が連中に捕まり、巣に放り込まれたとしたら……何故、奴らは俺を殺さない?


俺は奴らの仲間に抵抗し、さんざん殺し続けた軍団の長だぞ?

俺を憎悪しているはずだ……。



…………人質?

この俺が?


魔族侵攻に抵抗するレジスタンスの蜂起者の俺が…取引の道具にされる?

「フッフッ……なるほどな…奴らもバカじゃないわけだ……」


太陽剣を逆手に構えた。

奴らに利用されて仲間を裏切る様な真似をするぐらいならここで自ら死んでやろう。


独りぼっちの暗闇の中、ケインは思った。


眼をつぶるとモニカの顔と肢体が瞼に浮かぶ。

アイリーンやジャック達と出会った頃を思い出す。
ガイウスと闘いを始めた頃を思い出す……。


「………短い人生だったが、人の3倍は生きたみたいな気分だな……はっはっはっ……」

気が狂った様に独り言を言いながら嘲笑する。
ケインの笑い声が闇の中に響き渡る……。


「なぁ、モニカ……悪いが先に行くぜ」


クワッ!と眼を見開くと切腹する様に剣を自らの心臓に向けて刺す……


その刹那、


「何をする気だ……」


闇の底からケモノじみた声が響く。

人間の言葉を話しているが、まるで感情など無いような……昆虫の様なアクセントのような口調で。


ケインは、死ぬ気でいたがその声に剣を止めた。


「……誰だ?」


声は闇の奥深くから聞こえる様で、逆に間近にいるような錯覚を覚える。
いや……まるで、闇そのものが語りかけてきた様な……。


「…お前の敵だ…」



巨大な鯨がモノを言えばこんな声になるのだろうか……
その声の主は明らかに“巨大な”イメージそのものだった。


「…貴様がケインだな…」


「ああ、そうだよ…俺はケインさ。やっぱり俺だと分かってるわけね」

闇は応えない。


「何か言えよ…それとも、俺なんぞに応える必要はないってか?」


またクスクスと言う闇の嘲笑が周りから聞こえる。


そして、突然眼の前にイメージが現れた。


巨大な魔獣に跨がる巨大な悪鬼……人間の10倍はあろうかと言う体躯の巨人がいきなりケインの前に出現した。

それはケインを睥睨するかの様に頭上から見下ろしていた。


黒い兜と鎧に身を固めた武神の様な姿……そして、その周りにあのガーゴイルズを従えて…。

瞳は燃える炎の様に赤く、青みがかった肌はこの世のものではない事を現し、人と狼を足した様な風貌。
巨大な2本の角。
そして、身体中から燐の様な光を発していた……

その姿はまさに“魔王”……


「なるほどな……いよいよ大将同士の話し合いって訳かい?」


「……わざわざ汝からやってくるとはな……」


「好き好んでこんな所へ来るかい!ちょっと訳ありでな……ホントはここに来るのは最後の最後に取っておくつもりだったんだが…手違いでな。早く来過ぎた様だ」


「フッフッ……汝、面白いな……で?ここへ来て何をするつもりだったのだ?」


ケインは立ち上がると太陽剣を構える。


「知れたこと!てめえをぶっ殺すんだよ!!」


その威嚇に周りのガーゴイルズが興奮し、ケインに襲い掛かる。

だが、一瞬の殺陣で数匹が血祭りにあげられた。


「ほう……やるな」

巨大な腕(ケインの胴回り程はある)を伸ばした魔王は、その剣を掴む。


「うっ!?」


一瞬で、自らの唯一の武器を押さえられたケインは焦った。


「……やはりな……汝、この剣を何処で手に入れた?」


「……ウチにあった剣だ。それ以上は知らねえ!!」


魔王は急に手を離す。


あまりに意外な行動にたじろぐケイン。

いきなり眼の前に柱の様なモノが突き刺さる。

それは魔王が持つ剣だった。

人間の数倍はあろうかと言う巨大な柱の様な剣……。

だが、驚いたのはその大きさではない……。

長さや形こそ微妙に違えど、それはまさにケインの持つ黄金色の“太陽剣”と同じデザイン……
いや、同じ剣と言ってもよかった。


「こ…これは……!?」


「汝達はこの模様を“太陽”だと思っているようだが、これは太陽ではない」


「なにぃ?」


「これは我が紋章“明けの明星”……金星を意味するのだ!!」


「明けの明星…金星?」


「それを持つ者、すなわち魔族の血をひく者!」


「ば…馬鹿な……」


「ケインよ、貴様は魔の眷属なのだ!!」


「な………!?」


魔王のあまりの告白に唖然とするケイン。

そして、皮肉な笑顔を浮かべた。

「へっ…へへ…悪い冗談だぜ、悪魔に抵抗してる軍団のリーダーが悪魔の仲間だってのかい?」


「どうだ……」


「何が?」


「ここらで手を打たぬか?」


「なんだ?降伏するってのか?」


「いや……我らは人間を根絶やしにして、地球を支配するつもりだ。……そこでだ。同盟軍が手を出さずにいれば貴様達だけの国を与えようと言うのだ……」


ケインの表情から笑みが消えた。
冷静な顔付きに戻ると静かに言った。


「……要するに邪魔せず黙って見ていれば俺達だけは助けると?」


「そうだ」


「ふざけるなー!!」

ケインは飛び上がると、魔王の左腕に切り付けた。
青黒い血飛沫が飛び散る。


「ぬぅ……これが汝の答えか??」


「俺はケイン・グランマスター!人類同盟軍のリーダーだ!!」


魔王の胸を太陽剣で突き刺す。


「貴様!!」






一方、地上では更なる地獄が現出していた。

リーパーズ・アイランドより西にある荒野でのガーゴイルズの襲撃はまだ続いていた。


ケイン・ガイウス連合はこの時点で兵の半数を失っていた……。
ガイウスは自らの側近やケイン親衛隊、ミゲルやジャガー達を従えて海岸へ向かい逃避行をしていた。


「あれが見えるか?ジャガー!」


「おう!海だな……いよいよ、リーパーズ・アイランドが近いのか?」


「違う!空を見てみろ!!」

天を見上げ愕然とするジャガーやミゲルら…。

海の彼方、更なる援軍がこちらに向かってやってくる。
ガーゴイルズがさらに増え続けている。

天を埋めつくす黒い悪意がこちらに向かってきたのだ……。


「ああ…なんてこった……もうダメだ……」

サドラーが弱音を吐く。


「バカヤロー!こんな所で死んでたまるか!!」


強気のミゲルは、一度に20の矢を放てる特殊な弓矢を構えるとガーゴイルズに向かって発射する。


その時、雷鳴が天にコダマしたかと思えば、天空がまるで巨大なスクリーンの如く映像を映しだした……。


黒い巨人と小さな人間が激突し、火花を散らしていた。

どういう訳か……ケインと魔王の激闘が上空に映し出されていたのだ。


「ケ、ケイン……」

一寸法師の如く、魔王の周りを跳ね回り少しずつ魔王の身体を傷付けていたのだ。


「あれはケインさん!」
と、ミゲル


「どーなってんだ、こりゃあ!?」

ヴィンセントも驚く。


ただ冷静なのはガイウスだった。

剣と剣がぶつかり合い火花を散らす。
その映像を観ながら呟く。


「あれは、魔王ウインドウ……やはり生きていたか……」








《続く》
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