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小説裏話

ども♪頭文字“D”です(笑)


久々にこっちを更新しました。


こっちは「小説置き場」なので、随時小説を更新していく予定ですが、忙しくてちょっと滞りがちでスミマセン…m(__)m



旧ブログからの「移転」作業はだいぶ進んでおりますよ!



今回は、作品発表された時期より、作品世界での「時系列」を重視してるので、ヒロインがビアンカだったりヴァージニアだったり入れ替わりますが、流れで読めば分かり易いと思われます。



ただ、ヴァージニアの「ルナティカ…」の入れる順番を間違えていたので(笑)あとから「ビアンカ」のエピソードを先に入れたりした為、軽い混乱があるかも知れません。



もし、まだ未読の方は読み直して下さいませ♪m(__)m




さて、今回再録するのは、今回改めて移転する際に読み返したらビアンカ史上最高傑作じゃね!?(笑)と、我ながら自画自賛する三部作です。



「ビアンカ学生時代編“ミニクイアヒルノコ”」




要は、ビアンカ前日譚(プリクェル)ですね。


なんか言ってるそばから、時系列通りじゃねーじゃん!(笑)



ただ、この次の展開に必要な流れなので此処に挿入してみました。



よろしくお願いいたしますm(__)m

小説『ミニクイアヒルノコ』Part.3「LIKE A HARDRAIN」完結編

「ビアンカ…!?」

車から伸びた腕が、彼女を引きずり込む。

走るケイン。
だが、悲鳴を上げる間もなくビアンカは姿を消した。
車内には屈強そうな男達が数人。

それに混じって赤毛の女が微かに笑う姿が見えた。

「……あ、あれは…ローザ…?!」


ビアンカをトイレに閉じ込めてた女の一人。
ケインが駆け付けた時には、車は発車し始めたところだった。

「おい!待てぇ!!」

黒いキャデラックは、そんなケインを挑発するかの様に急ターンを決めて、その場を走り去っていった。


ケータイに手を伸ばすケイン。

「ああ、サドラーか?俺だ…ケインだ…」


「朝っぱらからなんだよ?」
眠たげな男の声がケータイから響く。相手はケインの舎弟とも言える悪友だ。


「…ビアンカが…さらわれた…」


「……?ビアンカって、あの青い子か?なんだって、また…」


「いいから、すぐ仲間を集めろ!拉致した車の中に、彼女と同じクラスのローザがいた…」


「ローザ…?ローザって、あの、ローザか?」

電話のやり取りをしていたサドラーの声色が急に変わった。


「…そうだよ。あのローザだよ!あの女…何をするつもりか知らねえが、ビアンカを…」


だが、ケインにはローザが仲間と何をするかの事ぐらいは検討がついていた。
ただ、その惨さを認めたくなかったのだ。


「場所は…大体分かる…ありったけの武器も用意しとけ…」


「ジュリアーノにも知らせておくか?」


「よせ!ローザの背後にマルコーネが居るのは知ってるだろ?話がややこしくなる。そうだ、何か武器だけ貸してもらっとけ…」


「了解だ」


「急げ!俺は先に行くから…場所はまたあとで知らせる!」
ケインは、ケータイを切ると、もはや登校中だと言うのを忘れ、拾った自転車で急ぎ埠頭へ向かった。


(畜生…畜生!…俺が居ながら…なんてことだ!!…ビアンカ…無事でいてくれよ……)

心の中で祈りながら、彼はひたすら走った。






「これがビアンカかぁ…?なんでえ、気持ち悪い女だな…なんでこんな青いんだぁ?」
車でビアンカを拉致した男の一人が、彼女の顔を覗き込み言った。


「…そんなことないよ。よく見れば結構カワイイ顔してんのよ

ローザはタバコを吹かしながら、それに応える。


当のビアンカは、ただ震えるばかり。

ビアンカの腕を掴むヒゲ面にスキンヘッドの男は、無理矢理引き寄せると身体をまさぐり始めた。

「い…いや……」


「ホントだ。イイもん持ってるぜ…色なんて関係ねえよ…フランキ〜

運転席のフランキーは黒人だった。彼は振り向きもせず軽く一瞥した。


「当たり前だ。肌の色なんて関係ない…このお嬢ちゃんは俺の好みだぜ


「悪りぃなぁ〜俺が先にイタダくぜ…」


スキンヘッドの男が、更にビアンカの下半身に手を伸ばす。


「や、やめて……」

涙を流しながら抵抗するビアンカだが、男達の前では非力過ぎた。


「ロレンツォ!ここでヤル気!?」


「準備運動だよおほっ…なんだあ、この姉ちゃん、尻尾が生えてんぜ!」


「ホントか?スゲーな…」

助手席に座っていた入れ墨だらけの長髪の男が、裸にされたビアンカの下半身をマジマジと見た。
もはや、ビアンカは、ただ涙を流すのみ。

「ああ…ローザさん…なんで、こんなことを…」


「ああ?気安くあたしの名前を呼ぶんじゃねえよ……」

その脚で、ミゾオチを思い切り蹴り飛ばした。

「あぐっ…」


「嫌いなんだよ…あんたが…あんたの顔が!それだけだよ…それにあんたは、あのケインとかゆーイケメンといちゃついてんだろ?それも癪に障るのさ…」


「そ、そんな……」


「あたしが、男との付き合い方を教えてやるよ〜あはははっ

車は、彼らのアジトがある埠頭に向かっていた。








「おらっ…おとなしくしろや!!」

ただっ広い工場跡の床に、マットが敷かれていた。そこに乱暴に投げ付けられるビアンカ。

床には酒の缶や瓶、タバコの吸い殻などが散乱し、見れば、血の跡のような茶色いシミがいくつもあった。


「や、やめて…お願い……」

ほとんど裸にされたビアンカが、腰を抜かしたような姿勢で後ずさる。

「うるせえ!じたばたすんなや!」


殴り付けるスキンヘッド。
黒人のフランキーや、長髪入れ墨の男も、それに、ローザは、ただニヤニヤしながら推移を見守ってるだけだ。


「ローザさん…。大丈夫なんスか?」


「何がぁ…?」

入れ墨男が尋ねる。
「ホントに事件になんねーのか?」


「安心しなよ。このビアンカって子はクラスでも嫌われモンなんだよ…。コイツ一人消えたって、誰も心配なんかしないし、かえってせいせいすると思うよ〜


「そうスね。こんなお化けみたいな女…」


「うほっ…スゲーぞ。アソコの形は普通の女と一緒だぜぇ〜〜

スキンヘッドが叫ぶ。

ビアンカは、すでに抵抗する気力すら失い、この獣のような男のなすがままにされていた。


力付くで、自分の体内に異物が入り込む。

全身が刺し貫かれる様な激痛に身をよじらせ呻く。

「ひ…ひぃっ……」


「尻尾が邪魔だなぁ〜」


「おいおい…ロレンツォ、後がつかえてるんだぜ…優しく扱えよ…優しくな…」


「あはははははっ…壊さないよーにね


「わかってるよ!うっせぇなぁ…一緒にヤルかぁ〜?」


「俺、ヤル!」

黒人フランキーが、ズボンを脱ぎだした。

だが、そのベルトを背後から引き寄せる者がいた。

「うあっ…」

体勢を崩し、よろめくフランキーの頭髪を掴み、背中を蹴り飛ばす。

その勢いで、前につんのめり鼻から床に激突する。


「ん……?」


フランキーの後ろに睥睨するは、茶色い瞳に怒りを漲せたケインだった。

「てめーら…」


「お?色男のお出ましだよ?」
入れ墨男が茶化すように言った。


スキンヘッドの、下敷きになるようにして嬲られるビアンカの姿を見て、ケインの沸騰は完全に頂点に達していた。


「全員、殺す……」


「へっ…お前一人でナニが出来るんだよぉ…大体もう、お前の彼女はロレンツォがイタダいちまってるぜ?来るのが遅いんじゃねえの〜?」


「ケ…ケイン…」

マットの上ではいずるビアンカの涙声が聞こえた。

「今…助ける…」


目の前で唾を飛ばす入れ墨男の耳を、いきなり引っ張るケイン。

「あだっ…あだだだ…ナニすん…」

懐から出したナイフで、その耳を切り裂き、さらに返す刀で脇腹を刺し貫いた。


「ひぇ…ひいやぁ〜…!!」

耳と脇腹の迸しる流血を押さえながら体勢を崩す入れ墨男。

笑って見ていたローザだが、舌打ちするとスキンヘッドのロレンツォの所へ駆け寄ると叫んだ。

「いつまでヤってんだよ!アイツをぶっ殺せ!」

ロレンツォは、ビアンカから腰を離し、立ち上がると猛然とケインに向かって行った。

入れ墨の返り血を浴びたケインは、ナイフを投げ捨てると、そのまま俊敏な動きでロレンツォの顔面にカウンターパンチを食らわせた。

「うごぉっっ…」


190センチはあろうかというロレンツォの巨体が揺らめいた。
そして、まるで駄々っ子の様にパンチを繰り返す。
もはや、ロレンツォの顔は血の華が咲き乱れ、原型を留めないほどに歪んでいた。

それを、怯えた目つきで柱で見守るローザ。

「次は、てめーだ。ローザァ〜!!」

ボロボロになったロレンツォが崩れ落ちる。

ケインは、ビアンカの横を通り視線を向ける。

「ケイン…」


「ヤバ…」

堪らず逃げ出すローザ。
しかし、すぐに首根っこを捕まれた。

「…ご、ごめんなさい!ゆ、許して…」

泣きながら謝るローザだが…

「…俺が、そんな甘い男に見えるか?」

ロレンツォ達がやったように、ケインはローザの服を引き裂いた。


「ひぃっ……あたしをどーする気なの?」


「女をいたぶるのは好きじゃねえんだが…お前は別だ…とりあえず裸にしてから考えるわ…」


その時、ビアンカが叫んだ。
「ケイン!危ない!!」


「え…?」

だが、気づいた時には、ケインの背中に衝撃と鈍い痛みが走っていた。


先程の、ケインのナイフを拾ったフランキーが意識を戻し、背後から刺したのだ。


激痛に顔を歪めながらも、そのナイフを抜き、さらに勝ち誇った顔のフランキーの額に突き刺した。

「ぎゃあぁっ…!」

悲鳴を上げるとフランキーは倒れた。

ビアンカが、ケインの傍に駆け寄る。

「だ…大丈夫?ケイン?」


「う…お前こそ…」

膝をつくケイン。それを身を屈めながら支えるビアンカ。

その隙に、ローザは後退り逃げ出す。が…


乾いた銃声が工場内にコダマした。


数発の拳銃の弾丸を喰らったローザが、床に突っ伏した。


見れば、入り口付近にケインの仲間数人が拳銃や武器を構えて入るところだった。


「あらぁ……ちょっぴり遅かったかねぇ…」

呑気な声を上げるのはサドラー。
長身で、陽気な容姿のお調子者。だが、ケインには頼もしい子分だった。

「お、遅すぎだぜ…」


痛む背中を押さえながら、ようやく笑顔を見せるケインだった。


そこへ、再び銃声。

今度はサドラー達が狙われた。

倒れたローザが、鞄から小さな拳銃で狙い撃っていたのだ。

「畜生…畜生…」

撃たれた脚から、流血しながらも、それを引きずりながら後退する。

なおも撃ち続けるローザ。

「ひえっ…」

その銃撃をかわしながら、仲間の一人がジュリアーノから借りたと思われる安物のマシンガンを投げ出す。

それが、ビアンカの眼前に転がった。


「もうよせ!ローザ!諦めな…勝負はついたろ!?」
ケインが叫ぶと、その横で立ち上がる影が目に入った。

裸のまま、マシンガンを手にし、ツカツカとローザの方へ向かって歩いていくビアンカ。


「うっ…?お…おい?ビアンカ!?」


「これを…こうすれば、撃てるんだよね…?」

どこで覚えたのか、ビアンカは、そのマシンガンの照門に眼を当て、引鉄に指を掛けた。


「ま、待てよ…ビアンカ…よせ……」


無表情のまま、銃口をローザに向ける。

ローザは、さらに撃とうとするが弾丸切れの様だった。

「あ…あ…ビアンカ…あ、あたしを撃つの…?」

引き攣った笑いを張り付け、後退る。


「あ、あんたに人を撃てるの…?人を殺せるの…?そんなことしたら、あんた、ホントの悪魔に……」


そんな言葉すら耳に届かぬ様に、ビアンカはマシンガンを乱射した。

唸る連続音が響き渡る。
弾丸が吐き出される度に、微かな断末魔が漏れ、血飛沫とともに掻き消されてゆく。


「ビア…ン…!?…あ、うぐぁっ…ぎぃあっあっ…ぐぁっ…」

ローザは、踊る様に身体をのたうち、床に沈んでいった。

ケインや、サドラー達は、ただ呆然とその姿を見守ることしか出来なかった。

すべて撃ち終えたビアンカの表情に、涙はなかった。

今までの、ただ悲惨な環境に翻弄されるままの弱々しい瞳は消え失せ、強い炎が彼女の瞳に宿り始めていた。










《完》







ほらね?

あのまま済むワケないんだよ。(笑)

“鬼畜・バイオレンスの帝王”が、あのまま純愛路線で行くはずがない。

大体、そうでなければ《過去編》の意味がない。


テーマは「いかにして、ビアンカはあの様なクールさを身につけたのか?」ですから。



初掲載2010-02-05



小説『ミニクイアヒルノコ』Part.2「恋心」

「きゃあ〜〜っ!!」


ビアンカが、トイレの個室に入るや否や、ホースやバケツで水をかけた奴がいた。

「うふふ…どお〜?キレイさっぱり流れたぁビアンカ〜?」

その女子達は、執拗に水をかけ続けた。

もはや、下着までびしょ濡れになったビアンカがひたすら叫ぶ。


「やめてよ〜〜っ!」

だが、出ようにも外から鍵を押さえつけられ出られない。


「あはははははっ…


「おい!お前ら何やってんだよ!?」


突然、男の声が響いた。

「あんだよ…うっせぇなぁ!?」

女子の一人が振り向く。
脅せばビビる生活指導かと思ったが、違った様だ。

「おいっ…ビアンカ…今、助けてやるからな!」


「ケイン…?」


彼は、女子トイレだと言うのも気にせず、堂々と進入してゆく。



「ちょっ…てめ、男子が入ってくんなよ…」


「うるせえ…殺すぞ…」

静かな怒りを露にしたケインの双眸を見て怯む女子達は、そのまま逃げるように去って行った。


ビアンカは、文字通り水洗便所と化した個室から無事救出された。




「大丈夫か…?」

濡れた制服の上から、ケインは自らの上着を着せるが、彼女はただ震えるばかり。

「寒い……」


「ああ、ダメだこりゃ…着替えないと。そうだ。ウチに来いよ…」


「えっ…?」


ケインの家は、学校とビアンカの家の間の距離にあった。

「この姿で帰ったら、またお前んちの母ちゃんが心配するだろ?とりあえずウチで服を乾かせよ?乾燥機を使えばいい…」


「…でも……」


「いいからいいから…」


ビアンカは無理矢理手を引っ張られ、促されるままにケインについて行った。
だが、彼女も悪い気はしなかった。


幼なじみで、唯一の親友ケイン…

ビアンカが、彼に微かな恋心を抱いていたのも確かだ。



彼女には少し大きめの、ケインのシャツとズボンを着て佇むビアンカ。

「……ありがとう、ケイン…」


「ああ、気にすんなって。それ、似合ってるぞ


ケインも、彼女と同じく父親を早くから亡くした為、母親と二人暮らし。
そのため、母親は昼間、仕事に出掛けている。

いみじくも、誰も居ない家で二人きりになってしまった。


だが、膝を抱えたままふさぎ込むビアンカを見て、ケインは何も言えなくなってしまった。

ただ、黙々とタバコを吸い始めるケイン。


「ケイン…」


「ん…?」


「…死にたいと思ったこと、ある…?」


「き、急に、何を言い出すんだよ…」

苦笑いしながら、灰皿で燻る火を潰してゆく。


「自分なんか、この世に必要ないんだ…って思ったことある…?」


凍り付いた瞳で見据えるビアンカ。

ケインは、その紅い瞳に吸い込まれそうになった。


「……そんなこと考えてたのか?」


「毎日…」


ケインは、軽く深呼吸すると言った。


「バカだなぁ…お前は…」

その言葉に反応して、睨みつけるビアンカ。

膝を崩し、四つん這いの様に床に手をつき、ケインに近づいてゆく。


「どうせバカですよ…」


「お前が居なくなったら、お前の母ちゃんが悲しむだろ?…それに…」


「…それに?」


「俺も…だ…」

照れた様に、目を伏せながらケインは言った。


ビアンカの瞳が微かに潤む。
だが、口許には笑みが漏れていた。
それを堪えるように唇を両手で塞ぐ。


「嬉しい…」


ケインは、照れ隠しに再びタバコに手を伸ばす。

不意に、その手を押さえつけるビアンカ。

ケインが顔を上げると、彼女が更に近づき、二人の距離は縮まった。


ケインも顔を寄せる。

それに応えるように、ビアンカは瞳を閉じた。


唇を重ね合う二人。


ビアンカは、腕をケインの背中に回していた。


「ケイン…ありがとう。あなたのお陰で、わたし、生きていられる気がする…」


「大袈裟な奴だな…」


二人は再び、口づけした。





翌日の朝。


布団の中でビアンカは、昨日のことを思い出しては一人悦に浸っていた。


何か生まれ変わったような気分になり、心は高揚していた。


「ママ、おはよう


「なんだか楽しそうね。ビアンカ…何かイイ事あったの?」


「別に


普段の暗い表情とは、打って変わった、娘の姿を見て母マリアは安堵する。

「まあ…元気になったみたいで、ママも嬉しいわ

と、頬にキスをした。

不意に、それを避けようとする娘の態度を訝しむ。


「はは〜ん…


「なに?どうしたの?ママ…」


「ううんなんでもない…(笑)」

しかし、マリアはニヤついた笑いを隠さなかった。


「気になるなー…その笑い方…」


簡素な朝食を済ますと、勢いよく家を飛び出すビアンカ。

「行ってきま〜す


数十メートルも進むと、人通りの少ない交差点に差し掛かる。


ビアンカがそこで信号待ちをしていると、おもむろに真っ黒いボディのキャデラックが近付いて来た。

不審に思いながら、信号機を見詰めていると、後ろから呼ばれる。

「ビアンカ!」


振り向くと、駆け寄るケインの姿が見えた。

「ケイン


静かに手を振るビアンカ。
その刹那、背後のキャデラックから伸びた腕に捕まれた。


「え……っ?」


「ビアンカ…!?」










《続く》


初掲載2010-02-02



小説『ミニクイアヒルノコ』Part.1《ビアンカ学生時代編》

「誰がやったの…?」


ビアンカが、目を離した隙に、机の上の給食のスープの中に虫を入れた奴が居たらしい。


刹那、教室中が静まり返った。
スープの中の虫は、今だに触手を蠢かしている。


青いブレザーの制服に蒼い肌のビアンカは、一際目立つ。

その彼女が凛とした声を上げ、教室中の生徒達を睨み返してる。


再び、何事もなかった様に喧騒が始まる。

注目は一瞬だけ。

まるで、彼女などそこに存在しないかの様に各々がお喋りを始めた。

ビアンカも、怒った顔を見せたのはわずかで、すぐにポーカーフェイスに戻り、立ち上がる。


そして、そのまま教室を出て行った。



校舎裏の花壇。

その傍らにウサギ小屋があった。

ビアンカは、そのウサギの姿を見ながら、ただ独りで泣いていた。

涙を流しながら、彼女は、ふと気付いた。


「赤い眼…」

ビアンカも、ウサギも同じ様な真っ赤な色。


「わたしと同じだね…」


「きっとウサギも泣き虫なんだろな……」


影がさした。
その声に振り向くと、一人の男子生徒が立っている。

「ケイン…」

涙を見せまいと、必死で頬を拭う。

「よおっ…何やってんだよ。こんなとこで…」


その男子生徒は、茶髪に茶色がかった瞳、少し不良っぽい雰囲気だが、割とイケメン。

ビアンカの幼なじみ、ケインだった。


「あ…あんたこそ、何しに来たの…?」


「別に…」

おもむろにタバコを取り出すと、火を着けプカブカと吸いはじめる。

その煙を、さも欝陶しいかの様に手で扇ぐビアンカ。


二人の間に、気まずい沈黙が続いた。


「…また泣いてただろ?」
言いながら、煙を吐き出す。


「な…泣いてなんかないよ……」

ふて腐れるように、そっぽを向くビアンカ。


「…他人がお前をどう思っていようが、あんまり気にすんなよ…」

ポツリ一言呟く様に吐き捨てると、ケインはその場をそそくさと立ち去って行った。


「えっ………?」

ウサギを抱きしめながら、ケインの後ろ姿を追う。


再び教室に戻ると、彼女の机が定位置になく、窓際にゴミ箱とともに積んであった。

見ると、机の板には稚拙な絵柄で、スーパーマンの様なヒーローがツノを生やした悪魔みたいな女を殴りつけている漫画の絵が描かれていた。

そのヒーローの吹き出しに
「やったぞ!悪魔を倒した!」
と、あった。


伏し目がちな瞳で、それを見遣る。


「あ、悪魔じゃない…」


どこからか、クスクスと彼女を嘲笑する声が聞こえてくる。


「ふふふ……」


「あはは…魔女が何か言ってる……」


「悪魔の子のくせに、なんで人間の学校にいるんだよ?」



その声達は、直接頭に響いてくる気がした。

押し上げる感情を抑え、涙を堪えながら、必死で耳を塞ぐ。


「あんなの生きてたってしょうがないだろ…」


「ふふふ…あはは…」



午後の授業は体育。

バスケットだった。

しかし、ロッカーにビアンカの体育着が見つからない。

呆然と立ちすくんでいると、クラスメイトの女子の一人が声をかけてきた。

「どうしたの?ビアンカ…授業始まっちゃうよ?」


「わたしの体育着がないの……」


「ああ、だったら、あたしの貸したげる…今日、風邪っぽいから見学しようと思って…」

彼女は、おもむろにロッカーから自分の着替えを出して、ビアンカに渡した。


「あ…ありがとう!」


満面の笑みを浮かべ、それを受け取った。


授業の試合が始まり、何か妙な違和感を覚えた。

どうも、さっきから自分を見てみんなが笑っている気がする。

そして、シュートのボールがやたらと自分に集中する。

堪らず、抜け出しトイレで着ていた体育着を脱いで確かめてみた。


それの背中には、マジックで「わたしは悪魔よ。みんな、わたしを殺しに来て」と書かれていた。

「…酷い…」


その服をゴミ箱に投げ捨てると、ビアンカはそのまま学校から飛び出した。





「お帰りなさい


母のマリアが笑顔で迎えるが、ビアンカは無言のまま鞄と服を投げ、そのままシャワールームに飛び込んだ。

裸になり、自らの蒼い裸体を見て、嘲笑する。

「ふふ…悪魔だ…あはは……」

自らを卑下しながら、口では笑い、嗚咽を漏らす。


「わたしが…わたしが何をしたの……??なんで……みんな、わたしを除け者にするの……」


マリアが台所で夕飯の仕度をしていると、ビアンカの居る風呂場からガラスの割れるような音が響いた。


「ビアンカ!?どうしたの……!?」


母が駆け付けて見ると、そこには粉々に砕け散った鏡と、両手を血まみれにしたビアンカが立っていた。


「ビアンカ…大丈夫!?」


「ママ…ママ!なんで、わたしを産んだの…!?」


血まみれの手で、母に掴み寄る。


母マリアは、暴れる娘を宥めるので精一杯だった。

「ママ…わたしは悪魔の子なんでしょ?だから、クラスの皆がわたしを疎外するんだ…こんな…こんな蒼い皮膚に…ツノまで生えてる…どうして、わたしだけこんな姿なの?」


「あなたは人間よ。悪魔なんかじゃない…」


「嘘だ!わたしのパパは悪魔だったって叔父さんやお爺ちゃんが言ってた…」


マリアは、泣きわめく娘を静かに抱きしめた。


「あなたはママの子よ。わたしがお腹を痛めて産んだ、大事な大事な可愛い娘ですもの…」


「ママ……」


マリアの抱擁で、ビアンカの心の闇は少しは晴れた気がした。


しかし、あの忌まわしい出来事が起きるのは、一週間後のことだった。







《続く》



ビアンカは、幼い頃より、いじめられっ子でした。そして、ミカエラやヴァージニア達も。

彼女等は、それぞれが違う人生を歩みながら、やがて一つの縁で出会うことになります。


読者の方で、いじめに遭った方は居ますか?

自分は、イジメらしいイジメはなかったですが、いじめられっ子に味方して「村八分」状態になった事は何度かあります。(最近もそれに近いことがあった気が…(笑))



この物語は、綺麗事を抜きに“虐げられた者達”の「復讐」と「前進」

そして、過去の自分たちへのレクイエム…



初掲載2010-01-31

小説『ルナティカ・テイルズ・4』《完結編》

『ルナティカ・テイルズ4〜Mr.Darkness & Mrs.Moonlight』






「吸血鬼の…クローンですって………!?では、あなたは本物のヴァンパイアではないの?」


女狼ヴァージニアは退きながら、博士を警戒する。その瞳はルカと博士を交互に見遣る。


「偽物と言うワケではない。複製だよ…」


テンプル博士はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらヴァージニアの方に振り向き、更に彼女に詰め寄る。


「……そんなことより、
“本物”が居たと言う事実が素晴らしいではないか……?えぇ?
此処のラボに居る偽のフリークス達とはワケが違う…
私は、本物のヴァンパイアに出会っ…」


言葉がすべて終わらぬうちに、ルカは博士の背後から心臓を貫いていた。
ヴァージニアの目の前に、いまだ動く真っ赤な心臓が現れた。
驚愕の表情でルカを見る博士。


「ルカ…?私は、お前の親……いや、創造主だぞ?……お前は神を殺すのか……?」


「神…?」


心臓を掴む右手を引き抜く。血が滴り博士は呻きながら倒れ伏す。


「……お前が神なら、俺は喜んで悪魔になろう……闇に潜み、創造主を憎悪し、呪われて生きよう………」


心臓を投げ捨て、その手に付いた血を啜る。


「ルカ……」


ヴァージニアは、心配そうにルカの背に手を掛ける。彼は身動き一つせず、倒れ伏す博士を見詰めていた。


「ヴァージニア…哀しいかな…不死と言われるヴァンパイアとて“死”は訪れるのだ……」


「……………」


「………俺の…いや、我輩の素体であるヴァンパイアは、ハンターに追われ、肉体は破壊され、死を迎える刹那、この博士に自らの再生を望み、血液と細胞を託したのだ……」


「……その再生した姿が、あなたなの……?」


「然り…

……我輩の前世がどんな吸血鬼だったかは知らぬ。
しかし、我輩はこんな風に生まれて来たくはなかった……」


ルカは“傷だらけのメアリー”の浮かぶカプセルを撫で下ろしながら呟く。


「……このメアリーとて同じこと……彼女は、我輩の唯一打ち解けられる恋人だった。
…が、彼女はある日、事故で死んだ!
身体はバラバラになり、内臓や脳さえも粉々になった……それを見た博士が実験台として、死体を繋ぎ合わせたのがこの姿なのだよ…」


「……そんな……」


「これはメアリーの姿をした別の生き物だ!そして、我輩も…ヴァンパイアの姿をした…」


「普通の人間…なのね?」


ルカは黙ってヴァージニアを抱きしめた。
彼女は、それに応えるように腕を絡めた。


「ヴァージニア……お前に頼みがある……」


「なあに?ルカ…」


ルカは、用意しておいた杭を持ち、自らの心臓の位置に“それ”をあてた。


「我輩を殺せ…この杭を心臓に突き刺し…首を撥ねれば我輩は死ぬはずだ………」


「なんですって…!?」


「……このメアリーも、我輩が今から破壊する……ラボごと焼き殺す。博士が作り出した忌まわしい生物達ともども……」


「ああ…なんてこと……」



その時、メアリーの眠るカプセルに皹が入った。


その隙間から液体が漏れ、更に皹が伸びてゆく。

二人は顔を見合わす。

「なっ…!?ま、まさか…!?」


中に眠るメアリーは、おもむろに目を覚ます。


「ル、ルカ……?」


「メアリー……俺を…覚えているのか…?」


カプセルが割れ、大量の培養液が流れ出し、それとともに彼女も外へ飛び出した。


生まれたての赤ん坊の様に足腰が覚束ない“傷だらけのメアリー”は、ルカに身体を支えられ呆然と辺りを見渡した。


「わ…わたしは一体…!?」


「生き返ったんだよ…メアリー…」


二人が抱き合う姿を見て、ヴァージニアは更に嫉妬の炎を燃やす。


だが、自らにとっての命の恩人であるルカに文句を言えるヴァージニアではなかった。


「ああ……あたしは、どうしたら…」


ヴァージニアは、頭を抱えながら月の光があたる部屋の外へ歩みだす。

そして、満月を見詰めると変身が解け、女狼から再び“人間ヴァージニア”の姿に戻る。
白い裸身が月夜に映えていた。


「ルカ…あたしを見て……」


「ああ、君は美しいよ……」


「あなたのお陰よ…
あなたがあたしをこんな姿に再生してくれたのよ……?」


「我輩を殺す為にな……」


ヴァージニアは首を振る。


「それは違うわ。肉体を再生したのはあなたでも…魂はあたしのものよ……」


「なに……?」


「あなたが、あたしの魂まで支配する権利はないはず」


「どういう意味だ……」


「魂は、自分自身のもの……狼でも、ヴァンパイアでも、繋ぎ合わせた死体でも……」


ヴァージニアは、裸身で踞るメアリーを指差した。


「……このメアリーも、あなたが殺す権利なんかない……」


「では、我輩だけ殺すがいいさ……」


「……そんなこと、あたしが許さない。あなたが死ぬなんて……」


「ヴァージニア…」


「……あたしを蘇生しておいて、自分を殺してくれだなんて……あなたはホントに勝手に過ぎるわ!あたしの気持ちはどうなるのよ!?」


その言葉を聞き、茫然自失としながら頭を抱えるルカ。


「ああ…ヴァージニア……我輩は間違っていたのか………?我輩は父たるテンプル博士を憎み、そして、お前は我輩を蔑むのか……」


彼女は、再びルカの許に寄り、背中に腕を廻した。
そして、ルカに口づけをすると笑顔で応えた。


「いいえ…ルカ、あなたは何も間違ってないわ……」


「ヴァージニア…」


「あたしを選んだのはあなたなのだから…感謝と言う言葉では表せない……」


「…ヴァージニア……さん…?」


ルカに身体を預けていたメアリーが、不意に上体を起こした。


「……ありがとう。あなたなら、彼を託してわたしは旅立てる気がする…」


「えっ……!?」



言うや否や、メアリーの傷だらけの身体は徐々に崩れはじめ、ルカの腕の中で朽ち果てていった。


「メアリー…!?」


「さようなら。最愛の人…また会えて嬉しかった…」


メアリーは、ヴァージニアに微笑みを向けると、ルカの目の前で再び息絶えた。


その様を愕然と見詰める彼に手を伸ばすヴァージニア。









「…今度は、あたしの番ね?…ルカ…」


「ヴァージニア…」


「あなたの孤独な魂は、あたしが癒してみせる…」






ルカとヴァージニア。

二人の魂は一つになり、闇夜に溶け込んだ。


狂おしき月下の物語は、こうして幕を閉じる。


二人の闇の住人は更なる漆黒の誓いの下、お互いを必要とし、生き続けるのだろう………


二度目の死が二人を分かつまで…





《狂的月下譚完》




初掲載2009-12-08







…こうして、哀しき女狼と孤独なヴァンパイアの物語は一旦幕を閉じ、新たなる幕開けと向かいます。




ヴァージニアのドラマはまだまだ続きますよ♪

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