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小説『戦士の詩〜Warrior's Rhapsody〜』第18話「Morning Star」

ニカは、傷ついた身体を癒すために、最近湧いたと言う温泉に行こうと決めた。

それは、ヴィレッジ・タウンの外れにあった。
崖に面した岩に囲まれた木製の小屋。


どうやら、先客が居たようだ。若い女の甲高い声が脱衣所まで響いてくる…
聞き覚えのある声、まさか……


「きゃあ〜」


「ヴィッキー、いきなり入ってくんなって!!お湯がなくなるだろ!!」


「あ……ごめん…」

察しの通り、ギャル軍団の3人だった。

温泉と言っても立派な施設ではない。
簡易な壁で囲まれただけの露天風呂だ。
それが木製のバスにビニールシート。
そこにお湯が注がれている。
四方10メートルもない狭い空間である。


そこへ、素知らぬふりをした裸身のモニカが入ってきた。


「あ………」

最初に気付いたのはマキ・ブルームだった。

一糸纏わぬモニカは、いつもは後ろでポニーテール風に結わいている長い金髪を解き、北欧系の白い裸身を晒し、豊満な胸とスラリとのびた脚で姿勢を少し反らして颯爽と歩いてくる。

……アイリーンがワルキューレなら、こちらはさながら軍神ミネルヴァの如し。

まさに舞い降りた女神だった。


その姿に見とれるマキ。それは同性から見ても十分魅力的だった。


「モニカさん…綺麗だね…」

ヴィッキーも同じ様にモニカの姿に魅入っていたが…ただ一人、アイリーンだけがシカトを決め込む。
なるべくモニカを見ない様にしていた。


モニカはモニカで、3人に気付かないふりをして身体にお湯をかけながら湯煙の中で腰掛けた。

見ているこちらが恥ずかしくなるほどの大胆さで裸身を晒している。


「モニカさん、もう怪我は平気なんですか?」

声をかけたのはマキ。
今更わざとらしいぐらいに振り向くモニカ。

「やぁ…マキじゃないか……」


顔にかかる濡れたブロンド髪からのぞく緑がかった碧い眼が眩しい。
お湯に浸かり近づいてくるモニカ。
マキは何故か顔を赤らめていた。


「大丈夫…まだ肩が少し痛むけどね…」

と、左肩から腕にかけて痛々しい痣を摩って見せた。
その長い腕の間からお椀の様な形のいいバストが見え隠れしている。


「マキ、あんたも綺麗な娘だね…身体を大事にするんだよ。女なんだからね…戦場に居ても、いつも綺麗でいるんだよ?」


「は、はい!!」


感激するマキ。
モニカは後ろに控えるヴィッキーを見た。

「ヴィクトリア…あんたもいい加減に、鎧を着けなよ……いつも裸もいいけど、そんなんじゃ色気も何もないよ…隠してこそ花だろ?」

と、ヴィッキーの巨大な胸を触る。
何故かドキドキしているヴィッキー。


「あんたもマキやミキに劣らず可愛い顔してんだからさ……今度あたしが化粧を教えたげるよ、ボディーペイントじゃなくてさ」


「お…お願いします!」

畏まってお湯の中に顔まで沈むヴィッキー。


その様子を黙って聞いていたアイリーンは、義足を外している為に左足だけでお湯の中で立ち上がり、裸のお尻を向けて窓から外の崖を見ている。


「おや?アイリーンも居たのかい?」

ついに自分が呼ばれたと一瞬ビビるアイリーン。


「や、やあ……モニカ…今日もいい天気だね


「さっきまで雨降ってましたよ」

いらぬツッコミを入れるマキ。


「ノー天気だから気付かないのさ…そうだろ?アイリィ?」

アイリーンは振り向いて無理な笑顔を作る。

「そ…そーなの!あたいノー天気だからさ!」


「あんた…」

モニカは振り向いたアイリーンの全裸をマジマジと凝視する。


「あ…あによ〜」

とっさに胸と股間を隠すアイリーン。


お湯の中を近づいてくるモニカ。アイリーンの赤い髪を掴む。

「あんた、ホントはブロンドなんだね」


「!!」


「何だってそんなに赤い髪にしてんのさ……勿体ないよ」

股を必死で隠すが、時すでに遅し。
モニカに薄い金色のアンダーヘアーをバッチリ見られていた。

「いいじゃない!あたいの勝手でしょー」


「まあね……でも誰かが見た時にショック受けるよ」


「だ、誰かって…」

顔まで真っ赤になるアイリーン。
お湯に沈む。


「あはははは…アイリーン隊長!いっそアソコも赤くしちゃいなよ!?」

また余計なツッコミを入れるマキ。
一緒に爆笑しているヴィッキー。


「う…うるへー」

完全に後ろを向いてしまい、ふて腐れるアイリーン。
それを見て笑うモニカ。急に悪寒が走る……


「う……」

頭を押さえて、いきなり湯に沈むモニカ。

「モニカさん?どうしました!?」

心配して背に手を宛てるマキ。

モニカは一瞬、眩暈にも似た感覚に襲われた。

だが…これは、違う…


真っ暗闇の空間に、飲み込まれて行くケインの姿が頭をよぎったのだ。


「ケイン……」


モニカの口から出た名前に、アイリーンも振り向く。
そして……アイリーンも見えない槍で身体を貫かれた様な感覚に襲われて急に立ち上がる。


「な……何……!?」

お湯の中とは言え片脚で立ち上がるとよろける。

それを支えたのはモニカだった。


「モ…モニカ……」

アイリーンの背にモニカの胸が押し当たる。


「ケインの身に何か…」

二人は天を見上げる。

空は満天の星空だ。
この同じ空の下…ケインは…







「ケインー!!」


紅い馬に乗ったガイウスが駆ける。

槍襖の如く襲い来る黒い悪鬼達を自慢の剣で薙ぎ倒しながら……


「何処だ?ケイン!!」

しばらく進むと、やはり黒い邪悪な鳥達に囲まれたミゲル隊とジャガーを見付けたガイウス。

すかさず肩からバズーカを取り出し、爆音とともに黒い悪鬼を吹き飛ばした。

黒煙の中から現れたガイウスは悪鬼を滅ぼす不動明王に見えた。


「おうっ!ガイウス隊長!!かたじけない!」


「ケインを見なかったか?」


「なんだと?リーダーに何かあったのか?」


ジャガーの背に隠れていたミゲルは身を乗り出した。


「ああっ…急に行方不明になった…ヴィンスの話では奴らに囲まれた後に姿が見えなくなったらしいが…」


「や、やられたのか?」


「いや…死体らしいものも太陽剣も見つからない ……消えたんだ!」


「消えたって……?」


動揺が走る同盟軍。

ケインは一体どこへ……







闇の中の闇……


そこに、ケインは居た。

それは、サンズ・オブ・イヴィルブラッド島の、すなわち《地獄の蓋》の奥深く……そこは、本当の地獄なのか?


巨大な玉座の様な岩の連なる地底の闇にケインは横たわっていた。


「ここは……何処だ…?」


微かな光が天井から射し、それがケインの手に握る太陽剣に反射し、さながら明けの明星の如く発光していた。


(……俺は一体…!?)

暗闇の向こう…距離はわからないが燐の様な無数の魔魂が見えた。


囲まれている……?


何か不気味な笑い声が聞こえた気がした。






《続く》

小説『戦士の詩〜Warrior's Rhapsody〜』第17話「Carnival in the Dark」

ケインは、何か胸騒ぎがしていた。


東の陣地リーパーズ・アイランドまでの道程…大軍であるため、何度も小休止を取るが、東に近づくにつれて何か「予感」を覚えていた。


外はすっかり暗闇だ。

ケインの幕舎には親衛隊のヴィンセントとサドラーしか居ない…

常に同行していたモニカの姿はない。それが余計にケインの心を蝕む。


「入るぞ…」

その声に皆が振り向く。
ガイウスだった。


「よお……ガイウス、どうしたんだ?」


「あんまり静かな夜なんでね…」

と、酒の入った壷をテーブルの上に置いた。


「おっ!さすがガイウス隊長、素晴らしい物をお持ちですな」

喜んだのはヴィンセントとサドラーだ。


「まだリーパーズ・アイランドには遠いからな…」
蓋を開けコップに注ぐガイウス。
ケインも受け取るがなかなか口を付けない。


「どうしたい大将!飲まないのか?下戸じゃあるまい!」


「悪いな…今夜はそんな気分じゃない…お前らだけでやってくれよ」


「そうかい」


「じゃあ、リーダーの分はあっしらが頂いちまいますぜ!」


「ああ、やるよ」

言ったまま幕舎から出て行くケイン。



「どうしたんだ、あいつ……」

それをヘラヘラと笑うサドラー。

「なんだ、サドラー?」


「ヘッヘッ…コレが居ないんで寂しいんですよ」
と、小指を立てる。


「モニカか?ハハッ…」

酒をあおるガイウス。幕舎では笑い声が響く。




ケインは一人、満天の星空の下で思案にくれながら歩く…


(……この胸騒ぎはなんだ……??)




一方、ケインの幕舎から更に東寄りの丘の上にミゲル隊の幕舎があった。


ケイン隊の精鋭弓矢部隊も今は小数の見張りを残し、眠りについていた。



「ふぁわあ〜〜!!」


デカイ口を開けて欠伸をしたのは仲間に加わったばかりのジャガー・アルゴン・マーキュリーだ。


「ミゲルちゃん…いや、ミゲル隊長さんよぅ…」


「なんだよ?」

毛布に包まって寝ながら応えるミゲル。


「酒ぇ…ねえのか?酒はぁ?」


「ああっ!?んなもんあるかよ!!」
眠りを妨げられ不機嫌なミゲル。


「…ちっ、やっぱりな……じゃ、女は?」


「はぁ!?」
ガバッと起きて睨み付けるミゲル。


「お前…ここを何だと思ってやがんだ?軍隊のテントだぞ?」


「だが、同盟軍にゃ女だけの部隊や、なんつったか美人の軍師が居るって聞いたぞ」


「ああ、チェリー隊やモニカさんか?残念ながら今回は同行してないよ!都で留守番だ!モニカさんは負傷してるしな!」


「ちぃっ、居ねえのか」
と、ふて腐れる様に横になるジャガー。


「酒もねえ…女も居ねえ……つまんねえとこだな…軍隊ってのはよ」


ミゲルはツカツカと寄って来る。

「てめーは馬鹿か?何しにここへ来たんだ?」


「へへ……そう怒るなよ、ミゲル隊長殿……おっそうだ。あんた女の恰好して茶でもいれてくれよ…雰囲気だけでも…」


「ふざけんなっ!!」

ミゲルはジャガーの寝てる板を思いっ切り蹴飛ばした。



その時だった…


二人は外に何か異変を感じた……


「ミゲル隊長……」


「ああ……」


そこへ、急にケインが現れる。


「二人とも、出ろ!!」



そして、ガイウス達が酒盛りをしている幕舎でも何かに気付いていた。


「ん……」
酒を飲む手が止まるガイウス。


「どうしたんですか?」


「これは……」


「!?」


「お前も気付いたか?ヴィンス……」


「ええ……急に野犬の声が聞こえなくなりましたな」


「はっ!そ、そう言えば……」



ガイウスは真っ先に幕舎を飛び出る。
それを追うヴィンセントとサドラー。


天を見上げると、何かがおかしい。


東の空だけ星が見えない…まさに漆黒の闇だ。


まるで巨大な神か何かが東の星々を飲み込んでしまったかの様に……


「こ、これは……!?」


そして、その東の闇は生きているかの様に蠢いていた…


生きている闇……


その闇の塊は徐々にこちらに近づいてくるかの様に見える。

いや、正確には何も見えないが確かに「何か」がこっちへやってくる。


「敵襲!!」


怒声と共に、敵襲を報せる鐘が全軍に響き渡る。

跳ね起きる兵達。

静まり返っていた荒野が急に慌ただしくなる。


「ケイン!!」


ガイウス達が改めて武装し、駆け寄った先で見たものは……


襲い来る闇と戦う弓矢部隊と、巨大なトマホークを振りかざすジャガー達の姿。

そして、太陽剣で「闇」を斬り裂くケインの姿だった。


「来たぞ…ガイウス」


段々と目が闇に慣れてくる。
微かな炎に映るもの…それはカルロスの言っていた「黒い鳥」に違いない。

その悪魔然とした化け物がケイン軍の上空から奇襲してきたのだ。


「あ…明かりだ!もっと炎を燃やせ!!」


ガイウスが叫ぶと、紅竜隊のメンバーが松明を点し駆け寄る。

「隊長!下知を!ご命令を!!」


「おお…サルヴァドーレ!!今こそ、紅竜隊の本領を見せいっ!!」


サルヴァドーレと呼ばれた兵はガイウスにかしづくと下がる。


やがて、松明があちこちで点される。

そこに広がるのは阿鼻叫喚のケイン軍の姿。

弓矢や銃で応戦するものの、圧倒的な数と闇と言う味方をつけたガーゴイルズの前に血の池地獄を作り出す。だが……


「これが兄貴を殺した悪魔どもかぁ!?相手にとって不足はねえ!」


巨大なトマホークで次々とガーゴイルズを切り裂くジャガー。


「つ、強ええ……」

その鬼神もかくやと言った姿を目の当たりにして驚愕するミゲル。


「ジャガーを死なすな!」

ミゲルの弓矢隊も、ジャガーを支援する様に黒い鳥達を撃ち落としてゆく!

そして、騎馬にて黒い嵐の中に突っ込むのはケイン率いる精鋭。
従うヴィンセントとサドラー。

次々とガーゴイルズを細切れにするケインの魔剣…閃くたびに闇が切り裂かれた。

まさに闇を斬る光明の剣…太陽の剣の本領発揮だった!


そして、極め尽きはガイウスの紅竜隊。

「撃てい!!」


ガイウスの号令一下、騎馬のまま横並びとなり取り出したのはガトリング・ガン。

それを、闇の化け物に向けて一斉射撃。


爆音と不気味な悲鳴とともに砕け散る闇。


ケイン・ガイウス隊は、ギリアムやマーキュリー隊とは比べ物にはならない程強く、なにより統率が取れていた。


これが、同じ敵にさらに危うい立場で奇襲を受けた軍隊とは思えない違いを見せ付けていた。


ガイウス隊の射撃を見たケインは感嘆する。

「さすが、ガイウスの火竜砲撃隊だな!!」


だが、黒い嵐はまだ止む気配を見せなかった。


その波状攻撃の前に、いつしか5万人のケイン・ガイウス連合は3万に減っていた。


「くそったれぇー!コイツラ、斬っても斬ってもキリがねえや!」

トマホークを振り回しながら、さすがに疲労の色を隠し切れないジャガーがふと見ると、ミゲルの真後ろに近づく黒い鳥。


「ミゲルちゃん、危ねえ!!」


トマホークを飛ばすジャガー。

間一髪。

ミゲルの後ろにいたガーゴイルの頭蓋骨を割るトマホーク。

「あ…ありがとう、ジャガー」


「ああ…礼は後だ……すっかり囲まれちまったようだぜ…」


ミゲル、ジャガー達にじりじりと近寄るガーゴイルズ。
黒い輪が徐々に狭まる。


「ぐあっ!」

左腕を噛み付かれたサドラー。

「サドラー!」

それを助ける為に長槍で敵を突くヴィンセント。

「大丈夫か?」


「ああ……」
と、腕を押さえる後ろにガーゴイルズ。


「危ない!!」

そこへ現れたのは黄金色の剣を持つケイン。


「みんな、無事か!?」


「リーダー!!」


「乱戦になってきた…お前らも気をつけろ!!」



その矢先……何故かケインの脳裏にモニカの姿が浮かぶ……。

憂いを秘めた、ケインを心配するかの様な表情で。


(うっ……!?こんな時に……何だってんだ?)


ケインは黒い焔に包まれていた。


「ああっ!!リーダー!?」


「ケインさん!!」




闇、闇、闇………ケインの姿は、その闇の塊に飲み込まれいつしか見えなくなっていた。


ガイウスが駆け寄る。


「どうした!?何かあったのか!?」


涙目になりサドラーが叫ぶ。


「リ、リーダーが……」


「何だ?ケインがどうした!?」





漆黒の荒野に、更なる闇が押し寄せて来た……







《続く》
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