ニカは、傷ついた身体を癒すために、最近湧いたと言う温泉に行こうと決めた。

それは、ヴィレッジ・タウンの外れにあった。
崖に面した岩に囲まれた木製の小屋。


どうやら、先客が居たようだ。若い女の甲高い声が脱衣所まで響いてくる…
聞き覚えのある声、まさか……


「きゃあ〜」


「ヴィッキー、いきなり入ってくんなって!!お湯がなくなるだろ!!」


「あ……ごめん…」

察しの通り、ギャル軍団の3人だった。

温泉と言っても立派な施設ではない。
簡易な壁で囲まれただけの露天風呂だ。
それが木製のバスにビニールシート。
そこにお湯が注がれている。
四方10メートルもない狭い空間である。


そこへ、素知らぬふりをした裸身のモニカが入ってきた。


「あ………」

最初に気付いたのはマキ・ブルームだった。

一糸纏わぬモニカは、いつもは後ろでポニーテール風に結わいている長い金髪を解き、北欧系の白い裸身を晒し、豊満な胸とスラリとのびた脚で姿勢を少し反らして颯爽と歩いてくる。

……アイリーンがワルキューレなら、こちらはさながら軍神ミネルヴァの如し。

まさに舞い降りた女神だった。


その姿に見とれるマキ。それは同性から見ても十分魅力的だった。


「モニカさん…綺麗だね…」

ヴィッキーも同じ様にモニカの姿に魅入っていたが…ただ一人、アイリーンだけがシカトを決め込む。
なるべくモニカを見ない様にしていた。


モニカはモニカで、3人に気付かないふりをして身体にお湯をかけながら湯煙の中で腰掛けた。

見ているこちらが恥ずかしくなるほどの大胆さで裸身を晒している。


「モニカさん、もう怪我は平気なんですか?」

声をかけたのはマキ。
今更わざとらしいぐらいに振り向くモニカ。

「やぁ…マキじゃないか……」


顔にかかる濡れたブロンド髪からのぞく緑がかった碧い眼が眩しい。
お湯に浸かり近づいてくるモニカ。
マキは何故か顔を赤らめていた。


「大丈夫…まだ肩が少し痛むけどね…」

と、左肩から腕にかけて痛々しい痣を摩って見せた。
その長い腕の間からお椀の様な形のいいバストが見え隠れしている。


「マキ、あんたも綺麗な娘だね…身体を大事にするんだよ。女なんだからね…戦場に居ても、いつも綺麗でいるんだよ?」


「は、はい!!」


感激するマキ。
モニカは後ろに控えるヴィッキーを見た。

「ヴィクトリア…あんたもいい加減に、鎧を着けなよ……いつも裸もいいけど、そんなんじゃ色気も何もないよ…隠してこそ花だろ?」

と、ヴィッキーの巨大な胸を触る。
何故かドキドキしているヴィッキー。


「あんたもマキやミキに劣らず可愛い顔してんだからさ……今度あたしが化粧を教えたげるよ、ボディーペイントじゃなくてさ」


「お…お願いします!」

畏まってお湯の中に顔まで沈むヴィッキー。


その様子を黙って聞いていたアイリーンは、義足を外している為に左足だけでお湯の中で立ち上がり、裸のお尻を向けて窓から外の崖を見ている。


「おや?アイリーンも居たのかい?」

ついに自分が呼ばれたと一瞬ビビるアイリーン。


「や、やあ……モニカ…今日もいい天気だね


「さっきまで雨降ってましたよ」

いらぬツッコミを入れるマキ。


「ノー天気だから気付かないのさ…そうだろ?アイリィ?」

アイリーンは振り向いて無理な笑顔を作る。

「そ…そーなの!あたいノー天気だからさ!」


「あんた…」

モニカは振り向いたアイリーンの全裸をマジマジと凝視する。


「あ…あによ〜」

とっさに胸と股間を隠すアイリーン。


お湯の中を近づいてくるモニカ。アイリーンの赤い髪を掴む。

「あんた、ホントはブロンドなんだね」


「!!」


「何だってそんなに赤い髪にしてんのさ……勿体ないよ」

股を必死で隠すが、時すでに遅し。
モニカに薄い金色のアンダーヘアーをバッチリ見られていた。

「いいじゃない!あたいの勝手でしょー」


「まあね……でも誰かが見た時にショック受けるよ」


「だ、誰かって…」

顔まで真っ赤になるアイリーン。
お湯に沈む。


「あはははは…アイリーン隊長!いっそアソコも赤くしちゃいなよ!?」

また余計なツッコミを入れるマキ。
一緒に爆笑しているヴィッキー。


「う…うるへー」

完全に後ろを向いてしまい、ふて腐れるアイリーン。
それを見て笑うモニカ。急に悪寒が走る……


「う……」

頭を押さえて、いきなり湯に沈むモニカ。

「モニカさん?どうしました!?」

心配して背に手を宛てるマキ。

モニカは一瞬、眩暈にも似た感覚に襲われた。

だが…これは、違う…


真っ暗闇の空間に、飲み込まれて行くケインの姿が頭をよぎったのだ。


「ケイン……」


モニカの口から出た名前に、アイリーンも振り向く。
そして……アイリーンも見えない槍で身体を貫かれた様な感覚に襲われて急に立ち上がる。


「な……何……!?」

お湯の中とは言え片脚で立ち上がるとよろける。

それを支えたのはモニカだった。


「モ…モニカ……」

アイリーンの背にモニカの胸が押し当たる。


「ケインの身に何か…」

二人は天を見上げる。

空は満天の星空だ。
この同じ空の下…ケインは…







「ケインー!!」


紅い馬に乗ったガイウスが駆ける。

槍襖の如く襲い来る黒い悪鬼達を自慢の剣で薙ぎ倒しながら……


「何処だ?ケイン!!」

しばらく進むと、やはり黒い邪悪な鳥達に囲まれたミゲル隊とジャガーを見付けたガイウス。

すかさず肩からバズーカを取り出し、爆音とともに黒い悪鬼を吹き飛ばした。

黒煙の中から現れたガイウスは悪鬼を滅ぼす不動明王に見えた。


「おうっ!ガイウス隊長!!かたじけない!」


「ケインを見なかったか?」


「なんだと?リーダーに何かあったのか?」


ジャガーの背に隠れていたミゲルは身を乗り出した。


「ああっ…急に行方不明になった…ヴィンスの話では奴らに囲まれた後に姿が見えなくなったらしいが…」


「や、やられたのか?」


「いや…死体らしいものも太陽剣も見つからない ……消えたんだ!」


「消えたって……?」


動揺が走る同盟軍。

ケインは一体どこへ……







闇の中の闇……


そこに、ケインは居た。

それは、サンズ・オブ・イヴィルブラッド島の、すなわち《地獄の蓋》の奥深く……そこは、本当の地獄なのか?


巨大な玉座の様な岩の連なる地底の闇にケインは横たわっていた。


「ここは……何処だ…?」


微かな光が天井から射し、それがケインの手に握る太陽剣に反射し、さながら明けの明星の如く発光していた。


(……俺は一体…!?)

暗闇の向こう…距離はわからないが燐の様な無数の魔魂が見えた。


囲まれている……?


何か不気味な笑い声が聞こえた気がした。






《続く》