三月三日、女の子の日。その朝、少女はいつもと同じ公園に向かっていた。
「明良さん、もういるかな?」
弾む息と一緒に呟きが漏れる。公園の入り口に着くと、黒い人影が一つ見えた。
「明良さん、おはようございます!」
「おぉ、さっちゃん。おはよー。」
少女が挨拶すると、ひょろっと縦に長い人影が、こちらを向いて返事をした。
黒い学ランを着崩し、咥えタバコなその男は、この辺りでは不良校として有名な高校の生徒だった。
「また、タバコ吸ってるんですか?体に悪いですよ。」
少女が注意すると、男は「悪い悪い」と言いながら、ポケットから携帯灰皿を取り出す。
「どうも、朝の一服はやめらんなくてな〜。」
苦笑し、ぼやく男に少女は「朝だけじゃないくせに」と頬を膨らませて言う。
「・・・まぁ、そうなんだけどな。」
男は相変わらず笑ったまま、タバコの火を消した。
「ところで、さっちゃん。それ、中学の制服か?」
男が細い目をほんの少し見開いて、しげしげと少女を見る。
「はい。今日、卒業式だから。・・・似合わないですか?」
少女は不安そうに男を見る。
「いや、似合ってるよ。制服着ると大人っぽくなるね。」
にっこり笑う男の言葉に少女は恥ずかしそうにはにかむ。
「・・・あの、明良さん。」
少女がうつむきがちにしながら、言葉を発した。
「ん?どした?」
男は口元に笑みを残したまま、首を傾げる。
「今日、卒業したら、明日から、明良さんに会えなくなっちゃうから、今日、言っておきたくて・・・。」
口の中でもごもごと少女が呟く。その様子を男はただ黙って見ていた。
やがて、少女が意を決したように顔を上げた。
「明良さん、私、あなたのことが好きです!その・・・私なんか子供だけど、でも、こんな私でよかったら、お付き合いしてください!」
一気にそういうと、少女は頭を下げる。男は少し面食らったような顔をしたが、やがてちょっと困ったように笑うとこう言った。
「さっちゃんこそ、こんなおじさんで良いの?しかも、俺みたいにダメな奴でさ。」
男は眉尻を下げて、困ったように笑っている。
「っ!明良さんはダメなんかじゃないです!」
少女は必死に男に訴える。
「だって、私は知ってます!明良さんは本当は優しくて良い人だって。」
男は驚いたように、そんな少女を見つめる。それから、声を出して笑い出す。
「ははっ。…参ったなぁ。」
「…え?」
突然笑い出した男をきょとんと見つめる少女。
「ありがとなぁ、さっちゃん。」
男はそう言って、少女を抱き寄せる。
少女は心臓が跳ね上がるのを感じた。
トクン。トクン。
「…明良さん?」
少女を抱いたまま、動かない男にドキドキしながら声をかける。
「…さっちゃん。俺もさっちゃんが好きだよ。こんな奴だけど、よろしくな。」
耳元で男が囁く。少女は自分の顔が熱くなっていくのがわかった。
「なぁ、さっちゃん。14日は暇?」
「え?暇ですけど…。」
「じゃあさ、いつもと同じ時間にここに来てよ。」
「え?」
「バレンタイン、くれたろ。お返し、したいから。」
そういって笑った彼の顔がほんのり赤いのに、その時初めて気が付いた。
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はい。ホワイトデー企画(改)です。
タイトル入れ忘れましたが、「初恋・その後」です。
え?タイトルがセンスないって?
うん、知ってるww
さて、どうでしたか?
楽しんでいただけたら幸いです。