○ゆびもとに忘れたひとの桜かな



○山桜その孤独にて大樹かな
○うたた寝や掻いつくろひの山桜
○鳥なかず遠回りして桜かな



○浅草の花を枕に噺かな



○大振りの桜や不二を隠しけり



○晴天のダムに沈みし桜かな
○厳しさを嘘に嬉々せる桜かな
○阿弥陀仏うねりにふれて桜かな



○花吹雪牛乳一杯そそがれぬ



○湾岸をわづかに染むる桜かな



○人生の鼻緒の切れて花の下
○愛したる年下の人花の門
○狂いたる女も花にぬれにけり



○花満ちて小学生をランドセル
○大きめの鐘も鳴るなり花の下
○大鐘のゆれてより花の雲


落花

○落花して女子大生の17音
○外国の映画のごとく桜散る
○宝石のごときボタンや桜散る
○花散りて魔法使いとなりにけり
○花散やもしか信じて海の上
○花散るや思いがけなき器なり
○桜散る恋と裸の君となり
○桜散りボタンのごときビスケット
○背に刀差して虎髭桜散る
○花散りてなにやらのぞく猫のこと
○花散るやつくづく痛む他人事
○花散るや両手になにもなかりけり
○保護犬の連れて朽ちなき落花かな
○落花して生まれ育ちの名句かな
○桜散り再確認もしたりけり
○花散や内装白く入居せり
○困つたなあ誰も来ないの桜散る
○花散や容姿態度にとらわれず

山桜

○謳歌して互いに祈る山桜
○山桜つよき心や結果待つ
○山桜女人の乳のごとくなり
○女子力を問うた昔や山桜
○入植の農場ひろし山桜
○鍬もなく土地もなくなり山桜
○粛清のことの暮れたり山桜



○ややこしい桜の花を捨てられず
○ぬか床の近くにありし桜かな
○待ちわびてあしののせ足る花筏
○病室に腕を枕に桜かな
○マドンナと言い方古し桜かな
○またひとつ桜のこころありにけり
○冒険もせずに寄り添ふ桜かな
○波方の花やしづかに佐渡島
○与六郎花や姿となりにけり
○ひと年の花に裸や仇持ち
○農場を歩く背後と桜かな
○某の家と名の付く桜哉
○家名絶え花緩やかに岩手山
○謹慎の幹の太さや山桜

山桜

○二輪車の便りすくなき桜かな
○二輪車の袋散りしく山桜
○山桜北国を濃く初めにけり
○二輪車の定時刻なり山桜
○御相伴にあづかりまして山桜
○グローブを呉れて母なる山桜



○ぬくもりの花重ねたる醤油蔵
○酒蔵になにかたむけて桜かな
○はずれたる町に屈指の桜かな
○今年ばかり息のみじかき桜かな
○乳母の背や桜一樹となりにけり
○乳母の背の敷物かろし姥桜
○手ぬぐいを膝にのせたり山桜
○手ぬぐいの巻いて剣士の桜かな
○窓の外や学生寮の桜かな
○学生の証明したり桜かな
○学舎のなかなか解けぬ桜かな
○東京に拾い忘れた桜かな
○鼠小僧忘れるるやうに桜かな
○神田川廊下しづかに花便り
○饗応に上野賑わう花便り
○銭湯に手ぬぐいのせてさくら哉
○古都奈良によだれも垂れて桜かな
○そのむかし開眼供養を桜かな
○渦ぬけてまだはじまらん屋形船
○御仏の剥落したる桜かな
○藍染の川にながれん桜かな
○髪あらふ肌にひつつく桜かな
○少し胸の道灌山を桜かな
○花屑に気遣いもなく上野山
○夜桜や音戸の瀬戸の一むしろ
○旅人や花を枕に桜川
○川越の花におもたき枕かな
○川越の花に春日の書院かな
○川越の舟竿もどす桜かな
○倭の国を大きく変える桜かな
○単純に三名城を桜かな
○鷹狩やいま振り返る花の下
○奥多摩や少し遅れて桜人
○貞任や花の咲くらん源氏山
○冠の載せてしだるる桜かな
○病身の桜うつくしいたち川
○ねむりける若狭の舟や桜人
○花人の茶屋もあるべし小牧山
○花人やうだつ上がらん膝枕
○夜桜や新宿線のドア開く
○日蓮の五重の塔に桜かな
○万博の塔にたたずむ桜かな
○音無の海に残して桜かな
○芸州に桜の頃や三角洲
○何掬う花や踊りの安来節
○切られたる花の堤や大蛇酒
○駒尻に三味線ひきる桜かな
○北陸もピアノの音や足羽川
○冠の富士盗みたる桜かな
○一睡の勿来の関や花の乱
○漫喫に花は上野の話かな
○漫喫の棚にのこして桜かな
○真直ぐに桜の道や岩木山
○利根川や花袂に方位盤
○間縄の地球儀回す桜かな
○駒尻に白粉ひとつ糸桜
○楽翁の守り袋に桜哉
○脇道にしだれ桜や最上川
○花吹雪髷の見晴らし酒田港
○酒田港髷千石の桜かな
○置賜や桜の山となりにけり
○名城といはぬが出羽の桜哉
○ビル群や花に怨みもなかりけり
○道元の息呑む音の桜哉
○酪農の花や咲かせん立ち姿
○入植の花乗り越えて開拓者
○影ひとつ牧場主の桜かな
○進学や牧場主に花便り
○八重桜地に放ちたり登別
○緑濃き北愛すなり遅桜
○八重桜房も母恋の名前勝ち
○鉄鍋の溝みやげなく桜かな
○おもかげの水に棚田の桜かな
○山里の袋おもたき桜かな
○八重桜房そのままに肩車
○関わりを持たぬ人にも桜かな
○一本をとりのこされて桜かな
○町割りの抜けて尾張の桜かな
○仙臺の花も両目に青葉山
○旅人の肌に美し姥桜
○犀川や花たそがれて近江町
○鉄壁の花も雅や兼六園
○分校の廃校近き桜かな
○鉄棒を腰のあたりの桜かな
○奥州を駒につなぐや山桜
○岡崎や味噌ひつついて山桜
○仇討の墓谷底に山桜
○山桜神や仏の印かな
○山桜ひとつの池のありにけり
○遠山に日のあたりけり山桜
○奥州路なんの館の桜かな
○泣き濡るるほどに桜の並木哉
○新宿に賃金ながき桜かな
○新宿に足音多き桜かな
○周回す駒沢の午後桜かな
○八戸の花の親子やせんべい汁
○石も割る声も張るなり朝桜
○自慢せり花の美人や角館
○石垣に花のかかるや盛岡城
○草原を駆く内房線の桜かな
○雪洞の灯す横手の桜かな
○王将を打ちて桜や織田家中
○北上の古老の道や花もよし
○愛姫の花や三春の滝桜
○最上より花贈られて輿の内
○隣合う人に桜や阿波の眉
○東京を安達太良山の桜坂
○十万の花の名所や二本松
○鶴の舞ふ花や彩る会津つぽ
○愛憐の昭和のさくら智恵子抄
○あの空に阿武隈川の桜かな
○木工を純愛にして桜かな
○東京の小さな窓の桜かな
○樹の下に妻のをります桜かな
○慟哭も花に寄り添うふたりかな
○信号の点滅つづく桜かな
○信号を点滅のして桜かな
○酸素なく肺空つぽや花の下
○東京にほほえみながら桜かな
○旧友を尋ね待ちたる牛鍋家
○旧友を尋ねて桜所帯持ち
○旧友の床を尋ねて桜かな
○旧友を木魚にまじる桜かな
○旧友と立咄してさくら哉
○帯揚げて切込接や遅桜
○遠山や過去近すぎて山桜
○小坊主の去りて子授桜かな
○現役の声くぐりける桜かな
○権現の紅やさくらもありぬべし
○鎮西の女人を癒す桜かな
○松山に野球姿の桜かな
○姥桜なにも語らん房のまま
○姥桜房に残して帰る
○姥桜房に残して美しき
○姥桜房に残して隠れけり
○しみじみと初心あらはれて姥桜
○大阪のことしの花や灯さるる
○弘法のたずねて村の桜かな
○弘法の筆なだからに桜かな
○裸なる机の上の桜かな
○長命にとんち話や花の下

初花

○初花に大和言葉のゆかしけり
○初花や長者の庭の親しけれ



○原宿に連れなる人や渋谷門
○目黒川始まる日々の花三代
○グローブを小学生の桜かな
○神紋のたづね立ち去る花の雲
○こころなしか都の花のはじまりぬ
○みちのくの城つつましく花筏
○三層の月も落つるや花吹雪
○花の夜の物悲しさや肘の上
○夜桜や机の上の整理せり
○夜桜や机の上の豆おこわ
○夜桜や出合う煮しめとなりにけり
○夜桜や開かぬままの御赤飯
○夜桜の帰り支度や焼豆腐
○湯の華のごとくに花の湯のけむり
○山の端の汚れて花の三の丸
○猪の鼻よ昼より花疲れ
○養豚や花屑の上可愛らし
○牛飼の屋根にかかりし花の山
○花ちりて象の花子も散りにけり
○放牧の肌うつくしき桜かな
○新しきバイト掃除や花盛り
○退去した部屋にメモあり花吹雪
○予備校の頭上ならびて花吹雪
○予備校の空に手をふる花盛
○花見する玉こんにゃくやみちのく路
○女子大の胸元しろし花の中
○女子寮の肌やはらかく花盛り
○女子寮や口裏合わせ花の下
○花見する女子学生と泊まりけり
○ふるさとの散ると聞くなり花見かな
○花見して夢に雑魚寝や女子四人
○妹の恋の終わりし花見かな
○女子寮の下着の色や花盛り
○女子寮に声を掛けたり花吹雪

山桜

○清流の音にゆられて山桜

花筏

○風やなく名もなき沼に花筏

落花

○老木の幹や濡らして桜散る



○味わいの花もかわらず日本海
○つつましや花のふれ合ふ日本海