残花

○残桜に教師のとめる廊下かな
○長廊下とめる教師や残る花
○残桜にひとり教師や体育館
○図書館に我の忘れし残る花
○図書館にたれ残したる桜かな
○残桜に部室の鍵や科学室
○スポーツの仲間や胸に残る花
○彼とまだ親しくなれづ名残の花
○残桜に主の消えた顕微鏡
○水槽に先輩とあり残る花
○自転車に化石や入れて残る花
○標本に並べて出たる残る花
○自転車に後輩とゆき残る花
○先輩やそのままと書き残る花
○靴箱に押し花ありし残る花
○近し人何もわからず残る花

花疲れ

○よろこびのブレーキかけづ花疲れ
○夕電車外に風あり花疲れ
○東京の土産となりし花疲れ



○願はくはその年となれ花の雨
○一月の桜のこころ君を追ふ
○三門の余白となりし桜かな
○都落つ桜の花の烏帽子かな
○武士のみくじに花を呑むべきや
○みくじ箱潮の香りに桜かな
○天神の梅や桜も牛の屋根
○けふの月けふの桜や伊勢語
○小坊主やあとに桜を川柳
○都々逸の歌を枕に桜かな
○葛飾と名乗りあの世の桜かな
○アイルランド過ぎて日本の桜かな
○父と見る桜瞳に二国かな
○父の国アイルランドや桜咲く



◯踏むたびに都は花の盛かな



◯行く人や桜をこぼすばかりけり
○フレームにのせてあなたと桜かな


○艶やかに桜の下を通りけり
○山桜先帝の声聞こえたり
○山桜消えたる花の古木かな
○山桜精霊消えて音もなく
○花の宴袖あでやかにながれたり
○花人の着物の袖もながれけり
○花茶屋に見知りの人や帰りけり
○呼び止めて昔の人や山桜
○さびさびと憂いの中を桜人
○清き空水のながれに桜かな
○清き空に命をかざす桜かな
○音もなく妖しくかざす桜かな
○なにかしらいわれやあるか山桜
○約束の駅に待ちたる遅桜
○約束の駅にもたるる遅桜
○枝垂れたる桜の前に女学生
○いま行こう電車にゆれる桜かな
○忘れられない島々生きる桜かな
○通り抜け都会の中に桜かな
○乳液を下げて近くに桜かな
○空海に君のとけあう桜かな
○海空に君のとけあう桜かな
○海と君のとけあう空に桜かな
○君を待つ空にとけあう桜かな
○ひとり宿に抱かれるように桜かな
○ただ波をしづかに目指す桜かな
○ただ波をしづかに君を桜かな
○坂道をたのしむ君と桜かな
○坂道と手を振る君に桜かな
○たつぷりのあんこをのせて桜かな
○東京も昔ながらの桜かな
○20時の東京もまた桜かな
○大石もまたやつてきて桜かな
○とりあえずみくじを引いて桜かな
○田園にひときは目立つ桜かな
○田園にてつぺん白き桜かな
○見なれたる猫の尻にも桜かな
○さよならと桜の花を目指したり
○寄り添いて暮らしてをるは桜かな

散る桜

○世の絶えて映るはけふの散る桜


◯坂道を下り上るや糸桜
◯不二山にこの花咲くや桜かな
◯不二山にこの花咲くは桜かな



○けふばかりひとり暮らしの桜かな
○菰に野に花は桜の遊行かな
○物申す夢や熊野の山桜
○四方より風になりける桜かな
○夜のふけてわづらふ果の桜かな
○野の露の消えて姉妹の桜かな
○義仲の理をしる山桜
○玉の床われて泪の桜かな
○かたなくも讃岐の院の桜かな
○一本の暮れて桜や崇徳院
○吹く風に枯れたる桜立ちにけり
○山桜もとにこころを寄せにけり
○怨みつつ桜やわれを愛すなり
○短歌よむ堀に桜や人も無く
○其の下に現れたるや山桜
○水晶の瞳の中の桜かな
○制服の涙ぐみさえ桜かな
○田の神のひとえに咲ける山桜
○少年や走れメロスと桜咲く
○君としてみればとめける桜かな
○いつとなくいのちの中の桜かな
○撮影のフィルムに残る桜かな
○紅色や濃くくれないの山桜
○しづかさのそぞろ手を繋ぐ桜かな



○総門の招く雌猫の桜かな
○山犬や夜桜に酔ふ人の群
○かぐや姫さくらも知らぬ月の舟
○弔いの髪に桜の地蔵かな
○古拙なる微笑の膝に桜かな
○極楽の堂に降りつむ山桜
◯開きたる弥陀の膝にも桜かな
◯笠あげて懐かし人に桜かな
◯手あげて懐かし人や花盛り
◯介助犬鼻に桜のお八つかな
◯蝦夷百里なんとゆかしき花の雲
◯夜桜や尾張名古屋の城のこと

花見

○日ごろより道のわづかに花見かな
○開くらるる門にしだるる花見かな
◯開くらるる門に人見る花見かな

花見

○すぐにある日常のほら花の宴
○東北の歌も聞こえて花見かな
○静かなるやかんの声や花の宿
○ゆるやかに香る街角さくら狩




○顔青く桜おもへるカツオドリ

落花

○吹く風や花も散るなり鰹鳥
○ついばみて緑はじめの残る花



○東北の桜のよさやあはれなり
○みちのくの桜の良さやあはれなり
○みちのくの雪や桜をたづねけり
○松島や夢も桜に染まりけり
○単線のパンタグラフや薙ぐ桜
○山間のかげや桜の無人駅
○鉄橋にうつす桜のラブレター
○自販機に君とうつろふ桜かな
○菜畑に桜や君のラブレター
○濃色の目の前せまる桜かな
○学生服にじむレールや散る桜
○徒歩でゆく桜の声や聞きにけり
○田舎着に桜の枝や遥かまで
○東北の友の桜や雪の山
○生まれたる君の桜や散る桜
○君の手の涙のあとや散る桜
○秋田には枝垂桜や似合いけり
○青森の桜の女性よきれいなり
○泣く女性や桜は明日につづきけり
○傷つけて光の渦の桜かな
○貞任の燃やす命や糸桜
○胸を張る江戸のおんなの桜かな
○千年の君はひとりの桜哉
○うつくしく花や声染む江戸の女性
○一本の桜の花や下死なん
○雪山に桜や風の競い合う
○なによりも雪に桜やかなふまひ
○友も無く桜やけふも池に立
○静脈のごとき桜や雪の山
○西行の立去るたれか桜かな
○並々ときのふの私桜かな
○そのままの見晴らしの良き桜かな
○名も知らぬ桜涙に吹かれけり
○大振の桜の中やかけてをる
○明滅の空に鋼の桜散る
○花よ見よいのちや空に盛り上る



○幾年の桜並木となりにけり
○いつの日の消しゴムの裏桜かな
○甘酸ぱい桜の下や北千住
○部室より鉄の格子の桜かな
○原発の空につづきし桜かな
○敷石の上に逃げだす桜かな
○宝石の街をボタンの桜かな
○下町に慣れ親しんで桜かな
○三角の時を超えたる桜かな
○野良猫のしろに出合える桜かな