例の学パロ
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それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
α
Fragment 02.
サボり魔、遅刻魔、居眠り魔。
クラスはずっと同じだったのに、智美と会話らしい会話はほとんどしたことなかった。
前の席が智美だった。
窓際の列。ちょうど教室の中腹、壁の梁があるのが智の席。
いつもそこに寄りかかるようにして、椅子にたいして真横に座る。
私が席に戻る。若干気まずい。
それでも変わらず、椅子の背もたれと自分の机に肘をついて、本を読みふけってた。
クラス内でまわし読みされてる漫画もたまに読んでるみたいだけど、大体はつまらなそうな顔をしてた。
智美がいると、空気が変わる。
いじめられっ子ではない。ハブでもない。
ただ、あまり居心地のいい空気ではない。
どこか気を使わなきゃいけないような、爆弾に触れるようなそんな感じ。
暗いとか、
こわいとか、
何考えてるかわからないとか。
いつも長袖を着てるのは腕の“痕”を隠すためだ、とか。
あれだけ美人なのにカレシがいないなんてもうレズとしか考えられない、
いや、そうじゃなくて援助交際してるらしい、
だとか。
とにかくあまり関わるべきではない、と。
男子が言い寄ってきても冷淡な態度だから、そういうこと言われるようになったんじゃないかと思う。
ただイメージだけで勝手にああだこうだおかしく言っているだけ。
それが爆発するとどうなるのかなんて、きっと誰も考えたことない。
アクが強すぎるみたい。仲良くなれば、いいやつだってわかるんだけど。
教室では、峯岸がいる大き目のグループに混ざって過ごしている。
とにかく明るい(というかうるさい)峯岸は、智美にもずけずけと話しかけていく。
「気が合うから。」と口では言うけど、
あの能天気さ(そう見えているだけかもしれない)が逆に楽でよいのか、智美もまんざらでもないようで楽しそうに会話してる。
自分も入学したての頃は、その大所帯と休み時間には一緒にいた。
けど次第に、部活の仲間といることが多くなっていった。いつも一緒に放課後を過ごすメンバーは気が楽でいい。
クラスに馴染めないわけではない。
けど、あのワイワイした賑やかな教室の空気の中に自分が居ることが、申し訳なく感じてどうしようもないことが、時々ある。
ある日、みんなと少し遅れて、昼休みをいつも過ごしている体育館に向かう途中。
午前中の授業に顔を出していなかった智美が、1階の渡り廊下にいた。
どうしてそこに置かれているのかわからないけど、しっかりした木製のベンチがある。
そこに上半身を横にして寝ていた。
まともに話をしたのはあの時が初めてだったかもしれない。
ちょうど1年前くらい。
顔色は決して良さそうとは言えなかった。
「大丈夫?」
しゃがんでその顔をのぞきこんだ。
気配を感じたらしく、眠たそうに目が開いた。
丸く縮こまった脚元にはスクールバッグが投げ出されていた。
まだ制服の移行期間には早かったけど、持ってきたらしいブレザーを腰から下にかけている。
「調子悪いの?」
「ううん。」
「いつ来たん?」
「さっき。」
「保健室行ったほうがええんちゃう?」
「平気。」
文化祭で2年連続ミスコンに選抜されてトップに躍り出るレベルの女子生徒が校舎の中庭に面した吹きっ晒しの通路のベンチに横になっているなんて危なっかしいったらない男子に見られたらどないするつもりや何が平気やねん。
…なんて、彼女の威圧感を前にして、言えるはずもなく。
「大丈夫だから。ありがと。」
「う、うん。」
スカートのしわを伸ばすように立ちあがった。
「なんでここおるん?」
「だってうるさいじゃん。教室。」
ぼさぼさになった髪の毛を撫でつけながら、無意識な言葉のトゲを訂正するように付け加えた。
「静かなところが好きなの。」
結局その日は、午後の授業にも来なかった。
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