・学パロ決定
・タイトル未定
・暗い予定
・ゆかとも安定
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それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
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α
Fragment 01.
9月。
“高校生活最後の”と前置きのついた夏休みが終わり、“高校生活最後の”文化祭に向けて学校中が沸いていた。
部活も無事に引退し、私もその準備に加わっている。
「有華ーここ持ってー。」
「はーい。」
名指しで呼ばれて自分の作業を中断。
床に広げていた大きな模造紙の左右の端をもって起こす。
高橋画伯の指示どおり、上履きを脱いで近くにあった椅子に慎重にあがった。
引きずらないように持ち上げる。思いのほか大きい。
「この特大サイズ、みなみ包めるんちゃう。」
「うっせ」
教室の中程までその場にいた数人全員が下がる。
その直筆ポスターのおおざっぱな下書きに、ここは何色とかどうとかと話し合い。
放課後に残って準備をする女子ばかりの中、身長162cmはこういうとき案外役に立てるもんだ。
去年までは部活の練習を抜けられないでいた。
厳しい部で知られていたから周りも認めてくれていたけど、クラスのためになれないのはもどかしかったし、みんなが楽しそうに準備している姿はなにより羨ましかった。
作業に戻ろうと自分の席に戻って少しすると、ケータイのバイブーがポケットの中で鳴る。
反射的に黒板の上の時計をみた。
時計の針も、液晶画面の下にも、時刻は17:16。
―今日予備校?一緒帰ろ
絵文字も特にない、地味なメール。
けどそのいつもの感じにちょっとニンマリする。
ああ。私の存在感。
「ごめん、うちそろそろ行くわ。」
「オッケーわかったー」
クラスの文化祭実行委員、峯岸みなみに一言声を掛ける。
いかんせん、燃え方がちがう。
最優秀賞を狙ってるらしい。顔面に“青春”の文字が見えそう。
「ありがとう!お疲れー!」
「また明日ー!」
見送りの言葉を受けながら教室を出る。
15分後のバスに乗れば、6限の授業にちょうどいい時間に着く。
冷んやりした空気の階段を下りていくと、廊下の端のガラス戸から射す西日と、人影。
智美が教室前の壁に背をもたれている。
上履きの先に落ちていたその視線が、階段を下りる足音に気付いて少し上昇する。
最後の1段まで下りると、その足元をみて歩き出した。
「まだやってんの?」
「うん。」
「好きだよねぇ。」
「楽しいやん。」
「ふーん。」
「峯岸が、当日の教室番のシフト組みたがってたから、メールしてあげて。」
「やんなきゃダメなの、あれ。」
「協力しぃや。教室から離れられんくなるで。」
「それムリ。」
智美は、今日の放課後の文化祭準備に参加しなかった。
図書館で過ごすのが好きらしい。
学校に残ってるなら手伝えよ、と言いたいところ。今日は“気分が乗らなかった”そうです。
それならどうして帰らないのか。その理由は聞いていない。
「このあと授業なに?」
「倫理と現代文。」
「リンリとか受験使うの?」
「使わへん。」
「なんでとってんの。」
「あてもなく何かを探してる。」
「知らねー。」
人の話を聞くのが好き。
本や文章からいろいろ学ぶ智美とは逆に、自分は口で教えられたほうがいい。
とはいえ成績は良くも悪くもない。
予備校なんかどこでもよかったけど、地元は中学時代のクラスメイトに遭遇する危険がある。
高校から近いところを選んだ。
中学での人脈が希薄で陰りのあるものだと親は知っているから、何も言われなかった。
「智はそのまま帰るん?」
「待ち合わせ。」
「また?」
「ん。」
「仲ええなぁ。」
私が通学に利用している路線に平行して、智美が使っている路線の駅がある。
その駅と駅の間に路線バスが通る。
帰路が反対方向の智美とは、そのバスに乗れば、同じ方向に帰れる。
それも、予備校選びのとき、ちょっと考えた。
メールが着た。2人して同時にケータイに目を落とす。
「明日も7時集合やて。」
「だるっ」
「どーせ来ぉへんやろ。」
「明日はいい加減行くよ。陰でいろいろ言われたくない。」
「遅刻でも来ぃや。」
「うん。…けど、峯岸気合入りすぎでしょこれ。」
「最後やししかたないやん。あいつお祭りごと大好きやねんから。」
「なんであんな元気なんだろ。疲れるよ。」
3年間一緒のクラスだとさすがに、誰とでも打ち解けられる気さくなヤツらしいってことは、同じグループでなくてもわかる。
けど、智美はきっと―「いい人すぎて怖い。」
やっぱり。
しゃべらなくていいのに、智美はだるそうに口を開いて、私が思ったとおりのことを言った。
なぜか居心地がいい。
言わなくてもわかる。
なんとなく冷めている、そういうところが。
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