いちを
数年前の猫の話。

わりと人生に
疲れ果てていた頃

車に轢かれて
ボロボロになって死んでいた
ハチワレの野良猫をみた。


よく見かけてたヤツだ

早朝
車に轢かれ

避けても貰えず
ひたすら轢かれ続け

餌やりが趣味の連中にも
あっさり無視されたのか

見るに耐えない
ひどい姿に崩れていた。


俺は自宅で
一緒に暮らしてるくらいだから
猫は大好きだが

あの姿に何となく
社会に見棄てられた悲哀か
シンパシーを感じたか…


…やっちゃいかんのだが

人気のない木の下に
亡骸を埋めた。



しばらくすると
民生委員の方が
俺に気づいて
手伝ってくれた。



その日の晩
あのハチワレに瓜二つな
(たぶん)兄弟の野良猫が

俺を見て
小さく鳴いていた。



あれ以来なんだよな
野良猫には絶対
餌一つあげないのに

そのハチワレ

俺を見たら
必ず小さく囁くように
ニャー
って鳴く。



勝手な思い込みだけど

俺に
挨拶してくれてるのかな?…とか。




勝手な思い込みだけど
そんな人間も
今どき少ない
そんな世の中で

猫が恩義を感じるんだね。