開けますか 開けませんか
おめでとうございます! 小林まりな 様!!!
貴方は 187 人の中から厳選な抽選にて選ばれた幸運な 白い天使 です!!
チェックをしたら、返信用封筒に入れ、貴方の机の二段目の抽斗に保存して下さい。人工妖精もふりんが、異次元より貴方の手紙を回収に参ります。
ログイン |
それはファンタジー。 【※閲覧パスはプロフを参照!】
開けますか 開けませんか
おめでとうございます! 小林まりな 様!!!
貴方は 187 人の中から厳選な抽選にて選ばれた幸運な 白い天使 です!!
チェックをしたら、返信用封筒に入れ、貴方の机の二段目の抽斗に保存して下さい。人工妖精もふりんが、異次元より貴方の手紙を回収に参ります。
*
午後になって部屋に戻ると、机の上に一通の手紙が置いてあった。今朝はなかったと思うんだけど。ずっとDVDを観てたから全然気づかなかった。ママはいつの間に部屋に来たんだろう?
そして封筒を開けてみたら、こんな紙が入っていた!というわけ!
キタああああーーーーーーーー!!なんだこれ!!サプライズ!!?微妙に手紙の言葉がすり替わってる感じが、いかにもサプライズっぽい!
うちにもドールが来るみたい!やばーい!!うわあーうわあああー
ひと騒ぎして、まゆさんにLINEを送ってから、お手紙の「開けますか」のほうに丸をつけた。こういうのは大抵、肯定のお返事をしたほうがツキがあるものだ。ワクワクしながら紙をたたんで封筒にしまい直して、2番目の抽斗に入れた。
学校と劇場公演でたまってた昨日までの疲れが一気にふっ飛ぶくらいにテンション上がった!わーい!
と、突然の出来事に急激にテンションが上昇したら、なんだか眠たくなってきた…
…久しぶりにおうちでまったりできる日だし……たまにはいいよね。
おやすみなさい。
ruby
*
目が覚めたらもう真っ暗。秋の半月が明るく満ちていて、部屋が青い夜に照らされている。
電気をつけて、はぁと一息。伸びをする。レポートやんなくっちゃ………あれ?
「なにこれ」
目がかすんでるんだと思ってこすってみたけど、視界がクリアになってもやっぱりそこにある、白いもの。
夢じゃない。ベッドの横に、真っ白な小さいチェストが置いてある。
寝る前はこんなものなかったのに。…あ、そういえば。
抽斗を開けてみると、しまっておいた封筒は消えていた。
私は突然にそこに出現した真っ白な小さなチェストを二度見した。もしかしてこれがローゼンからのお手紙のやつなの…?
ガーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
金の薔薇の浮彫がついてる鞄じゃないじゃん!そもそも鞄じゃない!ドール来ない。なんだよまったくー!!
これママが買ってきたのかなあ。でも何も言わないで勝手に部屋に置く?宅配便が届いても勝手に段ボールから出すことってないだろうし…しかもなんか、もふりん座ってるし。
誕生日のプレゼントをもらう季節でもないし。ぎりぎりのクーリングオフに快感も覚えませんし。謎だらけ。うーーん……まあいっか、と、またため息を吐く。
真っ白な小さいチェストは木製で、白い塗装の下にうっすらと木目がみえる。猫脚が4本支えになっていて、真鍮の取っ手のついた大きな抽斗が1つ。以上。これだけ。あとはその上にもふりんがちょこんと座らされてるだけ。とてもシンプルな小さいチェスト。
チェストの上の面に指を着地させて、ゆっくり掌をつけた。ひんやりとする木のチェストをそっと撫でてみる。すべすべ。ちゃんと触れる。幻覚じゃない。
チェストは丁寧に設えられた新品というより、使いこまれて艶を増したアンティーク。木材には時間が溶け込んでいて、触り心地が柔らかい。
「あけますか?」
「!?」
突然声がした。ビックリして振り返る。部屋中を見まわした。誰もいない。
「ねえねえ、ここだよ。」
服を軽くひっぱられて正面に向き直った。座っていたはずのもふりんがチェストの上に立って、私の腕をつかんでる。私のこと見上げてる…!
「開けますかー?まりなぁ。」
ヒィイイイといつでも叫べる口のまま結局声が出ず、固まってしまった。そして声が出ないはずのもふりんが話しだす。
「お手紙に『開けます』の返事をくれてありがとう。おかげで、ここにチェストを置くことができたんだよ。」
「おぉあ」
“ああ”とも“うん”とも付かない声が出た。なんだこの展開は…。AKBINGO!か何かのドッキリかと思ったけど、部屋中を見まわしても隠しカメラのような怪しいものは天井についてないし、部屋の様子は朝と変わっていない。ただこの真っ白な小さいチェストが忽然と現れて、もふりんが突然言葉を発し始めただけ。…それだけ。
っていうかこれ、絶対にサプライズじゃないよね…
「このチェストはまりなのものだよ。開けてみてよ。」
「ちょ、っと待、って。」
やっとのことで自分の喉から出た言葉らしい言葉がひ弱なことに驚く。いろいろ起こりすぎて頭が追いつかない。
「???」
首を傾げるもふりんを、両手で抱き上げてみる。
まずこの事実を確かめなければ。腕を伸ばして動き出したもふりんと距離をとる。
「…私のもふりんだ…」
わざとらしく言ってみる。確かにいつも私の部屋にいるもふりんだ。間違いない。身体はもふもふしてて、機械とか固いものは入ってそうにない。
「ねえ下ろしてよーこわいよー」
手と足をぱたぱたさせて下ろしてほしいと訴えてくる。チェストの上に立たせてあげると、もふりんはウサギらしい俊敏な動きで隣のベッドに跳び移って、もう一回ピョンと跳ねて床に着地した。私の脚の隣で、短い耳が揺れた。
「開ければわかるよ、ほら」
ちょっと急かすようにそう言って、まん丸の白い手がポンポンとチェストを叩いた。
もしも中からドールが飛び出してきたらどうしよう。しゃべるお人形が一気に2匹も増えるなんて…。ファンタジーみたいなワクワクを想像していたけど、現実になってみると気が重い。
チェストの取っ手をちょんとつまんで引っぱった。重たい。やっぱり抽斗には何か入ってるみたい。
縁に指先をかけられるくらいのわずかな幅だけ、抽斗を開けた。
中はなんだか明るくて、開いた少しの隙間から光の筋が溢れてくる。すすけた黒色のクッション材が、抽斗の底いっぱいに敷いてある。
さらに少しずつ、ゆっくり開けていく。
ずずず、ず、ずず、ず……
抽斗の中は、部屋の灯りに照らされてますます鮮明になる。まぶしい。光の根源と思われる”もの”の輪郭がぼんやりと見えた。その”光”は抽斗の中にたくさんあって、左右対称にバランスよく整列している。けど、まぶしすぎて何なのかその正体がわからない。
目を固くつむって、またおそるおそる開く。強烈な光は治まって、さっきよりはきちんと抽斗の中身が見える。
なにやら、紅くキラキラしたものがたくさん並んでいる。
「うわああー!」
「ふふ、綺麗でしょ」
私が声をあげると、もふりんは得意げに言った。私は抽斗の真ん中にはまっていた”光の正体”を1つ手にとって、手元で眺める。コンセントのコードも繋がってないし電池も見当たらないのに、内側からエネルギーを放ってるように明るく輝いている。
「ルビーだよ」
「えっ、ルビー!?」
ビックリして手が震えて、指先でしっかりと持ち直した。360度眺めるようにそれをゆっくりまわすと、角度が変わるたびにキラキラと光がはじける。
「ルビーって、ルビー?」
「そう、ルビーはルビーだよ」
いやいやいやいや。違うでしょ絶対。だって宝石のルビーがこんなにたくさん、こんな日本の、東京の、平凡なおうちの、私AKBではあるから平凡とは言えないにしても、こんな高校生のお部屋にあるなんておかしい。だからこれはきっとルビーじゃない!ルビーに似た何かなんだ!
と確信しつつも、何て呼んだらいいかわからないから、もふりんの言葉に倣って「ルビー」と呼ぶことにしましょう。
「ルビーはどうしてこんなに光ってるの?」
もっとちゃんと眺めたくて、ルビーを部屋の灯りのほうにかざした。指輪や冠についてる本物のルビーとは違って、どちらかというと大粒のイチゴみたいにころころしてる。でも果実じゃなくて、やっぱり”宝石”みたいに固い。イチゴを数学の立体図みたいにカクカクさせた感じ。
素材はガラスなのかプラスチックなのか温度のない氷なのかわからない。どれも無色透明で、一点の曇りもない澄んだものもあれば、ぼんやりと摺りガラスのようなものもある。
ただの無色透明のかたまりではなくて、中は空洞になってるみたい。そしてその中身というのが、
「水…?」
透明なカクカクの中で、真っ赤なルビー色の液体がたぷたぷしている。これが強い光を放っていたのかな?甘い香りは全然漂ってこないしフタがどこにもないから、香水の瓶ではないみたい。
「これ全部、本当に”ルビー”なの?」
「そうだよ。血の色をしてるでしょ?生きてるからだよ」
「ルビーが『生きてる』?」
「そう。まりなと一緒。まりなも体に血が流れてるでしょ?ルビーも同じ。生きてないと綺麗でいられないの」
もしも「ルビーは鉱物だから生き物じゃないよ」と説明しても、もふりんには理解できないかもしれない。けど、中身が液体のルビーなんて聞いたことないし、そう言われちゃうとルビーって生きてたのかな?って気にもなってくる。
もふりんはいつの間にかベッドの上に座っていて、短い足をぷらぷらさせながら、抽斗の中とそれを見てる私の様子を眺めていた。私は何の気なく質問してみた。
「こんなにたくさん、どうしたの?」
「実はね」
何かとても深刻そうなことを言い出しそうな声がしたから、もふりんを見た。
そしたらやっぱり、何かとても深刻そうなことを言おうとして私のことをまっすぐ見ていた。
そして、とても深刻なことを言われた。
「狙われてるんだ。」
なんですと。
「黒い天使がルビーを壊そうとしてるの。守ってあげて。」
「黒い天使って……」
公演の曲名じゃなくて?
「黒い天使は、黒い天使だよ。こないだ劇場から脱走してルビーを探しまわってるらしい。」
「実在するんだ…」
「大丈夫。まりなは強いから、ちゃんと守れるよ」
持っていたルビーを手の上で転がす。部屋の照明を反射して、淡いワイン色の小さなミラーボールがまわっているみたいに煌く。
「守るって、ここで預かってあげてれば大丈夫でしょ?」
チェストを調べたけど、鍵穴やキーを差し込めそうな場所はない。取っ手はキーホルダーやチェーンをかけられそうではないから、鍵をかけられない。
けどまぁ私の部屋だし、誰も開けないよね。
「戦わなくちゃいけないよ」
「戦う!?」
戦うとは。
「それって、もし黒い天使が武器もってたらどうするの?そっこーで負けると思うんだけど」
剣とか槍とか拳銃とか、尖ったヒールとか…さ。冷静になって質問している自分がいた。そうだよ、本当に戦うなら準備が必要だ。台所のナイフで応戦か?
けど、もふりんは首を横にふって否定する。
「大丈夫、何も持ってないと思うよ。そんなものよりもっと大事なもので戦えばいいんだよ」
ふーん。よくわかんないや。
「まぁいいや。だいじょぶだいじょぶ!」
どーにかなるでしょう、と軽く考えた。夢なら醒めるだろうと思った。
けど次の朝目が覚めてもチェストはそこにあって、眠たい目をこすっていると隣でもふりんが「おはよう」と挨拶を言った。