7月からTBSで放送されるドラマ『この世界の片隅に』のキャスト発表取材会が先頃東京都内にて行われ、北條(浦野)すず役の松本穂香、北條周作役の松坂桃李が出席した。
2007年から09年まで[漫画アクション]で連載されていた同作は、太平洋戦争中の広島県呉市を舞台にした、ある家族の物語。18歳にして北條家に嫁ぐことになった女性・すずが、新しい環境や暗い時代の波に戸惑いながらも朗らかにたくましく生き抜く姿が描かれる。09年には[文化庁メディア芸術祭]マンガ部門優秀賞を受賞。16年のアニメ映画では女優・のんがすずの声を担当した。脚本をNHK連続テレビ小説[ひよっこ]の岡田惠和、演出を[映画 ビリギャル]の土井裕泰らが担当する。
この日の会見冒頭では松本サンは「よろしくお願いいたします。すずさんを演じさせていただきます。このドラマを…えっと意気込みをしゃべったらいいんですね?」とMCに質問するなど、ほんわかとした言動で早速会場を和ませた。
約3000人が参加したオーディションですず役を射止めた松本サンは「事務所の方々もみなさん『よかったね』と言ってくださるのですが、最初は信じられないという気持ちであまり感情がわいてきませんでした」と当時を振り返りつつ「合格を聞いた時は『うれしい』よりもポカーンという気持ちでした。すずさんをもっと知りたいし本当に演じたいという気持ちでいたので、彼女になれるんだとうれしさがじわじわと湧いてきました」と合格の知らせを聞いたときの心境を振り返る。そして「このドラマを観た方が、何か大切なものを考えるきっかけとなる作品になれば。すずさんのように明るく前向きに、精一杯楽しんで最後までがんばりたいです」と目を輝かせた。
オーディションの結果が決まってからは「松本“すずさん”化プロジェクト」と題して、広島に直行し、すずが生まれ育った江波や嫁ぎ先の呉を訪れて“すずが生きた街”を五感で追体験。自らの生活を少しでもすずの暮らしに近づけるべく、大好物の洋菓子も一切、食べないようにして料理、裁縫を特訓するなど、5/8のクランクインに向けて、すずに近づくための役作りに日々、真摯に取り組んでいる。 役作りに関しては、すずは下駄を履いて生活をしているということで、「私も普段、犬の散歩に行くときや撮影の合間に下駄を履くようにしています。まだなにが正解か分からないけど」と松本サン。
桃李君は「すずさんの夫役ということで、しっかりと寄り添いながら、支えながら、小さい幸せを築き上げていきながら、生きていきたいなって思っております」と話し、また、戦時中が舞台となる本作について、「この時代を描いた作品を、戦争を知らない僕らの世代がやることの重要性を常々感じています。この世代でしか伝えられないようなことを、この時代に生きてしっかりと伝えていきたい」と、真剣な眼差しで述べた。過去にも戦争をテーマとした作品に出演しているということで、「映画[日本のいちばん長い日]に出演させていただいたときは日本兵役だったのですが、今回は広島で暮らす人々の日常的な暮らしがフィーチャーされています。そういった人たちの生き抜く強さだったり、身近に感じる日常だったり、小さな笑いとかっていうものがたくさん転がっているということを、テレビを通して感じていただけるんじゃないかなと感じています。朝ドラとかでもありますけど、これは家族の話でもあると思うので、そこの温かみと言いますか、つながりみたいなものを大切にしていきたいですね彼らの生き抜く強さや身近に感じる日常、笑いを大切にしつつ、形にして届けていきたいです。『この世界の片隅に』もしっかりとこの時代にちゃんと生きて伝えていきたい」と、本作へ込める想いを語った。
桃李君は今回、周作役でオファーを受けたが「役より、これを連ドラでやるんだという気持ちが強かった。映画と違い時間を重ねて届けられる。楽しみ…最後、どうなるんだと。時間を積み重ねて視聴者の方に届ける、という連ドラだからこそできる表現もある。どんなドラマになるのか楽しみだし、ワクワクしました」と期待感を口にした。その上で「監督の土井さんと脚本の岡田さんがいらっしゃるのがうれしくて、ぜひやらせていただきたいと」と、土井裕泰監督と脚本の岡田恵和氏の存在が、出演の大きな動機だったと明かした。
桃李君は、土井監督が手がけた12年の映画[麒麟の翼〜劇場版・新参者〜]、岡田氏が脚本を担当した12年のWOWOWのドラマ[尾根のかなたに〜父と息子の日航機墜落事故〜]に出演している。「脚本の岡田さんとは5、6年ぶり。監督の土井さんも7年…久しぶりで、どちらもすごいお世話になって、好きな方。時がたった中で呼ばれて、ご一緒するのはすごくうれしいんですけど…緊張する。どんなもんじゃい、というプレッシャーも感じながら、いい緊張感でお芝居をしながら作品をしっかりと届けていきたいと思います。素晴らしいキャストの先輩と芝居して作品を届けたい」と意気込みを語った。
桃李君は松本サンの印象を聞かれると「お会いする前に衣装合わせがあって、写真を見た時、ピッタリ…すごいなと思った。実際、台本読みでお会いして雰囲気がピッタリだなと。『緊張します』と言っているけれど、表に見えにくい…肝の据わってる女性なのだと感じていますね」と隣に座る松本サンに微笑むと、松本サンは「ありがとうございます」とソワソワ。
松本サンは今回が初共演となる桃李君の印象を聞かれると「周作さんにしか見えない。周作さん、誰なんだろうと…松坂さん、絶対に合うと勝手に、本当に思っていて。(松坂さんに決まったと)聞いた時…お母さんと『ピッタリだよ』って話していて」と言い、ほおを赤らめた。
その言葉を聞いた桃李君は「キャスティングしてくれてありがとうございます。これで決まったのかな?」と笑った。
呉弁の習得に関しては、松本サンは「方言というよりは『へぇ』とか『ほぉ』が多くて、それをどういう感じで言っていくか、これからいろいろ楽しめたらいいかなと思います。方言はかわいいですよね、だからなんかすごい…頑張ります。『ほうじゃね』とか、なんか基本、へへへへしています」とにっこり。桃李君は、「今回は呉弁ということで、1年前にも呉弁の撮影をしていたんですけど、神奈川出身なんですが、やっぱり方言は壁を感じます…すごい高いハードルを感じる。でも向き合って、方言が味方になった瞬間、心強くなってお芝居の助けになる」と苦労を語った。「呉の方が聞いても『ちゃんと喋れているな』というところを目指せたら。監督も広島出身…厳しいかもしれない。細かいチェックがあるかもしれないなと」と熱意を見せた。
佐野亜裕美プロデューサーは松本サンの起用理由について、、オーディションには脚本を手がける岡田惠和氏、演出の土井裕泰氏も立ち会ったといい「実際にお会いしたのは600〜700人くらいを10日ほどかけて…という感じでして、有名無名関係なく1次からやりました。お芝居が上手い方もかわいい方もたくさんいらっしゃったのですが、松本さんが一番すずをやっているのが浮かんだというのが率直な理由です」と説明。「オーディションの部屋に入ってきたときに何かすごくアンバランスな魅力を感じて。手足がすらっとして長いんですけど、何かちょっとファニーな顔。アングルによって表情が全然違う顔立ちを含めて、すごく魅力的な子だなと。この子がすずをやっているところを見てみたいと、私と監督の土井と脚本の岡田さんと3人満場一致でほぼ最初の印象で決めていたところがあります」と明かす。
桃李君の起用理由について、佐野プロデューサーは「実は原作では深く描かれているようで、描かれていない難しいキャラクターを演じるのに、いろいろな役を演じられている今の松坂さんに演じていただけたらと。ただ優しいだけではなく、すごく人間味のある、深みのある周作を演じていただけるのではないかなと思ってキャスティング致しました」と語る。
『この世界の片隅に』は、5月上旬から9月上旬まで撮影予定。1月に制作サイドが、呉市の協力の下、ドラマに協力してもらえる古民家を募ったところ、1926年(大15)に建てられた、築94年の家が見つかった。3月中旬に解体し、4月から都内の緑山スタジオ内のオープンセットで移築を開始。北條家のシーンの撮影を行う。すずが生きた時代に建っていた古民家を前に、松本サンは「オープンセットを初めて見て…すごかったですね」と感激した。
桃李君も「再現度というか、原作の家の造りだったり、木の植え方だったり、段々畑とか…きっとここに防空壕が出来るんだろうなと。美術スタッフが広島の方で、作品の愛し方が細かいところまで出ている。身の回りのものが(演じる)世界に連れて行ってくれる要素。これだけ愛されているものだとポンッと入っていける。心強い。再現度がすごかった。美術スタッフの方は、広島出身なんですよ。作品への愛情の注ぎ方が細かいところに出ていて、こっちにも伝わってやばい、頑張ろう、と(笑)」と喜んだ。
発表会ではそのほか、オリジナルキャラクターの刈谷幸子役を伊藤沙莉、夫が出征中の主婦・堂本志野役を土村芳、すずの妹・すみ役を久保田紗友、周作の姉・黒村径子役を尾野真千子、周作の父・北條円太郎役を田口トモロヲ、同じく母のサン役を伊藤蘭が務めることも発表された。なお、原作者のこうの史代は「脚本を拝見し、夢にも思わないほど素敵でうれしくなりました!飛行機が離陸する時のように力強く走り出し、悠然と飛び立ってくれたなと感じています。こんなに魅力的なキャストのみなさんに演じていただけるのも楽しみです。重厚感のある傑作になると確信しています!」とコメントを寄せている。
佐野氏は、ヒロインを支える役者陣の起用について「松本穂香さんが、まだお芝居を始めて2年少しくらいで、まだ新人に近いところにいる方でありますので、ほかの方々はきちんとお芝居のできる方々を挟んで、のびのびとすず役をやれるようにと思って、尾野真千子さんをはじめキャスティングをした次第でございます」とコメント。「クランクインは5/8で、9/6くらいまで撮影している予定で。一部は(作品の舞台の)広島や岡山辺りのロケを予定しています」と今後の予定についても言及した。
音楽家の久石譲氏が94年のフジテレビ系ドラマ[時をかける少女]以来、24年ぶりに民放連続ドラマの音楽を担当することも決まった。松本サンは「まだまだ経験がない中で、素晴らしい方々と一緒にやらせていただく…どんなことが起こるんだろうと、めちゃくちゃワクワク。知らないものが見えるんだろうな…感じたことを元に頑張りたい」と胸を躍らせた。
『この世界の片隅に』はTBS7月期日曜劇場にて7/15より放送開始。