遺せるもの 甘んじて受けるもの

「僅かでも、確かにお前に遺せるものができてよかった」
榊はしきりにそう呟く。

僕は別になくてもいい。
でも榊の望みなら、意志を受け継ぐためとして、それを授かろうと思う。

僕に遺したいのと、
遺したくない人たちのもとへ渡らないようにしたい、
榊のその希望のために。



榊は僕にありとあらゆる生きる術を教えてくれた。経験もくれた。
それだけで僕はもう生前贈与を受けたも同然で(それくらい成長した手応えがあって)。

コミュニケーションでも、乾/渇きのあった僕に水を与え、そして同様の榊も僕に同じことを求めくれて、お互いに補い合うように充しあった。

過去の傷は埋まらない。でも癒しはできるよね、辛うじて。
虚しさ否めない儚い微笑を滲ませながら、お互いに視線を柔く合わせてきた。



榊と生きて暮らした日々が、そして常にそばにいてくれている今があれば、それ以外はオマケのような、利子のようなもので。


きっと貴方を失った時の悲しみは深く深く果てしないと思うけれど、つらいと思うけれど、
なんていうか幸せの裏面のような苦さだと思うんだ。

貴方のことだから
それでいて生きる力を植え付けていくような、独特な悲しみを僕に与えていくんだと思うんだ。


つらければつらいほど愛しくて。愛されていた実感に、幸せと絶望を同時に今更ながらに味わうような。踏ん張らなければと思ってしまうような。


それでいいと、僕は思うんだ。