「う……」
あれ、ここは…。私、なんで寝て…、
「起きたか」
り…おん…?なんでリオンが…ってここ、リオンの部屋?何、どういう…、
「―――!!?」
思い、出した。そうだ、私、リオンにあんな事されて気絶…!
えっ、私、リオンのベッドで寝てたの!?
いやいやちょっと待て!私、あのまま気絶したから絶対ここまで自分の足で来てないよね?
まさか…!
「あああ、あの!ひょっとしてここまで運んでくれ…!?」
「?そうだが」
まるでそれがどうしたとでも言いたげな顔でリオンは答えた。
いや、それがどうしたでもそうだがでもないよ!
だだ、だって、あそこからここまで運ぶって事はおんぶか抱っこしたって事だよね!?
いくら気絶してたからといって、恥ずかし過ぎる…!
そ、れに…あああんな事までされてるし…!
「……し…、」
「?」
「獅子戦吼ー!!」
「うわっ!?」
あああ!!思わずぶっ放してしまった!
もう何がなんだかわかんない!嫌だ!逃げる!
部屋が大惨事とまでは言わないけど、それなりに大変な事になってる事に気にも止めず、私はリオンの部屋から飛び出した。因みにリオンは避けてくれたよ!
「い…、いきなりどうしたんだ、アイツは」
突然ルナが放った獅子戦吼を紙一重で避けたリオンは尻餅をついた体勢のまま、呆然と部屋の入口を見つめる。
特におかしな事を言った覚えはない。というか、質問に答えただけである。
となると、思い付くのはルナが気絶する要因となったあの行為の事だろうか。
リオンはそう考えながら立ち上がり、部屋の中を見渡す。
獅子の形をした闘気はリオンの代わりに本棚にぶつかったらしく、棚は倒れ、中にあった本はバラバラに散らばっている。
気が遠くなるのを感じつつ、とりあえず棚を起こす。
[やっぱり坊っちゃんがあんな事したからでしょうか]
「…代償がでか過ぎる……」
もし仮に、アレ以上の行為に及ぼうものなら一体どうなるのやら。
今度はバラバラになってる本の整理をしながらリオンは思うのであった。
いくらなんでも獅子戦吼はやり過ぎた。自分でもそう思う。
引っ叩くとか罵声浴びせるならまだしも獅子戦吼だよ、獅子戦吼。せめて三散華や連牙弾……いやだから、技はやめよう、技は。
あの時の思考が正常じゃないのもあったけど、リオンの顔見たらあのキスの感覚やらが思い出して―――、
「あーうー、あーうー、あー!うー!」
ダメだ、壊れた。顔も熱い。
そもそもなんでこうなったのかよく思い出してみよう。
まず、好き同士で付き合う事になったから、ちょっとだけ変化が欲しいなと思ってしまった。
それをマリアンさんに言ったら、格好を変えてみる事になった。
女の子な格好になって、恥ずかしながらもリオンに披露したら部屋に逃げられて(?)しまった。
不安になったものの、マリアンさんの催促でそのままリオンの部屋に。
なんでこんな格好しているのか、シャルがどう思ったかを聞いたりして話しているうちにリオンも似合っていると言ってくれて嬉しくなった。
だけど、最後にリオンが心臓に悪いだのなんだの言って、それから……、
事の経緯を回らない頭なりに思い出したみて、また顔に熱が籠る。
そもそも、なんでこの格好が心臓に悪いの!?意味わかんない!
あーもー、さっさと着替えよう!んでもって魔物でも狩ってこよう!
「やっぱりこっちの方がしっくり来るし、落ち着く」
綺麗なワンピースを脱ぎ捨て、いつもの兄のおさがりに着替える。
買ってくれたマリアンさんには悪いけど、こっちの方が私でいられる。
いつもの私―――ガサツで可愛い気がなくて、花なんかを愛でるより体に傷を作りながら戦う事に生き甲斐を感じる、全く女らしくないいつもの私になれる。
今更だけど、私は武器を持たない格闘家スタイルで戦っている。一応、ダガーでも戦えるけど、拳や蹴りで戦う方が性に合っていて。
欠点と言えば、やっぱり前線、近距離で戦う訳だから、受けるダメージの量が半端ない。
あと、ゴーレム系等のかったい奴殴ると普通に痛いし、ぬめぬめした奴なんて最悪。
今日狩ってきたのは比較的獣系のが多かったな。
ストレス発散ついでに荒稼ぎもしちゃったけど、このお金どうしよう。
いつもならリオンへのお土産としてプリンとか買ったりするんだけど、顔合わせたくないっていうか…。
ただ恥ずかしいってだけで、決して嫌いにはなってない。寧ろなれないよ。
本当に好きだから一緒にいたいし、手とか繋いだりして触れたいし、キスだってしたい。
…もっと先の事は心の準備というか、今はまだ無理、だと思う。
あのキスで気絶したり、混乱のあまり技ぶっ放して逃げているようじゃあ…、ね。
それにあの、あれだ。体つきというか…、肉付きがね、その、凄く残念だし。
マリアンさんみたいに見るからに大きくて柔らかそうな胸の方がいいに決まって…って、そんな事言ったら一生出来ないんだけど。成長止まったみたいだから。
何もそこまで男らしくなくていいと思うんだけど。せめて、体つきぐらい女らしくてもいいんじゃないの。いや、仮に体型が変わったとしてもやれないけどね!
…リオンはどう思ってるのかな…?
「嫌われただろうか」
粗方本の整理を終えたリオンは誰かに問うように呟いた。
部屋には誰もおらず、彼が所持する剣が答える。
[まさか。照れてるだけですよ、きっと]
「それだけでここまでするか?」
[ルナなら仕方ないですよ。男慣れしてませんし、坊っちゃんが隣にいるだけでも顔赤らめながら目が泳いでしまうぐらいのシャイガールなんですから]
「…そうだったか?」
[あれ?坊っちゃん気付いてなかったんですか?]
シャルティエの台詞に黙ってしまうリオン。
なんせ、彼自身も異性と付き合うのは初めての事。自分の事だけで精一杯である。
マリアンの事も愛してはいるが、異性としてではなく家族愛のようなものなので、特に傍にいたところで問題なく接する事が出来る。
だが、ルナの事を女として意識し出した頃、今まで普通に友人のように接してたのが嘘かのように何も出来なくなり、更に持ち前の不器用さと相まってしまい、素っ気ない態度となってしまった。
ルナの事を想う度に暖かく穏やかな気持ちになる反面、不安でどろどろした気持ちもあった。
なんせ相手は自他共に認める程、男らしい女。ぱっと見では女性である事はわかるのだが、纏っている雰囲気や趣味等に女性らしさは感じられない。
だから、恋愛事にも興味は無いのだろうと半ば諦めかけてた頃に変化が訪れた。
言うまでもなく、あのルナが泣いてた時だ。
あの時はそもそも様子がおかしかったのは気付いてた。
気が付き疑問に思いながらも、ついいつもの癖で小馬鹿にしてしまい、その言葉に反応して逃げるように立ち去ってしまったルナ。
しまったと思った後、あれぐらいで?という疑問が浮ぶ。いつもの事なのにと思った時、そこで気付いた。
もしかしたら、今まで自分が何気なく発していた言動が知らず内に彼女を傷付けてたのではないのかと。それがもう耐えれないとこまで来てたのではないか。
考えたって仕方ないので様子を見ようと部屋に伺えば案の定、部屋の中からすすり泣く声が聞こえた。思わず息を潜めた。
それから数分後に声をかけたが返ってきたのは拒絶。胸の辺りが痛むのを感じたが、何故か怒りにも似た感情も湧いてきたので強引に扉を蹴破って中に侵入した。
一瞬だけ見えたのは真っ赤に腫れた目で、すぐ隠されたがこれもまた引っ剥がしたり拘束したりして力で抑えつけた。
力で容易に抑えられ、初めて見る涙を流しながら紡がれる言葉はいつもと違ってかなり弱々しくて、その姿は正に女そのもの。
それが無性に愛しくなり、気が付けば僅かに震える唇に己の唇を重ねてしまっていた。
一瞬体を強張らせていたものの、特に抵抗もせずされるがままなルナにリオンは少し期待してしまった。
だが少し経った頃、我に帰ったらしいルナが少しだけ抵抗し始め、リオンは内心残念と思いながら体を少し離せば、彼女はこれまでに無いぐらい顔を真っ赤に染めていた。それがまた加虐心を擽られてしまったが、この時は抑えた。
止められないところまで来てしまったので開き直って告白したが、頭がおかしい呼ばわりされてしまった。
それならばと更に開き直り、欲望に忠実になって彼女の小さな体を抱き締めれば、今度はそれなりに抵抗された。しかし、力を緩める気は毛頭なく、腕の中で騒ぐ彼女が滑稽で可愛らしいものだったので思わず笑いそうになってしまった。
諦めたのか抵抗をやめたルナは早口に自身の悩みを吐露した時はそんな事で悩んでいたのかと思い、そのまま伝えれば心情が複雑になるような台詞が返ってき、思い出したかのように再び抵抗が始まった。
それでも少しだけ力を込めれば彼女の抵抗は無駄な足掻きとなってしまい、力では勝てないと思い知れば大人しくなる。
本当に嫌ならもっと抵抗するなり大声上げて拒絶するものだが、ルナはしなかった。
それはつまり、と確信したが、やはり言葉で直接欲しかったので、促せば期待通りの言葉をくれた。
やっと想いが伝わり、向こうも好きだと言ってくれた時は素直に嬉しくなって付き合う事になったのだが、それはそれで新たな試練に直面する。
好きだからこそ触れたいと思ってしまうのは当然の欲求な訳で。
だが、欲望のまま触れてしまえば浅はかな男だと思われてしまうのでは、はたまた拒絶でもされたらという恐怖心から手を出せずにいた。
そんな事を悶々と考えてた矢先にあんな女らしい格好をしたルナが現れて。
恥ずかしそうに俯きながら歩く彼女に思わず見入ってしまい、ふと目が合った時には気恥ずかしさから反らしてしまった。
その時飲んだ紅茶や食べた菓子の味等全くわからず、足早にその場を後にしたが、こっちの気等知る由も無い彼女はのこのこと部屋に訪れて感想を聞き出してきた。
ルナには聞こえないのを良い事に好き勝手話すシャルティエやら自分の部屋に二人だけという状況やら似合っていると声を振り絞って出した言葉に至極嬉しそうにしてるルナやらで理性が崩れ始めたのをリオンは感じた。
堪らず口付け、それ自体は触れるだけのもので留めるつもりだったが、つい欲がでてしまい舌を差し入れてみれば案の定それに驚いたらしく、身を強張らせて必死に耐える様子が伺えた。
一度タガを外してしまえば、もう止められないどころかそれ以上を求めてしまう訳なので、無我夢中で口内を犯した。
存分に舌の感触等を味わった後、ようやく放してやれば顔は真っ赤で目は虚ろ。その目からは溜まってた涙が零れ落ち、口からはお互いの混ざり合った唾液が垂れていて扇情的な表情。
ここまでやってしまえばもう最後までやってしまおうかと思い、唾液と涙を舐め取ってやれば気絶してしまったルナ。
まさか気絶するとは思ってなかったリオンは、これ以上何も出来なくなってしまった状況に胸を撫で下ろしたものの高ぶっていた熱はすぐには引いてくれないので、内心複雑な思いであった。
まぁ兎に角、結果的には良かったんだろうと無理矢理納得し、小さな体を抱え上げベッドに寝かしてやり、さぁ起きたらどう言い訳しようかと考え始める。
1時間程経った頃、彼女は起き上がったのだが、混乱しているのか自分への罵声の言葉一つなく、あたふたするだけ。
耳や首まで真っ赤にしてぐるぐると何かを考えている様子に思わず可愛いと思った直後、まさかの獅子戦吼。これには流石のリオンも驚いた。
間一髪で避けた為に物理的なダメージは無かったが、大技を放してまで嫌だったのかと思うと、精神的にダメージをかなり食らってしまった。
「はぁ…」
[(あの坊っちゃんが今までに無い程落ち込んでる)]
ルナがリオンを嫌う訳が無い事を知っているシャルティエは内心微笑ましく思うのであった。
「あうぅ…、リオンに嫌われたらどうしよう…」
まだ心の整理がついてないので帰れずに広場のベンチに腰掛け頭を抱える。
世の恋人達はあんな激しいもの普通に平気で毎日するものなのだろうか?
私だったら無理。心臓が何個あったって持たない。
ただでさえ隣にいるだけでも緊張するのに、目の前まで来てあんな…、普通のキスでも大概なのに。
なんでこうなってしまうんだろう。
好きで好きで堪らないのに、それを悟られたくなくて変に緊張して空回って。
友達みたいに接してた時の方がよっぽど良かった。お互いバカバカ言い合っていたり、プリンを盗っただのどうのこうの言ってた時の方が自然でいて楽しくて。なのに、今はただ苦しいだけ。
キスされて本当は嬉しい筈なのにどう反応すればいいのかわからない。
「とりあえず謝らないと」
避けてくれたとはいえ、その後ろにあった本棚にぶつかったのだから、いつも綺麗にしているリオンの部屋がとんでもない事になってしまったので。
あ、でもその前に魔物狩った時に返り血や泥が付いてるからお風呂に入らないと。
あと、やっぱりこのお金でプリン買おうっと。
プリン買って屋敷に戻った私は、部屋に戻って風呂に入るからタオルと着替えを持って浴場へ向かう。
汚れまくった服をそのまま洗濯に出すのは忍びないので、水洗いで大まかな汚れを落としてから籠に入れる。
浴室に入り、温かいシャワーを浴びて体を清め、すぐに出る。
濡れた頭のまま行くのはちょっとはしたないけど、思い立ったら即行動しないとずるずる引きずって何も出来なくなってしまうし。
冷蔵庫に入れといたプリンを2つ取ってお皿の上に乗せ、それをスプーンと一緒にトレーの上に乗せてリオンの部屋に向かう。
トレーを片手に持ち扉をノックするが、返事が返って来なかったので、開けると本人不在だった。
これでもかなり緊張して来たのに拍子抜け。
…あ、シャルがいる。って事はすぐ帰ってくるよね。
「シャル」
声は聞こえないけど、なんか話を聞いて欲しかったので名前を呼ぶ。
すると反応してくれてるのか、コアクリスタル…だったかな、がチカチカ光った。
「シャルと話せたらなー。声が聞こえないから一方的に話すだけなんだよね」
[そうですね。…聞こえてないと知ってて話す僕も僕で一方的か]
「シャルはリオンの事ならなんでも知っているのかな?ずっと一緒にいてる訳なんだし。…ちょっと羨ましいな、リオンに大事にされてて」
[そんな事…無いと思いますよ。ルナに比べれば]
「いくらびっくりして動揺したからといってアレは無かったよね。てか、もう綺麗になってるし」
[まぁ、坊っちゃんの落ち込み具合が半端無かったからね。片付けでもしてないと落ち着かなかったみたいだし]
「…嫌われたかなー……」
[まさか!]
最後の言葉に対してだけ激しく光っている。
どういう事か知らないけど、慰めてくれてるのかな?
うーん…、なんて言ってるんだろ。
そう思ってシャルに触れた時、扉が何の前触れも無く開いた。ノックも無しに入ってくるのは部屋の主、つまりリオンな訳で。
…あ、びっくりしてる。
「…何してるんだ」
「えっと、シャルとお話?」
「出来ないだろ」
「うん、一方的に話してただけ」
…会話がなんかぎこちない。目も合わせられない。
いけない、あの時の事謝らないと。
「あ、あの…えーと…、さっきはいきなり技ぶっ放してゴメン」
「いや、…僕の方こそ」
「ち、違うの。ただ…本当にびっくりしたというか…、なんかもう色々恥ずかしくて訳がわからなくなってそれで…。い、い、嫌だったとかそんな、じゃ…なく、て…」
最後の方がどもった上にかなり小さくなってしまった。顔が熱い。
とりあえず、言いたい事は言った。さぁ、プリンでも食べよう。
「あ、あのっ、プリン持ってきたから食べよ―――、へ、わっ?」
強引に話をプリンに変えたら、肩にかけてたタオルを取られ、頭を覆われる。
なに、なに。何なの?
「…風呂上がりに男の部屋に来るな、この馬鹿者っ」
「えええ?何それどういう―――、いたたたた!?」
ガシガシと乱暴に頭をタオルで拭くと言うよりも擦られる。
確かに濡れたままでみすぼらしい姿だったかもしれないけど、そんな乱暴にしなくても…!
[確かに無防備ですよね、ルナ。アレは襲ってくれと言っているようなもの、]
「黙ってろ!」
「!?ご、ゴメンなさ…っ!黙るから許して、痛くしないでリオンーっ」
「違…っ、お前の事を言ったんじゃない!」
わぁわぁと叫んでたら煩く思ったのかそれとも気が済んだのか、リオンの力が緩まった。
タオルを除けられて、リオンの所為でぐしゃぐしゃになったんであろう髪を手櫛でといてくれる。それすらもなんか恥ずかしかったけど、それ以上に気持ちいいから、目を閉じる。
「…無防備過ぎる」
「んー?なんか言った?」
「いや…」
ルナの髪をちゃんと触るのは初めてかもしれない、とリオンは思った。
普段は癖っ毛で動く度に揺れる髪が風呂上がり故にしっとりとしていて少しだけ落ち着いている。
長くない髪はすぐに指から抜け、石鹸の香りが鼻腔を擽る。
もっと近付いて、首筋辺りに顔を埋めて彼女の香りを堪能したいという変態じみた思想が無意識に湧いたが、そこは自重。
代わりにというか、リオンは目を閉じて心地よさそうにしているルナの体を引き、腕の中に閉じ込める。
やっぱりと言うか、間抜けな声が出たと共に体強張らせるルナにお構い無しにリオンは自分より低い位置にある頭の匂いを嗅ぐ。
ぎゅうと更に力を込めて抱き締めれば、僅かにだがやけに速い心音が感じられた。
「心臓…やけに速く鳴ってるな」
「だだだってだって、こんな…!」
「なんだ?」
「っ、プリン!ねぇ!食べないの!?」
もがきながら、この状況を打破すべくプリンに気を反らしたいらしいが、今のリオンにとっては無意味な事。
プリンや他のスイーツよりもとびきり甘くて美味そうな腕の中にある餌をいつ、どういう風に捕食してやろうかと思念を巡らすリオンなのであった。
end.
長いよ…。何、この無理矢理終わらせた感満載な感じ。
あと、リオンが純情なんだか強気なんだか…。多分、行動に移ってしまえばそのままグイグイ行く感じなんでしょうかね?