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「ハッピーバースデー火村!」
ノックもせずに引き戸を開けると、物凄く迷惑そうな顔をして火村がちゃぶ台に座りこちらを見た。
「なんやねんその目、そして今まさに煩いと言わんばかりの口元は」
「随分テンション高いじゃねーか」
銜えていたタバコを口から放すと、大きくため息を吐いた。
「キミの誕生日やもん、そらテンションも高くお祝いしたろうと準備万端で来たんやで」
「俺が居なかったらどうするつもりだったんだよそれ」
私の両手にぶら下げられたビニール袋や紙袋をタバコの先で指し聞いてくる。
「そらキミが家に居るであろう事は長年の経験から把握済みや。大学始まって忙しいやろにウロウロもできひんやろうと推理したんや」
「そう、それだ」
「なんや」
「お前が今言った言葉だ」
「推理か?」
「違う、その前。忙しいの方だ」
「なんやキミ忙しかったんか」
「お前が言ったんだろ」
「せやな」
私はケタケタ笑いながらちゃぶ台の上にビニール袋などを乗せた。
「おい、汚れる」
「なら早よどかしてや」
「お前は俺の言葉が通じてないのか?」
「通じてるから会話しとるんやろ。ほれ、どかしてや。夕飯だってまだなんやし」
火村はもう一度大きな溜め息を吐くと広げてあった書類を纏め畳の上に投げた。
「こんなに買い込んできて俺が本当に夕飯がまだじゃなかったらどうするつもりだったんだ?」
「そこは抜かりない。ばあちゃんに聞いたからな」
「あぁ、だから…」
「ばあちゃんに確認でもされたんか?」
「帰ってきたときにな。何の疑問も思わなかったそれが敗因か」
「何に負けてんねん。あ、これオレが作ってきたんやで」
小さな容器に詰め込んできた菜の花の胡麻和えを見せた。
「アリス料理できたのか」
「失礼なヤツや。お前オレの家に来た時に何を食ってるんや」
「酒かつまみか、俺が用意した朝食だろ」
火村の的確な言葉に私は次の言葉を紡ぐことが出来ない。
「でも、上出来じゃないか」
胡麻和えを指で摘み食べていた。
「せやろ。オレかてこれぐらい出来るんや」
「お互い独身が板についてきたのかもな」
また胡麻和えを口に放り込む。
「キミなら結婚なんて直ぐにできるだろうに」
「誰がするか」
一刀両断。
「俺が祝わんかったら火村自分の誕生日すら忘れてたんと違うん。だから誰かが居てくれたらと思うときもあるで」
「忘れてた、でもだからアリスが来てくれたんだろ」
「せやった。これも10年来の友人としての情けや」
「コップと取り皿用意する」
火村はのっそりと立ち上がる。
膝から猫用の蹴りぐるみが落ちた。
「三匹と階段ですれ違ったけど、それまでは膝の上に居たんか」
「上なんて可愛いもんじゃねぇぜ。最近のウリのじゃれっぷりはこっちが流血する。見てみろ俺の太腿の部分」
「だから珍しくデニムなんて穿いてるんか」
瓜太郎がじゃれたと思われる箇所は確かに色が落ち、毛羽立っている。
「桃の細い爪もなかなかだぜ」
今度は腕を捲くる。
「なんや、キミもてもてやん」
鼻で笑うと火村は俺に背を向けた。
そして何か言ったが聞こえない。
「なんや?」
「賑やかな誕生日だなって言ったんだ」
コップと取り皿を手にして戻ってきた。
「あぁ、オレかて居るし賑やかやで」
火村。
キミ今、笑ってるつもりなんやろうけど、なんでそんなに切なそうな顔してんや?
160415
おわり
火村ハピバやで〜
という事で、界隈盛り上がっている所に乱入する勢いで誕生日祝ってみました。
アリスのテンション若いな。(お前もな)
99パーセントお互い両思いなのにこの関係が崩れるのが怖くて言い出せないお互い。という気持ちで書きました。と、ここで解説するいつものパターン。何年経っても人間変わらないですね。
って、誕生日に合わせて書いてあったに寝落ちて今までアップできないなんて…