馬鹿みたいに、名前を呼んで、叫んで、そして崩れてゆく幸せという名前だけの哀れな世界を泣きながら眺めている俺がいた。
名前。名前。ああ、あいつの名前はなんだったっけ。
*
「兵助!!」
大げさな声につられて目を開けた。
視界に写ったのは、日ごろ見たことのない髪の長い友人の姿と、その後ろの真っ白な天井。
「勘、ちゃん…?」
口を開けば、掠れた声が出た。のどが痛い。ふともう一度友人の姿を見れば、そこには髪の長い友人など居なく、ただもうあと1秒もしないうちに泣きそうないつもの友人の顔がそこにあっただけだった。
「う…」
ああ、1秒よりかは長かった。友人はまもなく涙をぽろぽろと流しながら俺の胸元に顔をうずめた。
シーツの擦れる音がして、ああ、俺はベッドの上に寝かされているんだと、そう思った。
一瞬だけ、何かを思い出したような気がした。
髪の長い友人、あとそれから、とても大事な何か。名前。誰かの名前。
「勘ちゃん、勘ちゃん」
胸元で声を無理やり抑えたように泣く友人の頭を撫でながら名前を呼んだ。そう言いながら何か思い出すのではないかと、無謀ながらも一筋の光が差すことを夢見て。
「ふ、うう…へいすけ…」
それにしてもこんなに友人が泣くだなんて。俺がいったい何をしたというんだろう。
不思議と、昨日の夜の途中から記憶が曖昧というか、思い出せない。これは不愉快だ。
もやもやとした気持ちがゆっくりと渦巻き始めた。
昨日の夜に雷蔵から電話があって、三郎とも会って…。
三郎と会ったのは久しぶりで、雷蔵と3人で川の土手で花火をしたっけ。
でも途中で隣町の花火大会が始まって…悔しくなってやめたっけ。
結局花火を見て3人で話をしながら…勘ちゃんの家に…行った?
「勘ちゃん、俺、今日の記憶がないんだ」
鼻と目を真っ赤にして友人が顔を上げた。
目じりにたまった涙がきらきらと光って、乾燥していたはずの俺の目も、その眩しさにつられて潤いを増してゆく。
「…兵助はね、事故にあったんだよ」
ゆっくりと友人は目を逸らす。そして、交通事故にね、と付け加えた。
友人の話によると、3人で、やっぱり俺たちは勘ちゃんの家に向かっていたらしく、その途中で、俺は事故にあったらしい。
靴紐を結んでいて、三郎や雷蔵より少し遅れて横断歩道を渡った俺のところに、信号を無視した車が突っ込んできて、俺は大きく跳ね飛ばされた。
あとで分かったことは、その車を運転していた人は、運転中に何らかの急病で意識を失ってしまっていたらしく、今、俺と同じ病院で治療を受けているという。そしてその人の名前は―――
「竹谷…八左ヱ門」
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