キドリニョで多分シリアス
※キッド視点
※同居設定
君が悪い訳じゃない。
そんなことは解ってる――
「〜♪」
この日珍しく早い時間に目覚めた俺は何時にも増して上機嫌で、鼻唄なんか唄いながら朝食のトーストをかじっていた。
今日は一ヶ月振りのリニョとのデートだ。
互いに特殊な職業に就いている為か、二人の休みが合うことは少ない。
だが先週やっと取り付けたデートの約束をリニョにすっぽかされてしまった為、今週こそはと俺が無理矢理休みを合わせたのだ。
デートの計画は既に立ててある。
まず最初は映画館。
リニョの見たがっていた映画を一緒に見て、それから俺の行きつけの喫茶店で昼飯を食う。
先週考えたデートコースを頭の中で反芻しながら俺は3個目の目玉焼きに手を延ばす。
「おはよー!」
「おう、リニョ。」
目玉焼きにケチャップとマスタードをかけていると、隣の部屋からリニョが姿を現した。
「今日は早起きだね!」
「あぁ、だって…」
――ピンポーン、
リニョは俺が自分より早く起きていたことに驚いた様子だったが、今日に限っては当然だ。
なんせ久々のリニョとのデートなのだから。
そうリニョに伝えようとした時、タイミング良く響いたチャイムの音でその言葉は掻き消されてしまった。
「あ、はーい!」
来客にも聞こえるような声で返事をしながらパタパタと玄関へ駆けていくリニョを見送りつつ、自分の言葉を遮った来客へ心の中で不満をぶつける。
「キッドー。」
「ん?どうした。」
少しして何故か慌てたように玄関から戻って来たリニョは、テーブルの上からパンを一つ取るとそれをかじりながら俺を呼ぶ。
食べ終わった食器を重ねていた俺がそれに返事を返すと、リニョは満面の笑みで俺にとってはこれ以上無い程残酷な言葉を吐いた。
「あのね、今ドラメッドが来てねー。僕がずっと見たかった映画に連れてってくれるっていうから、今から行って来るね!」
「あ……あぁ。」
俺はあまりの事態に放心してしまい、リニョの言葉にぎこちなく頷くことしか出来ない。
当のリニョはそんな俺の様子に気付く事も無く支度を済ませ、夕飯は先に食べててね!と言いながらドラメッドの元へと向かってしまった。
――立ち尽くす俺をそこに残して。
――バタンッ、
玄関のドアが閉まる音がやけに大きく響く。
「ハハ……。」
口からは無意識に乾いた笑みが零れる。
果てしない後悔と真っ暗な絶望が胸中に渦巻く。
俺はなんて馬鹿だったんだろう。
リニョが約束を覚えていられないことなんて、解っていたのに。
現に一度忘れられていながら、どうして今回は大丈夫だなんて信じていられたんだろうか。
そう自嘲してみるが心に湧き上がってくるどす黒いものは抑えられず、俺は床に膝をついて耐えるように唇を噛み締めた。
この感情が何であるかはわかっている。
そしてこれの原因がリニョにあることも。
だが、この感情をリニョにぶつける訳にはいかない。
だって、彼は何も悪くないのだから。
この感情を生み出したのは紛れも無く俺自身で、リニョには原因はあっても責任は無いのだ。
リニョは悪くない。
そう何度も自分に言い聞かせては心を落ち着けようとするが、真っ黒な感情は中々収まってはくれなかった。
このままじゃマズイと思った俺は、ポケットから携帯電話を取り出す。
電話帳からアイツの名前を呼び出して通話ボタンを押した。
今の時間ならアイツは仕事中かもしれないが、そんなことには構っている余裕は無い。
優しいアイツならきっと許してくれるだろう。
今の俺には何よりアイツの優しさと暖かさが必要だった。
もし今の精神状態のまま独りでリニョを待っていたら、きっと俺は帰って来たリニョを傷付けてしまう。
それだけは絶対に避けなければならない。
「……もしもし?」
数回のコール音の後、聞き慣れた柔らかい声が鼓膜へ伝わる。
その声を聴いた瞬間、心に燻っていたどす黒い感情が少しずつ融けていくのを感じた。
「キッド…?」
「………あぁ。」
俺が返事をしなかった為か少し怪訝そうに俺の名を呼んだアイツに一言だけ返事を返せば、それだけで何かを察したアイツはすぐにそちらへ向かうから待っててくれと言って電話を切った。
「……はぁ。」
携帯電話をテーブルに置いた俺は先程よりは大分落ち着いた状態でゆっくりと立ち上がり、重ねた食器を片付けにかかる。
アイツが来るならもう大丈夫だ。
リニョが帰って来る頃にはきっと何時もの俺に戻っているだろう。
――ピンポーン、
俺がそんな確信と安堵に包まれていると、玄関のチャイムが鳴った。
あぁ、もう来たのかと本当に急いで来てくれたらしいアイツに心の中で感謝しながら俺は急いで玄関へ向かった。
――――
すみません、続きます。