14/02/02 02:31 (:事件)
「絶対に捕まらない」と豪語の振り込め 詐欺リーダー逮捕 グループの実態が判明


「絶対に捕まらない」と
豪語の振り込め詐欺リーダー逮捕
グループの実態が判明

振り込め詐欺グループの逮捕者は芋づる式に30人を超え、ついにトップにも捜査の手が及んだ−。投資詐欺の被害者から被害回復名目で 現金800万円を詐取したなどとして、東京都大田区の建設会社役員、山田良容疑者(27)が1月、警視庁に組織犯罪処罰法違反(組織的詐欺)などの容疑で逮捕された。全国の高齢者から10億円超を詐取していたとされるグループのリーダーとして君臨し、周囲には「絶対に捕まらない」と豪語していた。約1年をかけた執念の捜査で、グループの厳格なピラミッド構造が暴かれた。(太田明広、五十嵐一)

■被害者名簿でだましの電話
私書箱→ロッカーで現金回収

東京都中野区の雑居ビル3階の一室。昨年1 月上旬、男は被害金返還業者を名乗り、岩手県内に住む無職女性(74)に電話で甘い言葉をささやいていた。

「うちの会社に投資してくれれば、被害金が戻ってきますよ」

女性の名前は、平成14年に破綻した健康食品販売会社「全国八葉物流」による巨額詐欺事件の被害者名簿に載せられていた。男の正体は、振り込め詐欺グループでだましの電話をかける「架け子」だった。

男の話を信頼した女性は3回にわたり、総額800万円を港区の私設私書箱あてにレターパックで郵送した。

男の活動拠点は、捜査員の間で「新中野アジト」と呼ばれていた。4人一組で名簿のリストにひたすら電話をかけ、「返還業者」や「NPO職員」など入れ代わり立ち代わりで複数の登場人物を演じ、相手を引き込んでいった。

グループのメンバーは電話での感触がよいターゲットを見つけると、新宿区神楽坂にある「センター」と呼ばれる部署に報告を求められた。そこでは、他のアジトとターゲットがかぶっていないかをチェックしていた。

同様の手口で詐取したカネは私書箱に集められ、バイク便を使ってコインロッカーに運ばせる。グループの幹部らで構成する上部組織の「本体」がロッカーの現金を回収して取り分を抜き取り、最後にアジトのメンバーに報酬が渡っていたとみられる。

■リーダーを「Yさん」と匿名で呼ぶメンバー
「アンタッチャブルな存在で…」

捜査関係者によると、グループも以前は現金を銀行口座に振り込ませ、現金引き出し役の 「出し子」に回収させており、警視庁組織犯罪対策総務課は出し子の逮捕をきっかけに、大規模な架け子グループの存在を突き止めていった。

昨年2月に架け子ら計30人を詐欺容疑などで一斉に逮捕。その後、新中野アジトのトップだった佐藤雅継被告(36)、本体でだましの手口を教える指南役の神田憲和被告(25)を相次いで逮捕した。

さらに、彼らの供述などから山田容疑者の関与が浮上し、1月23日に組織的詐欺容疑などで逮捕した。同課によると、「自分には関係ないことだ」と容疑を否認している。

グループは山田容疑者を頂点に、約50人のメンバーで構成。本体の下に情報を集約するセンターがあり、さらに、「新中野」など少なくとも5カ所の架け子グループのアジトがぶら下がるピラミッド構造になっていたことが分かった。

山田容疑者は活動を休止していた暴走族を復活させ、14〜16年に約10人を従えて活動していた。その後、少なくとも23年5月には振り込め詐欺を始めていたとみられる。捜査関係者は「山田容疑者と周りの不良仲間が集まって詐欺グループを作ったのだろう」と話す。

一部のメンバーは山田容疑者を「Yさん」と呼んでおり、逮捕された男の一人は「山田さんはアンタッチャブルな存在で、周囲はあえて匿名で呼んでいた」と話しているという。

そもそも、メンバーの大半は山田容疑者の在自体を知らされていなかった。幹部に電話で指示を出すだけで、アジトに姿を見せることもなかった。山田容疑者は周囲に「末端のメンバーが捕まっても、俺は絶対に捕まらない」と豪語していたようだ。

「メンバーが万が一逮捕された場合に備え、メンバーそれぞれが『全容は知らない』といえるような環境を作り上げていたのではないか」。捜査幹部はこう指摘する。

■全国初、組織的詐欺で立件
最高で懲役20年に

振り込め詐欺の被害に歯止めが掛らないのは、警察当局に逮捕される大半が現金を受け取る「受け子」や「出し子」で、グループトップの「黒幕」までたどり着くのが困難なことが一因にあるとされる。それだけに、組対総務課は山田容疑者を組織的詐欺罪で立件することにこだわった。

暴力団やテロ組織などの団体による組織犯罪やマネーロンダリング(資金洗浄)の防止を目的に組織犯罪処罰法が2012年2月に施行され、組織的詐欺は3条で禁止されている。犯罪行為が組織的に行われた場合、継続性や悪質性が高く、重大な結果が生じるとして、通常の詐欺罪では最高で10年の懲役だが、より重い20年が科せられる。まさに、振り込め詐欺グループを摘発するためにあるような法律だ。

ただ、同罪適用のハードルは高かった。「山田容疑者がアジトなどで、メンバーに直接指示を出していたら立証しやすいが、ほとんどが電話で指示するだけだった」(捜査幹部)。逮捕者の供述を積み重ねていく中で、山田容疑者が逐一指示を出していたことを明らかにしていった。

振り込め詐欺事件で、警察当局が組織的詐欺罪で立件したのは全国で初めてだった。「今回の捜査で、他の振り込め詐欺グループのトップも安穏としていられなくなったのでないか。今後も手を緩めず、彼らを追い詰めていく」。捜査幹部はこう強調した。
感想:0




*[top]#



-エムブロ-