みんなで幸せになれる日がくるって何故か漠然と、そう本当はずっと信じてた






やからあたしは今まで生きてこれたんやと思う。そういう意味じゃ意外と前向きなんかもしれん。まあ単に現実から目を逸らしてるだけ、と言われても否定はせんけどな。でも…なあ、あたしにはこういう生き方も別に悪いもんやないって思うねん。そうやって何もかもから逃げることで自分が生きていけるなら、自分が保てるなら、それはそれで良いんやないやろか。やって、生きてるやろ?生きてんねん。生きてんねんで。大吉くんの態度には相変わらずぷっつんするん堪えんので必死やし、まい姉ちゃんの日常には垣間見るたびにもやもやされられるし、母さんとは事あるごとにギクシャクしてまうけど。やけど、どれもこれも、生きてるから感じられる気持ちやろ。我ながら悲惨なくらい負の感情ばっかやけど生きてるから、あたしが抱え込めた心やろ。まあこれは結果どれもあたしが大人気ないだけなんやけどさ…やけど。それだって生きてる限り、どうとでもなる。どうとでも変えていける。そりゃ確かにこれからまだまだ悪い方向に転がり落ちるかもしらんけど、もしかしたら少しずつ浮上やって出来るかもしらん。そんなこと、誰にもわからん。やけど生きてる限りは成長していけるんや、誰やって。それはこれ以上ないほどの幸福、のはずなんや。きっと。

でもおとうは…そうやなかったんやろなあ。それはこれ以上ないほどの絶望で、想像なんかとても出来んくらいの底無し沼で。そりゃ疲れるよな、誰だって疲れるさ。おまけに逃げ道なんて作れん人やし、そもそも逃げることなんか考えつかへんわな。あんなにクソ真面目に生きて、生き抜いた先にあるもんが希望やなんてとてもやないが思えんかったんやろな。

いつやって自分は二の次、三の次で。損な役回りばっか引き受けて。きっつい物言いしてまうあたしら家族んなかの唯一の良心って感じで。やけど結構クレーマーで。なくせして意外と正義感が強くって。心配性で後ろ向きでいっつも謝ってばっかやけど、ほんとにどうしようもないくらい優しくて優しくて優しくて。大丈夫やから父さんのせいちゃうからって言っても、ちっとも伝わってなかったよな。

でもな、父さん。
あたしはそれでも過去やなくて、未来に縋りついててほしかった。
あたしらと一緒に、どんだけ息苦しゅうても生き抜いてほしかった。

あたしが家族のみんなに遅れとって、おんなじことが出来んでもたついてる時、いつだって待っててくれたんは父さんやった。隣に居てくれたんは父さんだけやった。年越しん時そばを食べられんあたしが駄々こねて散々みんな困らせてる中、一緒にうどん食べてくれたんも父さん。真夜中やってのに発作が出たあたしを病院まで連れて行ってくれたんも父さん。そのあと元気になったからって眠かったやろうにドライブ強請るあたしに、何やかんやで毎回付き合ってくれて。おまけにお腹空いたー言うあたしに買ってくれた納豆巻きの味は今やって忘れてへんよ。
ドライブん時の特等席、いつやってあたしが横を向けばそこに父さんは居た。
父さんの車でするみんなでのドライブがあたしは大好きで、大好きで。やけど時々どうしても眠たなってかくんかくんって船漕ぎながらそれでも起きてるあたしに「眠たかったら寝たらええのに」って笑いかけてくれて。


ああ、どないしよう。
あたし、大好きやわ。父さんのこと。
やっぱりむちゃくちゃ大好きや。


知ったかぶりで政治の話をするあたしにどこまでも付き合ってくれるどころか疑問にも応えてくれて一緒に討論してくれた父さんも、車の性能を何故か熱くあたしに語ってくれた父さんも、一緒に外出した時はあたしの「トイレついてきて」っていうそんなことにまで付き合ってくれてた父さんも

みんな、みんな、大好きや。




なあ夜が明けるでや、父さん。鳥がぴーちく鳴いてるわ。やっぱり良いよなあ、この独特の静けさ。このぴんと張りつめた空気。やけどそのなかにある清々しさ。夜と朝の境目。よくお父さんと見たのを思い出すわ。朝日見たいから早よ起きたら起こしてな!なんて、車内で野宿する時は大体そんな無茶言ってたっけ。それでも父さんはきちんと起こしてくれて車を走らせてくれた。あの朝靄んなかのドライブは、ほんまに楽しかった。朝日がよう見れるとこ探してくれて、一緒に海から昇るのを見たこともあったよな。今やって覚えてる。ちょっと高級な卵の黄身みたいやなって笑い合ったことも、綺麗やなあって結局は圧倒されたことも。ぜんぶ、ぜんぶ。


無事あたしも誕生日迎えれたよ。なんかあっという間やった気ィするわ、色々と。色んなことがあっという間に過ぎていって、やけどそれはまだまだ続いていく感じ。あん時は誕生日をこんなにも普段と変わらへん感じで迎えられる、なんて思いもせんかった。やけどちょっと寂しい誕生日やったかも。なんやろ、いつもは来てたやろうお父さんからのメールが無かったからかなあ。メールやと決まって敬語になって、何故かカエルの絵文字が必ず入ってるあのあったかいメールな。いつもは精神的に余裕ないからって、んな馬鹿みたいな言い訳を建前にして読んでそのままにしてることも多かったけど、いざ無い、となると胸がざわざわするんよねやっぱり。ちっとも落ち着かんねん。そういや去年は母さんの誕生日にメールしてなかったけ?あん時は何だかんだで父さんってみんなの誕生日しっかり覚えてるよなあ、ってちょっと感心しててんで。へへ…まあそのへんはあたしも負けてへんと思うけどな。


あたしさ、何やかんやできっとまだまだ実感できてないねん。実は。まい姉ちゃんにはあんなこと言ったけど今でも父さんがふとした時にドアからかちゃかちゃってあの特有の音立てて、静かーに帰ってきて「姉ちゃん元気か?」って笑うてくれるような気がしてんねん。多分、誰よりも、そんな気がしてんねん。もしかしたら誰よりも、現実を見つめてないからこそ、わりと、うん、おかあの言葉借りるなら…そう、薄情でおれてんのかもしれん。でも何となく理解はしてる。しょうがない、もうどうしようもない。何もかも終わってもうたんやからって踏ん切りはつけてるつもりなんや。やって、ほんまに今更あたしが何をどう思ったところで変わらんもん。絶対に。
やからほんまは何となく、逃げてるだけなんかもしらん。変わらんことをぐずぐず考えててもしゃあない、なんて気持ちを言い訳にして。やけど…やっぱりなかなか割り切れんな。後悔、むちゃくちゃ溢れ出してくるんやもん。何であの時ああしとらんかったんやろ、何であんな事してもうたんやろ、そんな気持ちが毎日増えてくねん。父さんもこんな気持ちやったんかなって思いも少しずつやけど、増えてきてな。ああこんなにも苦しかったんかな寂しかったんかな辛かったんかなって。きっとあたしなんかが想像してるもんより、ずっと、ずっと、やのにね。

やけどあたし、ちょっとだけホッとしてるんよ。ていうかな良かったなあって思ってるん。皮肉すぎて皮肉すぎて、笑えたもんやないけどさ。みんな、駆けつけてたやろ。泣いてたやろ。あの母さんまでが泣いとった。なんかなあ、なんや!父さんってばあたしが思ってた以上にむちゃくちゃ愛されとるんやんか!って…不思議な気持ちになったわ。もう何で今まで気付かんかったんや!って理不尽にも何かに当たりたなったくらい。
そんで…それとおんなじくらい。もしかしたらそれ以上にあたしのことを愛してくれてたんもちゃんと知ってたんやで。いつやって、守ってくれた。甘えさせてくれた。頼らせてくれた。家族んなかの誰よりも一番近くでずっと、ずっとあたしと、居てくれてたんやもん。嫌でも解るっちゅー話や。ほんま、ほんまはきっと父さんが誰よりも守ってほしかったやろに。甘えたかったんやろに。頼りたかったんやろに。愛されたかったんやろに。やけど…なあ、ごめんなあ、父さん。あたし欲張りやから、自分のことしか考えられん奴やから、それでも父さんにもっと、もっと、これからも愛されたかってん。守ってほしかってん。甘えていたかってん。頼っていたかってん。そんな未来が続いてくってどこかで信じきっててん。ごめんなあ、父さん。こればかりはごめんやで。あたし、父さんの愛、ほんまに好きやったんや。ふとした瞬間に感じれた時とかなあ、ほんまに胸がぽかぽかして嬉しくてしゃあなかった。


はは…なんや支離滅裂で堪忍な。たぶん相手がおとうやからってのもあるんやろけど。ほんまは手紙を書きたかったんやけど、おかあらに見つかると…ほら。なんか、な。やっぱちとあれやろ?やから、この場で。あたしが今まで散々自分を晒してきた場所で。きっと今の父さんなら読んでくれる思うて。まあ信じさせてや、な。


ああ、やけど父さん。父さんのことやから後悔ばっかしてるんちゃうやろかって少し心配してんねん。なあ、どうか休んでてや。もう。ゆっくりしといてや、なあ。あたしらはずっと、父さんと一緒におるんやから。一人やないんやから。もうひとりぼっちで頑張らんで…ええんやで。まあ、そやな…あたしらんこと心配しててもええからさ。自己嫌悪する暇があるんやったら、とことんあたしらんこと見守っててや。これからは家族みんな、一緒なんや。話しかけても返事が返ってこんのはちと寂しいけど、それは我慢するから。もう政治の話もドライブも散歩もできんでも、父さんに薦めてもらってた小説の感想を言うことも仁結局見てくれたんか、聞くこともできんようになってもうたんも我慢するから。我慢するからさ。

時間かかるかもしらんけど、でも、大丈夫やし。大丈夫、あたしは成長したる。父さんのようにはいかんやろけど、あたしはあたしなりに母さんたち守っていけるように。いつか甘えてもらえるように。いつか頼ってもらえるように。あたしが家族を誰よりも、うんとうんと愛すから。
大吉くんの癇癪にだってぷっつんしない余裕を持てるようになって、まい姉ちゃんの話にはにこにこ笑って聞けるくらい大人になって。母さんとは、出来るだけお互いの思ってること言い合えるように。

強く、強く強く強く生きてくから。
無条件で安心をくれた人。
いつだってあたしの一挙一動に誰よりも悲しんで、喜んでくれた人。


なあ、お疲れ








11/04/12 07:02(0


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