*2024年3月29日 17:13σ(・∀・)ノ


 朝。
 夜が白んできた頃に目が覚める。樺太の朝は特に冷え込む。杉元は布団から這い出ると、手を擦り合わせながら膝立ちになり外を見た。空は白い。雪が空で降る時間を待っている。
「さみ〜……ッ」
 火鉢の火はやはり小さくなっていた。杉元は薪を足しておく。この宿はロシア風と日本風が混在しており、各部屋には火鉢で暖をとるようになっていた。食堂にはペチカがあり、そこで調理をするらしい。
 白石はどこか不安になるような湿めっぽいいびきをかいているし、それから逃れるためかアシリパは布団を頭まで被っている。昨日の朝と同じ光景に自然と頬が上がる。きっとここに宿泊している間は続くだろう光景だ。
 大泊に鶴見が到着するまでの二週間、豊原で待つことになった。宿は鯉登が吟味し宿泊代を払った。
【ヘンケ、エノノカ】
【杉元、白石、アシリパ】
【月島、谷垣、チカパシ】
【鯉登】
 の4部屋だった。順番も上記の通りで、二階の、一番階段に近い部屋を鯉登が選び、あとは適当に決めた格好だった。
 なるべく音を立てないように立ち上がると、浴衣から普段着に着替えた。それから朝食のスープを飲みに食堂に向かった。鯉登が良い宿を取ってくれたくれたおかげで、鶴見を待つ間はいい生活を送ることができていた。
 そっと部屋を出て階段を下りる。この宿は洋風の造りだったので、大きな階段と、食堂にはテーブルと椅子がある。食堂には新聞を読んでいる月島と、その近くで茶を飲んで外を眺めている鯉登がいた。
「おはよう。あれ二人だけ?」
「おはよう。谷垣はチカパシの相手をしていた。もうすぐ来るんじゃないか」
 月島は新聞から顔を上げずにそう言った。杉元はふーんと返した。鯉登に至っては外に向けた目線を固定したまま挨拶すらしない。
 杉元は月島たちの囲む丸いテーブルの周りに置いてある、適当な椅子に腰かけた。暖かい空気を燃やしているペチカの中を覗き込むと、中では鍋が煮えていた。
 杉元は掲げるようにして新聞を読む月島の、その裏面を勝手に読んでいた。
 しばらくして、ドン、ドン、と床を踏みしめる音が二階から聞こえてきた。これはきっと谷垣の足音である。昨日もこの音が二階から聞こえて、やってきたのは谷垣だったのだ。これが毎日続いては天井が抜けてしまうのではないかと、杉元は心配してしまう。
 その音は階段の付近まで移動してゆき、階段を下りる音が聞こえてきた。杉元は階段を見る。やはり谷垣だった――とその姿を視認した途端、谷垣は足を踏み外した。
 デンデンデンデン、と弾みながら下りる臀部を階段は受け止めている。最終的に床に足がついて谷垣の落下は終わる。
 杉元は椅子の背もたれに腕をかけながら身体を捩り、谷垣を見る。杉元の視線に気付いた谷垣は、何事もなかったかのように「おはよう」と言った。昨日と同じである。昨日も同じように階段から落ちた谷垣は、まるで普通に下りて来ましたみたいな顔で挨拶をしたのだった。
「谷垣お前時報じゃねえんだからさ、毎朝毎朝階段から落ちなくていいんだぜ」
「え…?」
「ん?」
「それは、明日も階段から落ちて時間を知らせろと言うことか?」
「なんでそうなんだよ」
「毎朝毎朝と言ったから」
「だぁから、昨日も同じ時間に転んで落ちてたからああ言っただけ」
「昨日は平屋の宿に泊まったから落ちなかったぞ」
「はぁ?」
「階段がなかったらそもそも落ちていない」
 杉元の眉は自然と上がった。反対に谷垣は眉を下げる。
「いや……昨日も泊まったじゃん? 鯉登少尉が宿取るぞっつって連泊することになって」
「その二泊目が今日だろう?」
「いや今日三泊目……は?」
 杉元は、確かにこの宿に連泊した覚えがあった。あの布団に潜り込むのは二回目だったはずだ。
 杉元は、特にこちらを気にしている様子もなく新聞を読み続けている月島に呼びかけた。
「月島軍曹」
「何だ」
「ここ泊まるのって何泊目?」
 そう杉元が尋ねると、月島は新聞から目を上げないまま答えた。
「二泊目」
「はい?」
「二泊目だ」
「えっ」
 からかわれている、と思った。しかしそれはすぐ打ち消される。白石やアシリパ、鯉登ならまだしも谷垣や月島がそういった冗談や軽口を杉元に叩くとは思えない。
 月島の近くでは鯉登が茶を飲んでいた。疑問を抱く。こういう話をしていたら、鯉登は杉元をからかう言葉の一つでもかけそうだったからだ。フンと偉そうに口角のひとつでも釣り上げているだろうと思われた鯉登は、予想を裏切り、真剣なまなざしで杉元を見ていた。
 杉元はため息を吐いた。
「はぁ〜……お前らボケちゃったの? ……女将さんいるかな? 聞こうぜ」
 ちょうど宿の女将が姿を見せた。ペチカの火にかけているスープをかき混ぜに来たのだ。杉元は女将に同じことを尋ねたが、その返答は杉元の期待するものではなく谷垣と月島の回答を支持するものだった。
 杉元は頭を抱えた。
 ……ボケたのは俺の方?
「月島軍曹。……脳の……後遺症かもしれません。記憶が安定していないのかも」
「ああ。……アシリパと会って気が緩んだのかもしれんな」
 そう話す谷垣と月島の会話は耳に入る。違う、と否定したかったが、もしかしたらそうなのかもしれないとも思った。自分がそう認識していないだけで、記憶を改ざんしているという可能性は否定できなかった。
 ガタ、と椅子を引く音が聞こえた。鯉登が立ち上がったのだ。
「杉元、来い。私の部屋に薬がある」
「? 鯉登少尉殿、薬なんか持っていたんですか」
「ああ。……あの病院でもらった。あの、尾形が逃げた時の」
「脳の病気は軟膏では治りませんよ」
「そうなの? ……いや、当たり前だ! そうそう、薬草のお茶なんだった。頭に効くらしい茶葉をもらったのだ」
「ええ? 大丈夫なのかよ。質の悪い阿片でも入ってんじゃねえだろうな」
「怪しくない。大丈夫大丈夫」
 鯉登はそのまま杉元に近付くと、ガシッと手首を掴んだ。流木でも握る時のような雑さで、でも振り払ってほどけるような力の強さではなかった。
 不信感こそあれど、杉元に断る理由はない。なんとなくこの茶葉について嘘は言っていないような気がした。
 食堂から二階への階段を上がる。先ほど谷垣が転んで落ちた階段だ。鯉登は手すりと杉元を持ったままギシギシ鳴る踏板を登っていく。
「なあ鯉登、ちゃんと付いてくから離せよ。登りにくいわ」
「まあまあ。落ち着け」
「俺第二の谷垣になりたくねえんだけど」
 そう言っても鯉登は手を離す様子はなく、杉元をなだめるように「心配するな」「大丈夫だから」と声をかけてくる。嫌がる子どもに言い聞かせるような言い方だった。
 二階。階段のすぐ隣が鯉登の宿泊する部屋だった。鯉登は洋風の扉を開けると、杉元の手を引っ張り招く。
 その時やっと、鯉登の様子がおかしいことに気付く。
 そもそも鯉登は、人との接触を嫌がるタイプではない。そういうタイプではないけれど、不要な接触はできるだけ避けるタイプのはずだ。心を許している月島ならまだしも、杉元相手ならなおさらだ。
 違和感に気付くのが遅かった。すでに杉元は鯉登の部屋に両足で踏み込んでいた。
 鯉登は杉元の腕を力強く引き、足をひっかけた。ドダッと大きな音がする。杉元は床に転がされ、唐突な出来事に受け身を取ることができず背中をしたたかに打った。
 杉元がその痛みに悶絶しているうちに、鯉登は扉に錠をかけた。
「杉元、動くな」
「あ゛ぁ!?」
「大切な話をするぞ」
 鯉登はゆっくりそう言った。そうして、上体を起こし、肘を床についた杉元の近くにしゃがみ込む。
 部屋は暗かった。窓かけ……分厚いカーテンが窓にかかっており、火鉢にくすぶった火だけがちらちらと赤く小さく灯っている。
 鯉登は杉元の胴体を跨いだ。膝立ちになり、トス、と臀部を杉元の腿に降ろす。
 腿に重さを感じる。驚いた。何をすると口にしかけた言葉は、続いての鯉登の言葉で紡ぐことができなくなる。
「お前は私を抱かねばならん」
「は?」
「事態は全く好転していない。だが今日だけは違った。ここ数日何度も繰り返した中で唯一の変化がお前だ。私はお前こそが鍵であると感じた」
「何の話してんの?」
「一人でできることはすべて試した。そのうえで貴様が仲間になった。すなわち二人でできることをせねばならんということになる」
「仲間?」
「だから、お前は私を抱かねばならん。理解できたか?」
「できるかッ! アホッ! ワケわかんねーんだよ結論だけ振り出しに戻すんじゃねえ!」
「振り出し……」
 杉元の言葉を繰り返し、ぶわっと涙を流した。せき止められていた雨水があふれ出したような泣き方に杉元はギョッとした。
 杉元の身体を転がし胴を跨ぎながら「抱け」と言う男が、なにがキッカケか急に泣き始めた。
 一文にまとめるとめちゃくちゃで、すべてが冗談のように思える。しかしこれが今起きたことのすべてだった。
「っウ、ぐす 私はずっと、心細かった……ッ 一人で、ずっと一人で……毎日毎日振り出しに戻ってしまうから、ひっく、いつも、 う 、かなしくて、……」
「ええ? うん。何……? どうしちゃったの?」
「だから、今日、お前が私を抱かなくては終わらないんだ…ッ」
「それはわかったから最初から説明してくれる?」
 鯉登がボタボタ雫を零しながら泣くので、杉元は持っていた手ぬぐいを差し出して拭いてやった。
 鯉登は小さく「あいやと」と言ったかと思えば、手ぬぐいを一瞥し嫌そうな顔をして「こんな布なら持っていない方がマシではないか」と言った。腹が立ったので無理やり手ぬぐいで涙を拭いてやった。心底嫌そうな顔をしていた。
 それから、鯉登はぽつぽつと話し始める。しかし杉元の上から退く気配がなかったので、仕方なく鯉登が腿の上に乗った姿勢に甘んじながら話を聞いた。

 ――鯉登が話したのは「今日を何度も繰り返している」ということだった。
 今日を何度も繰り返している。繰り返しているのは自分だけで、毎日起こる出来事は何も変わらない。自分の行動が変われば周囲の人の行動が変わることもあるが、それでも大きく逸脱することはない。一晩経てば、何事もなかったように、また【今日】に戻ってしまう。もう自分は7回、同じ【今日】を繰り返している。毎朝、月島は誰よりも早く起きて新聞を取りに玄関先まで行くし、谷垣は階段から滑り落ちる。昼頃になると杉元たちは山に出て散策をしに行く。夜になると一堂に会すが、べろべろに酔っぱらった白石が宿まであと一歩のところで倒れているのをチカパシが発見する。これらは程度の差はあれど「今日起きる」と決まっていることだった。けれど今回だけは違った。杉元の反応がいつもと違ったから、杉元も同じように【今日】を繰り返し始めたとわかった。
 鼻をすすりながら鯉登はそう言った。
 にわかには信じられない話だった。けれど、この鯉登の涙が意味のないものとは思えない。樺太で一緒に旅をして長くはないが、泣いたところなど一度も見たことはなかったからだ。
「少尉が一人で試したことって何?」
「いろいろした! ……そもそも、こういう人知を超えたものは、神仏の類の仕業だろうと思って……ここらの神社や寺にはそれぞれ参拝したし、道祖神に供え物をした。……それと、もしかしたら白石がそこらの祠に小便でも引っかけて恨みを買ったんじゃないかと一日を使って尾行してみたが、【今日】に限ってはそういった粗相はしないらしかった」
「ふうん」
「起きてもまた同じ今日だから、もう何もできることがないと心底落ち込んでいたんだ。一歩進んで一歩下がる虚しさが、貴様にわかるか……。一生を同じ一日の中で暮らさねばならんということは、ある意味では不老不死になるということだ。同じ日が繰り返すということは老いることも病で死ぬこともできん。時間が進まんのだからな。きっと気が狂って終わりなのだと絶望していた。……そんな中、いつもと違う話を始めたのが貴様だった。まさか、と思った」
「へえ」
「抱かれねばならんと思った」
「だからそれ何? なんで飛躍すんの?」
「飛躍などしとらん! きちんと文脈がある! ……昔から、神は色を好むと言うだろう。天照大御神は男女の営みを見ようとして顔を出したと言うし、黄泉平坂の神話は、房事はひた隠しにすればしてしまうほどに好奇心が沸くものだという教訓が含まれているし」
「俺の知ってる神話と違う気がする」
「つまり、そういった神の好奇心に応えねばならんと言うことだ」
「そうなのかなあ……?」
 話しているうちに、鯉登の涙はおさまったようだった。声に水気は滲まず、震えも消えていた。
「という訳だが、勃つか? 杉元」
「勃つわけなくない?」
「……貴様ッ! どうにかして勃たせろ!」
「いやそもそも昼間っから二人で部屋にこもってたら怪しいだろ! どんだけ長時間茶飲んでんだって思われるわ!」
 その指摘に、鯉登は眉間に皺を寄せた。もともと愛想の良い顔立ちではないので、眉間に皺を寄せるだけで睨むような表情になる。
「……なら夜か」
「うん?」
「幸い私は一人部屋だ。昨日の晩――正しくは今日の晩だが、どういう晩だったか、覚えているな? 夕飯が終わり、同室者が寝静まったら私の部屋に来い。必要なものは準備しておく」
「えっとー……はい?」
「約束だ。頼んだぞ」
 そう言って鯉登は杉元の上から退いた。
 鯉登が勝手に決めていくので、狐につままれたような気分になった。おかしなことが決まった気がする。それを頭の中で整理する前に、鯉登は「怪しまれるから出て行け」と部屋の外に追いやった。
 鯉登は徹頭徹尾、どこまでも身勝手だったが、その表情や話に切迫感のようなものが滲んでいて、茶化すことも疑ってかかることもできなかった。これがただの空想の類であるなら、鯉登は自分に抱かれようなどとは微塵も思わないはずだからだ。
 食堂に戻ると、アシリパと白石がスープを飲んでいた。
「コイトの部屋で何をしてたんだ?」
 とアシリパが聞くので「なんか茶もらった」と言った。けれど鯉登は茶の一つも出さなかったし、そういえば朝起きてから何も飲んでいない。喉はカラカラだった。



 ――杉元は鯉登の言っていたことが嘘ではないと実感した。
 朝食にスープを飲み、杉元はアシリパと山に向かった。そこでの出来事が、昨日と全く同じだったからだ。アシリパの話す内容もほぼ同じだった。昨日の会話を細部までは覚えていなかったが、ほとんど同じだったように思う。もちろんアシリパが昨日と同じ内容をわざと言っている訳でもなかった。意識して昨日と同じ言動を心掛けても、アシリパは笑うでもなく真摯に答えた。捕まえた動物も全く同じだった。
 キツいな、と思った。
 鯉登があれだけ切羽詰まっているのだから真実なのだろうとぼんやり思っていたけれど、同じ日を繰り返すというのは思った以上に恐ろしいことだった。全部が作りもので嘘であるような気がした。目の前にいるアシリパが、昨日と同じ言動・行動を繰り返すのを見て、まるで生きている人間ではないような根源的な恐怖を感じた。
 鯉登はこれを一週間も耐えたのか。
 そう考えると鯉登のタフさは相当のものだと思った。よく知っている人間が、同じ行動を機械的に繰り返すのを目の当たりにする。それが七日も続く。自分は七日目に、目の前の人間がきちんと人間であると信じて接することができるだろうか……。
「杉元?」
「えっ。……あぁうん、何?」
「上の空だったから。どうかしたか?」
「ううん。なんでもない。ゴメン」
 ……とはいえ、こちらが意図的に話を逸らすなどすれば、昨日と同じにはならない。ただ、大きく逸脱はしない。【今日】という大きな流れが決まっていて、意図せずそこに合わせていっているような奇妙な感覚があった。

 その夜。昨日と同じように食事は皆で摂った。鯉登が食事の用意も宿に頼んでいるので夕食が用意されているのだ。食事中、特に鯉登の様子に変わったところはないが、目は合わなかった。やはりこの状況によっぽど慣れているらしい。
 食後はそれぞれの部屋に別れる。「ちょっくら外行って来る」と言った白石は、きっと今から酒を浴びるのだ。
 ……鯉登は、皆が寝静まるまでと言った。大浴場がある宿なのでサッと汗を流し、部屋に戻る。アシリパは既に眠そうだったが、白石はまだ帰ってきていない。どうするかな、と人数分布団を敷いたところで、外から声が聞こえた。高く聞き覚えのある声だった。窓を開ける。外で声を挙げていたのはチカパシだったようだ。二階の窓から見下ろしながら声をかける。
「チカパシ?」
「杉元ニシパ。白石ニシパがひどい匂いさせて帰ってきた!」
「ああ。放っておきな。どうせ酒蒸しにでもされてきたんだろ」
「? 白石ニシパが酒蒸しされるの?」
「……大人になったらわかるぜ。そういう場所があんだよ」
 チカパシは白石をジッと見てから、宿の中に戻ってきた。杉元は白石を回収するか迷った。昨日は――チカパシから報告を受けた谷垣が運んできたのだ。迷って、でも回収しに行くことにした。普通に過ごしていれば鯉登のとっている部屋の前を通ることはない。今この時間、鯉登が何をしているか気になった。
 抱かれねばならない、と言っていた。あの様相であれば、本気である。……ただ、杉元からすれば【今日】を繰り返すのは初めてなので、寝たら次の日になっているのではないか、という気持ちもある。杉元だけが見ている、鮮明で現実味のある夢なのではないか、と――
 白石は無事に回収した。谷垣も遅れて運びに来てくれた。
 鯉登の部屋の前を通ったが、シンとしていた。部屋にいるのか、いないのかすら判然としない。
 部屋について白石を布団の上に転がすと、アシリパは顔を顰めて「酒くさい!」と言い、頭から自分の布団にもぐってしまった。そうしてアシリパはしばらくしても出てこなかった。布団に潜って丸まっているうちにそのまま寝てしまったのだろう。
 火鉢、それとランプの灯りのついた部屋の中。アシリパも寝てしまって、白石はいびきをかきながら寝ている。……みんなが寝静まった頃とはいつになるんだろう。杉元は両隣の壁に耳を当ててみる。どちらからも音はしない。
 とりあえず行ってみることにした。まだ起きている者がいると判断すれば鯉登は追い返すだろう。
 部屋の前に立つ。やはり、部屋の前から音はしない。




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